仮面ライダー555 SPIRITS   作:bassher

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エピソード12 サイガの栄光

 

 

 

 琢磨逸郎は25歳A型。国立の大学から警察学校を経て、新規に創設された未確認生命体対策部隊に編入された。

 

「あれが、オルフェノク・・・・」

 

 ペーパーテストも実技も優秀な成績を収めていた琢磨逸郎にとって、学校という箱庭を越えた現実はあまりにも過酷なものであった。ライオトルーパー第一号という栄誉も約束されたキャリア組のレッテルも、初めて遭遇した黄金虫の像を持つオルフェノクの前では、なんの効力も無かった。

 

「ぅぁぁぁ」

 

 ニューナンブ38口径と、米国から買い付けたバーレット対物ライフルの集中砲火にもたじろぐ様子も無いスカラベオルフェノクに、ドクトリンの全てが脳内破綻した琢磨逸郎は即座に現場を離脱。

 

「ぁ、ぁ、僕のせいじゃない!」

 

 いつのまにかスーツも着脱し、靴も脱げ、雨が降る河原を決死の形相で掛け抜けた。

 琢磨逸郎の時間の流れはあまりにも遅く、掛ける足も振る腕も酷くスローに感じられた。観念した琢磨逸郎には、いままで歩んだ人生の情景が、走馬灯のように思い出しては消えていく。

 

「ぁ」

 

 いつのまにか街の片隅でゴミにまみれて倒れている琢磨逸郎を、一体のオルフェノクが見下ろしていた。その像はエビ。ロブスターオルフェノクだった。

 

「ぼ、助けてください、僕は、なにもしてませんから、」

 

「貴方を襲ったりはしないわ。」

 

 落ち着きのある女の声を眼前のロブスターオルフェノクは発した。

 

「ホントですか。ホントですよね。」

 

 ゴミの山からは鼠、ゴキブリ、見たこともない蟲が琢磨逸郎の腕に絡みついてくる。しかしそんなものは眼前の化け物に比べればなんでもなかった。

 

「だって、貴方も同胞じゃない。」

 

 琢磨逸郎はそのとき、自身の肉体が変化している事に気づいた。一匹の蟲に。

 

「御覧なさい。貴方の力を。」

 

 ロブスターの女は、振り返って指差す。琢磨逸郎の走ってきた跡を。街道沿いのビルが全て半壊し、街路樹が所々倒壊、人の気配が一切無く、ただ異様なほどの灰の山が街路のタイルを見えなくするほど積もっていた。

 

「ボクが・・・・」琢磨逸郎、センチピードオルフェノクの脅える声が、やがて言い知れない狂喜に変わる。「凄い・・・・」

 

 倒壊した信号機の看板には『表参道』の文字が書かれていた。

 

 

 

 それがライオトルーパー変身時のフォトン汚染の影響と知ったのは、当時社長だった村上峡児に見い出されて以後の事である。

 

「ええ、確かにスピード違反ですよ。」

 

 警察への復讐は、首都高白バイ隊から始まる。巡回ルートを入手して態と目撃されるように違反をくり返し、捕まる度に灰にしていく。

 白バイの機動隊が警戒し始めると、今度は駐車違反をくり返し、婦警に狙いを変える。

 続いて警視庁捜査一課の人間を、刑事ドラマのそれと似た状況に追い込んで殺害。琢磨逸郎の秀逸なところは、警察上層のキャリアを狙わず、刑事事件として以上に本腰を上げない程度の末端の人員で気を晴らしているところである。警察は決定的な対策が立てられない状況では、見てみないフリをするのを琢磨逸郎は分かっていた。警察組織が存続する以上、復讐を続けられるのである。

 それから約半年が経過した現在、

 

「僕は、なんでこんなにイジメられなきゃいけないんですか。」

 

 冴子の太股を枕にしながら、冴子の差し出した親指にしゃぶりつく琢磨逸郎。

 

「いいのよ琢磨君、たっぷりと私に甘えれば。私だけが貴方のゆりかご。」

 

 その琢磨逸郎の髪を毟ってみせて、どんな顔で怒るか想像して微笑んでいる冴子だった。

 

「僕はもう、十分にがんばったじゃないですか。それなのに世の中はそれ以上やれそれ以上やれ、そんなに僕が苦しんでる姿が楽しいんですか。」

 

「貴方はもう十分やったわよ。」

 

「ウソをつかないでください。冴子さんも僕が思い通りにならないと、きっと僕を見捨てるんだ。そうに決まってるんだ。」

 

「私だけは、貴方を見捨てないわよ。」

 

 星明かりの金曜日だった。

 オルフェノクになると、スマートブレインからそれなりの生活が保証される。しかも元村上社長の私兵であるから、他のオルフェノクが羨むほどの生活水準の二人である。だがこの部屋は二人のうちのいずれかの本宅ではない。冴子の名義で借りた台場の観覧車が美しい眺めの逢い引き用のマンションである。冴子は、他にも男の数だけマンションを借りている。

 

「そうそう、あの花形が、強い、と言ってたわ。乾巧が単独行動したら、よろしくね。私は草加雅人を。」

 

 琢磨逸郎に明日の指示を与えて、笑顔で帰した冴子であった。

 

「鬱を通り越して脅迫観念にまでエスカレートしてる。だからサイガは着れないよのね。デルタも同じ。ファイズは弱い。やっぱり草加雅人が実践したように複数の援護の上でカイザを使う。これしかないようね。ごめんなさいね琢磨くん。私、ウソはつかないけど、気持ちってフツー、変わっていくものだから。琢磨くんの換えをそろそろ考えないと。」

 

 

 

 乾巧は銀座に向けてオートバジンを走らせる。甲州街道と併走する首都高に乗れば、霞ヶ関インターより、桜田門を経て銀座に至る。

 新宿に近づくにつれ、高層ビル群も見えるようになってくる。新宿パークタワーに近接すると、高速道はほぼ右曲がりになる。

 

「逃がしませんよ。乾巧。」

 

 その背後より迫るサイドカーが一台。初台より上がって、オートバジンの背後に迫る。搭乗する2人の人間は共にノーヘル、一人は白づくめのトレーニングウェア、そしてもう一人はあの琢磨逸郎だ。彼がハンドルを握るそれはサイドバッシャー。

 得意げな顔で後方から前輪を接触させる琢磨逸郎。

 

「なにすんだバカヤロウ」

 

 巧はそれがカイザ専用の機動ビークルであることも、元々草加雅人の所有物である事も知らない。ただ派手な作りのサイドカーのイカれた二人がイチャモンをつけてるとしか考えなかった。

 

 アラームを鳴らすバジン、

 

 鳴らすと同時にメーター部の映像が後方カメラとへ切り替わる。そこには多弾頭ミサイルを射出しているサイドバッシャーの映像が。

 

「死になさいっ!」

 

「なんのバカなんだこいつら」

 

 6基のミサイルが時限炸裂、蹌踉けながらも左寄りに回避する巧。ミサイルの破壊力は、右曲がりの高架線を破壊し、高架上から数台の車が落下、煙に巻かれてスリップしながら止まった車も後方からの車に追突されて同じく落下炎上、辛うじて止まった車も初台まで玉突き事故という大惨事となる。

 

「後でちゃんと灰にしてあげますからね。」

 

 といいつつ琢磨逸郎は助手席に座すトレーニングウェアの男に、おい、と顎で指示を出す。男は120キロの速度で走るサイドバッシャーの上で立ち上がり、像をタコのそれに変化させる。

 

「あいつらオルフェノクか。」

 

 左へ逸れて、インターへ入る巧。インターを出て前ブレをロック気味、後輪に残る慣性で車体を傾け右へ流し、前輪を軸にターン。

 

「私に怖気づいたんですかぁ、怖気づいたんでしょ、乾巧。」

 

 追いかけてくるサイドバッシャー、それを正面に見据える巧はベルトを装着。

 

「こっちだ!」

 

 そして手招きしつつ、ファイズへと変身、ファイズエッジをバジンから一本抜き取る。

 

「気取るんじゃないですよ。」

 

 アクセルを捻ってゲートを100キロ以上の速度ですり抜ける琢磨逸郎。立ち上がったオクトパスオルフェノクは、脚をやや開き、右腕を前、左腕を奥にというボクサー風のファイティングポーズを取る。

 

『exceed charge』

 

 ファイズエッジに過剰な量のフォトンが流れ込む。

 

「ふぉ!」

 

 オクトパスが左拳を腰の回転と連動させて前へ押し出す。

 

「でぃ」

 

 ファイズはオトクパスのストレートを左へやり過ごし流れのまま腹部へファイズエッジを撫でつける。

 

「なにぁ」

 

 エッジのまぶしい光に中てられ、思わずサイドバッシャーから手を放し転げ落ちる琢磨逸郎。ファイズエッジを受けたオクトパスは、サイドバッシャー上で凝固し、灰を後方に流しながらも、第一庁舎へと突入した。

 

 爆破!

 

 サイドバッシャーのミサイルが引火して爆発、第一庁舎一階は中の人間を巻き込んで四方一斉に炎が噴出した。

 

「いやぁ、大したものだ。その弱いフォトンのギアで、よくここまで健闘した。」

 

 琢磨逸郎は、埃を掃いながらファイズの眼前に立つ。既ににサイガギアを捲いている。

 

「本当の力というものを見せて上げますよ。変身っ!」

 

『complete』

 

 青いフォトンを体に駆け巡らせ変身するサイガ。

 

「あれが、おっさんの言ってた3番目のベルトか。あの携帯盗ればいいんだな。」

 

 エッジを構え、駆け出すファイズ。勢い振りかぶって攻撃する。

 

 トンファーエッジで受ける、

 

 サイガの両手に宙空から発生する武具が2本。それは把手のついた前腕と同じ長さのト字棒。中国では拐、琉球古武術でトンファーと呼ばれるものに酷似している。ファイズエッジやカイザブレイガンと同じくブレード状の光る刃を持つそれは《トンファーエッジ》。

 

「トンファーウェッジと間違えないでくださいよぉ。」

 

 ファイズの切っ先を、把手を軸に回転させ弾き、もう片方のトンファーで突きを入れるサイガ。

 

「速い」

 

 突きを一歩引いて躱すものの、ブレードを落してしまうファイズ。

 

「無様ですよ。私に倒されなさい。」

 

 サイガは突きを入れようと一歩踏み出す。しかしファイズもステップで反転、腰をかがめて拳を繰り出す。カウンターの形になる。

 

 左パンチ、

 

「効きませんよぉ」

 

「硬い」

 

 サイガの右胸にカウンター気味のパンチが入った。しかし全く動じないサイガ。そして横薙ぎにトンファーエッジ、

 

「ぐぁ」

 

 これが顔面をヒット、ファイズが及び腰に怯んだ。

 

「私の華麗な足技を見せて上げますよ!」

 

 好機と見たサイガ、続けざま回し蹴りを3連打、そしてトドメに踵落とし。

 

「ぐぉ」

 

 叩きつけられるファイズ。アスファルトがファイズを中心に、半径2メートル範囲で窪み皹が入る。

 

「この足技をあの草加雅人にも見せてやりたかったですよ。私はこの脚力で、オルフェノクナンバー1に登り詰めたんですからね。」

 

「鋭い・・・」

 

 パトカーのサイレンがその時響く。

 この都庁前で繰り広げらるサイガとファイズの激闘を、黙認している程公共機関はアマくはない。ライオトルーパー隊を含む10数台のパトカーと消防車が公園通りを埋め付くし、2体の異形を包囲した。

 

「君達は完全に包囲されている・・・」

 

 警察がマニュアル通りの勧告をしてくる。ファイズの頭を足で抑えつけているサイガには、うすら笑みすら発する余裕を見せる。

 

「ウザいなぁ。警察などロクな人間の集まりじゃない。」

 

 そしてサイガは、徐にバックルへコードを入力する。

 

『start up』

 

 不連続なエネルギーの奔流が、サイガ全身に流れる。得意げに足を踏ん張り、耳を劈く高音と共にサイガの姿が虚空に消えた。

 

 ライオトルーパーに杭、

 警官に杭、

 消防士に杭、

 通りすがりの老人に杭、

 老人のペットに杭、

 

 サイガが消えた刹那次々と宙に現れる蒼い光の杭、ファイズやカイザと同じポインターマーカーの紡錘。それが1秒も経たないうちに幾十も宙に出現。集まってきた全ての人々に突き刺さる。偶々通りかかった老人やそのペットの犬にまで突き刺さるコバルトスマッシュ。突き刺さって灰として一掃された。

 

「あんな速い動きがあるのか。」

 

 よろよろと立ち上がるファイズ。

 

「最高だぁぁぁ」

 

 ファイズの前面へ水平飛行で出現するサイガ、フライングアタッカーを全開に、ファイズの横腹へ頭突き気味に上方へ担ぎ上げていく。瞬く間に48階の都庁第一庁舎を飛び越え、道を挟んで隣の三角ビル、即ちブレインタワー直上へ。

 

『3、2、1、time out』

 

 ブレインタワー52階のさらに上、宙の上でサイガを除装する琢磨逸郎。高笑いしながらも像を変化させ、センチピードオルフェノクとなってタワー屋上へと着地。ファイズもまたサイガによってブレインタワー屋上に背中から落下。琢磨逸郎が装着していたはずのサイガギアもまた、ファイズの足下に落下してきた。

 

 

 

「911を忘れたか。ビルの支柱が溶ければ、ビル全体の質量で直下崩壊するんだぞ。早く消し止めろ。ヤツらは放っておけ。要員が殺されたなら補充すればいいだろう。」

 

 都庁第一庁舎内。北側の最上階に黒岩都知事が立ち尽くす。最上階にあって、下界を望み、あるいは、避難する事ももう観念しているかもしれない。

 

「しかし花形さんは何を考えているのだ。スマートブレインの解体を保証したのはハッタリか。」

 

 自分の顎をなぞる黒岩。

 

「全てを予想し、以後の復興計画を緻密に構築したとしても、オルフェノクの恐怖は失われた人命の数だけ記憶に残るのだぞ花形さん。」

 

 隣のビルを臨む黒岩の眼に、二人の仮面の異形の戦いが映る。

 

「膝元で騒がれても、動じずか。花形さんも又死を覚悟しているようだな。オルフェノクの死を。」

 

 黒岩の像がやや揺らぐ。

 

「やってみせますよ。花形さん。復興計画を。私の命が尽きた後でも滞り無いように。」

 

 

 

「あのスーツじゃなきゃなんとか。」

 

「あま~い」

 

 センチピードが鞭を振るう。立ち上がるファイズを見計らってベルトに巻き付け、手首のスナップ一つで奪い取る。たちまち変身が解ける巧。

 

「ぁ」

 

「ぁ~、ぁ~、その声いただきですよ。ベルト以外取り柄の無い貴方のような人間の、無様な最後の言葉としてねぇ。」

 

 軒高200メートル超の世界に立つ、センチピードオルフェノクと乾巧。センチピードの体中に生える触手が風に揺れ、巧の豊かな髪の毛もセットが崩れるほどに揺れる。巧の鼓膜は気圧の違いを感じた。

 

 激しく火花散る鞭、

 

「ハハハハ」

 

 巧の左右を鞭で強く打ち火花を散らせるセンチピード。高笑いは弄んでいる証拠だ。

 

「くそ、」

 

 巧の視線は足下に落ちる。そこにはサイガギアが。鞭のリズムを読んで、側転気味に転がって手に取る巧。

 

「あらあら、良いところに目をつけましたねえ。これで大逆転ですかぁ。」

 

 だがセンチピードは狼狽える様子が無い。

 

「変身!」

 

 構わず変身する巧。

 

『restoring』

 

「なんだそりゃ、使えねえっ」

 

 高笑いするセンチピード。

 

「サイガはアクセル後約3分クールダウンしなければいけないんですよ。」センチピードは琢磨逸郎に像を戻す。「では、見せてあげましょう。変身。」

 

 手に取ったファイズギアを装着し、変身する琢磨逸郎。フォンブラスターを抜いて構える。

 

 連射!

 

「ぐぁ」

 

 フォンブラスターを連射するファイズ。顔を覆ってたじろぎ、尻をつく巧。

 

「生意気なんですよ。貴方みたいにベルトを偶々手に入れた以外なんの取り得もない人間が、私のようなパーフェクトオルフェノクの前に立つなどという事がね。」

 

 足で巧の胸を踏みつけるファイズ。

 

「くそ」

 

 踏みつける足を握り手で何度も殴る巧。しかしファイズの足は微動だにしない。巧のもう一つの手はサイガの携帯から何かのコードを入力している。

 

「あの最強の村上を破ったのは、どの技ですか。エッジですか、ショットですか。それともスマッシュなんですかぁ。」

 

「調子者め!」

 

 素早くサイガフォンを変形させ、ファイズへブラスターを向ける。

 

 一発、

 

「ふん、草加雅人と同じことを。」あっさりと躱すファイズ。「私は一度受けた屈辱は忘れないんですよ。」

 

「うっさいハゲ」

 

 禿と言われて何かを言いかけるファイズ。だがその言い訳は永久に聞く事はない。

 

 バジン!

 

「卑怯なっ」

 

 横合いからタックルを食らわせるオートバジン人型形態。200メートルの高さをホバリングしながら駆け登り、巧を救出した。

 

「ひ、卑怯なヤツめ、こいつ!」

 

 ファイズは及び腰になりながらも反撃の右ストレート。だがバジンにはまるで効いていない。さらに左フックするもやはり効かない。

 

「弱い、なんて弱いんだこのスーツは。」

 

 その攻撃を全て胸で受け止めたバジンは、徐に右掌を突き出す。

 

「うぁらばぁ」

 

 火花を散らして吹き飛ぶファイズ。あまりの衝撃にスーツが強制消去し、ベルトも着脱。琢磨逸郎の肉体はそのまま柵をへしゃげて飛び出し、52階の高さから危うく落ちそうになる。咄嗟に像を変化させて、鞭を柵にくくりつけてぶら下がるセンチピード。

 

「ちゃんと、送信されてるようだな。」

 

 琢磨逸郎が落としたファイズギアを拾い上げる巧。オートバジンの胸のマークに触れると、バジンはビークル形態へと変化した。

 

「返しなさい、ベルトを。そしてちゃんとした決着をつけましょう。紳士的にね。」

 

 琢磨逸郎が這い上がって来て吼えた。

 

「アンタもこのベルトに縋るしかないんだな。」

 

 両手に持つ2つのベルトのうち、サイガギアの方を琢磨逸郎へ放り投げる巧。

 

「態々性能のいい方を投げるとはね。いいんですか。私に手も足もでないくせに。ハンデをやってもいいんですよ。」

 

「さあな。でも今度はちょっと違うかも知れないぜ。」

 

 ベルトを持つ男二人が対面して立つ。同時に光に包まれ変身する。

 

「一気に片付けてあげますよ。」

 

 サイガはアクセルのコードを再び入力する。

 

『complete』

 

「じゃあ、オレも。」

 

 ファイズもまたコードを入力した。

 

『accele form』

 

 ファイズへ変身した姿がさらに変化していく。胸部プロテクターが二つに縦割れし、回転しながら両肩のプロテクターとなる。胸部から顕れる強制反応増幅炉。一旦そこに紅のフォトンが吸い上げられ、代わって白銀のフォトンをファイズ全身へ推し流す。これこそが《ファイズアクセルフォーム》。

 

「そうか、同時期に開発された型ならば、そのくらい装備していて当然という事ですね。しかし私は負けない!」

 

 サイガの不連続なエネルギーの奔流は既に始まっている。

 

「理屈なんかどーでもいい。ただ今言える事は、てめえのその面思いっきり殴りたいだけだ!」

 

 ファイズアクセルもまた不連続なエネルギーの奔流が体全身を駆け巡る。

 

『start up』

 

 虚空に消える両者のアクセル。

 刹那現れる無数の光の杭、見渡す限りクリムゾンスマッシュ対コバルトスマッシュの衝突、三角ビル上空が一面紅と蒼の閃光で満たされた。

 

「サイガは最強なんだぁ!」

 

「うっさいハゲ!」

 

 虚空から現出する両雄、ファイズはサイガの片腕を握り動きを抑止している。

 拳を繰り出すファイズ、

 回避するサイガ、

 反撃するサイガ、

 避けるファイズ、

 その行程がコンマ幾秒単位で折り重なって、無数のファイズとサイガの残像が交錯した。

 

『3・・・、2・・・、1・・・、time out』

 

 最後に一撃ファイズの拳がヒット、

 

「きぁぁぁ」

 

 アクセル完了と共に琢磨逸郎へ戻るサイガ。しかしファイズは違った。スライドしていた肩プロテクターが胸部へと戻り、フォトンもまた白銀から紅へと、ノーマルのファイズへと戻るのみ。

 人間の姿に戻った琢磨逸郎の顎に、ファイズの2,5トンのパンチが見舞われた。

 

「終わりだ。」

 

 殴り飛ばされ、尻をついた琢磨逸郎に、ファイズの影が差す。

 

「ひゃぁ」

 

 もはや恐怖だけが顔面に満ちた琢磨逸郎は、震える手でベルトにフォンを差しなおす。

 

『restoring』

 

 虚しく響き渡る合成音。

 

「サイガに、サイガに、貴方なんか、最強の私が、サイガにさえなれば、」

 

 だが琢磨は地にひざまづいたまま、何度も何度もフォンを差し込んだ。

 そのサイガの様相をじっと眺めるファイズだった。

 

「それが普通に生きてるって事なのかもな。死ぬことから逃げて、死なない言い訳に気取って。なんだ、普通の人間じゃないか。生きるってそういうものなのかもな。でも生きたいんだろ。だったら生きてろ。そんなに生きていたいんなら。」

 

 ファイズはもはや泣き叫ぶ琢磨逸郎に背を向け、オートバジンに脚を向けた。

 

「・・・・」震えが病んで唖然とする琢磨逸郎。しかしその表情に余裕が甦ってくる。像をセンチピードへ。「正気ですかっ!」

 

 鞭が撓る、

 

 再び活気付いたセンチピードの鞭が、ファイズの背中を狙った。

 

 虚空を打つ鞭、

 

「ばかな」

 

 だがファイズの姿は消え、虚空に鞭が撓る。

 

 首を掴まれる、

 

「やっぱダメだ。思い出した。おまえ殺し過ぎだ。」

 

 それは背後、いつの間にか背後に回ってセンチビートの首を片手で掴むファイズ。

 

「ばかな、アクセルでもないのに、」

 

「なんかコツでも掴んだんだろ。」

 

 空中へ放り上げられるセンチピード。

 その宙をもがくセンチピードを注視しながら、屈んでポインターを右足へセット、そのままの姿勢で右膝に右肘を乗せ、全身の力を抜いてタイミングを計るファイズ。

 

 飛翔、

 

 ひととび35メートルのジャンプ。

 

 宙返り、

 

 ポインターマーカーロックオン、

 

 宙をいまだ浮かぶセンチピードに杭が展開、

 

「ヤぁぁぁぁ!」

 

 やや屈んだ状態から蹴撃に構え、ヒットする瞬間、全身が伸張。腰、脚、足首、そして落下の重力と体重を載せたクリムゾンスマッシュ。

 

「ボクがぁぁ!」

 

 センチピードを透過、

 

 ファイズは着地、琢磨逸郎は落下。

 

「すまんな。オレもいずれアンタと同じ所にいくから、それで勘弁な。」

 

 変身を解く巧だった。

 

「あ・・・・生きたい・・・・・」

 

 眼鏡を取り、巧に手を伸ばす琢磨逸郎。しかしその手は灰となって崩れる。眼鏡も灰になる。そして全てが灰になって崩れた。

 

「また1人殺した。」

 

 灰の山に歩み寄る巧。ただ一握り灰を掴んだ。

 

 

 

 木場勇治が新宿ブレインタワーに辿りついたのは、既に都庁1階が鎮火した後だった。

 黒づくめのスーツは、社長就任から変らないものの、その時の木場社長は何かが違った。すれ違う社員の挨拶に、必要以上の丁寧な笑顔で返す様はむしろ朗らかであり、であるが故に、社員全員が社長に対してなにがしかの違和感を感じずにはいられなかった。外面と内面の違和感をである。

 

「貴方の呼び掛けには、気づいていた。」

 

 社長室。

 例のガラスケースの中に安置された『皇のベルト』に話し掛ける勇治。

 

「僕は、結局貴方の言う通り、オルフェノクとして生きる正しさを、今日知りました。」

 

 ベルトを掴む勇治。徐に腰にあてる。

 

 光、

 黄金色のフォトンが勇治の全身を包む。包んだフォトンは光の膜となって勇治を外界から遮断していき、それは漆黒の鎧と化す。顔面に刻まれる記号はΩ。

 

「ついに皇となったか。」

 

 鎧の勇治の背後に立つ影。それは花形。

 

「遅かった。僕は既に皇。ようやく皇のヨリシロを手に入れる事ができた。僕は以前、僕が活動していた時に蒔いた《オルフェノクの記号》によって進化したこの僕を、ヨリシロとする事に決めていた。この肉体こそが最強だからだ。」

 

 その言葉は凄味も無ければ威圧感も無い。全く元の木場勇治青年のものである。

 

「貴方が2千年近く前に蒔き、地球の生命体の中で、自然淘汰に揉まれ力を貯えた因子によって、オルフェノクとなった人間、それを望んでいたのは知っていた。そしてそれがこの青年である事もな。」

 

「そうか。貴方の奥方は予知能力を持っていましたね。どうやら僕は最初の人選を過ったかもしれません。ゴート、貴方は私を裏切ろうとしている。」

 

「オルフェノクはなんの為に生まれてくるのか。いやそもそも貴方の力を模したベルトの力はなぜオルフェノクを滅ぼしうるのか。人の世界で類似を探した時、貴方が人に、この地球の生命体に何を望んでいるのかが分かった。それは許されない事だ。」

 

「だが全ては遅い。僕というヨリシロが見つかったのだ。もはや貴方がどんな手を打とうとも、僕を止める事はできない。」

 

「木場勇治くん。聞くのだ。本来ならば全てのオルフェノクのマトリックスとして、生命体の体内に潜伏しうる皇が、なぜベルトにその身を保存し、ヨリシロとの完全な一体化を避けているのか。それはヨリシロに万が一の事があった場合離脱できるようにする為だ。」

 

「遅い。僕はもう僕だ。」

 

「木場勇治くん、皇は君を初めから選んでいたが、私もまた君が適任だと初めから思っていた。ヨリシロをいつでも離脱できる皇には、覚悟が足りない。問題は君の覚悟だ。人と向き合う覚悟だ。」

 

「分かっているでしょう。オルフェノクである限り皇に逆らえないと。」

 

 皇は剣を現出させる。巨大な、人の身長ほどの巨剣。皇はそれを片手で軽々と振るった。

 

「私の最後の言葉だ。君は間違ってはいない。いままでも。今現在もだ。」

 

 斬る、

 

 だがそれは残像。花形はその刃から逃れ、姿を消した。皇の前には、最上階の半分の区画が吹き飛び美しく沈む夕陽が眺められた。

 

「時間を止めたか。」

 

 

 

 

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