【悲報】清楚系で売っていた底辺配信者、うっかり配信を切り忘れたままSS級モンスターを拳で殴り飛ばしてしまう   作:アトハ

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第六話 バズってからの初配信(1)

 翌日の朝。

 私――レイナは、新宿ダンジョンを訪れていた。

 有言実行、料理配信のためだ。

 

 ちなみにスマホは、千佳に新しいのを借りた。

 配信を切れず物理的に破壊したことを伝えたら、アホの子を見る目で見られたけどご愛敬。

 

 

 そんなこんなで、すでに配信枠は取ってあった。

 ちらりと見えた配信待機人数は、33000……33000人!?

 

「は、は、は、はじめまして? 本日はお日柄もよろしゅう――?」

 

"めちゃくちゃテンパってて草"

"かわいい"

"落ち着いて!"

 

 凄まじい勢いのコメント欄。

 

 

 私は、ダンジョン探索で培った探索眼をフル活用。

 コメント欄を追いかけていく。とんでもない黒歴史を晒した後だからと心配していたが、おおむね好意的なコメントばかりのようだ。

 

「ごめんなさい! こんな人数の前で配信するのは初めてで――」

 

"ドラゴンゾンビは、どうすれば倒せるようになりますか?"

"ゆきのんとのコラボはありますか!"

"今日のパンツの色は?"

"どこの事務所所属ですか?"

 

「ドラゴンゾンビは……、気合いで? 雪乃先輩とコラボ……!? わ、私なんかがおこがましいですよ!」

 

 加速スキルを駆使して、私はコメントに応えていく。

 せっかく配信に来てくれて、更にはコメントまで残してくれたのだ。

 真摯に応えなければ。

 

「パンツの色は……えぇっ、千佳どうしよう!? 事務所は無所属ですよ!」

 

 そんな感じに質問に答えていたら、

 

 

"????"

"画面バグった……?"

"謎の早送り演出好き"

"ライブ配信風の動画なのかな"

 

(あれえ……?)

 

 なにやらコメント欄の様子がおかしい。

 私が反応に困っていると、ルインになにやら着信があり、

 

 

「ええっと、コメントは全て返す必要はない……?」

 

 届いたのは、千佳からのそんなコメントだ。

 千佳いわく、たまたま目についたコメントを拾う程度で良いそうだ。

 いや、少し落ち着けば、たしかにそうなんだけど……、

 

(どのコメント拾うか、どうやって選ぶの!?)

(その方が難易度高いよ!)

 

 私の内心の悲鳴をよそに、

 

 

"うっそでしょw この速度のコメ欄追えてるの!?"

"いや、いきなり草"

"なんたる才能のムダ使い"

"挨拶代わりに分からせていく女"

 

 なぜかコメント欄はお祭りムード。

 ……解せぬ。

 

 

 その後、私は改めてリスナーさんに向けて自己紹介する。

 

「初めましての人も多いと思うから自己紹介させて下さい。

 私は、彩音レイナ――主に料理配信をしているダンチューバーです」

 

"楽しみにしてました!"

"例の動画を見てファンになりました!!"

"すごく格好良かったです!"

 

「えっと……、ありがとう」

 

 こういうとき、気の利いたことでも言えれば良いのだけど。

 あまりコミュニケーションが得意でない私にできるのは、もじもじとお礼を言うぐらい。

 

 

「でも、できればあのことは記憶の奥底に封印しておいてもらえると――」

 

"( ゚∀゚)/あっはっはっはっは!"

"食えないっ、邪魔!"

"どこにも食用部位がないのよね――"

 

「やめてぇぇぇぇぇ!?」

 

 おかしいな!?

 配信始まったばっかりなのに、私のコメント欄、無駄に一体感ありすぎる。

 

 

"それで今日は何を作るの?"

"グルメ配信楽しみ!"

 

 本題に入るよう促すコメントも見えたところで、

 

「それじゃあ、まずは素材を採っていこうと思います!」

 

 私は、安全地帯を抜けてダンジョンを潜り始めるのだった。

 

 

 

※※※

 

 新宿ダンジョン――それは上層、中層、下層、深層から成る大型のダンジョンだ。

 

 それぞれの「層」は、更にいくつかの地区に分かれていた。

 探索が一番進んでいる層を便宜上「深層」と呼んでおり、第九地区まで探索が進んでいる。それより先は完全に謎に包まれていた。

 深層の奥深くまで進み、生還した探索者は存在しないのだ。

 

 

(まあ私みたいな料理配信者には、最前線は無縁だよね)

(深層のモンスター、食べてみたいなあ)

 

 私が安全マージンを持って潜れるのは、精々、下層が良いところだ。

 

 

 そんなこんなで、私はダンジョン下層に潜り始めた。

 

"へ? なんでこの人、下層に潜ってるの?"

"ただの自殺志願者で草"

"えぇ……(困惑)"

"なになに、どういうこと?"

 

(……あれ?)

 

 なにやらコメント欄が騒然としている。

 何を作るかはサプライズだったけど、とりあえずどの素材を使うか説明するべきかもしれない。

 

「とりあえず下層の第四地区で、ブティキノコ集めます!」

 

 今日はキノコ鍋の予定だ。

 第四地区はちょっと進めば美味しいお肉も取れるし、良い狩り場なのだ。

 

 

"下層の第四地区って、天国への入り口って呼ばれてるあの……?"

"しかもブティキノコって、毒キノコじゃねえか!"

"散歩感覚で、死地に迷い込む女"

"何から何までクレイジーで草"

 

「こ、この辺ならいつも潜ってるので大丈夫ですよ!」

 

 天国への入り口――その呼び名は聞いたことがある。

 たしかに慣れないと危険だけど、安全マージンは十分に取っているつもりだ。

 

 

"《望月 雪乃》早まらないで!? 危なすぎるって!"

"ふぁっ!?"

"ゆきのんだ~!"

"本物で草"

 

「え、雪乃先輩……!?」

 

 突然の大物の登場に、私は思わず意識を持っていかれ、

 

 

 カチッ!

 床のボタンを踏み抜いてしまう。

 

"うわぁぁぁぁ! モンスターハウス踏み抜いたぁぁぁぁ!!"

"うっ、トラウマが……"

"流石にやべえって。救援隊間に合うか?"

"《望月 雪乃》あわわわわ、私のせいで!?"

"《望月 雪乃》私が助けにいけば! いや、下層とか秒殺されちゃう……"

"落ち着いてゆきのん!?"

 

 モンスターハウス――それはダンジョンに仕掛けられた罠のひとつだ。

 踏み抜いた対象を閉じ込め、モンスターを寄せ集めるというものだ。

 

 深層であればまだしも、下層なら大した問題はない。

 問題あるとすれば……、

 

 

「くそまずいモンスターしか集めないんだよね、この罠……」

 

"いや草"

"モンスターを捕食対象としか見てないのホンマに草"

"レイナさんなら問題ない"

"《望月 雪乃》助けは、助けは――"

 

 トラップに引かれて現れたのは、総勢100体ほどのモンスター。

 

(ああ、もう! 料理配信はテンポが命!)

(早く素材集めに行きたいのに~!)

 

 

「邪魔」

 

 ぽつりと呟き、私はサクッと片付けるべく戦闘態勢に入るのだった。


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