【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう 《書籍化&コミカライズ、書籍1巻8/29より発売開始!》   作:アトハ

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第四十三話 最前線へのアタック配信(6)

「それじゃあ、皆さん。メインディッシュを採りに行きましょう!!」

「「「うぉおおおおおお!!!」」」

 

 私たちは、気合十分でボス部屋に突入する。

 

 

 ――ダンジョンのボス部屋。

 そう呼ばれる空間は、守護者であるモンスターの特色に応じて様々な姿を見せてきた。

 たとえば巨大なゴーレムがボスとなっている部屋は、荒れた岩場が目立つ岩山を模した空間だった。

 虎型モンスターが守護者をつとめたボス部屋は、草木の覆いしげる草原を模した部屋だったりもした。

 

 デスクラブと名付けられたカニ型のフロアボス──それが私たちの相手だ。

 部屋に入るなり、粘度の高い生ぬるい風が頬を撫でる。空間としては、湿地帯といったところだろうか。

 中央に大きな湖があるドーム状のフィールドで、ぬかるんだ床に足を取られれば、実力の半分も発揮できないだろう。

 

 私のようにフィールドを駆け回るタイプの探索者にとっては、不利と言われている空間であった。

 

(床が駄目なら、基本的には壁と天井で戦うことになるかなあ?)

 

 私が、そんなことを考えていると、

 

 

「彩音、今回の作戦の内容は把握しているな」

 

 軍曹が、念押しとばかりにそんなことを聞いてきた。

 

 (む……。この眼差しは、私が授業中爆睡してる時の目つき!)

 (私だって、こんなときぐらいはちゃんと話聞いてるもん)

 

 私は胸を張り、ドヤ顔で答える。

 

「はい! 私たち前衛部隊が足止め。魔術師さんたちがドカンとでかいのをぶち込んだら鍋の時間です!」

「はは、そう言われると随分と簡単なことのように思えてくるな」

 

 私の答えに、軍曹はそう苦笑い。

 

"足止め(ワンパン)"

"極端なまでに単純化された作戦で草"

"レイナちゃんがチームプレイ!?"

"即席チームやし、それで正解やろ"

 

 コメントの流れも、いつにもまして早い。

 

 

「デスクラブ。奴の攻撃は、巨大なハサミによる打撃と、凶悪な水流魔法がメインだ。また奴の潜む水場は、濃厚な瘴気で満ちている。引きずり込まれたら一瞬でお陀仏だ──決して深入りはしないように!」

「「「はいっ!」」」

 

「危なくなったら、すぐに控えメンバーとチェンジすること! 必ず、全員で生きて帰るぞ!」

「「「はっ!」」」

 

"軍曹ってやつ、何者だ? きちんとこのメンバーまとめてやがる"

"レイナちゃんの教官や"

"アルテマの元ギルマスって噂もある"

"レイナちゃんの手綱握れる奴が、ただ者な訳ないんだよなあ"

 

 そんなやり取りを聞きながら、私は軍曹に考えていたことを質問する。

 

「軍曹、その……」

「どうした、彩音。その……、おまえは未成年だし、やっぱり危険な場所を受け持つ必要なんて──」

 

 ちなみに私が受け持つのは、右の巨大なハサミ部分。

 足止め要因として、一番大変かつ重要なポジションらしい。

 ちなみにもう一方のハサミは、海外チームの2人を中心に対処するらしい。

 

 そんな大雑把に決まっていった役割分担。

 私としては、ただチェンジが上手くできるかだけが心配なところである。

 

 でも今気にするべきは、そんなことじゃなくて……、

 

「軍曹、カニって鍋と焼くのどっちが合うと思いますか?」

「……なんて?」

 

 私の大真面目な質問に、軍曹はポカンと口を開けた。

 

"レイナちゃんwww"

"相変わらず緊張感のかけらもねぇ!"

"両方すれば解決"

 

「天才ですか!?」

 

 食材さんからの天才的な書き込みにより、私は一つの真理に辿り着く。

 カニ鍋とバーベキュー。どちらが美味しいのか──答えはシンプル。

 両方とも食べれば良いのだ。

 

 私が目をキラキラさせていると、

 

「おまえを見てると悩んでるのがバカらしくなってくるな──」

 

 軍曹は、そう脱力し、

 

「総員、位置につけ。これよりデスクラブとの戦いに入る!」

「「「はっ!」」」

 

 キリッとした顔でそう宣言。

 ついに戦いの火蓋が、切られようとしていた。

 

 

 

※※※

 

 作戦の第一段階は、斥候部隊が敵を誘い出すことだ。

 

 いかに準備を整えた状態で、ボス戦を開始できるか。

 おろそかにされがちだが、何よりも重要な工程だと語るのは軍曹だ。

 

 斥候隊の1人が、水辺のギリギリまで近づき首を傾げる。

 いまだにボスが姿を現さないのだ。

 

「奴はどこだ?」

「まさか捕食者に恐れをなして逃走を?」

 

 以前のアタックでは、ボスは水中に潜んでいたらしい。

 近づくものに反応して突如として姿を現し、不意打ちを仕掛けてきたらしいが――、

 

 

「……ッ! いかん、上だ!」

「「「!?」」」

 

 突如として、軍曹が鋭い声をあげた。

 反射的に上を見ると、視界に入ったのは数メートルにも及ぶ灰色の巨体。数多の冒険者を返り討ちにしてきたカニ型モンスターが、こちらに向かって落下してくるところだった。

 

「いかん! 散開しろっ!」

「くそっ、前来たときはこんなことは……!」

「前のことは忘れろ!! 気をつけろ、敵は高度な知性を持ってる。油断したら一瞬で全滅だぞ!」

 

 どよめく探索者たちに、軍曹がそう喝を入れた。

 デスクラブの落下予測から、慌てて距離を取ろうとする探索者たち。

 

(美味しそう――じゃなくて……)

(なんだろう、嫌な予感がする)

 

 フロアボスとの戦いは、初見殺しの連続だ。

 油断すれば、喰われるのはこちらなのだ。

 

 

 私は、注意深くデスクラブを観察し、

 

(そうか、敵の狙いは……!)

 

「皆さん! 盾を持った探索者の陰に隠れて下さい。敵の狙いは魔法による各個撃破──私が吹き飛ばします!」

「……は?」

 

 何を言ってるんだこいつは、という顔で私を見る軍曹。

 しかし今は、説明する時間が惜しい。

 

「ミライちゃん。ちょっとごめん!」

「任せるッス!」

 

 私は即座にミライちゃんに駆け寄り、軽く飛び上がった。

 そのままミライの突き出した拳に足を合わせ、勢いよく空に飛び上がる。

 

(ひえっ、ミライちゃん容赦ない!)

 

 凄まじい勢いで、空に射出される私。

 私でなければ、ダメージを受けていたところだ。

 

"と、飛んだ〜〜!!!"

"【朗報】レイナちゃん、ついに連携を覚える"

"ミライちゃん全力で殴ってるw"

"てか、なんで魔法だって分かるの??"

"野生児の勘やぞ"

 

 デスクラブの狙いは、隊列が乱れたところに魔法を打ち込み探索者を倒すことだろう。

 巨体での押しつぶしに見せかけ、本命は魔法による砲撃。

 デスクラブのハサミからは、凄まじい魔力の奔流が立ち上っていた。今にも魔法が射出されようとしているのだ。

 

(させないよ!)

 

 私は、バウンティタイガーのオーラをまとい、

 

 

「あっはっはっは、私の糧になれ!」

 

 全力で、拳を叩きつける。

 

(弱点部位は……、ここ!)

 

 私が狙ったのは、右側の大きなハサミの根本の部分。

 魔法の狙いを逸らせれば御の字。

 態勢を建て直す時間を稼げれば良い。

 そう思っていた私の一撃は、

 

 ――ものの見事に、デスクラブの右ハサミを根本から引きちぎった。

 

"ワロタ"

"美味しそう"

"消し飛ばなくて良かったな"

"↑↑レベル2000に全力で殴られて無事ですむわけないだろ、いい加減にしろ!"

"全員がポカンとしてて草"

 

 

(あれ? 意外と効いてる……?)

 

 私の役割は足止め。

 軍曹の口ぶりから推測するに、私がいくらぶん殴ったところでダメージにはならないと思っていたけれど……、

 

 

 私は天井にしがみつき、デスクラブを注意深く観察した。 

 部位破壊――体の一部を破壊され、スタン状態に陥っているように見える。

 それにしても……、

 

「本当に美味しそうですね」

 

"草"

"※ダンジョン最深部での感想です"

"捕食者に目をつけられたらもう終わりよ"

"捕食者からは逃げられない"

 

「私の捕食者って二つ名、どんどん広まってるんですが何でですか!?」

 

"鏡見て"

"その前に敵を見てw"

"なんでこの状況でコメ欄凝視できるの、この子……"

 

 心配症のリスナーさんに怒られ、私は巨大カニに向き直る。

 どうやらスタンが回復したデスクラブは、またしても魔法を準備しているようだった。

 

(ハサミを壊して魔法を妨害しながら、地面に叩き落とす!)

(できれば傷つけずに倒したかったけど、さすがにそんなこと言ってられないよね)

 

 私はそう判断。

 天井を勢い良く蹴り、弾丸のような速度でデスクラブに突撃する。

 狙いは、魔力の溜まったハサミだ。

 

「えいっ!」

 

 全力で殴り飛ばし、私はハサミを吹き飛ばす。

 更にはその巨体を足場に、私は再び空高く飛び上がった。

 

 それから繰り返されるのは、似たようなやり取り。

 カニさんも途中からは、私をハサミで捕らえようとしたり、体当たりしようとしてきたがサッと回避。

 カウンターで、ハサミを引きちぎっていく。

 

「あっはっはっはっは!」

 

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

 

 

 魔法の危険が無くなったころ、私は軍曹にこう尋ねる。

 

「軍曹、撃ち落として良いですか?」

「…………あ、ああ」

「では、ここからは作戦通りです! カニ鍋のため、みなさん頑張りましょう!!」

 

"軍曹、困惑してて草"

"おまいら口開いてるぞ"

"俺たちはいったい何を見せられてるんだ……"

"料理やぞ"

"捕食シーンやぞ"

 

 

 私は軍曹の答えを聞くや否や、デスクラブに渾身の踵落としを叩き込む。

 

 まともに喰らったデスクラブは、凄まじい勢いで地面に吹き飛ばされ。

 ――激しい轟音とともに地面に激突し、ピクリとも動かなくなった。

 

 

(敵は、最前線のフロアボス)

(何をしてくるか分からないし、ここからが本番だよね……!)

 

 第2形態、第3形態があってもおかしくない。

 カニのすぐそばに着地した私は、警戒態勢を続けたまま、

 

「では皆さん、イレギュラーはありましたが、ここからは作戦通り。えっと前衛後衛で分かれて、私は右ハサミ担当で! えっと、えっと……!?」

 

 私は、そこで困って言葉を止める。

 肝心のハサミは、すでに宙を舞い、湖に沈もうとしていたからだ。

 

 

 ピクリとも動かぬカニ。

 おもむろに歩み寄るは軍曹。

 そうして、しばらく何かを観察していたかと思うと、

 

「――なるほど、もう死んでるな」

 

 ぽつりと一言。

 

"ぽかーん( ゜Д゜)"

"ぽかーん( ゜Д゜)"

"ソロ狩りしやがったww"

"貴重な食料が湖に沈んでいく~!?"

 

 驚異的な速度で流れていくコメント欄。

 

 

「あ~!? メインディッシュ~~!?」

 

 続けて、私の悲鳴が響き渡るのだった。

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