『ケイタロー君、お元気ですか。
トートツで驚くと思うんですが、ワタシ、失恋しちゃいました。
カレは友達の女の子の友達で、ワタシ、とてもこの二人の間に入っていけないなと思っちゃって。
思っちゃったらもう負けじゃないですか。
二人はとてもワタシに優しくて、いい友達でいたかったの。カノジョからカレを奪ったら、ワタシ後悔すると思ったの。だからせめて二人のキューピットになってあげました。偉いでしょ、ワタシ。
そこでケイタロー君にお願い。
オフで会ってくれますか?
そろそろワタシ達、会っていいころかなと思うの。
ワタシ、アナタの事、よく分かってる。
ホントの友達になりたい。
そして二人でいこう。
とてもきれいな場所、
澄み切った皮の水と気持ちのいい小鳥の鳴き声・・・
住んでいる人はみんな優しくって、
誰かを傷つける人なんて誰もいない、
誰もが正直で温かい・・・・
そんな場所へ。』
第三高井戸小学校内、正午。給食を終えた菊池啓太郎は、いつも通り携帯をチェックする為に屋上へ。
「参ったなぁ、やっぱ巧に代役頼むしかねえもんな。モテる男は辛いよ。」
態々屋上で独りになるのは、一度携帯のメールをクラスの面前で大声で読まれたせいだ。あの時はクラスの5人の男子と決闘になり、真理に体中ついたアザの言い訳をするのに苦労した。
「やっぱ、ケイタの隠れ場所ってこんなもんよね。底が知れてんのよアンタ。」
屋上の啓太郎に近づいてくる女子が一人。
「倉田かよ、オレは今大人の女とメール中なんだからよ。邪魔すんじゃねえよ。大体ケイタって中途半端なハブき方してんじゃねえよ。」
クラスメイトの倉田恵子は、最近区の絵画コンクールで『クラスの友達』という題の絵で入賞した。図工の時間たまたま隣の席にいた啓太郎の横顔をスケッチしただけなのだが、担任が区に送ってしまったのだ。以来学校中で恵子との仲を噂され、啓太郎はうれしはずかしいい大迷惑だった。
「子供ね。ケータイと啓太郎かけてんのがわかんないの?」
「バカ言うんじゃねえよ、オレほど大人な小学生はいねえぜ。なんせ九州まで一人旅したんだからな。」
両親も無く一人で店を経営し、死線も何度か潜っているなどとリアル過ぎる話はむしろ小学生の自慢にならないものである。
「帰りは知り合った大人に連れてこられたんでしょ。それよりケイタ、アタシもついに大人になったんだ。」
恵子が取り出したのは、まだストラップも着いてない白の携帯電話だった。
「なんだよ、クラスで一番最初に持ったのはオレだからな。」
「いままで、アンタだけだったもんね。でももうアンタの時代は終わったわ。これね、テレビオッケーなんだ。」
「テレビ!い、いーけないんだー!テレビは先生がダメって言ったじゃんよ。」
「ああみのもんたやってるぅ」
「どっかイケおまえ!」
「ハハ、報いだわ。ねえそれより啓太郎、アタシメール交換のやり方知らないんだ。」
「送信押せばいいだろぉ」
「だから、分かんないのよ、アンタ送ってよ。」
「なんで、おまえにメール送んなきゃいけないんだよ。」
「アンタしかいないのよ。ケータイ持ってんの。」
「親とやれよ。」
「入院しちゃったのよ。お母さん。」
溌剌とした恵子の顔がやや暗く沈む。
「そうだったっけ・・・」
さすがに10歳の少年でも、触れてはいけないモノは分かる。
「ケイタとおんなじ会社だから、ケータイ番号だけでメールできるんだよ。」
「じゃあ、ちょっとだけな。」
それを聞いた恵子の顔はまるで花が咲いたように輝く。
「さすが!ケイタ、男の子だね!」
「オレは、大人だからな。件名忘れんなよ。それから、」小声で言った。「恵子ごめんな。」
啓太郎が自分の家にランドセルを背負って帰ってきた時、既にクレインオルフェノクの惨劇は始まっていた。
ぉぉぉぉぉぉぉ
クレインは下顎を僅かに動かして吼えた。
「オレは聞いてな・・ぁ」
「頭がぁぁぁ」
ただの遠吠えではない。その声は超高周波となって、2体のライオトルーパースーツを一瞬で粉々にし、装着者二人は耳の穴と鼻の穴と目元から血が迸ってショック死した。コンクリートがその音撃でひび割れ、電柱の一本が倒壊、電線が一本切れて踊り狂い、駐車中の一般乗用車に巻きついてショート、発火、燃料が爆破、菊池クリーニング店の御向いの並びが一瞬で炎上する。
「オレん家がぁ」あまりの大音量に耳を塞いだ啓太郎。
菊池クリーニング店もまたただでは済まなかった。看板が外れ、家屋の壁に皹が入り、玄関の窓ガラスが粉々に砕けていた。
「啓太郎!」海堂は腿に刺さったナイフを必死で抜こうとするが力が入らない。「啓太郎、こっから立ち去れっ!オマエは関係ない。乾を連れて逃げろっ!」
海堂は路面に寝そべっているが故に、クレインからの攻撃を辛うじて躱していた。だが寝そべったまま動けない。動けないがやってきた啓太郎に手を振って逃げるよう制した。
「なんでオレばっか、こんな目に遭うんだよ、」
啓太郎は爆破の勢いに腰を抜かして、激しく尾てい骨を打つ。だが4つんばいになって這ってでも自分の家に近づこうとする啓太郎。その少年の姿を、クレインオルフェノクは呆然と、ただ眺めている。その眼光に思考は感じられない。
「残った者でやるぞ、フォーメーションR、足止めしろ!」
カイザの号令で、瞬く間に同胞を殺され、たじろいでいた残り3人のライオトルーパーが、一斉にアクセレイガンをガンモードへ。クレインを光弾で牽制する。
ぉぉぉぉぉぉ!
扇状に展開したライオトルーパー3人の銃撃を受けるクレインは、うっと惜しげに片腕を上げる。
光の膜、
クレインの上げた腕が光の膜を作り、オルフェノクエネルギーの潮流が、アクセレイガンを完全に遮断した。
さらに腕を振る、
まるで光の翼から羽根が散るように、光の膜を振るった先から迸る波動。3人のトルーパーは同時に衝撃を受けて倒れ、内1人は青白く燃え、草加の名を叫びながら、スーツの外郭だけを残して灰となった。
「全滅、」カイザはポインターの装着までしかしていない。「足止めにもならんというのか。」
地に伏す海堂がたじろぐカイザを見て侮蔑した。
「愚か者。こんな事にならない為にベルトを作ったものを。オマエの偽善は最悪の事態を招いてしまった。開けてはならんもんだったんだよ。関係ない民家や少年を巻き込みおって。」
その少年を無感情に見つめるクレイン。足を動かす事無く像をゆらつかせながら啓太郎へ近づいていく。
「寄るなよ、寄るなってばよ」
鼻汁が顔面にまみれながら、恐怖のあまりランドセルを投げつける啓太郎。
それがクレインの顔を打つ。
「・・・・・」
しばし静止するクレインオルフェノク。
「うぁ」
4つんばいにジタバタ駆け、転倒し、最後は横にでんぐり返りしながら自分の店に転がり込む啓太郎。
『exceed charge』
「今しかない!」
呆然とするクレインに間隙を見出したカイザが飛翔、両脚を揃えて蹴撃にいく。
ポインターから杭、
クレイン目前で展開、
高速回転しながら光の杭がクレインを圧迫する。
「きぇぇぇぇぇ!」
今まさに、ゴルドスマッシュがクレインの脇腹に炸裂せんとしていた。
巧はベットに横になったまま、目を閉じていた。
「巧!大変だ!」
「よお。啓太郎じゃねか。」
擦り傷と泥に塗れた啓太郎が、巧が寝る真理の部屋へ転がり込んできた。東の窓に震えた指を差している。
「オ、オ、オ、オルフェノク!草加の野郎が戦ってるみたいだけど、止められねえんだ!」
巧は、ベットに転がっている空のペットボトルの一つを、思わず握り潰した。
「じゃあこのベットの下に潜り込んでろ。」
「なに言ってだよ、」啓太郎は机の上にあるファイズギアを両手に抱えた。「これがあるじゃん。巧戦えよぉ!」
巧は横になったままギアから目線を外す。
「それは、もう木場のもんだ。木場に連絡を取れ。」
「なに言ってんだよ、半年で臆病になっちまったのかオマエ!」
「そうかもな。」
他人からそう見えるのだから、あるいはそれも理由の断面かもしれない。
「意気地なし!」
ギアを投げつける啓太郎。思わず受け止める巧。
「ファイズ、ギアか・・・・」
半年ぶりのギアの感触だった。たった数センチの距離にあるものを掴むため、人は時に、多くの人の力を借りなければならない時がある。
「真理だって、木場じゃしっくりこねえって言ってたんだぞ!巧じゃなきゃって!」涙を手で拭うと顔に泥が付く。
啓太郎に目を移す巧。だが視界に入った啓太郎の背後には、ガラス越しに迫る黒い影があった。
「啓太郎伏せろ!」
横薙ぎに人が降って来る、
「くぇぇぇぇぇ」
真理の部屋を、左から右へ壁を破壊しながら流れ飛んでいく影、それはカイザ。ゴルドスマッシュを推し返したクレインオルフェノクは、そのまま両翼を展開して、渦を描くように周囲の人も物も巻き上げた。菊池クリーニング店は垣根も壁も諸共抉り取られ、巧と外界を遮断するものは何も無くなった。
「巧、頼むよ、オマエじゃなきゃダメなんだよ・・・」恐怖で震える啓太郎。
巧は無意識に啓太郎を庇って体ごと覆い被さっていた。啓太郎の震えが体ごと伝わってくる。
「・・・・・忘れていたんだな」
この、人が震えている感触も、人を無心に助けた感触も、半年ぶりだった。
「真理が言ってたんだ、ファイズは巧じゃなきゃ、巧が着ないとイヤだって。」
巧は啓太郎の言葉を片言に、外の惨景を眺めた。倒れている海堂、倒れている2人のライオトルーパー、そして隣の家屋に突っ込んで出てこないカイザ。
「啓太郎、なんで、俺じゃなきゃダメなんだ、」
近所に住んでいるのだろうシミーズの主婦はよろよろと立ち上がって、今灰になった。
「分かんねえよ!とにかく巧にやって欲しいんだ!」
巧はオルフェノクを見据えた。
「あいつは」
巧はそのオルフェノクを知っていた。
「巧、戦ってくれよ、このままじゃ、結花ネエちゃんや真理に、巧会わせることできねえだろ・・・」
「啓太郎、おまえ、イヤなガキだな。」
巧はファイズギアを握った。
「なんだよそれ」
「イヤだが必要なヤツっているんだな。オマエも真理も。」
そして立ち上がり、オルフェノクへと歩き出す巧。
「巧っ!」
背中で受ける啓太郎の声に巧は微笑んだ。
「乾あれは、」
アスファルトに倒れている海堂が、巧の姿を見止める。
「おっちゃん、誰かが哀しみを背負わなきゃいけないんだよな。」
巧はベルトを腰に巻いた。ファイズフォンに打ち込むコードは‘555’。
「本当に出来るのか、」
「誰かが背負わなきゃいけないんだったら、俺が背負ってやる」
フォンを高く掲げ、ベルトのバックルへまっすぐ差し込んだ。
「変身っ!」
『complete』
ベルトから発する紅い光芒は巧を隈なく格子状に包む。やがて格子の隙間を光の膜が埋め激しく光量を増した刹那、黒のスーツが現出する。銀のプロテクターが各所にフォールディングされ、紅い格子はそのまま血の流れのように駆け巡る。仮面に刻まれた文字はΦ、仮面ライダーファイズと呼ばれた男がそこに再誕する。
「乾巧、自身望むモノが無く、人に望まれる事を糧とし、誰よりも強い慈しみで応える事が力となる。木場くんや雅人のように、己の傷を埋める為に課した執拗な責務はいずれ業となる。彼にはそれが無い。」
海堂の眼前に黒の革靴が。
「花形さん、いつのまに、」
海堂が見上げたその人物は花形。海堂の腿に突き刺さったアクセレイガンを引き抜いて、手を差し伸ばす。
「故にファイズギアに込められた想いを、もっとも体現する、真の担い手なのだ。」
海堂と花形の視線の先、クレインオルフェノクとファイズが対峙している。
「貴方が人生を賭して望んだモノですな。望むモノの無い満たされた境地。悟りと言ってましたね。」
クレインは光の翼を拡げ、ファイズを攻撃、しかしファイズはスウェーバックで皮一枚躱す。その間後ろ手にファイズショットを装着し、チャージを既にかけている。
「あるいはそれは絶望の孤独なのかもしれない。見ろ、あのナチュラルな動きを。」
クレインの放つ光の膜を、ファイズショットで切り裂く。切り裂きながらも進み出て懐へ迫るファイズ。
「あのオルフェノク特有のオーラに対抗する為には、フォトンブラッドしかない。それを即座に直覚し、ナチュラルで俊敏な動作はファイズギアの速さを使いこなしている。」
グランインパクトを腹部、
クレインオルフェノクをフォトンのエネルギーが透過、背後に浮かぶファイズの印。
「雅人が一度攻撃した箇所だ。」
「カイザにしてもサイガにしても、チャージは四肢の先端いずれか一点に集中するんですが、ファイズのそれは、全身の各所の一点、あるいは全身全てにチャージがかかる設計になっていた。ヒットする訳でもない箇所の強化をする理由、それは腕だけではない、肘、腰、足先に至る全身の力が全て連動して力を揮うのがファイズの基本だから。故に拳一点のエネルギーではなく、むしろ体全身にレスポンスの速い流動が必要となる。故にポテンシャルが低くとも流動速度の速い紅のフォトンとなる。」
「乾巧のショットは、アレが考えたギアの姿を実践している。」花形はあるいは微笑んでいるのかもしれない。「ところで海堂くん、彼に後で伝えておいて欲しい事がある。」
肘、肩、腰、脚、足の親指に至るまでの力とウェイトの全てを一点に集約したファイズショットに、クレインオルフェノクは力無く倒れ、且像を人のそれに戻し、ファイズの膝元に。巧もまた変身を解いた。
「やっぱりオマエか。」
「い・・・・・、乾・・さん、よかった、約束、守ってくれた・・・・」
「これで良かったんだな。」
「これを、・・・・・、このケータイ、啓太郎くんに・・・・」
分かった、と答え携帯を受け取る巧。受け渡した瞬間灰となって崩れ落ちる細い腕。少女の肉体もまた灰となり、抱えた指と指の間からこぼれ落ちていく。灰は風に舞って巧の眼前を捲き上がった。
長田結花を乾巧は殺した。
巧の掌には灰がいつまでも残っている。巧はそれを眺め、そして握り締めた。
「・・・オ、オルフェノク、」
雅人は民家の中で突っ伏していた。隣で家主らしき主婦が鼻血を出して死んでいる。
「ベルト、オレは戦・・・」
雅人の眼前にはカイザギアが転がっている。吹き飛ばされた拍子に着脱してしまったらしい。愛おしく手を伸ばす雅人。だが体がまるで動かない。激痛でも疲労感でも拘束されている訳でもない。それが雅人の肉体の限界であった。
「そんなバカな・・・オレはあの程度で、」
クレインオルフェノクの力だけではない。蓄積された生命の限界であった。それでも限界に抗い手を伸ばす雅人。しかし雅人の指先は、カイザギアに生涯届く事は無かった。
「このベルト、私の正義の為に使わせ貰うわ。」
「はぅ・・・・」
高すぎる踵のヒールが、雅人の掌を踏みにじる。黒いショートパンツと黒革のブラジャーには、ダイヤが散りばめられている。カールした髪にも目蓋にもラメが入った影山冴子はカイザのベルトを拾い上げた。
「草加雅人、こんなにカワイイ子だと思ってなかった。」
「用件は済んだはずだ。早々に立ち去りたまえ。影山君。」
「ハハハ、時を止められても、私には手を出せない花形顧問。約束通り、これは頂いていくわ。顧問も案外軟弱ね。」
冴子に言われるままの花形は雅人の前に屈み込んだ。
「私は二度は言わないよ。」
花形の眼光になにかを言いかけた冴子は口を噤み、カイザのベルトを掴み、瞬く間に姿を消した。
「済まなかった。取引きに必要だった。だが今の雅人には必要あるまい。見ていれば分かる。その酷使された肉体ではもう戦う事はできない。ゆっくりと残りの生を全うするがいい。」
「黙れえ!オルフェノクに、キサマ等に、家族達を殺された怨みは一生かかってもぉ!」
父に劣情をぶつける雅人。顔の像がついに歪む。その様を見た花形の繭がやや釣り上がった。
「そうか、おまえもか。」その声に感情が失せる。「残念だ。」
「・・・・おまえを、殺、」
声が途切れ途切れになる。呼吸困難から起るすきま風のような息。ここ数年治まっていた喘息がなぜか今になって振り返す。
「雅人は、あるいは私に一番似ていた良い子だったよ。」
空ろな眼の雅人の首を掴む花形。
「・・・ぁ」
「雅人には、ウソをついていた。」
「ぅ・・・」
「おまえ達流星塾生へ施した実験は、オルフェノクにするそれではない。むしろ逆だ。」
「・・・・を」
「だがおまえ達は、そのことごとく、失敗作となってしまった。残念だ。また、私の手で処分する事になるとは。」
雅人の頚骨から鈍い音が鳴った。首を傾げ、頬の緊張と眼の光が消える。
「許してくれおまえ達。この罪悪感に自らを突き落とす事で、私はおまえ達に償いをしていると思って欲しい。」
草加雅人は灰になった。
「どうやら草加雅人が死んで、カイザギアが奪われたという花形さんの話は本当らしい。」
「この木場も死んだのか。」
「手遅れだろうな。原型を保っているのが信じられんくらいだ。これもオリジナルの力だというのか。」
乾巧と海堂直也は、灰にならないまま死んでいる木場勇治の遺体を、取り敢えず真理のベットまで運んで安置した。
「ところで、さっきの話、本当か。」
「花形さんが確かに言っとった。真理ちゃんは生きとる。今オルフェノクに拉致され、ある場所に幽閉されているという。」
「どこにいる。それだけ聞けばいい。」
「大方、花形さんへの人質だろう。元々養女だからな。花形さんも我々を使って取り戻す腹かもしれん。」
「そんなヤツの事はどーでもいい!」
「おそらくだが、銀座、クラブクローバー。」
「銀座だな。」
ヘルメットを被り、オートバジンに跨る巧。
「待て、いろいろオマエに教えておかねばならん事がある。いやそれよりもまず、あれで良かったのか。啓太郎は。」
「ああ。」
「ありのままを言うには、子供には荷が重かったんじゃないのか。ありゃ君を怨むぞ。オレ自身も結花を殺された怨みはまた別の感情なんだ。」
「いい。オレを怨め。それでいいだろ。」
巧は、スロットルを吹かした。
「待て、今から行くところは、一番強力な敵の巣窟だぞ。」
「ああ。」
「議論の余地ナシかよ。まあいい。ファイズには3つ、欠損したプログラムがある。その3つを手に入れれば、ファイズは機能の全てを使う事ができるだろう。アクセルモード起動、オプション装備転送、マキシマフォトン制御の3つのプログラムだ。」
「回りくどい。」
「つまりサイガ、カイザ、デルタの各フォンからプログラムを転送し、そのファイズフォンに組み込まなければならん。」
「もういい。細かい事は、メールにしてくれ。おい、このバイク前と違うな。」
「ああ、バジンは元々デルタ用だからな。オレがファイズ用にいろいろ改良を加えた。まずグリップだが、」
「細かい事は、メールにしてくれ。」
巧はサイドスタンドを跳ね上げ、クラッチを繋いだ。
海堂は啓太郎を連れ一時環八沿いのマンションへと移っていった。
菊地クリーニング店は損壊した壁面を一時ビニールシートで覆い、木場の遺体は真理のベットに寝かせたままである。
目蓋がひらく、
遺体でしか無かった木場勇治の目蓋が突如開く。無言で上体が起き上がり、瞳孔が収縮し、呼吸が回復する。
「ここは、どこだ・・・・」
ベットから起き上がる勇治。床に足をつけた時妙に力が入らず、体調が極度に悪い事を自覚する勇治だった。
「そうだ、長田さんを助けなければ・・・・」
勇治はビニールシートを捲くって外の大気に触れる。既に星空。向かいは見渡す限り全焼した跡であり、電信柱は倒壊している。振り返ってようやくそこが菊地クリーニング店の跡である事を認識した勇治は、横並びの家屋の無惨な損壊ぶりに目を見張った。
倒れた電信柱には街灯が灯っては消え、照らし出される状景の中に灰の山を見つける。
「まさか・・・・」
最悪の状況を想像してうち震える勇治。恐る恐る近づく足も震える。
灰が風に舞った。
勇治は頬に灰を感じた。
「ウソだ・・・」
涙が頬を伝って流れる。最悪の想像を拒絶する勇治の目に幻影が見えた。
「長田さ・・・・ぅ」
天を上って行く長田結花の顔はいつまでもいつまでも笑っていた。
それでも拒絶する勇治は、携帯を取り出し、必死に長田結花の番号を探した。
「長田さん!」
5度の呼びかけの後、携帯に出てくれた事に狂喜した勇治だったがそれもつかの間だった。出たのは少年の声、暗く沈んだ啓太郎の声。だが即座に代わって勇治の無事を喜ぶ海堂の声がした。
「君だけでもって・・・・だけでもって・・・・」
勇治にとってその一言で十分だった。携帯を即座に切って、アスファルトに項垂れる勇治。
「なんでだ、なんで人間達は、いったい僕は、なにを、やって('&%VRんHGI%(%か#'#S$だ)」
泣き崩れる勇治。悲鳴に似たような啜り泣きだった。
「人間め、守ってやるんじゃなかったぁ!」
勇治のそれが絶叫だった。