ブルアカの恋愛いろいろ   作:安藤公正

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小鈎ハレ:後編

 数日前から約束していて、休日の昼前にハレとミレニアムタワーの前で待ち合わせをした。今日はあいにくの曇り空で、今にも雨を降らせそうな粘っこい黒い雲が空を覆っているが、予報では雨が降ることは無いらしい。

 生徒に話しかけられたりしながら、何とか時間通りにたどり着いたのだが、すでにハレは待っていた。

 

「ごめん、少し遅れたね」

「時間通りだよ。そ、それより先生……いいの?」

「? 何が?」

 

 あたりを窺いながら、小声で尋ねてきたハレに、私はとぼけた。

 

「結構見られてるけど……」

 

 私たちが交際していることを、他の生徒達にはあまり知られないようにしよう。もちろん無理に隠すことではないけれど、積極的に広める必要もない。といった事を、交際初期に話した。

 ハレはそれを、私が思った以上に忠実に守ろうとした。私がそんな事を言ったのは、誓って保身のためではなかった。

 客観的な事実として、私はキヴォトスの中ではかなり注目されている。そんな私と交際するハレに、奇異の視線が向けられるかもしれない。そんな不安があったのだ。

 

 ただ、私は徐々に、誰もが知っている公然の秘密のような形に持っていきたかった。つまり、私とハレが実は交際していたのだと明かしても、今更の話だとみんなが思うように。大げさに騒ぎ立てられないようにしたかったのだ。

 だが、私のその発言を、ハレは私が思った以上に深刻に捉えてしまっていたらしい。ハレは徹底していた。

 チヒロに頼んで調べてもらったのだが、私とハレが一緒にいることが多いのを怪しむ書き込みがいくつかあり、そしてそれらはすぐに消える。ハレは、徹底的に、私とハレとの関係を訝しむようなネット上の書き込みを消して回っているらしかった。

 

 私の自意識過剰でなければ、ハレも私の事を好いていると思う。そこにはあるいは、思春期らしい、私と恋人であることを誇りに思うような気持も隠れているかもしれない。

 

 そうでありながら、そういったことを否定するような行動をさせてしまっていた。

 

「だからね、ハレ」

「?」

 

 突然私が言うと、ハレは不思議そうに小首をかしげた。

「カップルシートを取っておいたから、さっそく映画に行こうか!」

「え……? え!?」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 映画館のカップルシート。横になったまま映画を鑑賞できる、ベッドみたいな座席。

 横になってみれば、沈み込み過ぎず、けれどすっぽりと型にはまったように落ち着く上等なシート。頭の位置にあるクッションは少しだけ硬めで、けれどちょうどいい角度でスクリーンを見る事が出来た。

 

「ハレもおいで?」

「う、うん……じゃあ」

 

 ハレと添い寝することは別に珍しい事ではないのだが、映画館というパブリックな場所では羞恥心を感じるらしい。ハレは少し躊躇してから、私の横に寝転んだ。

 

「あっ……」

 

 このシートの寝心地は別格だった。思わず声をこぼしたハレは、恥ずかしがったのか、わざとらしく咳ばらいを何度かして。

 

「確かに、いいかも。これなら映画も快適に見れるね」

 

 

 感動してぽんぽんと座席を叩くハレの手を握りしめる。

 ポップコーンやドリンクを置くためのホルダーが邪魔に感じられた。私とハレとの間に、不要なものが挟み込まれているみたいだった。

 

 時折、劇場にやって来た生徒たちに視線を向けられる。時間帯によるものか、ただの偶然か、このシアターに来る人は少なくて、私たち以外の客は片手で数えられるくらいだった。

 

「これくらいなら……大丈夫かな」

 

 言いながらハレは携帯端末を取り出そうとして、そこを私は止めた。

 

「ハレ、映画始まるよ?」

「う、うん。でも、プログラムを作動させるだけだから」

「……数人が私たちの事を書き込んだとしても、あまり影響はないよ?」

「そうかも……だけど…………? せ、先生? もしかして、私がしてたこと気が付いてるの?」

「チヒロに聞いたんだ。私とハレが付き合ってるっていう憶測をする書き込みを、ハレが消してるって」

「うん……今は自動的に判別して削除するプログラムを組んだから。でも、ずっと稼働させておくと異常があった時に怖いから、メンテナンスを重ねて、その都度動かすように――」

「ハレ。ハレが嫌じゃなかったら。もう隠したくない」

 

 気が付けば、劇場内は暗くなり、注意事項をキャラクターが話し始めていた。

 薄暗い劇場の中で、スクリーンから反射してきた白い光がハレの顔を照らす。普段、二人きりで過ごすことが多いネットカフェの環境に似ていた。騒がしい音と、狭い仕切りが存在しないことだけが、私を冷静にする。

 ハレの手を取り、指を絡め、顔を近づけた。

 

「私から知られないようにしようと言っておいて、なんだけどね……もちろんハレが嫌なら、これからも隠そうと思うんだけど」

 

 しばらくハレは考え込むような様子を見せて。

 ハレが答えるより先に映画が始まった。

 お互いの瞳は見える。眼だけで、続きはあとで話そうと伝えてみると、ハレは小さく頷いてくれた。それが本当に幸福だった。

 

 

 

 臨場感あふれる音響が、体を震わせる。VFXは派手だけれど不自然でなく。アクションシーンも無意味に繰り返されるのではなく、必要性を感じさせて、冷めることもなかった。

 つまりは、私は映画にのめりこんでいた。自分が今どこにいるのかも、隣にハレがいる事すら忘れて。

 

 ふと集中が切れた時、私に密着するようにハレがいた。先ほどまではドリンクホルダーが、小さくとも仕切りのような役割をしていたのだが、それを乗り越えてこちらにやってきていた。

 

「ハレ……?」

 

 小声で尋ねるが、ハレは何も言わない。ただ、映画ではなく私を見ていた。ハレの白い肌が、スクリーンからの白い光にも負けず、紅潮していた。絡めた指は熱く燃えるようで…………

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ハレと私が交際していることが知られ、少しだけ騒ぎは起きた。日ごろのキヴォトスの騒ぎに比べれば些細なもので、ヴェリタスやヒマリの助けもあり、良くないことは起きずに済んだ。

 映画館での出来事を、あの時いた誰かが録画してネット上にアップロードしていた時はダメだと思ったのだが、ハレが組んでいたプログラムで九死に一生を得た。

 

「今日はまた映画に行くの? それとも、もっと別の事をする?」

「たまには運動した方がいいんじゃない?」

「…………それはしてるし、最近は先生と一緒に外に行く事が増えたから……」

「そ、そうだったね。じゃあ、ネットカフェは?」

「ネットカフェ? いいけど……」

 

 結局いつも通り、普段行くネットカフェに入った。個室を選べば、天井間で壁があるし、防音にもなっている。暗くて狭くて、静かな空間だ。

 

 

 




 うまく書けなかった+ハレは最推しなので、また書くかと思います。

 次はミレニアム以外を書くかと思います。
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