最初、皇はただの知的な炭素生命体でしか無かった。彼の星では既に精神を転移させて新しい肉体へ次々と移行していく事で永遠の寿命を得る事に成功していた。
彼は、記憶と意志を何千年にも渡って眠らせ星の間を行き来し、知的生命体に出会いコミュニケーションを取る事を喜びとしていた、ただの旅行者だった。だが彼は自分の銀河を飛び越えた時、すぐに様々な壁に直面する。価値観の相違、コミュニケーション方法、細胞の基本構成。全てが違い過ぎた。何を以って知的生命体とするのかすら相違のある種を、間違って絶滅させてしまった事もある。
彼は肉体をよりシンプルな形状にし、コミュニケーションをよりシンプルな、精神波の感応を、対話したい生命体の内部に因子を寄生させる事で成立する。生き物である限り脳波がある。脳波こそ原点だ。脳波同士ダイレクトにネットする彼の方法は全ての相違を超越する万能の、あるいは唯一の方法だった。寄生体は知的生命体の構造根本に順応しながら適応し、彼自らも同じ寄生体だけの複素因子の羅列の中に身を委ねる。全てはコミュニケーションの為だった。
「なぜだ、何故私と友達になってくれない!」
だが生命体は生命体である限り、業を持ち、自己保存を優先し、利己心の為に彼が望んだコミュニケーションの理想に壁を立てた。彼は挫けなかった。
生命体が生命体である不幸を取り除いてやろうとした。彼と等しくなり、彼と一体となる幸福を与えてやった。その内星の表面の全ての精神と共生した彼は、この銀河、いやこの宇宙全てを自分と等しい幸福な存在にする事に理を見出し、次第に喜びとなり、ついには欲するようになる。
シリウスの星の一つを白色矮星にし、隕石にその身を埋めながら長い時間旅をした彼は、ついに地球に到達する。
約5000年前。竜を司る高度な文明で神に祭り上げられた彼は、同時にヒトの叛心の強さに驚愕する。なにより共生した肉体そのものが自決しようとした事が皇には不可解であった。共生しても共生しても叛心を変えないヒトの心に、いつしか皇は肉体を持たずに外部から操作するシステムを思いつく。
それが、《オーガのベルト》であった。
「う・・・・・」
真理が目を覚ました時、オルフェノクだった乾巧は像をヒトに戻し倒れた沙耶を抱きかかえ、沙耶はそんな乾巧の頬を朦朧と撫で続けている光景が入ってきた。
「私、人間っぽくしたの。でもどんなに人間っぽくしても他の人みたいに心が動かないの。私じゃないから満足しないの。でも私になれば周りの人がいなくなっちゃうの。でも私じゃなきゃなにも私に刻みこまれないの。人に合わせた瞬間、我慢してるから心が動かないの。泣かないし、怒らないし、喜ばないの。だから私は人間に向いてないの。」
花形はその光景を、後ろに手を回して組んで観察している。
「沙耶、許しておくれ。私はおまえに隠していた事がある。私は知っていたのだ。おまえが最初からオルフェノクである事を。今まで生かしていたのは、おまえの隠そうという健気な態度をずっと見てきたからだ。だがそれは私の弱さだった。おまえを今まで殺す事が出来なかった私の心の弱さを、許しておくれ。」
沙耶はもはや乾巧しか見えていない。
「私、雅人が好き・・・・、殺した後どんどん存在が大きくなっていくの・・・・、ねえ、貴方、清高よね・・・・、ねえ。」
「ああ、おまえが言う通り、オレは西田清高だ。」
「私・・・・清高も好き・・・・、でも清高は、・・・・、最後まで、私にありのままの自分になってくれなかった・・・・」
「それでもオレはおまえが、」
崩れ落ちる肉体、膨よかな女の肢体が一瞬でごく一握りにまで容積を消失させる。
「巧・・・・・、」
真理は乾巧の顔が無表情を保っている時、その中で感情が激しく揺れ動いてる事を知っている。
「キサマっっっ!」
振り返って殴る、
殴ったのは花形の頬、その2メートル近くある体躯は微動だにしないものの、驚きの表情は隠せない。
「気が済んだか。」
「フザケるな!アンタの一人の身勝手で、沙耶が殺されてたまるか!」
「キサマのような子供に、十数年考えた末の結論が分かってたまるかっ!愚か者め!」
「父さんが・・・・」
真理は信じる事が出来なかった。あの厳しくとも大きな優しさで包んでくれた花形の鬼のような形相に。これほどの激しく利己的な感情を顕にする花形を、真理はいままで見た事が無かった。
「オルフェノクは、」
花形は乾巧に背中を向けた。そして真理が目覚めている事に気づく。
「人間を肉体から切り離したシステムによって生態を維持する、精神体への進化だと、思っていた。人間の進化の先が純粋なる知性であるのならば、果たしてその通りだろう。一方オルフェノクになると、心臓が消失するのは何故だと思う?オーガのベルトがオルフェノクに対して決定的な武器足りえるのは何故だと思う?人間は、家畜を生まれた時から檻で飼い、野生で生きる力を消失させ、そして銛で追い立てて殺し食らう。我々オルフェノクは、皇の家畜に過ぎなかった。オルフェノクは進化などでは無かったのだ。」
花形は、真理の元へ歩み寄り、抱き起こす。
「先に気づいたのは妻だった。若い私は妻の言葉を聞かず、皇に従い、スマートブレイン社を皇に捧げた。妻は私から離れていったよ。私はあるいは心の枯渇を埋めようと、流星塾を作ったのかもしれない。オルフェノクとなった境遇の子供達に、哀しみを背負わせないように。」
真理に哀しい表情を向ける花形だった。
「オルフェノクの皇はその意志でオルフェノク因子を操る事が出来る。オルフェノクとしてどれほどの力を持とうと、速かろうと、物理法則を越えようと、皇が力の源、因子を支配する限り、皇には勝てない。その皇を倒すには、3本のベルトからさらに進化した究極の武器、そのファイズギアが必要だ。」
花形は乾巧の背後で転がっているファイズギアを指差した。
「妻は、予知の力を持っていた。皇がただ精神を食べる化け物である事も、木場勇治が皇の依代となる事も、そして真理が乾巧と出会い、乾巧が皇と戦う事を予知していた。真理にファイズギアを届けたのは妻だ。」
そして今度は理性的な眼で乾巧を眺める。
「ベルトの力は、オルフェノクもしくはオルフェノク因子が発動しているものしか扱う事ができない。しかしオルフェノク因子によって心臓を焼かれた者は皇に逆らう事ができない。皇がオルフェノク因子を停止すれば生態の全てが瞬時に止まるからだ。しかし、例外が起った。妊娠した母親にオルフェノク因子が寄生すれば、母親の心臓は燃えるが、まだ生命が発芽したばかりの、人体が形成されていない子供ならば心臓は後から生まれる。その子は人間であるままに、オルフェノクの力を持つ事になる。もちろんオルフェノク因子は、その子供を抹殺するか、アトポーシスするよう成立しているが、地球上の生物がそうであったように、進化の経路は一つではなく、淘汰されつつも例外が残らない訳ではない。心臓を持ったままのオルフェノク因子は、皇の支配から逃れ、心臓を燃やさず、新たに人間との共生の上に立つ適応をしていく。それがおまえだ。」
花形は乾巧を指差した。
「そして、そのような芽を一つ一つ丁寧に潰していくのがオーガという力であり、皇を守る三本のベルトだった。」
不意に、エレベーターのドアが開く。
「やはり、来たか。木場勇治君。」
中にはあの似合わなかったスーツをほど良く着こなす程威厳を増した、あるいは影を増した木場勇治が黄金のベルトを巻いて立っていた。
「ゴート。この世界の人間は、叛心が本当に強い。だからイレギュラーの記号が発生する確率が高い。僕はこのベルトを作り、僕を保存した。だがそのイレギュラーこそ僕が取り込むべきもっとも良質なオルフェノクの記号であり、僕が僕を選んだのも、この肉体に数千年適応しながら存続してきたイレギュラーだからだ。ゴート。なぜ僕に逆らう。」
「皇よ。流星塾の子供達が私に向ける笑顔ではっきりと悟ったよ。人一人は命を全うすべきであり、肉と五感と記憶を介したコミュニケーションによって種として連続していくべきだと。」
「またか。その誤解と稚拙しかないコミュニケーションにこだわるのか。それも肉の保存が働く本能であり、数千年前の生命の危機が満ちていた時代の名残でしかない。現在都市文明を謳歌しているヒトという種には、過剰過ぎる防衛本能であり、その過剰さは時に激しい程他種や同種を排斥する。それは肉を持つ生命体であるが故の前提だ。肉を捨てて、僕と意志を共有すれば、本来種としての目的である進化の連続をもっとも理想的な形で行う事が適う。僕は進化そのものだ。種として連続する事を拒否しても、その肉の前提、個我に縋り付くのは何故だ。人一人の命の貴さとは、君達の防衛本能の名残、つまり死にたくないという過剰な意志が造りだした言い訳に過ぎない。種の連続の前ではね。命の貴さを叫ぶ程、それまでの僕は虚しさしか覚えなかった。叫ぶ程にね。死という真実の前に、なんと脆弱な言い訳をしているのだろうと。」
「黙れ。オルフェノク因子を植え付けた人間がどうなるか分かっているだろう。キサマが食う前に、即座に灰となって滅ぶ数の方が多い事を。約2千年前の中国、戸籍数の減少と片付けるだけでは理由がつかない程に人口が激減したのは、寿命よりも数段早くアトポーシスを始め死ぬからだ。キサマが食った精神の数などその中の数パーセントに過ぎない。キサマが食う精神を培養する為に、100倍する生命がムダに死ぬ。キサマ一人を生かす為に、人間がそれまで培ってきたものが滅ぶのだ。」
花形は指を差す。差した挙動で花形から灰が僅かに飛んだ。
「僕といっしょになれば、そんなものはつまらないものと認識できるようになる。前提が変るからね。僕という真実を生かす事が至高の前提となる。」
「キサマがやっているのはこの星への侵略だ。心臓を奪って言う事をきかせ、服従させているに過ぎない。消えろ。この舞台からな。」
「させんよ。ウルフには僕も興味がある。」
だが木場勇治の目前の風景が突如変化した。
外灯だけしか光の無い夜、なにも音のしない路上、まだ人気の無い街。
「ここは湾岸都市。僕を瞬時に時空間から切り離して移動させたのか。光量子の前では時間も空間も等質だからな。」
川崎から木更津に東京湾を横切る長大な橋を掛け、さらにその中心に水上都市を建設したのは、前年の事である。木場勇治が社長就任最初に立ち上げた、オルフェノク都市計画のその予定地であった。
オートバジンで新橋から高速へ乗り上げ、大師へ疾走する二人の男女。すれ違う車は全く無く、下の街並みからも人気を感じない。全てが静寂の中、バジンのジェネレーターだけが鳴り響いていた。
「なんか言ったか。」
「私は、紛い物かもしれないって言ったの。」
真理は、銀座で木場勇治を瞬時に消した花形の遺言を思い出していた。
「まだ皇と戦うのは早い。おまえ達に伝えるべき事がまだあるからな。」
「お父さんは、私と家族達にいったいどうして欲しかったの。」
真理は聞きたい事が頭の中で溢れそうになったが、選んでただそれだけ訊ねた。
「真理、流星塾の子供達は、最初は皇の依代の候補として集めた。しかし妻が皇の目的を私に警告し、そしておまえ達の笑顔で私は目覚めた。おまえ達は全てオルフェノク因子が潜在し、いずれ心臓を焼かれるのは時間の問題だった。私は皇を倒すと誓った時、ある事も覚悟していた。この地球上のオルフェノクは、乾巧以外潰える事を。だからおまえ達をオルフェノクにする訳にはいかなかった。私はあらゆる医療技術でおまえ達の生態を保ってきたが、その最後の方法として、乾巧の因子を注入した。乾巧の因子は皇に左右されず、人の生態を蝕む事がない。おまえ達の体内で、乾巧の因子が、従来のそれを駆逐すれば、おまえ達はこの先も生き残る事ができる。だが結局、生き残ったのは、真理、おまえ唯一人だった。」
「どうして。」
「適応できたのがおまえだけだったのだ。残りの者は、この1年で、全てオルフェノクとなってしまった。里奈も、雅人も全て。真理、おまえの因子は体の中で分を超えて活動する事が無く滋養を分け合い、おまえの命が危険になった時のみ活発化し、身体を正常に戻す。私が目指したオルフェノクと人間との新しい共生の姿がおまえだ。私はおまえがベルトの力を使えなかった時、それを確信した。おまえこそが次なるオルフェノクの母になるのだと。」
「待って。家族達は、どうしてみんな死んでいったの?」
「ほとんどは私が手を下した。沙耶を見ただろう。あのようになっては、人間として生きてはいけない。私はあの子達の笑顔を守りたかった。晴子も、里奈も、彰司も、皆オルフェノクとして人を襲いはじめた。私はだから、せめて私自身が手を下さねばならないと私に課した。」
「親のエゴだな。」
ただ黙って聞いていた乾巧は、花形に冷たい視線を送った。
「キサマが口出す事ではない。」
花形は自身の指先が黒ずんでいく様を眺めながら、そう冷たく言い放った。
「やめて、巧!」
「訳分からねえ事ツラツラ言って、結局アンタ、なにもかもアンタが決めた事を圧し付けてるだけなんだ。」
「やめてって言ってるでしょ。私のお父さんなんだから。巧!」
その間にも花形の左腕が消失した。
「見てのとおり、私もついにアトポーシスが始まった。真理、おまえには済まない事をしたと思っている。ただ一つこの願いだけは聞いて欲しい。子供を産むのだ。できるだけ多くの。いいな。」
「お父さん・・・」
「そして乾巧。おまえは、皇を討て。母さんがおまえの為に全霊を注いで作り上げたファイズギアでな。」
そして一瞬で崩れ去る花形だった。真理は父の最期の言葉を忘れる事ができなかった。
「結局私達流星塾生は、お父さんの本当の感情を向けてもらえなかった。お父さんは、お父さんを演じてたんだと思う。私達は家族ごっこをしてたんだ。本物なんて何一つ無いんだ。」
疾走するバジンに乗座する真理は、乾巧の背中にしがみつきながらそう言った。
「そうかもな。でもただ一つ言えるぜ。これからおまえが作っていくものは、紛れもなく本物だって事はな。」
「巧・・・」
「あん?」
「木場さんを、」真理は涙をこぼした。「倒して。」
「真理、おまえだけ背負おうとするな。」
大師を降りたオートバジンは、一路浮島へ進路を取った。
乾巧が覚えている両親は、眼差しだけであった。愛情の眼差しでは決してない。言うなれば、自分が何者なのか、何者に育っていくのか、ただ黙って観察していく眼差しだった。もしかして両親はその冷めた視線こそが愛情だと信じていたのかもしれない。
「可哀想な子。」
母親は乾巧が5つの時、ついにわが子と会わなくなった。父親とは会った記憶が無い。
施設で13まで育った後、無断で失踪、埼玉で昔気質に新聞店を経営する井上という男に素性も聞かれず雇われ、中学までは卒業させてもらう。夕刻に起き、朝に寝て、ただひたすら一人で自転車や二輪を転がして配達を行ってきた乾巧は、半ば感情表現というものを欠いたまま社会に放り出され、その結果社交性を酷く欠如した人格となっていく。新聞店の店長その人が、口ではなく行動で表現する型の人間だった事が乾巧という人格に極めて大きな影響を及ぼした。
「話したい事があれば話し掛けてくればいいし、したくなければしなければいい。」
自己実現も感情表現も欠如した乾巧は、ある時無断で店からも失踪する。彼の夢を求める旅が始まったのは18歳であった。
「オレじゃない。」
転々とアルバイトをしながら旅をした乾巧は、やはり誤解されやすく、職場の重大なトラブルは大体彼に責任が回ってくる。彼は言い訳しなかった。言えば言ったで口下手な彼はさらに誤解されるだろうから。しかしやはり周囲の人間は彼が黙っている為に悪いようにしか解釈しなかった。
「人は、見たい事実しか見ようとしない。オレが何を言ってもムダだ。」
と思ってムダな事はしない乾巧だった。そうして乾巧は悪意の視線を逃れるようにバイト先を辞め、新たなバイト先を見つけるのである。視線を受けるのが辛いのでない。自分が原因で邪な感情にさせているのが気の毒だから辞めていくのである。
「オレが辞めれば、この人達同士明日からまた笑顔でここをやっていけるんだろうな。」
ある喫茶店では売上盗難の罪まで被せられた乾巧であった。
「じゃあそのベルト捨てればいいんじゃねえかよ。」
そうやって乾巧は、ベルトと真理に出会うまで、自分が何者なのか、何にこだわるのか、どのような輪郭を持った人間なのか、全く感じないまま、夢を探し求めていた。
土曜。12月24日。
「潮風が強いね。」
川崎-木更津間に浮かぶ海上都市。その中央はほぼ十字を切る交差点。その格子の白線に四方を囲まれ、木場勇治-皇は立っている。
「木場!」
乾巧はその西側の路上センターラインに立つ。
「この都市は人間の愚かさの象徴だね。人の人による人の為だけに作られた大地。人以外の一切の生物の介入を許さず、地政上なんの効用をもたらすのか考える事も無く、ただ人間の利己心だけを表現した背徳の街だ。」
「木場っ!おまえの理想はなんだったんだ!」
二人を繋ぐのは一本の真新しいアスファルト。乾巧のさらに背後には、園田真理がオートバジンに寄り添って、二人の男性を眺めている。
「乾くん。いやウルフ。僕はね、成長したんだよ。より広い視点からこの世を眺めている。僕が人間だった頃の理想は、ちっぽけなものだったんだ。」
「だがおまえは仕方ないが人間だ!」
二人は既にベルトに手を伸ばして変身アクションを起こしている。
両者とも黒きスーツを身に纏う。一方のフォトンブラッドは鮮血のような紅、もう一方は太陽のような黄金。
先に仕掛けるのは仮面ライダーファイズ、全霊を込めたグランインパクトがダッシュを伴って放たれる。
「僕はもはや生命を尊いと思えなくなったんだ。その前提となるモノが今の僕には無い。」
無作為に食らう皇。微動だにしない。
ファイズのパンチは1度ではない。2度3度、衝撃の反動と筋力の伸縮でパンチをくり返し、あまりの速さに拳の残像が重って、まるで幾百もの腕が生えて拳を放っているように見える。しかし、
「なぜ当たらない、」
そう、なぜかファイズの拳は寸でで見えない壁によって弾き返されている。
「なぜ僕が僕、ホースを素体に選んだか分かるかね、ウルフ。」
拳が弾かれるどころか、今度は体が震えながらじりじりと拳を圧し戻されるファイズ。だが皇はただ立っているだけだ。
「・・・そんな名じゃ、」
さらに踏ん張る足先が、アスファルトに跡を残しながら後ろへ後ろへ流されていく。
「ホースは僕が過去に蒔いた記号の中で二千年の時を経て生命力を育んできた最強のモノだからだ。僕は共生し、永続する。永続するという事はそれが完全に閉じた環でなければならない。だが故に成長を為す事がない。そして成長が無ければ即ち衰死の可能性を拭えない。よって、僕は外部のより多くの情報を取り入れた最強の記号をその都度摂取し、共生を疑似的に成長させ活性させてきた。だがもう一つ、この閉じた共生に必要な存在が要る。この共生を滅ぼしうる異端、つまり君だ。だからゴートの無意識に働きかけて君がここに来るようにした。今の君の無意識に働きかける事はできないが、君に纏わり着く空間を制御する事で君の動きを停める事はできる。君と僕の肉体の間に空間がある限り、君は僕にたどり着く事は適わない。しかし僕は。」
皇は腰から人間の身長程の巨剣を抜いた。《冥界の剣》は皇のボディからフォトンを吸収し、光を帯びていく。右腕一本で軽々と振り上げファイズを横薙ぎにする。
ぐっ
「巧っっっ!」
背後の真理の声はもはや悲鳴だった。
冥界の巨刃を胸で受けたファイズは塵屑のように吹き飛び、プロテクターが紙のように裂けている。真理は消失していくプロテクターと共に裂けた巧の肉体から内蔵が露出しているのを凝視してしまった。
「うるせえぞ。おまえの声は耳に残るんだよ。」
だが巧の傷は見る見るうちに塞がっていき、肩で息をしながらも立ち上がった。
「巧・・・もう、」
「真理、いつもヤツ言えよ。」
「・・・・」
「いつものだ。」
「・・・戦って、戦って巧!」
真理は涙をこぼしながら巧の背中に叫んだ。
「めんどくせえな。」
『blaster form』
スーツの全てが紅々と光を放つブラスターファイズ。装備は畳んで右腰ベルトに備え付けている。先と同じくファイズショットを装着。
「また同じ事をするのかウルフ。」
今度はゆっくりと歩み寄るブラスター。
「オレはそんな名じゃねえ。」
「ゴートに時空間を操る能力を与えたのは僕だ。空間を伸ばせば、君を遮絶する事ができる。何度言ったらわかる。」
「いくぞ木場!」
ギリギリまで間合いを計り、一気に駆け込んで詰める。ブラスターフォームのグランインパクトを皇の胸に。
「ムダが分からないのかい。ウルフ。」
「そんな名じゃねえ。オレは、」
だが先と同じく固まりながらジリジリと後退するファイズ。
「もう考える事も出来ず、下品に八方気触れになっているのかい。」
だが後退が止まる、
「オレは乾巧だっ!」
グランインパクト!
「え」
アスファルトから足が離れている皇。胸元ははっきりと小さな窪みがあり、飛ばされていると自覚した時には、既に地に背中をついていた。
広がる宇宙の中Call you feel?
「木場!これが人間だ!」
小さな星の話を しよう
かぶりを振る皇。
「困るねえ。一応時間も止めておいたのに。君という意志には、時間も空間も関係無いというのか。一応?僕は怖れ始めているのか。」
Tell me the truth 信じていた未来が
ゆっくりと立ち上がる皇。ファイズの方は腰のブラスターを取り外し展開、
『ready』
崩れ去ろうとしている
エンターキーを押す。
『exceed charge』
哀しみを繰り返し
黄金色に光を放つブラスター。光は徐々に先端一点に集約し、ファイズは、銃口を皇に向ける。
照射、
照射されたのは弾丸では無い、射出されつつ黄金色の紡錘に展開した黄金のポインターマーカー。
ボクらは何処へ行くのだろう?
「僕はなぜこれを受け止める。なぜ動こうとしない。木場勇治という人格が僕を塞き止めているというのか。」
今 一人一人の胸の中
「木場、これでいいんだな。」
目を覚ませ
「僕が滅べば、今現在地上にいるオルフェノクが全て滅ぶのだぞ。人類社会に組み込まれた数割の人間が一斉に滅べば社会にどれほどの影響が出るか分かっているのか。それほど無為に人が死ぬという事だぞ!」
The time to go 強くあるために
ブラスターに組まれたフォンをベルトに再装着するファイズ。たちまち全身が太陽のような黄金色に包まれる。
「行くぞ木場っ!」
また
海上都市のほぼ中央、ブラスターを投げ棄て、路面標識も真新しいアスファルトを一直線にダッシュするファイズ、ひととび55メートルの跳躍、
「動けない・・」
守る事と戦う事
動けない皇に向けて、金色の彗星と化したファイズの蹴撃。
「やぁぁぁぁ!」
ジレンマは終わらない・・・
その皇のベルトへと押込まれる黄金の杭、
「コイツではない、ボクが、ボクが戸惑っているのか、ならば!」
走り続けても・・・
皇の怒号と共に除装されるオーガの鎧、木場勇治の姿となったそれは像をゆらつかせ、変身する。その姿は全てを食らいつくすイナゴの像。皇はベルトから木場勇治の体へそのコアを移した。
「ふんばれ、木場っ!」
また
ファイズのフォルムも徐々に消えていく。ファイズ最終形態の装着時間は3秒、ベルトを捨てて木場勇治と融合を果たした皇の抵抗が、ファイズ最終形態のタイムリミットを凌駕する。
「私は、皇!」
信じること疑うこと
生身となる乾巧、スマッシュの杭を両の腕で推し返す皇。
「やぁぁぁぁぁぁ!」
ジレンマはキリがない
乾巧の像が変化する。狼のそれに。力を得た杭は再び皇の肉体を透過していく。
「これが死、」
透過し大地に立つウルフオルフェノク。全身に生えた体毛はスマッシュのエネルギーで焼け、満身創痍となって背後の皇を振り返る。
「木場、おまえの勝ちだ」
さまよい続ける
紅く浮かぶΦマーク、青白く燃え盛る皇の肉体。手を差し伸ばす皇。
「死の重要さを、忘れていたよ。」
くすみ、隙間が所々あらわれ、そして崩れていく皇。
「オレ達人間の勝ちだ。木場。」
「巧!」
灰となった皇を横切り、像を人間に戻しつつある乾巧に駆け寄る真理。
「うぜえな」
倒れようとする乾巧を包容する真理だった。
「終わったんだよね。これからまた、夢を探しに、行くんだよね。」
「ああ、とりあえず洗濯でもしてるさ。真っ白にな。」
The end justΦ's the meen
《終わり》