時は二日前に遡る。
そこは清高が襲われた下町の路上。
先程デルタに殺された灰が、ごく僅か風に流されず残っている。
多少逆風になったのであろうか。灰の溜りにさらに灰が被さっていく。違う。風ではない。右からも左からも灰が宙を舞って一ヶ所に集約していく。まるで時間かビデオが巻戻るように徐々に徐々に灰が集まっていき、溜りが山になった時には、薄かった夕陽の影がはっきりと山の輪郭を投影していた。
灰の中から掌が。それは残骸ではない。前腕から上腕が出灰し、頭が現れた時には、灰が固まって左大腿を形成しようとしていた。
「タ、ミ、コ・・・・・・」
そのオルフェノクの像はワニではなく蜘蛛であったが、間違いなく、先程デルタに敗れたクロコダイルオルフェノク自身だった。
日曜日。
「沙耶、ついに里奈と晴子が殺された。これで残っているのはオレやオマエを含めても7人。」
木造2階立てアパートの一室。四畳半に二人の裸体の男女がいた。草加雅人はベットの上に座り込み、沙耶は台所からコップを取り出す。
「・・・・・、そう、良かったじゃない。二人と精算できて。」
沙耶は冷蔵庫から水差しを取り出す。その顔は振り乱れた髪としたたる汗に妖艶さを煌めかせていた。
「おいふざけるな。家族達が殺されたんだぞ。」
「知ってるのよ。 里奈をこの間マンションに連れ込んだでしょ。携帯に画像残す癖いい加減やめたら。晴子もあんな顔残されてくやしいわよきっと。本当に貪欲ね。」
コップに水を注ぐ沙耶の眼は、雅人を嘲笑っているように見えなくない。
「見たのか。男はな、手に入るモノは全て手に入れたい野心があるのさ。オレに愛されたんだ、あいつらも幸せだったろうよ。」
「誰が流星塾の仲間を殺しているの?」
「あのドラゴンのオルフェノクだった。里奈の死体を発見した時に、ヤツが逃げていくのを見た。やはりスマートブレインだ。許さん。」
コップを傾け口元に水を流し込む沙耶の喉がゴクと動いた。口元を手で拭って立ち上がり、そのまま雅人の元へ。
「ねえ、いい加減、清高に本当の事を教えたら。彼、ベルトを使って何人ものオルフェノクを倒したって話じゃない。」
「乾巧は、あれでいい。このままオルフェノクを誘う囮になってもらう。その為にヤツは何も思い出さない方がいい。」
「真理に会わせたくないものね。アナタが麻美といっしょに清高を担いで来た時にはびっくりしたわ。河辺で麻美となにをしていたのやら。」
沙耶は自分の使ったガラスコップに再び水を注ぎ、草加雅人へ差し出す。
「川を流れているヤツを麻美が発見したんだ。オレの方が驚いたさ。スマートブレインの端末に載ってた有名人だもんな。スマートブレインに乾巧がいる事を流しておけば、後はおもしろいようにオルフェノクが釣れる。ヤツの協力なんか必要ない。オルフェノクは全てこのオレの手で討つ。」
「でも清高、最近カワイイのよ。この間も私が台所でお味噌汁作ってたら、急に抱きついてきて。」
草加雅人の目に嫉妬の炎が揺らめく。衝動的に立ち上がり、そのままなんの躊躇もなく沙耶のその細く白い首を両手で締めた。ボトルとコップを落す沙耶。
「調子に乗るなよオマエ。」
「くるしい、・・・・」
沙耶はもがきながらも、なぜか目は喜んでいるようにすら見える。その沙耶の首を絞めたままベットへ押し倒す草加雅人。
「この好淫め!おまえの本性を思い出させてやる!」
即座に突き入れる草加雅人。
「い、イタい雅人・・・・」
ベットが激しく軋んだ。
「おまえみたいな性悪で意地汚い女はな、オレ以外の男が相手になんかしてくれねえんだ!」
「雅人・・・見捨てないで、私を・・・・雅人・・・」
沙耶は恍惚した。
草加雅人A型の人生には三つの転機があった。
一つめは母親に殺されかけた事、二つめは父親に殺されかけた事、三つめは義父に殺されたかけた事である。
母親に首を絞められたのは5歳の時。心中しようとしていたのだろう。だが母親は子供を殺し切る事は出来なかった。草加雅人の決断力はそんな母親への憎悪から来る。
母親が包丁で男に刺されたのが7歳の時。母親は彼を庇って血まみれになり、それまでいろいろな小動物を解剖して遊んでいた草加雅人ははじめて人間の血に触れた。
母親を包丁で刺した男は全く見たことが無かったが、父親である事は母親との対話で分かった。アパートの2階で7歳の息子と父親がもみ合って、階段を転げ落ちて両者とも病院に運ばれる。父親は死に、草加雅人も3日間生死を彷徨って、目覚めた時はじめて見た光景は、異様に背の高い威厳と情に溢れた花形だった。
「園田さん・・・・・」
「雅人は、喘息なんだから、みんなより運動できなくて当たり前なのにね、もう神道君たら。」
流星塾で仲がよかったのは、同じ頃に入塾した園田真理だけであった。華奢で、首に対して後頭部が膨らむ骨格である為、いくら髪を伸ばしても額の広さを隠せない、そんな神経質を絵に描いた容姿は人を近づけず、しかも喘息という持病が運動能力を致命的にしていた。子供社会の残酷さは、草加雅人へのいじめとなって表現され、男子も女子も彼をバカにしていた。
「戦え、戦い続けろ雅人。」
義父となった花形は、そんな彼にもやはり過不足なく言葉を与えた。だがそんな威厳に満ちた背中の花形にも、草加雅人は裏切られる事になる。
「父さん、アンタもオレを裏切るのか!」
「社長、申し訳ありません、一人麻酔が浅かったようです。」
「雅人、おまえ達九死に一生を得た子供を集めたのは、オルフェノクを人工的に作り上げる為だった。だが雅人。信じてほしい。私はおまえ達を愛していると。この世の全てがオルフェノクとなるならば、おまえ達が、オルフェノクという種を導いて欲しいのだ。」
そして18歳の時。喘息にあえぎながらも流星塾生から唯一大学への入学を決めた草加雅人は、前日のパーティで家族達から愛されていたという実感を噛み締めて床に就いた。
目覚めた時、見覚えの無い天井が拡がっていた。左右には自分と同じように、手術台の上に家族達が裸体で眠っている。見渡すと自分達が眠る同じ部屋に、水槽に入れられた奇妙なベルトが3本浮かんでいた。人もいた。医師らしき男達が禍々しい液の入った注射を家族達の一人一人に刺している。そしてガラス越しからこちらの部屋を眺めている花形、その花形と医師達との会話を寝ているフリをして聞いた草加雅人は、己の現実が音を立てて崩壊していく絶望を味わう。
オルフェノク、
ベルト、
被験者、
その全てに恐怖した草加雅人は、跳ね起きて即座にベルトの一本を奪った。
「逃がすな!」
医師の二人が異形の怪物と化して彼を止めようとした。草加雅人がはじめて見たオルフェノクだった。
「変身っ!」
躊躇する事なくカイザへと変貌を遂げる雅人。なんの知識も無しにそのような行動がとれたのは、花形の催眠学習の成果である。皮肉というしかない。
「父さん、アンタを一生許さないっ!」
カイザとなって辛うじて裸体の沙耶だけを担いだ草加雅人は、途中サイドカーを奪って逃走、カイザの力を駆使して、敵オルフェノクの追撃を振り切った。
「沙耶、起きろよ沙耶!オレはどうすればいいんだっ!」
海岸に落ち延び、変身を解除した草加雅人は、裸体で眠る沙耶に劣情のまま挿入した。
以降、スマートブレインからの追っ手をカイザの力で撃破しつつ、自信がついた草加雅人は、その内普通に慶泉学院大へと通うようになり、沙耶も普通にパートへ出るようになった。沙耶の親が残した財産でマンションの一室も買い、学費も沙耶が出してくれた。そうやって日常を手に入れた理由を、カイザ=己自身の力によって、スマートブレインをして自分達を脅かす事ができないのだと草加雅人は考えるようになっていた。
「記憶が無いのか。」
その内流星塾の家族達にもコンタクトを持つようになり、まず家族達にあの時の記憶が全く無い事、実験された形跡も無い事、日常生活をごく普通に営んでいる事に驚く。だがそれも、倒したオルフェノクが持っていた端末からの情報で納得がいった。花形が自分を逃した不始末からスマートブレイントップの地位を追いやられのだ。
「村上だな。」
変って村上が社長となり、流星塾生による人造オルフェノク計画、並びその最終目標である皇の適格者の早期発見と育成も、全て凍結した事を知る草加雅人。
「貴方は上の上の方だ。ラッキークローバーの一員である澤田さんと琢磨さんを手玉に取るとは。いいでしょう。貴方の要求を受けましょう。流星塾生全ての命を私が保証しましょう。私も全員始末するような無粋な真似をしたくはなかったのですよ。ただし記憶は消したまま。そして我々の活動も又阻害しない事。それで、よろしいですね。」
村上がロードスポーツに乗っての単独行動を好むという事を知った草加雅人は、クロコダイルオルフェノクとムカデの像を持つセンチピードオルフェノクを振り切って村上にフォンブラスターを向け、流星塾生達の命を保証させた。
草加雅人と村上の契約はしばらくの安息をもたらす。もちろん休戦期間であって和平でない事は両者にとって暗黙の了解である。両者の間には奇妙な意思疎通と信頼関係すら生まれていた。また、スマートブレインから家族達を護っているのはこのオレだと、ようやく誇れる自分を手に入れる事ができた草加雅人であった。
全てがベルトである。あれほどに苦しんだ喘息が止み、その為意外に身体能力が人並み以上である事を発見、全てのスポーツに挑戦し、己の可能性をおもしろいように拡げていく。体が弱かった頃はいつもいつも体をどれだけ労るか絶えず悩み苦しんだ草加雅人だったが、あるいはそうであったが故特に団体競技においてズバ抜けた活躍をし、いつのまにか大学内の体育会系サークルを掛け持ちするようになっていた。大学内の知人も家族達も、彼を見る目が日々変わっていき、人生の全てが思い通りになっていく充足感を、あの卑屈な笑みで味わう草加雅人だった。
「陳腐なヤツがシャシャリ出て、全てぶち壊してくれた。」
あるいは村上が死んでもっとも落胆したのは草加雅人であったかもしれない。現在村上派は四分五裂し統括すべきポスト村上がいない。花形も前面に出てくる気配がない。ただ約束の相手がいなくなった時家族達への安全も破綻する。次々殺されていく家族達。猛り狂った草加雅人は、報復として同じようにオルフェノクを次々抹殺していった。だが報復に感けている油断を突くように家族達の殺害も続き、草加雅人の復讐心は収まるどころかますます脹れ上がり、抑え切れない情緒の暴走を沙耶や里奈等にぶつけた。
「そうだ、オレはきっと真理さえいればよかったんだ。最初からそうだったんだ。」
だが真理だけには手を出せない草加雅人がいた。チャンスの問題ではない。その真理がカイザフォンにようやく連絡を入れた日曜日、草加雅人の胸が確かに踊った。
「真理がついにオレに泣き付いてきた。」
「あ」
「君が、西田君だな。妹が世話になっている。」
草加雅人が沙耶と清高のアパートから出ようとしたちょうどその時、西田清高、否、乾巧がドアを開けた。
「沙耶、兄?」
巧が見た沙耶は既にTシャツとショートパンツを履き、よつんばいでこぼれた水を吹きとっている姿だった。その顔はひどく事務的だ。
「雅人です。ちょっと妹に資金援助をしようと思って立ち寄ったんですが、断りましてね。頑固な妹でしょ。」
巧の顔からにごりが消えない。草加雅人全体が醸し出す他人の全てを見下した態度を訝しんでいるのかもしれない。
「そうか。沙耶が断ったんなら、それでいい。じゃあな。」
草加雅人が巧という男を本格的に嫌いになったのははじめて対話した実にこの時である。一字一句頭の中でなぞる度にバカにされたという意識が膨らむ。草加雅人は繭をただ一度僅かに動かす。
「では。失礼いたします。」
態と丁寧に言ってドアを閉める草加雅人だった。
「兄さんなんていたんだな。」
巧はショートパンツでぞうきんがけしている沙耶の腰を目で追っていた。そうしてまずベットに腰かける。ベットにはまだ湿気が残っていた。
「ごめんなさいね。黙ってて。ゆっくり思い出せばいいと思ってたから。」
沙耶は巧に目を合わせようとしない。
「兄妹か。だからおまえ達よく似てるんだな。」
沙耶がゆっくりと立ち上がって振り返る。そのロングストレートの髪が激しく揺れた。巧が見た沙耶の目には怒りと哀しみが入り交じっていた。
「ねえ、そういえば今日、週1回の日だったね。」
「今日はいいよ別に。」
「いいから」
沙耶は巧に覆い被さってくる。自然ベットに倒れ込む形になる二人。強く抱き締めて巧の肌の感触を自分の肌で感じる沙耶。
巧は虚しい顔をしながらも、そんな沙耶の髪を撫でてやる。
「沙耶、」
「・・う・・」
沙耶は無心に巧の胸に貪りつく。
「沙耶、オレ腹括ったよ。一人でも平気だから。辛いんだろ。」
見抜かれた沙耶は小刻みに震える。
巧は沙耶の豊かな髪に隠れた首筋の産毛を撫でてやる。
沙耶の爪が巧の皮膚に食い込み血がにじんだ。
「悔しいのよね。」
沙耶は巧のジッパーを降ろしはじめた。
「そうかもな。」
「そうやって恰好をつけて、私が雅人に盗られるのを黙って見てるつもり?」
「そうだな。かっこつけてるんだろうな。本当は悔しくて仕方ない。あいつを見る目が、本当の沙耶なんだって。あんな剥き出しのオマエの目を見た事無かった。オレは一生踏み込めないんだろうなって。」
巧もまた沙耶のジッパーを下げた。沙耶の汗が匂った。
「バンザイ、」
「バンザイ」
二人で脱がせあい、肌をこすり合わせ、そして愛撫し合った。巧は鎖骨を小指でなぞってやると沙耶が喜ぶのを知っている。
「清高は優しい・・・・」
「沙耶、一人で勝手にするなって言ってあるだろ。」
「清高優しい・・・・・・」
「なんだ、おまえ燻ってたのか。」
「見ないで清高、私イヤな女なの。」
「いいさ。オレには笑顔の沙耶が本当の沙耶だから。」
「清高優しい・・・・・」
下北沢路上にサイドカーで乗り付けた草加雅人。本多劇場の壁には穴が空き、破壊したオルフェノクの恐ろしさを物語っている。
草加雅人は、憎悪の目でオルフェノク5体を睨んだ。
「オレは!お前らオルフェノクを倒す為に遣わされた、救世主だ!」
草加雅人は変身し、襟元を正し、まずは腰の携帯にいくつかのパスワードを入力する。ベルトの右サイドに幾本もの可視レーザーが多角的に交差して立体を型取り発光、一つの物体と化す。それは銃。ファイズのフォンブラスターよりも大型の銃であった。形状はやはりカイザを表すX、《カイザブイレン》が現出する。
「かかれ!」スタッグビートルオルフェノクが号令した。
カイザに向かって襲いかかるムース、ジラフ、モールオルフェノク。
「キサマは、ダッシュがあるから一番最初にしないとな。」
カイザはムースオルフェノクに向けて、カイザブレイガンを三連射。腹筋の割れに直撃を受け、ムースはあまりの威力に後ろへ弾け飛んだ。フォンブラスターのサイズに比例した以上の破壊力を秘めるカイザブレイガンである。
「キサマは、その触覚を庇ってたな。ダメージを負えばどんな反応をするのかな。」
ムースへ攻撃を仕掛けている間に、ジラフオルフェノクが肉迫、カイザは既にその移動速度とタイミングを承知しており、拳をカウンター気味にジラフの頭部触覚にヒットさせる。ジラフはその場で倒れ込み、もんどりうって苦しみだす。
「キサマのかぎ爪はリーチが短いんだ。」
ジラフの後方を隠れるようにモールオルフェノクが飛び掛かってきた。死角を突かれた形のカイザはしかし、見てもいない対手に言い放ち、カイザブレイガンのグリップ底を向ける。
伸びるブレード、
驚くべき事にカイザブレイガンのグリップ下から黄色い発光体がモールに向かって一直線に伸びる。それは発光するブレード。《カイザブレイガンブレードモード》。モールの腕よりもはるかに長いリーチの刃は、モールの喉元をえぐり、火花を散らせた。
「ええい、また煩わしいヤツが!」
ついに劇場の壁を空けた張本人ライノセラスビートルオルフェノクが自慢の薙刀で突進してきた。
「キサマは攻撃が単調に過ぎる。」
やはり見もしないで紙一重でその脅威の突進を躱すカイザ。躱した拍子にライノセラスビートルのこめかみへ肘打ちを食らわす。
「くそ、バカに、するな!」
勢い余って高転びしたライノセラスビートルだったが、直様立て直し、今度は静止したままカイザに薙刀を向け、ジリジリと間合いを取り隙を伺う。
「バカにしてやるぜ。」
カイザブレイガン三連射、再びあのムースを弾き飛ばす光弾を放つカイザ。
「効くか!」
ライノセラスビートルは異様に鍛え上がった大胸筋を張って大の字に構え、光弾を弾き返した。
「ほう、いい根性だ。鼻につく。」
カイザはバックルから携帯を取り出す。ファイズのそれと同じくフォンブラスターへと変形させた。カイザブレイガンとフォンブラスターの2丁拳銃だ。
連射連射連射連射、
「効くかよって言って!」
やはり大胸筋で弾き返すライノセラスビートル。だが今度はジリジリと圧され、後退りしてしまう。
「さて、どこまで保つかな。」そのまま連射し消耗を誘うカイザは、全く違う方角を眺めた。「やはり大将はあっちか。オレも、そうする。」
カイザの眺めた方向に、変身の解けた木場勇治が無様に伏していた。
「木場くん。もう一度ファイズに変身したまえ。ベルトが破壊されない限り、スーツは衛星から転送されるはずだ。」
項垂れている勇治の首を羽交い締めにして無理矢理起したのは、オルフェノクの実質的な大将スタッグビートルオルフェノク。
「僕は・・・・なんて無力なんだ・・・っ!」
勇治が吼えた。勇治の全身から馬の像が浮かんでくる。その声は人間のそれから馬の嘶きに変り、そして像が人間から完全にホースオルフェノクのそれになる。
「っう」
あまりのパワーに羽交い締めを解いてしまうスタッグビートルオルフェノク。
「ヤツはオルフェノクなのか。」一部始終眺めていたカイザ。「計算外だがまあいい。まずはこっちの虫の方だ。」
カイザの際限無い銃撃に、ついに堪えかねて倒れるライノセラスビートル。それを見て取ったカイザは笑みを洩らしつつ携帯をバックルへ再収納、エンターキーをプッシュする。
『ready』
カイザのベルトから一際輝きを放つ光芒が腰から肩、肩から右腕2条のイエローラインを伝って、カイザブレイガンのブレードへ注ぎ込まれる。
『exceed charge』
まずは構えて一照射、
なおも起き上がってくるライノセラスビートルを見計らって、まずカイザブレイガンを一発。撃ち出された光弾は攻撃のそれではない。ライノセラスビートルの体中を網目状に展開し拘束する光の縄だ。
カイザは確実な状況を作り上げて、カイザブレイガン、グリップ下より伸びている為必然逆手持ちになるブレードで、まず前方宙空にXの字を描く。残光の軌跡はいつまでも輝く。そのままブレードを大きく下から振りかぶると、その軌跡も又輝き続け、まるでそれは光の橇に見える。カイザはスイングバックでポーズを取り、拘束されたライノセラスビートルにゆっくりと照準を定めていく。
「はぁっ」
カイザ背面のイエローラインが指向的に光を放射、それはジェット噴射となって橇全体を突進させる。突進は前方Xの光を紡錘にまで変形させ、カイザは敵オルフェノク目掛けて巨大な杭と化す。
突き抜けるカイザ、
「オレがっ」
ライノセラスビートルを突き抜けたカイザはブレードを振りかぶっていた。
「全てが、予定通り。」
背後に青白い炎をあげるライノセラスビートルオルフェノク。
「オレが何をしたと・・・・言うんだぁ!」
燃えつき、一気に灰となって崩れる。残るのは宙空に浮かぶXの光跡。
「さて、多少リスキーだが、2体同時で行くか。」
「うぉっっ」
ホースオルフェノクと化した木場勇治は雄叫びを上げ、右腕からは巨大な両刃剣を浮かび上がらせ実体化する。
「よし、やる気になったな。」
スタッグビートルオルフェノクは揚々とさす叉をホースに突き込んだ。
「ふん」
ホースは受け止める。その巨剣でではない。素手でさす叉の軸をつかみ取った。
「キサマ舐めた真似を、」
しかしいくらスタッグビートルが押そうが引こうがビクともしない。
振り下ろされる巨剣、
「ふんん」
膝が地に着くスタッグビートル、
「ぁ」
動きを制止したスタッグビートルへホースの巨剣が振り下ろされた。辛うじて首を捻って肩で受け止めたものの、あまりの威力に膝が地に着くスタッグビートル。
「おもしろいっ!」
だが力を振り絞って腰から足の全てを使ってホースの巨剣を推し返す。
「ふんふぁ」
「どぅりゃ」
一撃二撃三撃四撃、
ホースの闇雲な巨剣の攻撃を辛うじてさす叉で受け流すスタッグビートル。そのさす叉の動きは舞踊のようである。が、
「ふぁ!」
へし折る!
スタッグビートルのさす叉をその巨剣の破壊力で無理矢理へし折ってしまうホース。ホースの巨剣は留まる事なく、さらに容赦ない攻撃がスタッグビートルへ加えられる。
一太刀っ、
「ぐ」
二太刀っ、
「ぅぐ」
三太刀っ!
「ぅ、ああ」
悲鳴に近い叫びを上げるスタッグビートルは、フラつきながらもホースオルフェノクを見やる。そのホースは、なにか事切れたかのようにただ息を荒げている。
「木場くん・・・・それが君の本当の姿なんだな・・・すごいじゃないか。」
本当の姿・・・・?!
勇治は巨剣を落した。
「違うっ!」みるみる像がゆらいでいく。「僕は・・・、こんなものが・・・」自己喪失の劣情に流されてしまった事に気づく。「こんなものが!僕の本当の姿なんかじゃ、ないっ!」
叫んだ彼は人間の像へと完全に戻ってしまう。それは武装放棄に近い行為だった。
カイザブレイガン2連射!
「茶番だな。オルフェノクのくせに。」
先のライノセラスビートルを倒したと同じ、拘束弾がスタッグビートル、そして木場勇治にも撃ち込まれた。カイザが突如両者の戦いに割り込んできた。
「・・・・君は味方じゃないのか・・・」
スタッグビートルと共に、人間体のまま拘束された勇治は、カイザの行動に困惑した。
「オルフェノクのくせに、人間様にヤラれる理由なんか要るかよ。」
先程決めた技と全く同じ行程を繰り返すカイザ。既に光の橇は出来あがり、スウィングバックにポーズしていた。