仮面ライダー555 SPIRITS   作:bassher

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エピソード5 海堂直也

 

 

 

 

 同じ日曜日。

 

「じゃあ行ってくる。」

 

 石川台。

 夕飯のおかずの買い出しを木村沙耶に言い付けられた西田清高、乾巧は、夕陽に照らされた自分の影を追いかけながら、沙耶との距離を感じずにはいられなかった。むしろ体を重ねる事でその距離を決定的に感じた。

 そのうち夕陽が傾き影が伸びてくる。背後の人間の影もまた視界に入ってる。そんな日常の風景が崩壊するのは、背後の人間の影が異形に変ったからである。

 

「オルフェノクっ!」

 

 乾巧は知らないはずの言葉を叫んでいた。

 

「タ・・・・ミ・・・・コ・・・・」

 

 それは蜘蛛の像を持った、スパイダーオルフェノク。巧を認め突進するスパイダー。

 

「をぁ!」

 

 脇腹に一撃、撥ね飛ぶ巧、

 

 スパイダーの突進力と体重を乗せた右拳は、10数メートル先の橋の上まで巧を撥ね飛ばす。

 

「・・・・・を」嗚咽を吐く巧。

 

 胃の内容物が逆流し橋の上を汚す巧。顔を上げると、既にスパイダーが近接している。

 

「タ・・・・ミ・・・・コ・・・」

 

 首を掴んで持ち上げるスパイダー。そのまま柵に押付けて首を締める。

 

「なんなんだよ・・・・おまえ」

 

 銃撃!

 

 巧を救う銃撃が横合いから三連。思わず巧から手を放すスパイダー。

 

「あれは、」

 

 巧は見た。夕陽を背にしたそのシルエットは死神と見紛うばかりの骸。デルタだ。

 ゆっくりと間合いを詰めるデルタ。殺された恐怖が残っているのか、ジリジリと後退りするスパイダー。

 

「あんた、」

 

 横並びになり、巧をマジマジと眺めるデルタ。巧は二つの人外の者を見比べている。そこに間隙を見出したスパイダー、一旦退いた足をデルタに向けて踏み出してきた。

 

 首を掴む、

 

 スパイダーの突進を右腕一本喉元へ掻い潜らせて制止するデルタ。目は巧を眺めたまま。首を締め付けられもがくスパイダー。

 

「助けてくれるのか・・・」

 

 そんな巧を横目にスパイダーを仕留めにかかるデルタ。まずは突き飛ばす。上腕で軽く押した程度の力でスパイダーを数メートル先まで吹き飛ばすデルタ。吹き飛ばして距離を作ってから、おもむろに腰の銃を取り出し、口元へ近づける。

 

「チェック」

 

 それは女性の声だった。そうして銃をスパイダーへ構え直し、ポインターマーカーが射出された。

 

「タ・・・ミ・・コ!」

 

 伸びる腕っ!

 

 しかしスパイダーが今度は速い。スパイダー自身は動かず、なんと両腕だけが数メートルの長さに伸張、デルタの銃を弾き、そしてもう一方は巧へ。

 

「うぁ」

 

 柵にもたれ掛った巧はスパイダーの腕に足元を掬われ橋から落ちる。

 

「・・・・・!」

 

 ポインターマーカーを逸らされたデルタが再び見やった時には、既に巧は橋上に姿はない。それを認識した時、デルタはゆっくりとスパイダーへ振り返る。

 

 再び伸ばす腕、

 

 スパイダーは再び腕を伸ばして攻撃、しかしもう奇襲効果は薄れている。伸ばした腕を掴むデルタ。そして引っ張りあげる。

 

「タミコァ!」

 

 数メートルを強引に引き寄せられたスパイダーはデルタの圧倒的な力に怯えた。

 

 千切るっ!

 

 銃を投げ棄て、両手で握ってそのスパイダーの伸びた上腕を引き千切るデルタ。

 

「っっっっ!」

 

 一発は顔、一発はボディ、そして最後に鼻先、

 

 デルタの手加減ない攻撃は戦意を失ったスパイダーをさらに痛めつけ、ついにはアスファルトへ叩きつけた。

 

「タ!・・・・・ミ・・・・」

 

 喉元を足で踏みつけにされるスパイダー。情け容赦ないデルタは何度もスパイダーを踏みつけ、スパイダーは抵抗をしようとするももはやその力が失せてきた。

 

「コぁっっ!」

 

 スパイダー最後の絶叫が上がる。震えていた手が止まり項垂れる。ついには燐光に燃えはじめ、そして灰となった。

 

 ザク、ザク、ザク、

 

 デルタは、灰となったオルフェノクをなぜかなおも踏み続けていた。

 

 

 

「・・・・君は味方じゃないのか・・・」

 

 同時刻。再び下北沢。

 カイザブレイガンの拘束弾によって搦め取られた木場勇治。勇治の背後にはスタッグビートルオルフェノクがやはり同じく拘束されている。

 

「オルフェノクのくせに、人間様にヤラれる理由なんか要るかよ。」

 

 カイザ、草加雅人は大きくブレードをスィングバックしてポーズを取る。狙うは木場勇治とスタッグビートル。

 

 ダッシュっ!

 

 巨大な閃光の杭となってカイザが両者に突進、

 

「オートバジーン、ゴーっ!」

 

 割って入る、

 

 カイザの切っ先が木場勇治に触れるか触れないかという瀬戸際、横から勇治を抱えて空へ舞い上がる一陣の巨躯。それは分厚い装甲に身を包んだ人型、アクチュエーターが関節の各部から露出し、背中と腕に細身の車輪を身につけている。

 

 構わずカイザはもう一方へ、

 

「ぉっあ!」

 

 拘束状態から横腹にブレードを受けるスタッグビートル。

 

「やれやれ、木場を逃した上、あのクワガタも致命傷に至っていない。だが、状況はまだ優位だ。」

 

 スタッグビートルに一閃加えたカイザは振り返る。攻撃を受けてなお灰にならないスタッグビートルを正面に捉え、今度はベルトの背面より双眼鏡を取り出す。それはマンションで深夜使っていたあのカラフルな双眼鏡。そのまま右足へ装着。その名も《カイザポインター》。

 

『ready』

 

「ぅ・・・・ぅ・・・・そっちのベルトも、・・・強いじゃ・・・・」

 

 カイザブレードのダメージを受け肩で息をするスタッグビートル。その顔にイエローの光が斜め上から差す。見上げると、既にカイザが飛翔し既に蹴りの体勢に入っていた。

 

『exceed charge』

 

 ポインターマーカー光!

 

 カイザポインターから照射される紡錘の杭。その形状はX。カイザは両足を揃えて腕を伸ばし、体全体Tの字になって降下。

 

「でぃやっっっっ!」

 

 降下した両足の蹴撃は杭を圧し込み、カイザ自身と共に透過、スタッグビートルオルフェノクは炎を上げる。これがカイザ必殺23,5トンの《ゴルドスマッシュ》。

 

「木場くん・・・・君がどう思おうと・・・・僕はオルフェノクになる事で素直な・・・・本当の自分になれたよ・・・・・」

 

 スタッグビートルは一旦人間の像へと戻り、勇治を眺めた。そして微笑みながらくすみ、灰となって崩れ去る。

 

「オートバジーン、カモーン!」

 

 地上10メートルで勇治を抱えたままの鉄の人型は、そのままホバリングでカイザの頭を飛び越し、二人の男女の前に降り立つ。

 

「あぶなかったな。」

 

「木場さんっ!」

 

「海堂さん、園田さん、僕は・・・」

 

 男女はあの海堂直也と園田真理。海堂が鉄の人型の胸元に触れると、人型は複雑なギミックで変形し、バイクの形状となる。それは真理の元に送られた花形からのバイクだった。

 

「よくやったオートバジン。ちゅーか真理ちゃんはバージン?」

 

 真理は会場からただ逃げたわけではなかった。雅人と海堂直也に連絡を取り、そして近くに駐輪していたオートバジンを劇場前まで持ってきたのである。

 

「あほパンチ!それより木場さん。」真理は勇治の腰元のベルトに目をやる。「いいんですよ。無理にベルトで戦わなくても。」

 

 勇治もまたベルトに目を落す。

 

「僕は・・・・すまない。」

 

 その3人に向かって、ようやくダメージから回復したモール、ムース、ジラフが飛び掛かってくる。それを見やった勇治の目つきに戦意が灯る。

 

「園田さん、後で話がある。」

 

 変身、再びファイズへ。

 

「木場さん。・・・はい。」

 

 真理に見守られながら、ファイズはオートバジンのグリップを一本握る。乗る為ではない。グリップだけを車体から分離して引き抜く。それは一本のブレードのように見えた。《ファイズエッジ》。

 

『ready』

 

 ファイズエッジに紅い光が灯る。

 

『exceed charge』

 

 ファイズエッジをアンダースローで振りかぶると一条の紅い光線が地を走り、先頭を向かってくるモールに直撃、それはカイザと同じく拘束する為の光。ファイズのそれは地面にサークルを刻印し、下から上へ紅の光を吹き出しオルフェノクを浮き上がらせる。オルフェノクは空中を浮遊しもがく事になる。

 

 さらに二条の紅光、

 

 同じようにジラフ、ムースも浮遊、

 

「やぁっ!」

 

 一閃二閃三閃、

 

 拘束されたオルフェノク3体に一閃ずつ走り抜け様斬り込むファイズ。

 発火し、くすみ、灰となった跡に浮かぶ3つのΦマーク。オルフェノク三体を立て続けに葬り去るファイズであった。

 

「ファイズは一対多の戦いに特に秀でる。」海堂直也の目は勇治でなくファイズを眺めていた。

 

「木場さん。」真理は期待に応えてくれた勇治を温かく迎えようとした。

 

「僕はファイズだ、ファイズでなければいけないんだ。乾くんが帰ってくるまで。」

 

 勇治が真理の元へ駆け寄ろうとしたその時、背後からゆっくりと近づく者がいた。カイザである。

 

「強い強い。さすがはファイズギアだ。」カイザブレイガンは既にブレードへ展開している。

 

「?」

 

 ファイズはこのカイザの一連の行動を誤解という一文字で済ませようとしていたところだった。そしてそれを証明するかのように整然と近づいてくるカイザ。整然過ぎる。

 

「オルフェノクのくせに!」

 

 振り上げ斬る!

 

「なぜ?!」

 

 突如カイザの攻撃。火花散るファイズのボディ。

 

「草加くん!やめてその人は違うっ!」

 

 真理の制止を効かず、カイザの攻撃が打ち続く。数条闇雲にカイザブレイガンを打ちつけた後、下から掬い上げるようにファイズギアを引っ掛けた。外れるギア。たちまち解けるファイズの変身。

 

「君はいったい、」

 

 生身となってしまった勇治は、葛藤した。再びオルフェノクとなってしまいそうな自分と抑止する自分、カイザの不可解な行動、そして命の危機。全てが葛藤してただ立ち止まる勇治。その勇治をカイザは逃さない。

 

 蹴りっ!

 

 を、

 

 カイザの蹴りを鳩尾に食らって吹き飛ぶ勇治。数メートル蹴り飛ばされアスファルトに叩きつけられる。

 

「いかんな。あれは確信犯だ。オルフェノクならなんでもいいらしい。カイザとファイズではスペックが違い過ぎる。まともに戦っても木場くんに勝ち目はないだろう。」

 

 海堂直也は、一部始終観察していた。

 

「ねえ、どうすればいいの?なんとか止めて誤解を解かなきゃ。」

 

 真理は必死で、海堂直也の言う事を半ば聞いていない。

 

「オレが行こう。」

 

「え?」

 

 真理はハゲオヤジでしかないこの男が何を言い出したか理解できなかった。

 

「大丈夫。オレの鋭い嗅覚は、処女と非処女を嗅ぎ分ける事ができるのだ。フフ。」

 

 真理の肩に手を置き、ニコリと笑う海堂直也。口元の隙っ歯が無ければもう少し様になったのだが。

 

 

 

 を、

 

 数メートル蹴り飛ばされアスファルトに叩きつけられた勇治。仰向けで大の字になっている。ピクリとも動かない。

 

「木場さん。木場さん!」

 

 真理が駆け寄ってくる。だがそれでも勇治は動かない。

 

「起きてくださいっ!」

 

 真理は勇治の胸元に縋った。心臓の音がしない。悟って震え出す真理。

 

「起きてください、どうして、こんな、草加くんに、こんな、こんな事で死なないでくださいっ!」

 

 泣きじゃくる真理。その健康的なストレートの髪を毛根から毛先にかけて撫でる掌があった。

 

「木場・・・・さん?」

 

 唐突に開く勇治の両目。

 

「大丈夫。大丈夫だ。心配かけてしまったね園田さん。」

 

 依然目は戸惑いを見せる勇治。記憶を手繰り寄せているのかもしれない。

 

「木場さん、死んだかと思った・・・、草加くん、一体なにをやっているの!もうやめてよ!」

 

 あちらの方では草加と海堂直也の戦いが既に展開されていた。勇治も真理の視線の先を手繰るように戦いを眺める。

 

「そうか、海堂さんが本気になったか。大丈夫、海堂さんを信じよう。それより起してもらえるかな。」

 

「はい。」

 

 上体を起す勇治は、そのまま真理の手を借りてなんとか立ち上がる。

 

「君に話す事があったんだね。」

 

「はい。」

 

 勇治は真理の目を逸らさず見るよう心掛けた。真理もまたまっすぐ勇治の目見た。

 

「オルフェノクは九死に一生を得た人間から生まれる。生命力の限界を越えた時急激に人間を進化させるという話だ。」

 

「はい。」

 

「だがオルフェノクの発生はそれだけじゃない。人はオルフェノクに殺されると、半分くらいの確率でオルフェノクになるんだ。海堂さんによるとオルフェノク特有の共生生物が流れ込むらしいんだが。」

 

「はい。」

 

 真理の震えが伝わってくる勇治。

 

「君は・・・・」

 

「半年前のあの時、オルフェノクになっちゃったって事ですよね。」

 

 勇治に向け思い切りの笑顔を向ける真理。勇治の表情が哀しくなった。

 

「その可能性が高い。でも・・・・」

 

「やったぁ、木場さんとこれでお似合いですね・・・・、」笑顔から一条の涙が流れる。「でも巧に・・・・巧になんて言ったらいいんだろう・・・・」

 

 震えが止まらない真理。勇治から手を放し、俯き、両掌で顔を覆う。巧にもう会えない、巧にもう会えない、とだけ繰り返す真理だった。

 

「大丈夫。君が君に負けない限り、まだオルフェノクになると決まったわけじゃない。」

 

 そう、自分の自制心にも言い聞かせる勇治だった。

 

 

 

「君が草加雅人君だね。本社からベルトを奪って逃げたという。」

 

 勇治を弾き飛ばし、さらにトドメを刺そうと勇治の元へ歩み寄るカイザ。だが海堂直也の声がそれを制止した。

 

「あ~ん」

 

 振り返るカイザの目にはただの頭の寂しいイカれたオヤジにしか見えない海堂直也がいた。

 

「カイザとは全く因果だ。君はよくカイザを使いこなしている。先を読み対手を誘導する戦略眼、対手のパラメーターを完全に認識した上での空間把握は天才的と言ってもいい。」

 

「何もんだオマエ。」

 

「海堂直也36歳O型、ミュージシャンを挫折したただの流しだよ。」

 

「どっかイケオッサンが。」

 

 視線が再び勇治に向けられ足を進めようとするカイザ。

 

「オルフェノクならなんでもいいのだろ。」

 

 像が人間からオルフェノク、ヘビのそれに変る海堂直也。スネークオルフェノク。弁髪のような髪型はそのままというのがあるいは海堂直也らしい。

 

「そうかいそうかい」再び向き直り、スネークオルフェノクを見止めたカイザ。「オレに殺して欲しいってことだよなっ!」

 

 ブレードを振りかざしスネークに向かって駆け寄るカイザ。

 

「カイザギアの欠点は、」

 

 左を大きく横に半円描いてブレードで斬り込むカイザ。そのカイザブレイガンを持つ手首に下から掌底を加えるスネーク。

 

「く、キサマ」思わずカイザブレイガンを落してしまう。

 

「フォトンブラッドの流れが不安定で大きすぎることだ。」

 

 そのまま腹部へ掌底、

 

「ぐぉ」

 

 と叫んでカイザの体が宙を浮く。

 

「フォトンブラッドのイエローカラーはあまりにも流動量が多すぎる。この多過ぎる流動量の制御がカイザの動きを重くする。当たれば強力だが。」

 

 

「キサマっ!」

 

 尻を着いたカイザだったが、すぐさま立て直してパンチを繰り出す。

 

「君はそれをよくカバーし、状況を作る事を心掛けているが。」

 

 スネークは待たない。前に踏み出し、首を捻る。弁髪がムチのように撓ってカイザの眼元を直撃。

 

「ぐわ」

 

「攻撃が計画的に過ぎる故奇襲に弱い、」

 

 奇襲され視界を一瞬奪われるカイザへ、さらに掌底。先と全く同じ腹部。

 

「アーマーが!」

 

 同じ位置への執拗な圧迫はついにカイザの装甲を割る。カイザはやや後退するも攻撃をやめようとしない。右腰から取り出した正方形に近い形状の物体を取り出し、右腕に装着。それはあたかもナックル。《カイザショット》。

 

『exceed charge』

 

「そう君は正しい、たとえアーマーの一つや二つ砕けようとも速い対手にはイニシアティブを渡さない事。だがカイザは、」

 

 しかし待たないスネーク。掌底の構えで間合いを詰める。しかし今度はフォトンブラッドを充填したカイザショットが待っている。

 

「ホザけ!オレが狙ってるのはカウンターだっ!」

 

 拳が交差する、タイミングを見計らったカイザショットの起動がやや速い、が、

 

「カイザは、起動からヒッティングまでが致命的に遅い。」

 

 先に食らうのはカイザ。掌撃をアーマーの割れた生身に食らう草加雅人。

 

「ぁぁぁぁ、・・・・きさ・・・・ぁぁぁ!」

 

 それはカイザショットの威力も相まって雅人を撃ち飛ばした。激痛にもがき苦しむ雅人。

 

「カイザフォンは貰っておくよ。」

 

 もがく雅人のベルトからカイザフォンだけ取り出すスネークオルフェノク。途端カイザの変身が解ける。

 

「・・・・つ、強い・・・・」

 

 海堂直也もまた人間の像へと変貌する。

 

「ちゅーか預っておこう。君程カイザの適格者はいない。全く因果なベルトだ。オレのアオさとエゴがにじみ出ている。」

 

「そうか・・・海堂直也だなキサマ。・・・あの村上に匹敵する実力を持ち、ベルトを作ったあの・・・」

 

「言っただろ。私はただのミュージシャン崩れだよ。」

 

 

 

「元々三本のベルトは、皇のベルトを模して作られたものだった。」

 

 カイザフォンを放り上げて弄ぶ海堂直也。その目はずっと宙を撥ねるカイザフォンに固定している。

 

「海堂さん。僕は何も言ってないですよ。」

 

「君の聴覚は承知している。」

 

 勇治はその海堂直也を訝しんでいる。

 

「海堂さん。差し障りが無ければ。」

 

 海堂直也は、目線を真理に移した。真理は勇治の元を離れ、倒れ未だもがいている雅人に駆け寄っていった。

 

「大有りだが、喋ってしんぜよう。」

 

 海堂直也の話は十年前に遡る。

 後に社長となる村上峡児と同期の海堂直也が、『ライダープラン』にマスタープランナーとして参加した時期がそれに当たる。

 基本的には『皇のベルト』の機能をコピーし、その他スマートブレイン社内で進めている様々な新進技術を平行して加え、トータルな技術開発プラン、開発成果のスピンオフをも視野に入れた皇を守る装甲歩兵計画、それが『ライダープラン』である。

 

「花形さん。」

 

 超硬度超軽量装甲ソルメタル、フォトンブラッドを用いた光線兵器、衛星からの物質転送による無限補給、この三つを支柱とした装甲スーツ第一号はデルタギアである。フォトンブラッドは、オルフェノクが持つ特有の電磁パルスと同期するエネルギーをフォン内の常温反応炉で生成したもの。技術的に可能な最高レベルのエネルギー、白銀のフォトンブラッドでスーツを循環し、あり余るパワーを背景に既存のあらゆる兵器に対抗しうる現代最強のスーツ。それがデルタギア。だがデルタギアには致命的な欠陥があった。

 

「紛らわしいわね。」

 

 白銀のフォトンブラッドが、装着者と同期して体内に過剰なエネルギーを流し込み、ついには対手を倒すどころか装着者の体組織となる電磁パルスリンクを破壊し灰にしてしまうのである。

 

「じゃあ明子さん。これは、なんですか。」

 

 海堂直也は驚愕する。一つは不死とすら思っていたオルフェノクが灰になって死ぬという事。そしてもう一つは皇を守る為、延いてはオルフェノクを守る為のベルトが、オルフェノクを打倒する決定的な兵器たり得る事である。

 

「やっぱり貴方は勘がいいわね。そうよ。その通り。」

 

 装着者はその膨大なエネルギーの奔流に耐えられる強力な一握りのオルフェノク、即ち強力な意志の者に限られてしまう。装着者を選ぶ兵器は兵器たりえない。そこで、次のギアが作られる。

 

「じゃあオルフェノクに脅威となるこんな計画を立ち上げた貴方の意図が知りたい。」

 

 次に作ったのがフォトンの密度を抑制し、黄のレベルにまで落して流す事で、肉体への負担を軽減したギア。第二号カイザギアである。

 

「オルフェノクってなんだと思う。」

 

 カイザギアはフォトンブラッドの流動密度を落したが、ダブルストリームなどスーツ自体の構造を改善する事でデルタに比して85%のパワー維持に成功する。それは並のオルフェノクが最強クラスのオルフェノクを打倒しうる力を持つという事であった。

 

「人類の進化形じゃないんですか。貴方と初めて遭ったあの夜、貴方自身からそう聞いた。」

 

 実用上デルタに匹敵し、周辺アイテムの充実で、実効能力はデルタを超えるカイザであったが、フォトンの流動量はデルタよりもむしろ過剰であり、構造的な不安定性が海堂直也には不満であった。

 

「貴方は、そんな立場を据え置いてモノが考えられる人だと思っていたのに。つまらないわ。」

 

 黄のフォトンブラッドは、海堂直也は流動密度そのものは低くとも、もっとも安定し、もっとも流動速度の速い紅のフォトンブラッドでカイザやデルタを超えるギア作りを目指した。が、

 

「揶揄わないでください。いつもそうやって僕を、弄ぶ。」

 

 が海堂直也は研究を中途で投げ出し、突如失踪する。これが五年前。

 

「海堂。友人だと思っていた。」

 

「村上。第一企画部長だそうだな。おめでとう。」

 

「おまえ程のオルフェノクがどうして我が社から逃げる必要がある。」

 

「おまえ会社に隠れてナニやってんだ。」

 

「社の人間がウザいか。だったら施設と金を言うだけ用意する。オレがそれをちゃんとした仕事にしてやる。」

 

「オルフェノクの進化を急ぐ必要なんかどこにあるよ。」

 

「・・・・・。人間はいずれオルフェノクの存在に気づく。気づかれる前に我々の立場を優位にしておく必要がある。花形はヌルいのだ。おまえにとっても敵だろう。花形は。」

 

「違うな。どういう訳か花形さんは許してくれてる。だからオレもただ敬意を持つだけだ。」

 

「最後通牒だ。せめてオレの元にいろ。」

 

「オレは、よく分かんねえけど、おまえとも花形さんとも違うオルフェノクになるよ。」

 

「分かった。いずれ殺す。危険なのは、花形と、北崎のガキと、おまえだけだからな。」

 

 村上の手から海堂直也に一枚のカードが投げられた。

 

「キャシュカード、」

 

「どうせ後先考えてないんだろ。オレに何かあった時、それはおまえのものだ。それまでは貸しだ。暗証はおれ達のミナを殺した日だ。忘れてないよな。」

 

「借りようと思ってたとこだよ。」

 

 

 

「あの男は善人ではないが悪人でも無かった。ただ自分が耐えられた苦しみを、他人も耐えて当然と考えていただけだった。まあ昔話だよ。帰りの車ではオレが如何に天才科学者であるかを聞かせてあげよう。」

 

「いいですよ別に・・・海堂さん?」

 

 海堂直也の動きがピタリと止まる。目つきが戦闘のそれに変り、振り返り様像をスネークへと変貌させていく。だが既に遅い。

 

「油断したなぁ!」

 

 コバルトスマッシュ!

 

「サイっ」

 

「ふぁ!」

 

 コバルトの杭が既に海堂直也と木場勇治それぞれ同時に迫っていた。海堂直也はコンマ数秒でそれを認識し、コンマ数秒で木場勇治に体当たりを食らわして切っ先を逸らすが、杭の一つは海堂直也に直撃した。

 

「これはサイ・・・」地面に伏す海堂直也。コバルトのエネルギー余波を体中から発散させ呻いてる。

 

「海堂さんっ」勇治はなにが起ったのか未だ判別ができない。

 

 二人は見た。その視線の先に突如顕れた白い影を。まるで空間を切り裂いて出現したかのような超高速運動からの停止。ゆっくりと振り返って、二人と視線を合わせる。

 

「海堂さん、あれは、ファイズ?」

 

 白いスーツで全身を包み、まったく同じカラーのプロテクトを各所に着けている。その頭部の文様はΨ。

 

「あれは、サイガ。第三のベルトだ。」

 

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