【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう   作:アトハ

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第一章
第一話 レイナ、まっずいモンスターと出会う


「視聴いただき、ありがとうございました。それでは次の食卓で、お会いしましょう!」

 

 配信を切り、私――彩音レイナはリスナーに感謝を告げる。

 

 私は、学校に通いながら配信者として活動していた。

 もっぱらダンジョン内部の様子を配信する俗にいうダンチューバーというやつだ。

 

 あの憧れの大先輩のように、視聴者を笑顔にしたい。

 そして俗っぽい願いではあるが、願わくばダンジョン探索資金の足しにしたい。

 そんな輝かしい夢をともに飛び込んだ配信者の世界であったが―― 

 

 

「はぁ……。私、向いてないのかな……」

 

 私は、思わず深々とため息をついてしまった。

 

 今日の配信の視聴者数は7。

 半年近く活動して、同時接続者――配信を見ている人数のこと――が3桁を超えたことは一度もない。

 偽りようのない数字が、悲しいぐらいに現実を突き付けてきていた。

 

 

 数年前のある日、世界各地に異世界へと繋がるダンジョンが現れ大騒ぎになった。

 その非日常な光景に魅せられ、数多の人間が探索者としてダンジョンに足を踏み入れていく。

 命がけの冒険劇と、まるでファンタジー世界のような現実離れした光景。

 そんな魅力ある配信はみるみる人々の心をつかみ、またたく間に人気を獲得していった。

 「ダンチューバー」という新たな配信スタイルの地位を、確固たるものにしていったのだ。

 

 現在、ダンチューバーはレッドオーシャンであると言える。

 毎日のように新たなダンチューバーが生まれ、同じ数だけ埋もれていく。

 その中で、頭ひとつ抜きにでるのは並大抵のことではない。

 

 

「……って、愚痴っても仕方ないよね。切り替えて行こう」

 

 気がつけばネガティブな方向へと進みそうになる思考。

 私は、首を振って意識的に切り替える。

 

 ――来てくれたお客さんに、癒やしと笑顔を。

 そのモットーで私が始めたのは、ダンジョン産の素材を使った料理配信だ。

 もともと配信では、根強いファンがいるジャンルであった。

 そこにダンジョンという物珍しさを追加してみよう、という試みだったのだが結果は惨敗。

 同接一桁常連という底辺配信者が誕生しただけだった。

 

 

「このままのスタイルでは、限界があるか。やっぱりテコ入れが必要だよね」

 

 諦めるなんて選択肢はない。

 私は、動画サイトのトレンドを見ながら思考に没頭する。

 

 ――本来ダンジョンの中で、探索以外のことに気を取られるなど死亡フラグにほかならない。

 もっとも、私にとってこの辺は庭のようなもの。

 万に一つの事故もあり得なかった。

 

 

 ぐるるるるる……

 

「うっさい」

 

 ボスッ

 飛びかかってくるモンスターには鉄拳制裁。

 それだけでモンスターは肉塊に姿を変え、見ていたモンスターたちは恐れをなして逃げ出していく。

 

(こんな姿、癒やし配信では絶対に見せられないよね……)

 

 これでも私は、清楚系ダンチューバーで売っているのだ。

 こんな姿、もしファンの視聴者に見られでもしたら……、

 

(まあ、ファンなんて居ないんですけどね!)

 

 

 自虐的な思考を振り払い、私はテコ入れ案を求めて動画ランキングを上から眺めていく。

 

 ――フロアボスを、ソロでつっついてみた!

 ――大ギルド・ダイダロスとの紛争勃発!? ダンジョン探索人生、終了の危機www

 ――ゾンビに喰われた冒険者の末路wwww【グロ注意】

 

(最近、大丈夫?)

(昔は、こんなんじゃなかったのに……)

 

 炎上商法一歩手前の迷惑動画に、R18ギリギリのスプラッタ動画。

 いつから、こんなものがダンチューバーの主流になってしまったのだろう。

 

 私が好きだったダンチューバーたちは、もっと輝いていたと思う。

 まあ伸びてない私が何を言っても、負け犬の遠吠えなんだけど。

 

 

「う~ん。スプラッタで伸びてもなあ……」

 

 スプラッタ――通称、事故配信。

 ダンジョン配信の最中、モンスターに襲われ命を落とすグロ映像。

 ショッキングな映像ではあるが、新たな刺激を求める視聴者にとっては魅力的でもあった。

 

 

「別の、考えよ……」

 

 私は、パタリと配信を閉じる。

 

***

 

 テコ入れ案を考え続ける私は、淡々とダンジョン出口に向かって歩き続けていた。

 中層に差し掛かった頃。

 

「きゃあぁぁぁ!」

 

 私は、そんな悲鳴を聞きつける。

 

 

「……危ないっ! どうして、こんなところに人が!?」

 

 悲鳴の主は、心配するようにそう私に声をかけてきた。

 

 

 声の主は、20前後の大人びた女性であった。

 同業者だろうか。

 黒いポニーテールを束ね、両手で短刀を油断なく構えている。

 

 

「えっと、お姉さんは?」

「ここは私が食い止めるから。だからその隙に逃げ――」

「……?」

 

 ぐるるるるる……、

 

 

 彼女は、モンスターの群れと交戦中のようだった。

 

「うっさいよ」

 

 食べられないモンスターは嫌いだ。

 ひとつの配信ネタにもなりやしないし。

 

 

「すみません、お姉さん。そこの獲物、頂いても?」

「へ? そりゃあ構わないけど……。って、馬鹿なことを言わないで逃げ――」

「ありがとうございます」

 

 ――私のストレス発散の糧となれ

 

 

 伸びぬ同接。

 育たぬチャンネル。

 食えもしないまっずいモンスター。

 

 

「邪魔」

 

 ちょっぴり私はイライラしていたのだ。

 無感情にそう言い放ち、私はまっすぐモンスターに向かって駆け出すのだった。


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