仮面ライダー555 SPIRITS   作:bassher

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エピソード13 カイザの正義

 

 

 

 土曜日。

 大胆にも影山冴子は、桜田門の警視庁に居た。

 

「おはようございます。」

 

「草加さん、時を越えた少女刑事の話の続きしてくださいよ。気になって気になって。」

 

「草加さん、昨日書類、手伝っていただいてありがとうございました。」

 

「草加くん、また捜査の方、協力頼むよ。君が捕まえた少年も、ウソのように大人しくなった。君のおかげだ。」

 

「ねえ、マっくん。また買ってあげるから。ねえ、お姉さんと明日。ねえ、この制服着てあげるから。」

 

 雅人は、警察という組織においてかなり社交的であったようだ。雅人という青年が巧すぎるのか、それとも二十歳そこそこの青年に騙される程度の薄い人間性しか無い集団なのか。

 

「なんだね。その恰好は。私の前ではその無粋な変身を解きたまえ草加くん。」

 

 そう、影山冴子は、死んだ雅人から奪ったカイザギアを装着し、堂々と警視庁内を闊歩し、南警視正の室まで来た。

 

「男は肩で歩いて、女は腰で歩くのよね。」

 

「誰だキサマ、何者なんだ。」

 

 さすがに女声を聞いて危機を直覚する南。その南の首をすかさず掴むカイザだった。

 

「結局、こうなのよね。偉い人が根こそぎ消えても、今日の仕事に差し障りがある訳じゃない。疑うように見ようしなければ、疑う事は決してない。上辺だけしか気にしない。」

 

「ゴミのような、オルフェノクめ!」

 

「誰なんて聞いても仕方ないでしょ。これから死ぬんだから。」

 

 頚骨から音が鳴る、

 

 南という人間の人生が全身の脱力と共に終焉した。

 

「これで、めぼしい人間は片付いたわね。1週間くらいは人事でゴタゴタを起してくれるかしら。簡単よね。組織の活動を決定する人間を排除してしまえば、復元するにしても活動は停滞するんだから。取り敢えず1週間あればこちらも動きやすい。」

 

 影山冴子は変身を解き、ロブスターに像を変え、レイピアで南の遺体を刺す。全身が灰になる遺体。38階の窓を開け放つと、灰が突風に巻き込まれて外へ流れていった。

 

「あの男、オルフェノクにしちゃってもおもしろかったんだろうけど、ね。」

 

 

 

 確か、影山冴子という名前は、父に隠れて読んだ少女マンガのキャラクターの名前だった。主人公をイジメる役だったが、後半になると主人公を皮肉混じりに手助けするという小粋なキャラだった。

 

「女の子は女の子らしくなきゃいかん。」

 

 それが父親の躾だった。

 赤いスカート、白い長袖のシャツ、三つ編み、三つ編みを留める赤いサクランボのリボン。小学校低学年の時は童話、中学年の時は図書室の本、高学年の時は父の買ってきてくれた本と、全てが決められていた。

 そんな父親が喜んだのは、手作りのマフラーだった。その他ビーズ工芸、フラワーアレンジメントなんかも喜んだ。父親の誕生日プレゼントに、母が携帯電話を、そして自分が手作りのストラップを作った時の父親の喜びようは無かった。

 

「永遠だよ。何があっても。」

 

「私達ははじめからこんな風になる運命だったのね。」

 

 大学生になって勇治と出会った。彼もまた手作りのストラップをこの上なく喜んでくれた。父親が大きな病院の院長だという話だったが、そんな風には、いや敢えてそんな風に見せないように勇治はつき合ってくれた。

 

「ねえ、どこ行くか勇治が決めて。」

 

「んん、じゃあ千恵はどうしたいんだい。」

 

 と言って小一時間街を彷徨うようなデートを何度かくり返した1年だった。

 あるいは、本当にその出会いは運命だったのかもしれない。勇治が交通事故で植物人間と化したとき、勇治が目覚めるまで週に1度は見舞いにいく習慣を持つようになった。そうやって身を粉にして献身する事が、勇治が目覚めさせる道だと信じ、またそのような愛情表現に酔っていたのかもしれない。

 

「もう目覚めないよ。その男は。」

 

 病院で何度か見掛けた一彰に、そう現実を突き付けられ、目覚めた。一彰はごく自然に心に入り込んできて、そのつもりは無かったがいつのまにか泣きついて、口づけし、肉体関係をもった。

 

「そんなつまんないこといいじゃん。それより今度六本木で新しいミュージックパブを見つけたんだ。」

 

「いいじゃねえかよ。見つかんなきゃわかんねえって。この間の店よりもっと気持ちよくヤれるぜ。ホントなら親父に金払わなきゃいけねえ代物なんだぜ。こいつは。」

 

「いいじゃんかよ。他の男を知ったら、オレの事をもっとよく感じるぜ。おまえがオレを愛してるなら、他の女とヤッてるとこ見たらオレが欲しくてたまんねえはずだ。」

 

「親父の金じゃイヤなんだよ。オレは稼いだ金が欲しいんだ。いいな。あそこで働けば、オレ達二人くらい簡単に養えるんだ。おまえだってみみっちい生活にもう戻りたくないだろ。」

 

 一彰とつき合って、勇治に物足りなさを感じていた自分を自覚した。一彰はなんでも決めてくれた。全て一彰に任せれば上手くいった。少し風俗で働くようになったが、一彰が、

 

「おまえ、オンナになったな。」

 

 と誉めてくれた。男性客を取った話をすると激しく嫉妬し頬を打ったが、それが彼の愛情だと解って嬉しかった。

 だがそれを勇治が粉微塵にした。

 それと同時に、一彰では限界があったどうしようもない、償いきれないほどのモノを勇治は与えてくれた。

 自分を殺したのだ。これ以上の負い目を人間に与える事などできない。あの日の勇治との想い出の公園、目覚めた彼女は、不思議にもなぜか自分は既に死んでいる事が分かった。そして勇治が怪物になって自分を殺した事に思い至って狂喜した。勇治という男は、自分の死を一生抱えていくに違いないからだ。

 

「女らしく、オルフェノクらしく。」

 

 オルフェノクというものが、人を襲い同胞を増やすものだと、直覚で分かった。だから自分も増やすことが、生理的にも社会的にも自然な行為だと思い至った。まず親兄弟をオルフェノクにしてあげた。まずはなんでも家族に打ち明ける事が、人生に不備を生じない為の第一歩だったから。生き残ったのは兄だけで、兄はオルフェノクである事も死ぬ事も抗った。可哀想だから、人間としての自意識を抹消してあげた。どの世界でもそう。ルールを守る為には人間性を捨てれば全く問題無い。

 そして見知った風俗の世界で、ヨダレを垂らした客に、店の外で会う約束をした上で灰にしていった。

 影山冴子を名乗ったのは、自分の店を持った頃だった。店で働く全ての女がオルフェノクであり、店の個室という密室を作り上げ、男を呼び込んで灰にし、時に新しい同胞を増産していく、もっとも安全で、もっとも効率的なシステムを築き上げた。

 

「見事な経営手腕です。冴子くん。」

 

 そして村上峡児の私兵に選ばれた時、人生の絶頂を感じたものだった。

 その絶頂は、今も続いている。

 

 

 

 土曜日夜。

 園田真理のいる部屋の中では、いったい何日経って、何時なのかよく分からない。円形で回転するベット、天井は鏡が張ってあり、所々散在している目が丸ボタンのぬいぐるみたち、そしてシーツやソファに縫い付けてあるアップリケの動物たちは、可愛ければ可愛い程に異様な演出を醸し出している。さすがに18歳ともなると薄々は逢い引きの部屋なのだろう事は察しがつくが、およそ健康器具のようなものが拘束台であることも、浴室のエアマットがいったいなにに使うかまでの知識はなかった。

 

「はぁい、出店前とアフター5はルンルンよっ、私達の業界でも終わりはビフォーじゃなくてアフターなの。」

 

 全身エナメル質の水色を主体としたスーツに、銀のカチューシャ、黒のロングブーツという、真理にしてみれば素っ頓狂ないでたちの女、スマートレディが、いつも通り食事を運んできた。

 

「前にも言ったけど、アタシをいったいどうする気なのよ!」

 

 真理は何度見ても馴染めないケバ過ぎる女の顔に向かって言葉を発するのも嫌悪感を覚えていた。

 

「あらぁ、まだ元気なのねえ。前にも?さあいったいなんの事かしらぁ。別の人と間違えてなーい?」

 

「あんたみたいなのがゴロゴロいたら世の中大変・・・・」

 

 だが真理は眼前の光景に言葉を失う。

 

「あらやだぁ、この間のお客、アソコに大きなイボがあってね。可愛いからついオルフェノクにしちゃったぁ」

 

「アタシ、女性初体験だったわよ。でも彼女美しい羽虫になってくれたわ。」

 

 自分の眼前に立つスマートレディの背後、全く同じエナメル質の容姿、同じメイク、同じ顔、寸分違わぬ同じスタイルの女たちがワラワラと通り過ぎていく。

 

「安心しないさい、貴方もいずれお仲間にしてもらえるって、ママが言ってくれたから。」

 

「アタシもあんな、あんなバカみたいな恰好しろっていうの!」

 

「大丈夫、ちゃんと記憶も消してもらえるから、すぐに馴染めるわ。私達も貴方の記憶は一切消されるから、すんなり受け入れられるし。」

 

「あんたそれでいいと思ってんの!」

 

 訳も分からなかったがとにかく嫌悪感のまま反発した真理だった。

 

「う~ん」しばらく悩むフリをするスマートレディ。「でもそれがフツー、仕事ってもんじゃない?あらぁきょとんとしてる丸顔カワイイ~」

 

 スマートレディは平然と答えた。

 

 

 

 土曜日夜。

 乾巧は花形がそうであったように、煉瓦敷の階段を一歩一歩警戒しながら降りていく。

 

「正義の味方さんね。こんにちは。」

 

 ドアを開けると、はるか奥、正面で、藤網の椅子に優雅に脚を組んで影山冴子が座っていた。着けているのは黒い皮製のブラと腰のカイザギアのみ。乳頭は露出しており、銀のリングピアスが乳首にまとわりついている。

 

「人間って原罪があるのよ。貴方がそこにそうして立ってる、空間を割って事実存在しているだげで、みんなが圧迫されちゃうの。罪なのよ。本当にそこにいるべき人を押し退けて貴方がそこに立ち、本当に食べるべき人のモノを奪って貴方が食べている。しかもそれを当たり前とすら思って麻痺している。どうしてそこまで生きていることに傲慢でいられるのかしら。人ってホント、どうしようも無いわね。」

 

 だが異様なのは、影山冴子だけではない。照明の影でうっすらとしか見えないが、エナメル製の服装、そして顔も髪型も体型も全く同じ女たちが数十名、スマートレディ達が巧を睨んでいる。

 

「気色悪いヤツらだな。」

 

「乾巧くん。園田真理を返してほしいのね。ならば私の言う事を聞く事ね。」

 

「真理はここにいるんだろうな。」

 

「すぐ下で、私の部下が見張ってるわ。そしてこの携帯で連絡を取れば、」

 

 黄色いウサギのストラップの携帯を取り出す影山冴子。

 

 すかさず撃抜くフォンブラスター、

 

「じゃあこれで連絡できない訳だ。」

 

 咄嗟に影山冴子の携帯をフォンブラスターで撃抜いた巧。

 

「番号が分からなくなったじゃ、ないの!」

 

 カイザフォンを取り出す。押すコードは913、リボルバー型フォンを畳んでベルトへ装着する影山冴子。

 

「変身」

 

『complete』

 

 たちまち黄色い光に包まれ変身。光から現出するカイザ。

 

「変身!」

 

『complete』

 

 巧もまた変身する。にらみ合うカイザとファイズ。

 

「カカれ!」

 

 影山冴子の号令で一斉に影から出てくるスマートレディ達。その全てがやはりベルトを装着していた。

 

 一斉に光を放つ、

 

 光を放ち現出したのは無数のカイザ。しかし影山冴子のそれと違うのは、その全身を流れるフォトンは、ファイズと同じ紅だという事だ。その名も《カイザ・マス》。

 

「メンドくせえ。」

 

 しかしファイズは怯まない。

 

『accele form』

 

 即座にファイズの胸が展開し、紅のフォトンが白銀に替わる。

 

「逃すな!」

 

 斉射!

 

 カイザの号令で、ファイズを半包囲するカイザ・マス35名のカイザブレイガン一斉射撃。命中する35の射線。しかし命中したのはファイズの残像に過ぎない。

 

 現れる無数のポインターマーカー、

 

 瞬時にしてカイザ・マス一人一人の頭上に現れる紅い紡錘の杭、それはアクセルファイズのクリムゾンスマッシュ。クリムゾン・スマッシュが36のカイザとカイザ・マスに突き刺さった。

 

『3・・・2・・・1・・・time out』

 

 元いた場所に現れるファイズ。胸部が閉じ、フォトンが白銀から紅へ。

 

「援護が無いけど、まあいいわ。」

 

 だがオリジナルカイザだけはその攻撃を寸でで躱していた。

 黄色の弾丸、

 

「ぐぁ」

 

 胸のプロテクターで受け、怯むファイズ。

 

「琢磨くんをそれでやったのは、テレビに映っていたわ。偶然だけど。だから目を凝らしていたの。」

 

 連射連射連射、

 

 オリジナルカイザの黄色いブレイガンがファイズに向かって放たれた。連続して放たれる光弾にファイズはジリジリ圧され、体勢を立て直すこともままならない。影山冴子はカイザの戦いを承知している。つまり銃撃を主体として隙を与えないという事を。

 

「くそ、」

 

 ついには壁に圧しつけられるファイズ。

 

「ねえ、正義の味方の坊や。貴方の正義なんて、しょせん貴方自身とあのお嬢さんの命の為でしょ。」

 

 依然撃ち続けるカイザ。右手で撃っていたブレイガンを左に持ち替え、なお撃ち続ける。

 

「でもね。個人の命は全てが同じ。貴方達個人の命を守る為に、同じ価値の命を奪うのが本当に正義かしら。」

 

 そして右腕を腰の裏に回し、カイザポインターを取り出す。

 

「私は違うわ。オルフェノクとして当たり前に、女として当たり前に生きてるだけ。それを邪魔しようとする貴方を裁く。私は私の正義を執行しているだけよ。」

 

 カイザは右足にポインターを装着する。

 

「私こそが正義なのよ!」

 

 ブレイガンをかなぐり捨てカイザは飛翔、

 

「う、」だがその瞬間ファイズへの銃撃も止む。カイザの飛翔を目で追うファイズ。「やぁ!」

 

 そしてファイズも飛翔、飛翔しながらポインターを装着、

 

「かぁぁぁぁ」

 

 カイザは構わず脚を揃え、宙にあるファイズに蹴撃にいく。

 

「オレは!」ファイズもまた応じて宙にあるカイザに右足を突き出す。「真理に応えるだけだっ!」

 

 クリムゾンスマッシュ対ゴルドスマッシュ、

 

 空中で右足と両足が激突した。

 

 

 

「え~とぉ~、面会謝絶で~す。私たちのママがぁ、許した人でなければ、お会いすることができない事になってますぅ。ねえ、私キャリアウーマンの方がもしかしてムイてるかしらぁ。」

 

 上の階で激闘が繰り広げられている。園田真理の監視の為に、48名いる従業員のうち、5名のスマートレディが割り当てられていた。しかし訪問者は、4名のスマートレディをパスして、最後の、その背後のドアを開ければ真理と面会できる障害であるスマートレディまでたどり着いていた。

 

「あなた達って、」いきなりスマートレディの顔を掴む訪問者。「見た時からピンときたの。あなた達の頬ってマシュマロみたいに柔らかいんだろうなって。」

 

「あのょ~みょしみょし、」

 

 顔をVの字に歪めながら、スマートレディは像を変化させようとした。

 

「同じね。見事に反応が。冴子ってホント、自分の想像の範囲に無い事がキライなのよね。」

 

 だがスマートレディはオルフェノク化する前に、一瞬で灰となった。見事なほど、影も形も残さずに。ただ床下にサラサラとした灰の山へ。

 

「なに、」

 

 園田真理は信じられなかった。痣だらけになりながらもビクともしなかったそのドアが、一瞬にして消失したのが。灰の煙が立ち上る向こうに細い影が見えた。

 

「誰?」

 

「真理、貴方ってホントにいい子よね。」

 

「沙耶・・・・」

 

 たじろぐ真理。その影は、流星塾の家族達の一人、木村沙耶。長いストレートの髪を一本に束ね、左胸前に降ろす。腰には例のデルタギアを巻きつけている。沙耶は屈託の無い笑顔を真理に向けた。

 

「私は、もうこんなイイ子をやるのも、虚しくなってきたのよね。」

 

「いったいどうしちゃったの沙耶、私に分かるように説明してよ。」

 

「ああもう、私が今話してるんだから、割り込んでこないで。もう他人の話を聞いてあげる態度も意味を感じなくなっちゃったんだから。元々、人間でいようと思ったのが間違いなのかもね。私は、人間でいる事が不向きだったんだわ。」

 

「どうして巧を撃ったのよ!」

 

「清高よ!あれは私の清高なんだから!」

 

「なに?西田くん?」

 

「おバカさん、西田くんはとっくに殺されたわ。戸籍のすり替えって簡単よ。顔さえ分からなければ。」

 

「巧を、記憶が無くなってたのいいことに騙してたの。」

 

「だから、話し掛けないでって言ってるでしょ。みんな分かるのね。ホントにイイ子と、イイ子で人間のフリをしてる私と。みんなアナタには溶け込んでいくのに、私にはどこか警戒して、みんなと打ち解ける事ができなかった。」

 

「巧は、巧は、たぶん沙耶の事を一番考えてるわ。あの時沙耶を見た眼は、私と旅した時一度も無かった眼だったもの。」

 

「アナタは清高の事をなんでも知ってるのね!それだけでも私にとって侮辱なのよ!」

 

 沙耶は腰のベルトにフォンを差し込む。たちまち外界から隔絶するスーツが纏わり着いてデルタへと変身する。

 

「痛い、沙耶」

 

 骸と見紛う姿となった沙耶が真理の腕をキツく掴む。

 

「清高に選んでもらう。」

 

 それだけ言って、デルタは真理を廊下へ引っ張り出した。

 

 

 

 クリムゾンスマッシュ対ゴルドスマッシュ、

 

「オレは、真理に応えるだけだぁぁぁ!」

 

 押し切るファイズ、

 

「なんですって」

 

 頭から落下するカイザ、脚をつけ着地するファイズ。

 

「なんですって・・・・いったいどういう事、カタログスペック以上の何かを乾巧は持っているというの。」

 

 カイザは頭を振って立ち上がり、緊張無くこちらを眺めているファイズへと拳を繰り出した。

 

「でや」

 

 ファイズはすかさずカウンターを見舞う。カイザの拳が繰り出されるの見て取った後、カイザの拳が到達するよりも先にヒッティングする。

 

「なぜ、」

 

 怯むカイザ、しかしよろめく肉体に翻しさらに拳を突き出す。

 

「でや」

 

 だが同じシーンをくり返す。先にファイズの拳がカイザの肉体を突く。あまりの衝撃でカイザギアが影山冴子から弾けて跳んだ。

 

「いったい何者なの。木場勇治とは全然違う。同じギアなのに、こんなにどうして差がつく。なにか違う力を持っているというの!」

 

 仰向けに倒れたまま開脚し、ファイズに無防備な姿を晒す影山冴子。

 

「さあな。よく分かんねえよ。」

 

 ファイズは足下に落ちているカイザギアからフォンだけを手に取る。

 

「ねえ、私のこの体が欲しくない?アナタが望むなら、私はアナタを本気で愛してあげるわ。」

 

「煩いな。傍でごちゃごちゃ言うなよ。とっととどっか行ったらどうだ。」

 

 ファイズはそんな影山冴子の裸体同然の姿を眼前にしながらも、カイザフォンに神経を集中させていた。

 

「バカにしないで!」

 

 影山冴子は無視されて激昂する。

 

 剣が左右から襲う、

 

 その影山冴子の感情の起伏に連動するかのように、ファイズの左右から突如アルマジロオルフェノクと、ソードフィッシュオルフェノクの剣が襲い来る。

 

 皮一枚避けるファイズ、

 

「ん?」

 

 避けてから対手がいる事に気づくファイズ。カイザフォンを投げ棄て、回るように両者の剣を躱し、アルマジロの下腹部に潜り込んで、対峙したソードフィッシュが一瞬躊躇したところをまず蹴り、そして必然密接状態にあったアルマジロに肘を見舞った。

 

「調子こいてなさい。牡が。」

 

 カイザフォンを拾い上げる影山冴子。再び変身。

 

「オッチャンの言う通りなら、これで、」

 

 一旦間合いを取って、室内の入り口近くへ再び立つファイズ。コードを入力すると、ファイズの右手付近にレーザー光が縦横に走って立体を形成する。それは銃、いやキャノン砲というべきか。グリップは中抜きされたΦマークの軸、そこから腕一本ほどの長さと太さを持った角型のバレルが伸びる。それは《ファイズブラスター》。

 

『burst foam』

 

「ヤツの動きを止めなさい!」

 

 一方カイザの方は、ブレイガンへフォンを差し込む。フォトンを白銀に変え、バーストの巨砲で全てを吹き飛ばすつもりの影山冴子は、2体の僕へ命令を下す。

 

『blaster foam』

 

 ファイズもまたその姿を変化させていく。ファイズフォンをブラスターに装着。ブラスターはフォンのエネルギーを増幅するコンバーターであり、チャージで送り出すほどのフォトンを安定して全身へ供給する事が可能となる。だが、フォトンストリームにではない。今度のフォームではファイズのスーツの繊維一本一本に紅のフォトンが流れる。まさに全身が紅となる《ブラスターフォーム》。

 

「ぐぁ」

 

「うぉ」

 

 理性を消した2体のオルフェノクがブラスターファイズへ迫る。

 

『blade mode』

 

 ファイズは、慌てずブラスターに143のコードを入力、ブラスターの先端が、黄色の奔流に包まれ、それは巨大な剣のようになる。《フォトンブレイカーモード》。

 

「全身が針が刺すように痛いなこの姿は。」

 

 振り下ろす、

 

 ソードフィッシュへ向け巨剣を軽く振り下ろす。剣を頭上で構えるソードフィッシュを剣もろとも一刀両断。瞬時に灰となるソードフィッシュ。

 

「いて」

 

 その間アルマジロの剣がファイズの顔面に撃ちこまれる。だが損傷の無いブラスターファイズ。損傷が無いどころか、対手の剣の方が灰となる。ファイズの全身はフォトンが流れている。つまりオルフェノクは触れた途端に灰になってしまう。ある意味これほどの鉄壁の防護服はない。

 

「ぐぁぁ」

 

 慌てて盾と代わりの剣を現出させるアルマジロ。

 

 盾ごと殴りつける!

 

 ショットも装着していないただのパンチがアルマジロの盾を貫通、そのまま頭へヒット。やはり瞬時に灰となって、衝撃波で灰が飛び散った。

 

「オママゴトはそこまでよ。正義の鉄槌を食らいなさいっ!」

 

 その間にもカイザバーストは、既に4本のブレードを先端に伸ばし、黄の光を収束していた。

 

 発射!

 

 あのエラスモテリアムオルフェノクの巨体を一撃で粉砕した光芒を、スーツが消失しながら撃ち出す影山冴子。

 

「オレは正義なんて知らん!」

 

 ファイズはブラスターを103コード入力して構える。

 

『exceed charge』

 

 光弾っ、

 

 カイザバーストの光芒がファイズを呑み込もうとするその時、ファイズもまたブラスターから光弾を発射、

 

 押し戻す紅弾、

 

 発射された紅弾は、黄光と拮抗、否押し返していく。これぞ《フォトンバスターモード》。

 

「っ・・・!」

 

 呑まれる、

 

 全裸の影山冴子の全身が光に呑み込まれる。その時の冴子の顔は、あるいは森下千恵のそれだったかもしれない。

 

『reformation』

 

 ファイズギアを着脱する巧。

 

「私を・・・・私を、殺すんでしょ・・・」

 

 影山冴子は、ファイズブラスターの砲撃を浴びてなお存在していた。服は燃え尽き、全身から蒸気を立ち上らせて、その強靭に素直な生命力で、辛うじて肉体を現世に繋ぎ止めている。

 

「真理はどこだ。」

 

「ふ、そうね、それがある限り貴方は私を殺せないのよね。」

 

 顔を上げて巧に視線を向ける影山冴子は訝しむ。なぜか巧は影山冴子のさらに背後を見て表情を失っている。

 

 足音、

 

 ゆっくりとした一定のリズムを刻む足音と、それに引きずられる不連続なサンダルの摺り音。

 

「真理、」

 

 巧は言い放った。

 デルタ。真理を無理矢理引き連れたデルタは、巧を認めると、デルタフォンを抜き取る。

 

「巧!」

 

 真理が叫ぶ。

 デルタの全身が光輝き、スーツが消失していく。一本に束ねたナチュラルストレートの長い髪が印象的で、若干虚弱体質を匂わせる細身の体は、まだ未成熟な少女の体に仄かな大人の落ち着きを加えていた。

 

「沙耶。」

 

 巧はこの半年を覚えている。

 

「この間はごめんね。貴方に乱暴するつもりは無かったの。」

 

 微笑む木村沙耶の顔は、この半年の幸福感と喪失感が全て溢れていた。

 今一人、この舞台で全裸となりながら状況を眺めている影山冴子は、特に沙耶の顔をマジマジと見つめていた。

 

「どうしたの、どうしたの!北崎くん、早くあの男をヤッちゃってっ!」

 

 

 

 

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