其れではどうぞ
病室で話すより屋上で話した方がいいと気分的な問題で翼の病室から病院の屋上にやってきた
風を感じている翼の後ろ姿を響は見つめ、猫と青愛は少し後方で屋上の柵に背中を預けて2人を見つめていた。
病室と違って解放感溢れる場所だからか、風に当たると少し気分もいい。
そんな感情に一瞬だけ浸り、翼は一気に顔を真面目な表情へと変化させた。
翼
「今の私は、こんな状態だけど報告書を読ませてもらってるわ。
前々から頑張りは認めているの」
響
「いいえ!私はまだ・・・みんなに助けられっぱなしです!」
翼
「そう
其れだけど聞かせてほしい。
貴女が戦う理由を」
響と正面から相対し投げかけた言葉。
しばし目を閉じて考えた後、響は正直に自分の思いを告げる。
響「…どう答えたらいいかどうか解りませんが、これだけは言えます
きっかけは、やっぱり2年前の事件かもしれません。
沢山の人がそこで亡くなりました。
だからせめて……」
翼
「代わりになりたい、と思った?」
翼の知っている響は、そう答える人間だった。
響
「そう思う事もありましたけど猫に注意されて改めてじっくり考えたんです
その私、勉強とかスポーツとかって誰かと競い合って結果を出さなきゃいけないじゃないですか。
私、そういうのはどれも苦手で。
だけど今は自分の意思で人を助けたいと思っています。
私らしく、私なりに、私が出来る事を」
そして響は、ずっとずっと、例え戦う理由は変わっても、根底にある決して変わらぬ気持ちを強く口に出した。
響
「私の、人助けを」
無言で聞いていた翼は、微笑んだ。
一応猫に注意されてあんまり危ない考えを持っていなかったが響が戦う理由が少し曖昧だったが
クリスと出会って戦う理由がしっかりしており翼は今の立花響ならば認められる、共に戦おうと思えた。
翼
「貴女らしいポジティブな理由ね。……貴女が戦う理由も持たぬまま戦場に立つのなら、私は貴女を受け入れる事が出来なかった」
響
「翼さん……」
翼
「でもね、気を付けてほしい」
微笑んでいた翼の顔は再び真面目な顔に、心配をするかのような表情へと変化した。
翼
「自己犠牲による他社の救済は前向きな自殺衝動のようなもの。
自分を犠牲にする事による自己断罪の表れなのかもしれない」
響は度の過ぎた人助けを行う事がある。
例えばそれは弦十郎をして『歪』と言わしめた、命を賭けての人助け。
即ち、戦場に立つ事。
翼もまた、誰かの為に自分を犠牲にして奏を失いかけて少しだけ感じた罪悪感から逃れようとしていたかのようだった。
だからこそ、少しだけだが響の歪みを感じ取ったのかもしれない。
翼
「でも、貴女の気持ちに嘘も他意もない事は分かった。
だから、もう一度聞かせて」
翼は表情を鋭く変化させた。
射抜く様な目とでもいうべきか、響に嘘も戯言もいらないと言わんばかりの目を向ける。
翼
「力の使い方を知るという事は、即ち戦士になる事。
延いては人としての生き方から遠ざかる事。
貴女に、その覚悟はあるのかしら?
と言っても今の貴方は有るでしょ?」
前の響と今の響を見比べていた翼がこう呟いていた
僅かでも響の事を少し認めているような感じで
響
「はい。師匠や猫や青愛達から色々な事を教えてもらってます。
今の私には、師匠や猫達のようにはなれないんですけど、せめて自分にできる事で皆の役に立てたら良いと思っています。」
翼
「それは良い答えね。
だけど、それは前向きな自殺衝動なのかもしれないし、自分が傷つくことで誰かが助かりという名の自殺衝動なのかもしれないわ?」
翼の言葉を聞いていた響は
響
「翼さんはさっき報告を聞いているって言っていますから知って居ると思いますが、数日前に行ったデュランダル移送計画中の事を」
響は報告を聞いていると思っている翼に、自分がデュランダルを触れて闇に呑みこまれた事を話した
響
「その時の記憶がなく、師匠や猫達から話を聞いた時は驚いたんです。
守るどころか正直怖かったんです。
でも…」
猫
「響?」
青愛
「響…」
猫と青愛は心配する
響
「今は、自分の意思で誰かを助けたいんです。
いつまでも守られた事を、負い目に思いたくはないから」
それが立花響の理由だった。
図らずもそれは此処に居る、皆が思ったこと、それと同じだったのだ。
だからこそ響はシンフォギア装者として戦うことも選んだのだ。
響
「そしてもし、相手が人間なら。
どうしても戦わなきゃいけないのかっていう胸の疑問を、届けたいです」
覚悟を構えた今の響なら、きっと力を引き出せる
其れを見た翼は
翼
「…うん。
その思いがあれば、貴女にもアームドギアは何時か現れてくれる。
その強い意志をしっかりと思い描き続けていれば、それが貴女のアームドギアになるわ」
風鳴翼が立花響に送れる最大限の言葉だった。
その後、真面目な話が終わったのか響と翼はベンチに座って打ち解け合っていた。
翼が響を認め、響が軽々しく口にしてしまった言葉を反省した今、2人の間に蟠りはない。
猫と青愛は翼と響の下へ行こうとすると
響
「そうだ翼さん、お腹空きません?私は空きました!」
翼
「……え?」
響
「話を弾ませるには食事が一番!
私、ふらわーのお好み焼きをお持ち帰りしてきますね!
猫と青愛の分も買ってくるので待っててください!」
猫
「いや、ちょ、響!?」
青愛
「せめて食べたい奴を聞いてから」
猫と青愛の制止も虚しく、響は全力で立ち上がって満面の笑みで屋上を猛烈な勢いで去っていった。
唖然とする翼と、食べたいお好み焼きを聞かずにふらわーのお好み焼きを買ってくるという事に
猫、青愛
「「…ハァ」」
猫と青愛は溜息をつく
元々暇だった二人は特に話す事も無いとして遠くにいたが、こうなると三人共も
猫、青愛、翼
「「「……」」」
だんまりで空気が重い。
ロクに会話もない状況なのは十分だと思い、猫と青愛は翼が座るベンチに向かう。
近づいてきた二人に気付いた翼の方から会話は始まった。
翼
「猫、青愛、元気だな、立花は」
青愛
「無駄にですけど授業中は殆ど寝ているですね」
猫
「ハハハ」
そうだ、とか、元気なのは良い事だ、とか猫と青愛は絶対に言わない。
とりあえず何とか返答する。
翼と猫と青愛は3人で話した回数は殆どない
以前の翼が何物をも寄せ付けぬ感じだったのもあるし、士から話を振る理由もなかったからだろう。
猫と青愛もベンチに腰掛ける。
二人共目線は翼が座っている方向とは逆の方を向いている。
青愛
「もともと響が翼の見舞いに来たのは緒川に頼まれたから。
なんでも急に仕事が入ってお見舞いが出来ないから」
翼
「緒川さんが……?」
猫
「通話履歴があるけど」
唐突な話題だったが、翼は少し驚いて猫は証拠がある〔スパイダーフォン〕を出した
適当な話題を振って来たのかと思ったのだが、その表情が頗る真剣だったから。
猫
「緒川さんは翼さんと響の軽い親睦会の感覚で頼んだ感じでしたよ」
翼
「そう」
その後、猫と青愛と翼は会話が弾んで響が帰って来るまで話が進んだが響はふらわーのお好み焼きをテイクアウトして戻って来る事が無かった
ーーー
ふらわーでお好み焼きを席について待つ小日向未来の心は何時になく沈んでいた。
響、猫、青愛達は何かを隠していて、心配もさせてくれない事。
その事を遠回しに指摘して響を傷つけたかもしれない事。
そして、もう1つ。
未来
「…………」
響に言った通り、未来は本を借りようと図書室に向かい、ふと気になった本を手に取った。
題名は『素直になって、自分』。
本当は響に「事情を話して」とか「何があったの」と直球で聞きたかった。
でも、きっとそれは響に迷惑をかけてしまうから、秘密にしなければいけないから秘密にしているのだと自分を納得させていた。
しかしそれは無理矢理耐えているようなものだった。
そんな自分の気持ちと内容も知らぬ本の題名が妙に合っているような気がして。
その本を手に取っている時、彼女は見てしまった。
リディアンとリディアンの病院は当然ながら隣接しており、図書室から病室の一部が見える事もある。
そして見えたのは、響、猫、青愛が翼の病室で、仲が良さそうに翼と話している光景を。
図書室からたまたま見える位置に翼が入院していた。
響が翼の見舞いに行ったのも、そこに猫と青愛がいたのも、それを未来が見てしまったのも全てが偶然だ。
けれどその偶然は未来の心を締め付けた。
別に響達と翼の仲が良くても、それだけで未来はどうこう思うわけもない。
それを秘密にしていた事が何よりも気がかりで、翼に見せていた響の笑顔が何だか辛くて。
いつの間に響と翼が仲良くなったのかとか、どうしてそこに士先生がいるのかとか、色々と聞きたかったが、何よりも何故それを秘密にしなければならなかったのか。
本を元の位置に戻し、未来は更に心に暗い影を落とした。
其れに気がついたふらわーのの店主のおばちゃんが未来の元に来て
ふらわーのおばちゃん
「人の三倍は食べるあの子と双子のあの子達と一緒じゃないのかい?」
未来
「今日は、私1人です」
ふらわーのおばちゃん
「……そうかい。
じゃあ、今日はおばちゃんがあの子の分まで、食べるとしようかねぇ」
未来
「食べなくていいから焼いてください」
笑顔の応対。
明るく振る舞ってこそいるが、未来の面持ちは何処か暗い。
おばちゃんもそれを察しているかのように、気を使うかのように微笑んだ。
未来
「お腹空いてるんです。
今日はおばちゃんのお好み焼きを楽しみにして、朝から何も食べてないから……」
年の功と言うべきか、はたまた多くのお客を見てきたからか。
おばちゃんはお好み焼きを焼く中でも未来に辛い事があったのだと感じ取った。
それは、友人関係なのか、また別の事なのか、おばちゃんにそこまでは分からないがともかく悩みである事に違いはないだろう。
ふらわーのおばちゃん
「お腹空いたまま考え込むとねぇ、嫌な答えばかり浮かんでくるもんだよ」
いつだったか、人の3倍は食べるあの子にも送った言葉を未来にも教えた。
おばちゃんの持論だ。
食事という行為はコミュニケーションなども捗るし、食べ過ぎが無ければメリットが多い行為である。
人間は何かしらの満足感を得ると何処かポジティブになるものだ。
単純な精神論かもしれない。
それでも、未来にはそれがその通りであるように思えた。
未来
(何も分からないまま、私が勝手に思い込んでいるだけだもの。ちゃんと話せばきっと……)
それはあるいは気休めかもしれない考え。
だけど、未来の心はほんの少しでも前を向けた。
未来
「ありがとう、おばちゃん」
焼き加減を見つつ、未来の作り物ではない笑顔を見たおばちゃんは優しい微笑みを向けた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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次回もお楽しみに