仮面ライダー555 SPIRITS   作:bassher

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エピソード3 木場勇治2

 

 

 

 

 金曜日。

 

「コロッケ、4つ。」

 

 西田清高という青年が、小さいが味だけで評判を立てている精肉店の前に立っている。手には粗い生地で簡単な縫い付けがなされた買い物袋を抱えている。

 

「あら、最後の一個の清高ちゃんじゃな~い。今日はカワイイ奥さんはいっしょじゃないの?」

 

 割烹着が似合いすぎる細身のオカミが、清高の名前を知っているのは、以前買いに来た時に連れの女性がそう呼んでいたからだ。不思議な事になぜかいつも清高でコロッケが売り切れとなる。

 

「いいから早くくれりゃいいんだよ。」

 

「煩いわね、口さえなきゃいい男なんだけどねえ。でもそんなところが気に入ってるんだよ私ゃ。あいよ。」

 

 精肉屋のオカミは藁半の袋に詰めたコロッケを清高に渡そうと手を伸ばす、しかしコロッケは手渡される前に地面に落ちた。腕が突如灰と化し消失したからである。落ちたコロッケは割れて中身のジャガが露出し、その上から灰が被る。

 

「まさか」

 

 清高の眼前で、笑顔のまま、全身がくすみ、そして細かい灰となって崩れ去るオカミ。後退りする清高。不意に背後の人にぶつかる。慌てて振り返る。

 

「!」

 

 ぶつかったのは先ほど自分の前にコロッケを買ったサラリーマン。目が空ろなまま、やはりたちまち灰と化して崩れ去る。清高は周囲を見渡した。やはり次々と人間が灰と化していく。

 

「またか!」

 

 清高は見た。夕陽を背に立つワニの像を持つオルフェノクを。一際目立つのは、ボクシングのグローブほどの大きさに脹れ上がった両前腕。その先には太いかぎ爪が生えている。

 

 グぉぉぉぉぉぉ!

 

 清高に突進してくるクロコダイルオルフェノク。清高は眼を閉じて前屈みになるも頭蓋をまともに食らって吹き飛ばされた。

 

「ぁ・・・・」

 

 10メートルほど吹き飛ばされアスファルトに叩きつけられた清高は、それでも這って逃げようとしたが、あまりの激痛に失神してしまう。

 

「短い出張だった。これで長野に帰れる。」

 

 クロコダイルはそう言って清高に近づき、そのかぎ爪を振り上げた。

 

 そこへ現れる黒い腕、

 

「誰だ、私の仕事を邪魔するのは。」

 

 クロコダイルのその巨腕を細く黒い掌で受け止め、倒れた清高をその爪から救う。そのまま黒い腕は手首の捻りだけで、クロコダイルの巨躯を宙に一回転させる。

 

「デルタ!」

 

 地面に仰向けに倒れたクロコダイルは、見上げ叫んだ。それは彼が資料で見たそのものだった。

 デルタと呼ばれた漆黒のボディスーツを身にまとった異形は、仮面ライダーファイズと見紛うほどよく似ていた。比較して違うと分かるのは胸部の厚みがファイズのそれより薄く、対して肩幅に力強さがあり、肉体全身を纏うラインがファイズは紅であったのに対して白銀。なぜだろうか骸のイメージを感じずにはいられなかった。マスクの文様はファイズのΦに対して逆三角、つまりΔである。

 

 左腕が撓る、

 

 デルタと呼ばれたそれは、右腕だけでクロコダイルを掴み起し、全く体重を乗せない左上腕だけの力で顔面を一撃、クロコダイルの巨躯は転がるように飛んだ。

 

 グォォォォォォォ!

 

 起き上がり吼えるクロコダイル。デルタに向けて突進をかける。

 だがデルタは既に腰の銃を抜き、クロコダイルに照準を定めている。

 

 拡がるポインターマーカー、

 

 デルタの銃から放たされたそれは弾丸ではない。ファイズのクリムゾンスマッシュと同じポインティングマーカー光。ファイズの紅に対してやはり白銀。三角錐のポインティングマーカーが宙を回転し、突進したクロコダイルを抑止。

 

 跳躍、

 

 抑止されるクロコダイルに向かって助走をつけ38メートルの跳躍、空宙で左脚一本を突き出し跳蹴、杭を圧し込む。24トンの《ルシファーズハンマー》。

 

「民子ぉぉぉぉぉ!」

 

 クロコダイルの体を透き通るデルタ。刹那クロコダイルは爆発的に燃え、くすみ、砕け、そしてサラサラと灰にまで崩れていく。

 

「沙耶・・・・」

 

 着地したデルタは灰の山には目も暮れない。己が倒した敵に喜怒哀楽や安堵という感情すらも伺えない。ただ倒れうわ言を呟く清高にのみ一瞥投げ、悠然と立ち去るのみであった。

 

 

 

 西田清高が意識を取り戻し、自宅のアパートに辿りついた時には既に夜になっていた。

 

「ただいま。」

 

 四畳半に一畳ほどの台所があるだけの粗末な木造アパートの一室。

 

「おかえりなさい。どうしたの?こんなに遅くなって。」

 

 この狭い部屋に二人の男女が同棲していた。女は腰までナチュラルストレートの長い髪が印象的で、若干虚弱体質を匂わせる細身の体は、まだ未成熟な少女の体に仄かな大人の落ち着きを加えていた。

 

「沙耶、今日は売り切れだったよ。」

 

 女性の名は木村沙耶。清高より2つ年下の18歳。AB型。

 

「だったらもっと早く帰ってくればいいのに。」

 

「パチンコだよ。すっからかんになった。」

 

 と清高は笑った。決してこの女性を哀しませない、それだけが今の清高の全てだった。

 

「仕方ない人ね。今日は香の物だけよ。」

 

 二人が倹しい同棲生活を始めて半年が経過しようとしていた。折り畳みの卓袱台に揃いの茶碗。中央に浅漬けが盛られた皿。そして冷えた烏龍茶を沙耶がコップに入れてお櫃といっしょに運んできた。

 

「なあ、このままでいいのか。」

 

 お櫃の中のごはんは僅かに熱を保っている程度。それをよそって清高に茶碗を渡す沙耶。清高はこの半年働きもせず、ただ沙耶がパートから戻ってくるのを待って、毎日無為に過ごすだけのヒモだった。

 

「また?いいじゃない。ゆっくり思い出せば。貴方は、多摩川に転落して流された時、強く頭を打って、私の事を忘れちゃったのよ。命が助かっただけでも奇蹟なんだから。ゆっくり思い出せばいいのよゆっくり。」

 

「なあ、しばらく旅に出ないか。」

 

 二人の部屋には風呂が無い為、毎日銭湯に通うことになる。揃いのマフラーに首を埋もれさせた沙耶の笑顔と、風呂上がりの沙耶の香りが清高はこの上なく好きだった。

 

「イヤよ。お金出すの結局私なんだから。」

 

 だからこそあの怪物共に再三命を狙われている事実を言えない清高だった。だが狙われる理由が分からないもどかしさもある。故に早急に記憶を取り戻さなければならない。しかしその為の一番の早道は沙耶に怪物の事を話す事である。清高は絶えずこのジレンマに悩み苦しんだ。

 

「なぁ、頼むよ。」

 

 部屋の灯は沙耶の言い付けで夜10時には消さねばならない。後は二人でいっしょの布団に入るだけだ。ただでさえ記憶喪失というのは、自己存在が希薄となる。清高の実存の置きどころは沙耶ただ一人しかない。しがみ付くように沙耶の小振りな胸元に顔を埋める清高。

 

「一週間に一度って約束でしょ。」

 

 気だるくイヤそうに答る沙耶。ただ腕を回して頭を撫でてやる。子犬のように小刻みに震える清高を宥めるのはもう何夜めだろう。

 

「オレは何処へ行くのだろう・・・」

 

 沙耶は清高のその西洋人じみたパーツで構成された顔を見つめた。唇が月明かりでうっすらと光沢を帯びていた。沙耶のキスはやや下唇を噛むように2度3度接吻し、徐々に舌を絡めてくる。

 

「見捨てないわ、ね。」

 

 清高も沙耶に合わせて上顎を刺激し合う。

 

「本当か。」

 

 舌を吸い合う。

 

「私、嘘は言わない。絶対に。だから、今日はここまで。」

 

 清高を突き放して寝返りを打つ沙耶だった。沙耶の視界の先には窓を透して25階立てのマンションが見える。沙耶はその200以上ある窓枠の一つが小さく星のように一瞬だけ煌めいたのを見逃さなかった。沙耶の顔が露骨に険しくなる。激し過ぎる陰湿な憎悪が沙耶という女のどこに隠れていたのだろうか。

 

「雅人、イヤな人。」

 

 雅人と呼ばれた男は、沙耶と清高が住む二階立て木造アパートの隣、築5年の高級マンション15階のベランダに、下着も着けていない姿で立っていた。

 草加雅人20歳A型。笑みを浮かべると目と唇の端が異様に釣り上がる。沙耶が見た光は、雅人が手にしている双眼鏡のレンズの反射光だった。イエローを主体にした奇妙にカラフルな双眼鏡には「X」のマークとスマートブレイン社のロゴが刻印されている。

 

「なにを見ているの。雅人。」

 

 部屋の奥からシーツを体に巻き付けただけの女が声をかける。

 

「里奈。おまえもそのシーツ取っ払ってここに出てこいよ。」

 

 阿部里奈は雅人の顔を沙耶のそれと等価の憎悪の目で見つめた。

 

「ねえ雅人、私の事本当に愛してくれる?」

 

 雅人は破顔し、振り返って、ベランダの取っ手に両手を絡ませる。

 

「愛してやるぜ。だから、こっちこいよ。里奈。」

 

 里奈はシーツを取り払い、冷たい外気に肌を曝した。そして言われるでもなく雅人の前で跪く里奈だった。

 

「嘘つき。」

 

 

 

 今日の真理は、ベージュのセーターにジーンズ、肩からポシェットの上大型のトートバックを持っている。今日の木場勇治はブルーのカジュアルスーツ。待ち合わせ場所は日曜の下北沢。

 

「人がたくさんだね。」

 

「たくさんいますね。あ、こういうの嫌いですか?」

 

「いや、僕が大学に通ってた頃はここが一番のスポットでね。まだアレあったかな。」

 

 一歩歩みだそうとする木場勇治はすかさず振り返り、多少戸惑い気味の真理の手を握って引く。

 

「あ」

 

 自然な流れで手を握られ焦る間も無く走り出す真理。顔を思わず赤らめる。

 

「あったここだ。」

 

「すごい列、なんですかこれ。」

 

 真理の見た光景は異様だった。日曜のシモキタは混雑しているが、一際密度の濃い一帯があった。蟻が群がるように一台のワンボックスカーに長蛇の列が並んでいた。

 

「30分も並んじゃったね。」

 

「焼きたてメロンパンってアタシ初めて!」

 

 30分並ぶというのがカップルにとっては良い演出である。木場勇治が学生時代、千恵に無理に並ばされて食べさせられた夕張メロンパンであった。ワンボックスカーにメロンパンだけを焼くオーブンを載せ特定の場所に駐車して焼いてすぐ売る事で、メーカー製にない外皮の香ばしさと内側の熱の籠ったふんわり生地のダブルパンチを産み、女子達の心を掴んで放さない。

 

「夕張って言っても、外皮になにか混ぜている程度なんだけどね。」

 

「ねえねえ木場さん、ほら、日食。」

 

 真理は自分の顔の丸の前にメロンパンの丸を重ね顔を隠す。適当に自分でBGMを口ずさんで徐々に自分の顔を左から出してくる。

 

「園田さんは先に自分の気にしてるところをネタにして見せて、他人に触らせないようにしてるんだね。」

 

 お腹を抱えて破顔する木場勇治はそれでもフォローだけは抑える。

 

「これね、流星塾でいっしょだった太田くんに人気だったのね。」

 

「君の心の中には流星塾の人たちがコアとしてあるんだね。うらやましいな。君にそんなに思われてる人たちがいるなんて。」

 

 自分は今悪どい事をしている、

 

 さりげなく好意を示す木場勇治。だが告白という訳ではない。極めてスレスレの単なる好意である。しかもそれを自覚していた。木場勇治は彼女にとって大切な話を打ち明けなければならなかった。それは彼女をこれ以上無いほどに打ちのめす現実であろう事も分かっていた。従ってその支えとなる為に彼女とは是非ともに打ち解ける必要があった。彼女が勘違いしても構わない程に打ち解ける事が。

 

「流星塾の人は私の家族ですから。家族を思うのは当たり前でしょ。」

 

 木場勇治は真理の手を引いて下北沢の様々なアクセサリーショップを回った。真理はU字のアクセサリーを手に取り、

 

「木場さんのUで、」

 

 と木場勇治の首に下げる。本当はYなのだが、木場勇治はそんな揚げ足を取るような事はしない。ただUというより、馬の蹄鉄に近いデザインなのが多少感触の悪いのだが、

 

「ありがとう。」

 

 の一言で済ませた。

 シモキタと言えば誰がなんと言おうと小劇場である。二人は相鉄本多劇場へ足を向けた。演目は劇団シュリケン「母へ」。桟敷席には二人を含め15人ほどの客しかいない。

 

「僕はね、この人たちの熱意に共感したんだ。子供番組でちょっと名前が売れた人たちが結成した劇団でね。テレビの世界で売れつづけるのは大変らしいんだけど、子供番組から入った人たちは、夜にやってるドラマの人たちとはモチベーションあり方がまるで違ってるんだってさ。誰を喜ばせて、何を得て、なにに自信を持つのか根本的に違ってるって。どっちがいいとか悪いとかじゃなくて。いや、もしかして自分達の未熟を認めたくないだけなのかもしれないけど、自分たちが変っていくんじゃなくて、拡がっていく為に、モチベーションを絶えず維持する場所としてこの劇団を作ったんだってさ。拡がって、ドラマに出られるくらいの技術を身につける場所としてさ。」

 

「木場さんって、人をよく見てるんですね。そういうのって、優しさに繋がっていくんですよね。」

 

 木場勇治の目には懐かしい、こんな日常だったら毎日楽しいでしょうね、と誉めるしかない、星屑のようにある小劇団のよくある舞台に自分の姿を重ねていた。オルフェノクとなっても人間性を失わない道を探し、海堂や結花等と小さな仲間を作って、世の中の厳しさに立ち向かっていこうとする姿に。

 

 前より、上手くなったんだろうか、

 

 だが、今日の演目、特別な超能力者のコミュニティを作り上げた仲間達の物語が、なにか奇妙なリアリティを持っている事に木場勇治は訝しんだ。それにこのザワザワした危機感はなんだろう。

 

「園田さん。」

 

 木場勇治はあまりの圧迫感にまず真理の手を掴む。

 

「・・・・」

 

 勘違いした真理は俯いて顔を赤らめた。その真理に顔を近づける木場勇治。真理はビクつきながらもその挙動に合わせて唇を潤わせた。

 

「いいかい園田さん、僕の合図で、まっすぐあの出口まで走るんだ。ここは来てはいけないとこだったらしい。」

 

「えっ?」

 

 意外な木場勇治の言動に戸惑う真理を余所に、舞台最左に立つ役者が一際高い声を立てた。

 

「我等!」

 

「我等!」

 

 最右の役者もまたそれに合わせる。

 打ち合わせに無い行動を取られ、中央の役者達は顔を演技させつつも、足は制止してしまった。

 

「オルフェノクの為に、」

 

「ベルトを!」

 

 左右の役者の像が変る。左はクワガタの像へ、右はカブトの像へ。

 観客席が騒然となりパニックに陥ったがすぐに収まる。ほとんどの観客と役者は、逃げようとした刹那灰になってしまったから。

 

「オダギリ君、ナガイ君、君達がか。」

 

 木場勇治の目が哀しくも驚きを隠せない。同時に桟敷席で木場勇治達二人を包囲する位置で灰にならなかった6人の男女が立ち上がった。全てが像を変化させ、オルフェノクとなる。

 

「ちょうどいいところに飛び込んでくれた。」スタッグビートルオルフェノクが木場勇治にさす叉を向けた。

 

「君達の狙いはベルトか。なら園田さんは助けてやってくれないか。」

 

 木場勇治は、真理のトートバックに手を伸ばす。取り上げたのはベルト。あのファイズギアだ。

 

「それはダメだ。穏健派である花形への牽制の為にその女は恰好の人質となる。」ライノセラスビートルオルフェノクが叫んだ。

 

「木場君、君の顔を楽屋で見た時は驚いたよ。いい頃合だったんだ。劇団の仲間達もそろそろ一気にオルフェノクにしようと思っていた時だし。」

 

「村上さんの後釜になる為のカードが欲しかったんだ。」

 

「君達は、人間だった頃の仲間をオルフェノクにしていったというのか。それがどういう意味か分かっているのか。」

 

「人殺しだろ、単なる。儀式だ。仕方ない。」

 

「僕等は選ばれた。死んだ者は選ばれなかった。もうそれでいいじゃないか。」

 

 え?・・・・・

 

 真理はその木場勇治とオルフェノク達の対話の内容になにか奇怪な感覚がした。イヤな想像が頭のどこかに浮かんでいるが具体的に考える事を心が拒否している。いままで拒否していたと言い直した方がいいだろう。

 

「外道め!」

 

 木場勇治は携帯、ファイズフォンをベルトのバックルに差す。光を発してファイズに変身する木場勇治。

 

「木場さん、オルフェノクにするって、」

 

 驚いて一瞥するファイズ。しかし仮面ではその表情は読めない。ただ、

 

「言ったとおり、その出口を走れ!」

 

 桟敷席を囲んだオルフェノクの一体、バタフライオルフェノクの背後のドアを指すファイズだった。

 

「でも、」

 

 真理は恐ろしい想像が染み出て仕方がない。

 

 ファイズは先程差したファイズフォンを素早くフォンブラスターに変形、さらにファイズポインターをその銃に装着した。

 

「僕を信じるんだ。速く!」

 

 真理の背中を押すファイズ。惰性で駆け出す真理。

 

「逃がすな!」

 

「木場を殺せ!」

 

 真理を狙うバタフライ、ロングホーン、スラッグオルフェノク。

 

 照射、照射、照射、

 

 フォンブラスターより放たれた三本の杭。ファイズポインターを装着する事により、ポインターマーカー光を発射できるようになる。3つ紅光の紡錘が三体のオルフェノクの動きを圧迫し封じる。固まったオルフェノクの間を目を閉じて走り抜ける真理。

 

「ぃや」

 

 ファイズは気合を発して、土間から桟敷席の上に乗り上げ、固まったオルフェノクに向かってダッシュ、まず向かって右にいるロングホーンに拳を一撃、

 

「でぃ」

 

 その反動でひらりと一回転し、右肘をバタフライに、

 

「やぁっ」

 

 さらに左回し蹴りでスラッグに光杭を圧し込む。一気に三体のオルフェノクを灰にした。

 

「調子に乗るな!」

 

 反対側の三体、モール、ジラフ、ムースオルフェノクがファイズに襲いかかる。

 

 さらに照射三連、

 

 やはり、ファイズはポインターマーカーで対手を抑止。湘南で巧がこの戦法をもって次々オルフェノクを撃破していったのを木場勇治は見ていた。

 

「強いな。」

 

 さす叉強襲!

 

「ぅぐ」

 

 だが三体のオルフェノクを抑止するものの、舞台上に立つオルフェノクの一人、スタッグビートルのさす叉が、ファイズの首元を抑え、スタッグビートルの勢いはそのままファイズを場内の最後部まで持っていく。

 

「並のオルフェノクではさすがにベルトの力を抑える事はできんか。あの最強を唄われた村上を倒したベルトだ。どれほどのモノか見せてもらおう。」

 

「どうしてそこまで冷えた目になってしまったんだ・・・」

 

 壁に打ちつけられたファイズは半ば身動きが取れない。そのうち先程拘束された三体もマーカーを弾いて自由になりファイズに近づいてくる。フォンブラスターからのポインターマーカーは、チャージが無いだけ出力が低い。だがファイズの腕は辛うじてフォンブラスターをスタッグビートルの腹に押付けた。

 

 ゼロ距離照射!

 

 吹き飛ぶスタッグビートル。

 

「効かんっ!」

 

 しかし吹き飛んだ距離は僅か、すぐさま立て直し、腹筋の隆起だけで杭を弾き飛ばしてしまう。

 

「くそ、」

 

 だがファイズには、そんな唖然とするヒマすら与えられない。

 

 薙刀!

 

 ファイズに横からライノセラスビートルの薙刀が襲う。

 

「ウザいんだよっ!」

 

 なっっっっっっっっっっっっ!

 

 ライノセラスビートルの突進はスタッグのそれよりさらに強力で、壁を二枚突き破り、ファイズを劇場の外へ弾き飛ばしてしまった。

 

「ボンボンが。」

 

「僕は、負ける訳には、」

 

 頭をふらつかせ、未だ立ち上がる事ができないファイズを囲む5体のオルフェノク。

 

「ファイズ。もっと力を引き出してみせろ。」スタッグビートルは腕組みしている。

 

 スタッグビートルの一声が合図であるかのように躍りかかり、すれ違い様攻撃を加えるモール、ジラフ、ムース。

 

「ボクは」

 

 3方向からの攻撃に体をゆすぶられ、思わずライノセラスビートルにもたれ掛ってしまうファイズ。

 

「気持ち悪いな。」

 

 すかさず腹部へ薙刀を祓うライノセラスビートル。

 

「ぅ、くそ」

 

 だがむしろその一撃に朦朧とした意識を覚醒させたファイズは、

 

「そらそらそら、」

 

「フン、フンフン、」

 

 薙刀を突き入れようとする敵の攻撃を左に右に交わすところまで持ち直す。だがそれもも一対一ではない為にムダな努力となる。

 

 モールが右腕を、

 

 ムースが左腕を、

 

「キサマ等」

 

 両腕を捉まれ、たちまち身動きが取れなくなるファイズ、そこへすかさずライノセラスビートルの薙刀が、

 

 突!

 

 っっっっっっっっっっっっっっっっっっぁ!

 

 路上100メートルを突き跳ばされた。

 

「潮時だな。仕方ない。」

 

「・・・・・・乾くんと約束した、必ずオルフェノクと人間の、」

 

 ファイズはそれでも立ち上がる。立ち上がろうとした。

 

「どぃりやぁぁぁぁ!」

 

 ふいに宙を見上げたファイズはこの時死すら意識した。スタッグビートルは上空30メートルを跳躍、前方宙返りから右脚をファイズ胸部目掛けて突き出し、

 

 蹴撃!

 

 持っていかれるファイズ、

 

 吹き飛ばされた挙げ句、ついには変身が解けてしまう。ファイズの紅い光芒が爆発漏洩の危険域にまで達し、スーツのリミッターが働き即座に全てを分子分解したのだ。木場勇治は涙を流している自分に気づく。

 

「僕は・・・・乾くんになれない・・・・」

 

「ファイズギアって」それは背後からの声。「カタログスペック通り、」5体のオルフェノクの誰でも無かった。「やはりオレのデチューンだったようだな。」

 

 威圧感と嫌悪感、あるいは僅かに見え隠れする愚直さが、人によっては好感が持てるかもしれない声。その顔が卑屈に笑う時、異様に目と口の端が釣り上がる。

 

「君は、」

 

 木場勇治はその時はじめて草加雅人と出会った。

 

「キサマは誰だ!」スタッグビートルオルフェノクは叫んだ。

 

 雅人は既にベルトを填め、携帯を片手にしている。

 

「オレは!お前らオルフェノクを倒す為に遣わされた、救世主だ!」

 

 リボルバー型携帯に9、1、3をブラインドタッチ。

 

「変身!」

 

 雅人は叫び、ベルトのバックルへ携帯を差し込む。

 

『complete』

 

 刹那雅人の体が黄色い光の格子で包まれる。立体となった格子は隙間を発光で埋め尽くして雅人を外界から遮断、ついにはスーツとなって雅人を異形の存在に変身させた。

 

「もう一人のファイズ・・・」ライノサラスビートルが唖然とした。

 

 ファイズと見紛う漆黒のスーツに漆黒のブレストプレート。ファイズのそれに比してごくナチュラルな人間の姿に近い。四肢に2本ずつ走るイエローライン。胸に刻まれるXのライン、そしてマスクにも同じく刻まれたX。

 

「いやカイザだ。」スタッグビートルオルフェノクが思わずその名を呟いた。

 

「楽しませろよ。オルフェノク共。」

 

 襟元を正すそのポーズからは、雅人の余裕が伺えた。

 

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