仮面ライダー555 SPIRITS   作:bassher

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エピソード1 園田真理

 

 

 

 

 さらに時は20年遡る。場所は中国山東省泰山。

 

 

「皇。その位は人が中国を治める以前人の上に立ち、文明を伝えた半獣の神を表す。このミイラは1800年前の中国において、そう敬称されたというのか。」

 

 

 泰山に新しく発見された墳墓があった。始皇陵のそれに近い規模の可能性が高い。

 

 今年35になった花形は、スマートブレイン社の出世頭であり、山東省の支部長を任されるという抜擢を受けたばかり。その日本人離れした背丈と細くとも屈強な体格は、スマートなほどに似合う当地のカンフー着を見事に着こなしていた。服と同じブラウンのターバンは髪や顎髭の黒ともマッチしている。

 

 

「あなた。見せたいものってこれ。私、ジェネレーターの音って嫌いなのよね。」

 

 

 花形は妻を同伴していた。照明が所々に釣られ、全てが一本のケーブルで繋がった先に計6機のジェネレーターがある。鍾乳洞であるが故に余計に響く。

 

 

「ミイラのこの腰の部分だ。ベルトに見えなくもない。全てが金属で出来ていて、このバックルは機械にすら見える。大体、全てが炭化し崩れつつあるこのミイラの中で何故このベルトだけが真新しいまでに保存されているのか、専門家を呼ぶ前に、オマエの心象だけ聞いておきたい。」

 

 

 花形はなにも妻に類を見ない貴重品を扱っている自分を自慢して見せたかった訳ではない。もはやそんな感情など花形からは払拭されていた。この5年後に出会う事になる村上青年が焦がれ達し得なかった一意性と合理性と論理性によって全ての感情を払拭した一哲人が花形である。

 

 墳墓が発見された時は単なる学術上の発見でしか無かった。だが中国2世紀末の漢民族激減の理由を指向づける決定的な紙片が出土した。続いて金の棺を発見、その中にはミイラが存在した。それは極端に炭化した裸体の男性であり、その遺体自体に不思議なものはなにも無かった。問題は腰に巻かれたまさにベルトとしか言い様がない黄金の人工物である。発掘スポンサーであるスマートブレイン社は、売名目的だった発掘事業からオーバーテクノロジー独占の旨味を嗅ぎつけ、つい先日支部長である花形をこの墳墓に派遣したのである。

 

 そのあまりに怪しいベルトのバックルには、紅い、見つめるような珠が光っていた。花形の妻は、いつのまにか手を差し伸べている自分を自覚した。

 

「待ちなさい。」妻の手を花形が握る。「待つのだ。そうやってこのベルトに幾人もの者が誘惑されたように手を伸ばしている。危険だ。スペクトルを分析させている。それからだ。」

 

「貴方は誘惑されている自分が分かるのね。いつももう一人の貴方が天の上から眺めている。だからどんな過失も犯さない。」

 

「どうせ私は人として歪だよ。」

 

 ここは鍾乳洞。ひさしぶりに大気の差し込んだ洞内は、温度の変化から結露を起しても仕方の無いことだった。

 たった一滴である。

 そこに落ちたのは。

 紅い珠が涙したかのように滴が流れた。

 それがスイッチだった。

 

「ミイラが!」

 

「ミイラが起き上がったぞ!」

 

 洞内が凍り付いた。生態としての機能が全て炭となっていたミイラが上体を起こす。最初に反応したのは男性だったが、事態の深刻さはジェネレーター近くで叫んだ女性の声で一層明瞭となる。誰もがこの世の常識を覆す事実を咄嗟に認識し怖れた。

 

「退避。全員退避。」

 

 妻の手を握ったままの花形はそう短く言葉を切ってミイラから背を向け走り出そうとした。だがいくら手を引いても妻はそこを動こうとしない。

 

「・・・・貴方・・・・ダメ・・・」

 

「!」

 

 花形が再度妻を見たとき、捨てたはずの、嗚咽を吐きそうな程の恐怖の感情に身を駆られた。妻の肉体は、ミイラの手先から伸びた触手のようなものが入り込み、妻の口からは蒼い燐光のような光を放っている。殺されるよりももっと悍ましいもののように花形は直覚した。直覚せざるえない己の恐怖に震えが止まらなかった。

 妻だけではない。ミイラからの触手は逃げ出そうとした全ての作業員に伸び、あるものは心臓を貫かれ、ある女性は股間から挿入され、ある男性は片目を抉られていた。そしてそれぞれが体の隙間から燐光を放ち、ただ倒れたのならまだマシだったが、ひどい者はまるで砂山が崩れ去るように一瞬にして炭化し粉々になった。

 己の情報量と認識力の限界を越えた事態に凝固した花形にも、触手がうねるように宙を伸び、そして心臓を刺した。

 

「オルフェノクの皇・・・・」

 

 花形が人間であった最後の言葉である。

 

 

 

 園田真理はAB型とよく言われるし、実際はその通りである。

 園田真理は自称薄幸の美少女だ。まずステーキを腹一杯食べたことが無い。次に理想の彼氏がまだいない。そして何より、大事故とオルフェノクによく遭遇する。

 一番最初の大事故は5歳の時。両親揃って真理の誕生日を祝い幸福に浸りながら眠っていた深夜。焦げた煙がまず鼻ではなく目の違和感となって感じた。次に鼻にツンとくる匂い。真理が目を覚ました時、アルコールの入った両親はまだ違和感を自覚しながらも眠りの中にいた。

 

「・・・・」

 

 玄関を開けた時紅蓮の炎が瞳いっぱいに飛び込んできた。真理はコンクリートの毒を帯びた臭気を一気に浴びて卒倒した。

 

「・・・・・、たて!」

 

 変声前の少年が再び真理を覚醒させた時、真理の目に映ったのは、両親のベットの上に天井の瓦礫が落下した光景であった。父親のすね毛いっぱいの足が血まみれで瓦礫からはみ出ていた。

 

「いくぞ、おら!」

 

 少年の顔は覚えていない。ただ差し伸べた手の丸みは忘れないだろう。少年の手にひっぱられるまま起き上がり、そして走った。どこを走ったか知らない。少年が瓦礫を蹴散らしていた記憶が残っているが、おそらく真理の王子様願望の潤色だろう。

 

「九死に一生を得たのはこの子一人かね。」

 

 いつのまにか少年も消えていた。その代わりとても背の高い、髪の毛が全て濃白灰色だが老人にしては顔に艶がありすぎる中年の男性が立っていた。

 

 それを花形だと知るのに、それほどの時間を要しなかった。ヘリの緊急着陸に真理のマンションが選ばれ失敗した為に大惨事となった。最上部から14階までが全焼し、コンクリートが溶け、瓦解し、毒素を帯びた煙が真理のいる13階にまで達した。救出された後、偶々そこに通りかかった花形が、自ら運営する養護施設「流星塾」への引き取りを決め、真理は同じ身寄りの無い少年少女達と共に人生を歩む事になる。

 

「父さん」

 

 と花形を呼ぶ流星塾の仲間達に混じって、いつのまにか園田真理も父と呼び、そして仲間達は家族達になった。この法規上家族と呼べない家族達の中で育った事が、園田真理の情操に決定的な要素を与えることになる。いつまでも近寄り難いがどこまでも優しい花形に実の父以上の愛情を感じた。そんな園田真理をいつも花形は誉めた。

 

「おまえの笑顔はみんなの救いだ。」

 

 それは一つの行動でいくつもの意味と目的を果たす花形の実に見事な言葉だった。園田真理にとって必要な評価と役割と自信と指針の全てをただ一言で与えたのである。

 だから、園田真理は期待に応えがんばった。家族達ひとりひとりに笑顔を振りまき、叱り、庇い、甘え、我慢してきた。

 だから15になった時流星塾が終わると聞いて、全てが足下から崩れ落ちるような気がした。

 

「貴方が前を進まないと、みんなもたじろいじゃうでしょ。」

 

 そうニつ年上の沙耶に言われて、気を取り直して皆を見送った。沙耶とは特にそれからも頻繁に連絡し合う仲になった。

 一年後、流星塾の三原に恋をした。最初は三原の務めるバイト先の同僚に恋をし、情報収集の為に三原と頻繁に会話を交わす内、三原に恋をしていた。情けない男だから放っておけないのだ。だけどそれも園田真理の片思いに終わった。三原がやはり同じ流星塾の里奈とつき合い始めたからだ。里奈は大人で美人で性格も良かった。だから即降参した。忙しい二人が落ち合う場所に自分の部屋を提供したりもした。

 

「もっと、広く世の中見てみたいのね。」

 

 傷心の自分探しの旅など、本当にやる者は口が裂けても言わない。

 一人バイク旅行をし、東京を出て南下した園田真理は、自分が父花形の掌の上で育てられ過ぎた事を悟る。流星塾生なら様々な免許と資格が自動的に取得される事になっており、園田真理の足になったバイクも父から貰ったものだ。

 上手くいかないという苦痛がこれほどのものだとは思わなかった。なにもかもである。食うにも宿を見つけるにも全て自力でやられなければならない。食うためには料理ができなければならない。料理する為には器具と食材を調達し、調理法を知らなければならない。器具も食材も金が要る。金を稼ぐには知恵を絞るか体力を使うか、なんにしても身を削る思いをしなければならない。こんなにまでして削ってもたったこれだけしか得るものが無い人生ってなんだろう、小さい頃から持っていた大切なものを徐々に削っていくのが人生なんだろうか、削っていく感覚が麻痺する事が大人になるという事だろうか。

 

「変身、ベルト・・・・・?」

 

 父と言えば、園田真理が鹿児島の旅館に泊まっていたところ、父より速達で送られてきた小包の中に奇妙なベルトとケータイ、そしてデジカメとスコープのセットが送られてきた。

 

「やだお父さん、そういう趣味?!」

 

 同封の父の手紙には『ファイズギアで変身して戦う事ができる』と書いていた。玩具?私にそういうプレイしろと?園田真理は気色悪かったが、父のものであるが故捨てるに捨てられず東京まで持って帰る事にした。園田真理はだがしかし、その気色悪いものが捨てるに捨てられなくなった。そのベルトが玩具でもなんでもなく、本当の変身ベルトだったからだ。

 

「ベルトをよこせ。」

 

 園田真理はついにそれと出会ってしまった。変質者の雰囲気を持った人物が園田真理の前方を塞ぐ。だがそれは人物でなかった。人物じゃなくなったと言う方が正しいかもしれない。陽炎のように体全身に魚の像が浮かび上がったかと思いきや、人間の像が陽炎になり、陽炎だった異形の像が実体となった。人間的体躯の上から石膏で塗り固めたような魚をモチーフにした抽象イメージ。それが園田真理の周囲にいた旅行客十数人を殺傷し迫ってきた。異形によって殺された人間全ては一瞬で灰となって崩れ風に運ばれ痕跡残さず消えていく。それをオルフェノクと知るのはかなり後になってからだった。

 

「へっ、変身っ、」だが拒絶される。「っぁ!」

 

 園田真理はパニックに陥った。パニックに陥ると最終的に父に縋る。彼女は半信半疑でベルトを装着し叫んだ。しかし電気的な衝撃を園田真理に与えるだけで、すぐ外れてしまうベルト。

 

「どうやらベルトに適合しないようだな。焦らせるな。いい足してるなおめえ。」

 

 魚のオルフェノクの言葉を聞いたとき、なぜかそれが父が本当の事を言ってる証左だとしか考えない園田真理がいた。あるいは細く切れかかった神経を父にすがりついて保とうとしていただけなのかもしれない。だがなぜ信じようと思わなければならない程に父は疑わしいのだろう。

 

「おい待て」

 

 そして、運命の刻が来た。ついに乾巧と園田真理は出会う。巧は園田真理の後背からオフロードバイクに跨ってやってきた。

 

「変身して、早く!」

 

 園田真理は巧にすかさずベルトを捲く。もはやそれしか頭に無かった

 

「・・・・・」

 

 どうやら先程の変身失敗を始終見ていたらしき巧は、園田真理の見よう見まねでケータイを操作しベルトにはめ込む。ベルトは巧に紅い光を放つ格子を纏わりつかせる。そして巧全身が光輝いた刹那、漆黒のスーツにプロテクターを装着した仮面の戦士に変身していた。成功だ。園田真理は父を信じ切ったという事だ。

 

「ファイズめ」

 

 魚のオルフェノクは慌てて仮面の戦士に突進してくる。

 

 巧はそれを一撃蹴りでカウンターした。ろうそくの最後の灯火のように激しく発火した後くすんだオルフェノクの肉体はまるで乾燥した土人形のように原型を留めず崩れ去った。危機は去る。

 

「じゃあそのベルト捨てればいいんじゃねえかよ。」

 

 経緯を全て聞いた巧のその返答に、この少年へのせっかくの好印象が裏切られた真理だった。少年、園田真理にとって同年代の男は、父に比べれば皆なにも至らない少年に過ぎない。背の高い、ハーフコートにジーンズといういびつな組み合わせをきっちり着こなしているルックス、今風の西洋人パーツで構成された顔立ち、全てが一見好印象だった。その全てがこの巧という少年の言動一つでなし崩しだった。

 

「今アタシの言ったこと聞いてないでしょ!大事なベルトなのよ。」

 

 園田真理AB型は、ちゃんと話を聞いてくれない人間と、自分の価値観を尊重してくれない人間は大嫌いだった。

 

「知るかよ。ただ送られてきただけなんだろ。」

 

「それで、天変地異が起ったらどうすんのよ。」

 

「天変地異ってなんだよ。」

 

「なんか、よ。なんかアタシ達人類が宇宙人の犯罪組織に、怪獣使って襲われるのよ。それを防ぐベルトだったらどうすんのよ!」

 

「マンガ読みすぎかバカ。とにかくオレを巻む込むなよ。」

 

「バカって言ったわね。赤の他人になんでそこまで言われなきゃいけないのよ。最低ねアンタ、無神経で身勝手で思い遣りが無くて、どうせ嘘吐きで卑劣漢で、そうだ、友達いないでしょ。きっとそうよ。」

 

「そこまで言うか普通。我侭に育てられて、なんの苦労もした事無いだろ。顔に出てるぞ。」

 

「なによそれ。じゃあ分かったわ。仕方ないわね。そんなに言うなら貴方にアタシを守らせて上げる。」

 

「おい!!」

 

 

 

 こうして二人の東京へ向けてのバイク旅行が始まった。

 宮崎で冷や汁を食べているところ、 エレファントオルフェノクに襲われ、

 熊本でいきなり団子を頬張っていたところ、オックスオルフェノクに襲われ、

 大分で関サバ&関アジを買っていたところ、マンティスオルフェノクに襲われ、

 佐賀でムツゴロウの蒲焼きを頂いていたところ、カクタスオルフェノクに襲われた。そうやって執拗なオルフェノクの追撃を巧は際どい戦いを制し撃退した。

 福岡は博多でとんこつラーメンを食べるか辛子明太子でごはんを食べるか、園田真理は巧と大げんかをした。

 

「オレは辛いものがいいんだ!」

 

「アンタどうして熱いものが、イ、ヤ、な、の?」

 

 園田真理はこれ以上無いキュートな作り笑顔で巧を見上げる。実はその答をとうの昔に知っていた。巧は猫舌なのである。それを知った途端に、ういヤツ、とまで思うようになり、悪魔のような笑みを浮かべる園田真理だった。

 

「仮面ライダーファイズの名は、この私が受け継ぎますよ。」

 

 背広にネクタイを絞めたおよそサラリーマンの見本のような男が立っていた。ただ一つ違和感があるのはあのファイズのベルトが腰に巻かれている事だ。サラリーマン風の男は、いつのまにか園田真理のベルトを装着していた。

 

「なに、さっき子供に金を渡して、盗ませたんですよ。私のものだと言ったら、バカな子供は簡単に信じましてね。いえ、元々これは我等が皇を守る為のベルトなのですから、本当は本当なのですがね。これで中途採用の道が開けます。感謝しますよ。」

 男は変身する、ファイズに。園田真理のように拒絶されずすんなりと。

 二人は逃げた。なまじファイズの驚愕の力を知る二人は必死で逃げた。敵ファイズが見えなくなるまで逃げた。いったい何百メートル走ったか分からないところまで来て、樹の影にヘタリ込んだ二人は、これからの絶望に互いを見つめあった。

 

「アタシ、美容師になるのが夢なんだ。」

 

 園田真理は生き残る決意を顕にした。

 

「オレは無いな。」

 

「え?」園田真理はなぜか哀しくなった。

 

「オレには夢が無いんだ。」

 

「どうして」

 

「自分に自信が無いからだろうな。何もできないかもしれない。他人が怖いんだよ。オレに親しくしてくれる他人が。裏切られるならまだマシだ。オレが、人を失望させる、裏切るのが、怖いんだ。」

 

 なんて弱々しい少年なんだろう。

 園田真理はそんな少年巧を抱きしめてあげた。少年の汗は少し臭かった。震えが肌から肌へ伝わり、自分自身も又震えていた事を自覚した。

 

「でも巧は私をいままで助けてくれたよ。」

 

 巧の震えが止まった。

「覚えておけ。オレは乾巧だ。」

 

「そんな遺言みたいな事、」

 

「おまえの親父の贈り物なんだろ。ここを動くなよ。」

 

 覚悟した巧を園田真理は黙って見送るしか無かった。

 

 弱いのはアタシだ、

 

 樹の影でいつまでも顔を伏せていた園田真理は、巧をいつまでも待った。もう来ないかもしれないのに、ただ待った。

 

「真理、」

 

 いったい何分、何時間経ったのだろう。再び聞こえた巧の屈託のない声に、園田真理は顔を上げられなかった。目を腫らした顔を見せたくなかったから。だから寝たフリをした。ベルトの金属音もカシャカシャ耳に入った。

 

「なんだ寝てんのかよ。いいかオイ、この姉ちゃん怖いからな。絶対に逆らうなよ。」

 

「ただの小便垂れじゃねえかよ。オレはな、今大人の女とつき合ってんだから。それから巧、オレがベルト奪い返してやったんだからな。一生感謝するんだぜ。東京にオレを送り届ければチャラにしてやらあ。」

 

「バカ、おめえが最初にチョロまかさなきゃぁな、こんな事にはならなかったんだ。反省しろガキ!」

 

「ガキじゃねえやい。啓太郎って言うんだ。」

 

 真理は顔を上げるチャンスをその日失い、巧の連れてきた10歳の男の子、菊池啓太郎に、

 

「ねえ啓太郎君、名前はなんて言うの?」

 

 などとあまりにマヌケな質問を次の朝口走らなければならなかった。

 

 

 

 こうして二人旅がなぜか三人になった。山口に渡って干えびを買っているところを、フライングフィッシュオルフェノクに襲われ、

 きびだんごを頬張っていたところ、ピジョンオルフェノクに襲われ、

 奈良漬を摘んでいるところ、リザードオルフェノクに襲われ、

 味噌煮込みで巧を揶揄い、天むすとエビフライの梯子をしていたところ、コーラルオルフェノクとワイルドボアオルフェノクとペリカンオルフェノクに襲われ、

 新茶を呑んでいたところ、オクラオルフェノクに襲われ、

 湘南で泳いでいたところ、ライオンオルフェノク率いる30体ものオルフェノクがバイクに跨ってやってきた。それなりにファイズギアの扱いに手慣れてきた巧もあわやというところまで追い詰められたが、

 

「僕は木場勇治。君は、」

 

「乾巧だ!」

 

 ファイズに助勢した者達がいた。それはなんと3人のオルフェノク。馬のイメージを象ったオルフェノクは初対面のファイズと絶妙の連携を示し、あっという間に30体のオルフェノクを灰にし、ライオンオルフェノクを前後に挟み込んで両者の剣で同時に斬り倒した。

 人間の像に戻った勇治は、同じく戦ったスワンオルフェノク16歳の長田結花と、スネークオフルェノク36歳の海堂直也を紹介した。

 

「僕らは、人間とオルフェノクが共存できればと考えている。」

 

 園田真理はこれまでの印象からオルフェノク達に最初はあまり馴染めなかった。朗らかに軽いトークを語りかけてくるオルフェノク達の態度が逆に自分の後ろめたさを助長した。

 

「僕の夢を共有できる人が欲しかったんだ。」

 

「ああ、それもいいかもな。結局オレは人殺ししてんだしな。やらないに越した事はない。」

 

 だけど巧は元々想像性と神経が欠如してるからなのか即時にオルフェノク達と打ち解けてしまい、次いで啓太郎も結花に懐いてスカートめくりなぞし始めた。

 

「君の義父さんは、既にスマートブレインから退陣している。今は村上という人が社長を務めているんだそうだ。ファイズギアはたぶん義父さんがオルフェノクに対抗する最後の切り札として君に預けたんだと思う。」

 

 園田真理は、父に近い落ち着いた物腰で接してくれた勇治に、なんとか打ち解けるようになっていき、巧にも話した事がない流星塾の仲間の事、父との想い出なぞを語って段々慣れていく自分を感じた。大人の自然な対応というのは勇治のような事を言うのかもしれない。あの日夜6人で行った6月の花火はあらゆる意味で忘れられない想い出となった。

 

 

 

 2台のバイクと1台のワンボックスで湘南から一旦北上し東京へ向かう途上、またしてもオルフェノクの襲撃を受ける。3人のオルフェノクと啓太郎を乗せたワンボックスが、ワニ、ムカデ、エビの強力なオルフェノクに襲撃され、園田真理と巧はワンボックスから引き離される。そしてあの悲劇が起った。ローズオルフェノク、村上は関戸橋の南北を道路公団に擬装した部下に封鎖させ、万全の人選でベルト奪還を画した。

 

「園田君。気がついたかい。」

 

 死んで、ない・・・・?

 

園田真理の目が再び開いた時、あの勇治達のワンボックスに居た。園田真理は確かにあの思い出すのも悍ましいドラゴンオルフェノクに殺された生々しい記憶があったが、そのメッタ刺しにされた傷は既に手当されており、ベルトも無事目の前に在った。

 

「おかしいな。死んだと思ったのに・・・」

 

 その園田真理の言葉に過剰に険しい反応を見せる勇治達3人のオルフェノク。

 

「ねえ・・・巧は?巧はどこ?」

 

 さらに険しい顔する勇治。

 

「園田君、大丈夫、彼なら心配はいらない。きっと、無事だ。」

 

 つまりいない・・・・

 

 あの巧の背中をもう見ることが無いかもしれない、一生会えない、哀しい想像がとめどもなく溢れ、抑えきれなくなる。こんな心のざわめきは園田真理には初めての体験だった。

 生まれてはじめて人にしがみ付いて泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

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