【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう   作:アトハ

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第三章
第二十四話 レイナ、ファンクラブに驚く


 収益化配信の翌日。

 

 

「いち、じゅう、ひゃく、せん…………ぇえええええええ!?」

 

 私は、投げられたスーパーチャットを前に頭を抱えていた。

 

 ――8桁、ある。

 何度数えても、8桁もあるのである。

 

 

 1年間、毎日焼肉食べ放題にいってもお釣りが出そう。

 というか……、

 

(奨学金、返せちゃう……)

 

 現実味のない数字を前に、私はしばらくフリーズしていたが、

 

「千佳ぁ~~~!」

 

 私は頼れるマネージャー、こと、悪友に鬼電するのだった。

 

 

 

※※※

 

 千佳の研究室にて。

 

「千佳ぁ! これ、どうしよう!?」

「収益化配信、スパチャランキング1位。おめでとう、レイナ!」

「なにそれ!?」

 

 あの配信は、各所でランキングを騒がせる歴史的なものとなってしまったらしい。

 

 

 実際、配信画面に表示された額は、常識では考えられない額だった。

 感覚が麻痺しそう。

 

(今なら毎日、焼き肉の食べ放題に行っても――)

 

 私はそんな誘惑を前に、ぶんぶんと首を振り、

 

「千佳ぁ、千佳ならこれどう使う?」

「う~む、そうやなあ……。まずは研究設備は一新するとして……、事業拡大のために投資していく必要もあるな。となるとあの辺の企業を買収して――レイナ?」

「はえー…………」

 

 キラキラと未来を語る千佳は、とっても知的に見えた。

 大人の女性、格好良い。

 

 

 私は、千佳の手を握り、

 

「分かった! 私、千佳に全額投資する!」

「いや、待って!?」

 

 短絡的すぎる! と真面目な顔でお説教された。

 私よりも、よっぽど上手く活用してくれそうだと思ったんだけどなあ。

 

 

「レイナ、詐欺とか気をつけるんやで。食べ物と小難しい話、駄目絶対」

「食べ物と小難しい話。駄目絶対……」

 

 悲しいかな。

 食べ物に釣られてやらかす自分の姿は、容易に想像できた。

 

 やっぱり千佳に預けるのが、正しい気がしてならない。

 

 

「あ、それと確定申告が必要になるで」

「へ? なにそれ」

「そうやな。簡単に言えばウチらが打ち倒すべき……、年に一度の悪魔や!」

「なるほど、よく分からないけど分かった!」

 

 元気よく答える私。

 

 

 その後、私は少しだけ説明を聞くことにした。

 確定申告とは、何やら税金を納めるための七面倒臭い手続きらしい。

 

 30秒で頭がパンクして、一瞬で眠くなってくる。

 ……ギブアップ!

 

「千佳ぁ。それ、やらないと駄目なの?」

「逮捕されたくなければ残念やけど……。でもレイナなら、専門家に丸投げしちゃうのが手っ取り早いかなあ――」

「専門家!」

 

 私は、じーっと千佳を見る。

 

「良い人紹介するで」

 

 縋るような目の私を見て、千佳はため息をつくのだった。

 

 

「あんまり夢のない話はしたくないんやけどな――」

 

 それから千佳は、少しだけ真面目な顔で話し出す。

 

 ――バズったダンチューバーの末路。

 金銭感覚が狂い、金遣いが荒くなった人々。

 一度身についてしまった金銭感覚は戻らず、借金で首が回らなくなった人も多い。

 そんな少しばかり闇が見え隠れする話。

 

 

「ブランドのもののバッグ? 別荘?」

 

 私は、きょとんと首を傾げる。

 

 正直、まったくもって必要ない。

 それならダンジョンで、未知の食料を探している方がワクワクするというもの。

 

 私が何を考えているのか分かったのだろうか。

 千佳は、ふと苦笑しながら、

 

「まあレイナなら大丈夫やと思うけどな――お金は持ってて困ることはない。大事に貯めときや」

「うん、そうする」

 

 私は、こくりと頷くのだった。

 

 

 ――なお、ちょっとしたプチ贅沢はご愛嬌。

 今日の晩ごはんは、コロッケを1つ増やしてしまった。

 とても美味しい。

 

 

 

※※※

 

 それから1ヶ月ほど経った。

 私は、特に変わりない日々を過ごしている。

 

 

 チャンネルは凄まじい勢いで成長を続け、ついにはチャンネル登録者数150万人という大台を突破した。

 海外からの登録者も多いようで、配信時にはちょこちょこと外国語のコメントも見られる(なお、私は全く読めない)

 英語の勉強、頑張ろう! と決意した日があった。翌日には挫折していた。

 ――すっかり常連になってくれた英検さんには、足を向けて寝られない。

 

 

 学校も平常運転だ。

 実技では「教育係に回れないか?」と頼まれ張り切っていたが、翌日には「やっぱり無しで……」なんて申し訳なさそうに断られ。

 私の感覚が独特すぎて、どうやっても参考にできる物ではなかったらしい。解せぬ。

 

 学校と言えば――いつの間にかファンクラブができていた。

 ……いや、ほんとになんで!?

 

「由緒正しい学内の中で、ファンクラブなんてもの! 相応しくないですよね!?」

 

 通りがかった先生――軍曹を問いつめる。

 あわよくば解散に持ち込めないかと思っていたら、軍曹がファンクラブ副会長だったという驚きの事実。

 ……この人はもう駄目かもしれない。

 

 ちなみにファンクラブのエンブレムは、鎧に齧りつく天使をモチーフにしているらしい。

 熱心な軍曹の説明を聞いて、私は死んだ目になった。

 

 

 放課後は、週3回程度の頻度でダンチューバーとして配信している。

 この配信頻度は、毎日配信は負担が大きすぎるいう千佳の判断によるものだ。

 とっても過保護な千佳なのである。

 

 相も変わらず雑談配信とダンジョン配信が、私の主なコンテンツだ。

 もっぱら今の私の目標は、深層で見かけたマナだまりを美味しく頂くことだ。

 

「マナ中毒って、耐性つくのかなあ――」

 

 ペロっと舐めただけで、吐き気が収まらなくなったのは軽いトラウマである。

 マナの過剰摂取によるマナ中毒。

 毒耐性スキル――完全敗北の瞬間である。

 

 

 そんな日々の中。

 ぽけーっと自宅でテレビを見ていた私の目に、とあるニュースが飛び込んできた。

 

「本日国会で、ダンジョン新法が可決されました。これまで我国では、ダンジョン素材の換金に原則としてライセンスが必要でしたが――」

 

(ダンジョン新法?)

 

 ダンチューバーとして活動する私にとって、他人事ではない。

 私はもぐもぐとカレーを口に運びながら、ニュースに意識を向ける。

 

 

 これまでダンジョンで拾った素材を換金するには、特殊なライセンスを保持している必要があった。

 原則、学生は換金不可。お金のために、身の丈に合わない階層まで潜ることを防ぐための法律だが、いろいろな問題を抱えていると非難されていた。

 実際、私にとっても素材の換金ができないのは、死活問題だった。

 

 この法律、禁じているのは素材換金だけであり、立ち入りそのものは禁じていないことにも非難が集まっていた。

 表向きでは探索者の保護を高らかに謳いたい。だけど、ダンジョンの情報は普通に欲しい。

 そんな政府の板挟みと、アドバイザーとして口を出した探索者組合の思惑。それらが合わさった歪な法案だって、千佳が吐き捨ててたっけ。

 

 

 今回の新法で、一部例外を除けば、深層に入るためには専用のライセンスが必要になったらしい。

 当然、学生の身ではライセンスなど取得できるはずもなく……、

 

(そっかあ。卒業するまで、深層はお預けかあ)

(とりあえず上層~下層に美味しいものが眠ってないか、見直してこよう!)

 

 私は、最近レンタルを始めた調理器具たちに思いを馳せるのだった。

 

 

 

※※※

 

 翌日の昼。

 私は、久々に上層で配信を開始する。

 

 

「今日も食卓から、癒やしをお届け。食材のみなさん、こんにちは~!」

 

"こんレイナ~"

"こんレイナ~!"

 

「今日は、久々に――」

 

"上層ってこれまた珍しい……"

"やってくれたな、ダンジョンイーグルスw"

"このタイミングで深層封鎖は、さすがに露骨すぎて草。レイナちゃんへの宣戦布告だろこれ"

 

"お、全面戦争け? わいらも協力するで"

"レイナちゃん、普通に元気そうで良かった"

"鷲なんて調理しちゃおう"

"ギルドページ、めちゃくちゃに荒らされてて笑う"

"残当"

 

(んんんん……?)

(なんでダンジョンイーグルス!?)

 

 食材のみなさん、何やら荒ぶっていらっしゃる!?

 

 

 荒ぶるコメント欄。

 私は、目を白黒させることしかできなかった。


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