【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう   作:アトハ

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第十八話 レイナ、サインをドヤ顔で披露する

 ある日の放課後。

 私は、配信をするべくパソコンの前に座っていた。

 

 

 今日は、雑談配信の日。

 

(色々と考えないといけないことはあるけど――)

(悩んだときこそ楽しく配信するよ!)

 

「今日も食卓から、癒やしをお届け! 食材のみなさん、こんにちは~!」

 

"おつおつ~"

"こんレイナー!"

"こんレイナ~!"

 

 雑談配信であっても、5万人前後のリスナーが来てくれている。

 さすがにダンジョン配信と比べれば数字こそ下がるが、ただ私が喋っているだけの配信にこれほどの人が来てくれることに驚きだ。

 

 私は、今日も学校であったことをゆるゆる話していく。

 

 

「そういえば、みなさんサインって求められたことってありますか?」

 

"いきなりどんな質問w"

"もちろんあるぞ"

"↑↑妄想乙"

"ダンチューバーなら、一度は妄想しながらサインの練習したことあるはず"

 

「最近、サインを求められることが多くてですね――」

 

 ちなみに配信でお願いしたおかげか、学校前に人だかりが出来るような事態はなくなった。 

 その代わりなのか、クラスメイトたちの襲来が止まらない。

 まるで有名人の追っかけでもやっているかのような勢いで、休み時間のたびに私の元に突撃してくるのだ。

 

 ――どうにかして!?

 と千佳にヘルプを求めれば、これもファンサービスの一環として、今のうちに慣れた方が良いなんて言っていた。

 私としても、まあすぐに落ち着くだろうと今は楽観視している。

 

(世の中の有名人たち、どうやって日常生活を送ってるんだろう――)

 

 ふと、ゆきのんの私生活が気になった私である。

 

 

 そんなわけで私は千佳の勧めもあり、サインにはなるべく応えるようにしていた。

 しかしサインをした相手が、軒並み微妙そうな顔をするのが最近の悩みなのである。

 

「せっかくサインも作ったので、できる限り応えるようにはしてるのですが――」

 

"登校したらレイナちゃんがいる学校、羨ましすぎるな"

"ちゃんと応えてるの偉い!"

"レイナちゃんパンフレットの配布を心待ちにしております!"

 

 

「どうも私のサインが下手なのか、あ、ありがとう(なにこれ……)みたいな反応されることが多いのが最近の悩みなんです――」

 

"反応がリアルすぎるw"

"落ち込むレイナちゃん可愛い・・・"

"てかサインもらってその反応とか、何様やねん"

"どんな代物でも一生の宝ものにする自信あるわ"

 

「これなんですけど……!」

 

 ジャーン!

 私は、練習していたサインを配信に載せてみた。

 昔、徹夜で考えた第一案にブラッシュアップを重ねた超自信作である。

 

"こ・れ・はwwww"

"なんやこれ(困惑)"

"何したらこうなるのw"

"↑↑約束どおり一生の宝ものにしてどうぞ"

 

"ドヤ顔レイナちゃん可愛い"

"飾ったら呪われそう"

 

 食材のみなさん!?

 熱い掌返しに、私はぷくーっとふくれっ面になる。

 

 

「あ、マネージャーからルインが――」

 

 えっと……?

 

「その禍々しい紋様を、はよ配信から消せ? ()――マネージャーまで!?」

 

"草"

"マネージャーから即連絡くるのは草"

"もうマネージャーとコラボ配信しようw"

"微妙にマネちゃんも人気出てきてるの草"

"ちょくちょく雑談で話題に出てるけど、スペック底知れないんだよな・・・"

 

 ちなみに千佳にお願いしたサイン候補は、難しすぎて断念した。

 アルファベットの筆記体が混じったような、デザイン性の高すぎるものが上がってきたのである。

 あとやっぱりサインは自分で考えたいなあ……、なんて。

 

 

 総スカンを食らい、私は渋々サインを配信から取り下げる。

 自信作だったのになあ――。

 

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"↑↑いっそ、これがサインで良いだろw"

"サイン練習配信?"

 

"また新たな画伯が生まれてしまったのか・・・"

"切り抜くのやめて差し上げてw"

"《望月雪乃》れ、レイナちゃんのサインならどんなものでも欲しいかなって・・・"

"必死でフォローするゆきのん天使"

 

(雑談配信だけだと、さすがにネタがなくなりそうだったし)

(本当にサインを配信で決めるのもあり――? 後で千佳に聞いてみよ!)

 

 私は、そんなことを考えながら次の話題に移る。

 

 

 

「そういえば昨日、ユージ先輩に誘われて晩ごはんを食べてきたんですが――」

 

"ふぁっ!?"

"ゆーじ先輩って誰よ!?"

"あーあ……"

"唐突にユニコーン焼き尽くそうとしてワロタ"

 

(ほえっ!?)

 

 私の中では、ただの雑談だった。

 探索中に知り合った女性(・・)探索者(探索者歴を考えると先輩。ハンドルネームはユージ)とご飯を食べてきただけのこと。

 そこの大食いチャレンジで、歴代一位を叩き出してしまったなんて実に他愛のない話。

 

 しかし、コメント欄の反応が何やらおかしい。

 

"何があったんですか!"

"そのゆーじ先輩って人、レイナちゃんには釣り合わないと思う"

"絶対むっつりスケベ"

 

「へ? 物凄く良い人ですよ。配信、いつも頑張ってて偉いって。いつもご飯おごってくれますし――」

 

"ご飯で釣られちゃったのかあ"

"レイナちゃん、餌付けされたらホイホイ付いていっちゃいそう……"

"敵はレイナちゃんを知り尽くしている"

"ゆーじ先輩って人との馴れ初めは?"

 

「へ? その、ダンジョンに潜りたてのときに。いっぱい食べる姿が可愛らしいねって――」

 

 加速するコメ欄に、私は微妙にパニックに陥りながらも答えていく。

 

"ゆーじ先輩って誰よ"

"特定班はよ"

"唐突な寝取られにより脳を破壊されました"

 

(!?!?)

 

 私が、困惑していると、

 

 

"《鈴木 千佳》うちの子が、大変に紛らわしい発言を申し訳ありません"

"《鈴木 千佳》ゆーじ先輩は、ただの女性探索者です。いや、本当にどうしてこんなに誤解を生じるようなことを……"

"《鈴木 千佳》うちの子、見ての通り食べ物にしか興味ないので、どうかご安心を!"

 

「あ、千佳だ」

 

 失礼な!

 食べ物以外にも、興味はあるわい。

 例えば、フロアボスの調理法とか……。

 

 

"マネージャー降臨したww"

"本名アカウント大丈夫?"

"マネちゃん、めちゃくちゃ焦ってそう……"

 

"そんなことだと思ったw"

"レイナちゃんが幸せなら、何でも良いけどね!"

"てぇてぇ"

"一瞬で鎮火して草"

 

 頭にハテナを浮かべる私をよそに、

 

 

"《鈴木 千佳》とりあえず、レイナは後でお説教ね"

"残当"

"マネちゃんの胃はもうボロボロ"

 

 コメント越しに怒れる千佳の姿が見えた気がした。

 

「はい――」

 

 私は、素直に頷くしかなかったのである。

 

 

 

※※※

 

 ――その日を境に、千佳はちょこちょこ配信にコメントを残すようになった。

 曰く、ルインに連絡を送る余裕すらないヤバい状況だったらしい。

 

 幸い切り抜きで面白おかしく取り上げられたぐらいで、特に火種になることはなかったけれど。

 あのまま誤解が広まれば、一気にファンが離れる大炎上に繋がりかねなかったとのこと。

 

 

 アイドルに恋人はご法度。

 そんな遠い世界のような話を、千佳にこんこんと諭されて、

 

(アイドルって……、誰!?)

(いや、恋愛なんてする気もないし、相手も見つかるはずないんですけどね!?)

 

 思わぬアクシデントに見舞われながらも。

 

 

(この失態は得意の料理配信で、取り返して行くよ!)

 

 私は、次の配信でとっておきのネタを選ぶことを決意した。


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