殺戮機構   作:チキン

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トラル平野における戦闘

 

 突如として戦場に現れた黒い騎士。その細身からは信じられないほどの巨大な槌を振るうエルクダートの登場は戦場にいる者達の視線を釘付けにしていた。そしてイツキは通信を用いて自ら名乗りを上げていた。

 

 そんな中、当の本人もとい本機はというと。

 

(ああ、遂に始まってしまった……僕を使った戦争という名の殺し合いが)

 

 レラジェは自身に死という存在がひたり、ひたりと近寄ってくる感覚に陥っていた。というのも。

 

(体が重いな、タナトスエンジンの制限、それに物理的な制限を食らっているからなんだろうけど……体の操作も俺が動かそうとするとイツキとの操作との齟齬が起きて機能しづらいな)

 

 戦場という命のやり取りをする場所において体が重く身動きが取りづらいともなれば、死を感じるのも仕方の無い事だと言える。

 

(取り付けられた敵味方識別装置のお陰で戦況が分かりやすいのは助かるけど……あんまり良くは無いな)

 

 発せられる魔力の識別によって味方かそれ以外かを見分ける敵味方識別装置によりレラジェは敵対勢力のエルクダートの総数を把握する。そして帝国軍とファーレン皇国軍の戦闘状況の推移。

 

(逃げれるなら逃げたくはあるけど、無理だろうしなぁ)

 

 確実に削られていく推定味方の戦力。移動要塞アレスで見た情報通り、ファーレン皇国民の避難が完了するまで何が何でも持ちこたえなくちゃいけないらしい。

 

(移動要塞アレスは逃げ遅れた避難民の収容中。つまりはアマカヌスによる装備作成も行えない)

 

 そんな事を考えていたレラジェだがイツキの操作によって体が槌を構え始めた。

 

(おっと。イツキの戦闘が始まるか……まあ、最初に移動要塞を襲撃した奴らと兵装はほぼ同程度。ならそこまで最初から苦しい状況になると思えない)

 

 レラジェは移動要塞を襲撃してきていた帝国特殊部隊とのエルクダートの装備を比較してそこまでの差異が無い事を確認している。そして自身の性能を存分に発揮してエルクダート部隊を蹴散らした事から即死するようなことにはならないと考えていた。

 

 イツキの操作により槌を振るうレラジェ。その通常のエルクダートでは考えられない細い腕から繰り出される一撃によって帝国軍所属のエルクダートは防御など鎧袖一触で打ち砕くはずだった。

 

 しかし。

 

(あれ?)

 

 鉄と鉄がぶつかる鈍い音が響き渡る。槌の一撃を喰らったエルクダートは足を地面にめり込まながら後退する。だがそれだけ。レラジェの一撃を喰らった筈の敵は未だ健在。

 

(出力が思った以上に出ていない? いや今だってタナトスエンジンの稼働率は70%程度を推移している。なら単純に考えて30%程度しか低下していない筈の今の状況がおかしい)

 

 レラジェは困惑していた。タナトスエンジンを十全に、100%の出力を用いて全ての敵を殲滅した時と今の違いに。なぜ殺せないのか、なぜ出力が出ていないように感じるのか、なぜ自身が弱いのか。

 

 しかしレラジェが考えていても戦況はどんどん移り変わっていく。

 

 移動要塞からカタパルトを用いて射出された為、友軍エルクダートよりも突出してたレラジェ。故にレラジェは今まさに敵軍エルクダートに囲まれようとしていたのだ。

 

(やばいな……仕方ない、出来るか分からないけどサポートしてみるか)

 

 端的に言ってイツキのエルクダート操作技術は拙い。同年代と比べれば、士官候補生達と比べれば上位、トップを取れると言ってもいい。だが場数を踏んだ軍人達と比べれば話は別だ。戦場に出て経験を積んだ軍人が戦闘勘やエルクダートに関する知識の習熟を行っているのに比べればイツキはまだまだ未熟。動きは直線的で、戦闘における揺さぶり、対複数における自身の立ち位置、全てにおいて経験が足りない。

 

 いくら適合手術を受けているとはいえ、まだまだ未熟な青年。今のイツキはタナトスエンジンの出力を用いたゴリ押しのような手法が主となってしまうのだ。

 

 だからこそ。

 

(槌の振り、誤差を修正。敵からの斬撃を確認、回避行動、修正。蹴り、直撃位置、誤差を修正。複数体からの遠距離攻撃反応、回避行動、修正)

 

 イツキの拙い操作をレラジェ自身が修正を加えた。引き延ばした時間を用いる事によって、敵に防がれるはずだった自身の攻撃を一番効率良く敵に損害を与えるものに、被弾するはずだった攻撃を回避しカウンターを起こしやすい態勢に、全ての行動に修正を加えていった。

 

 レラジェが本来持っている性能は制限されていてもレラジェ自身の演算能力、反応速度、操作技術が失われることは無い。イツキの動きを軸にレラジェ自身が補正を加え、自身が有利に立ち回れるように戦闘を展開していった。

 

 被弾することなく、相手に効率良く最大限の損害を与え続ける。数的不利を感じさせること無く戦場を支配する。槌を振るえば敵は吹き飛び、装備が砕け散る。周りを敵に囲まれようが関係は無く、まるで人が動いているかのように動きで自然に攻撃を避けていく。

 

『クソがっ! 一体何なんだっ! このエルクダートはっ!?』

 

 今までのエルクダートとは違う何かに対する気味の悪さ。それは帝国軍のエルクダート操縦者の苛立ちが通信にも漏れ出ていた。

 

 敵のエルクダートが振るう剣を槌の柄で危なげなく受け止める。しかし衝撃でよろけるような事も無く完璧に衝撃を殺している。

 

(いい感じに補正が出来てる。ぶっつけ本番ではあったけど、イツキに違和感を与えてもいないし……だけど、それだけだな)

 

 だがイツキ操るレラジェではレラジェがどれだけ補正を加えようと、敵対するエルクダートに致命傷を与えることは出来ていなかった。

 

 それはイツキの根本的な操作技術の拙さ、レラジェを縛る枷、物理的な敵の数、敵軍の守りの意識などが原因として挙げられる。

 

 レラジェの強さがいくら異質であったとしても枷があるレラジェでは帝国軍エルクダート全てを相手しきる事など不可能だ。実際、現状レラジェが戦闘しているエルクダートは十機程度、他は変わらずファーレン皇国軍のエルクダートが戦闘を継続させている。一機で十倍の数の戦力を相手取れるなど破格とも言えるかもしれない。

 

 だが一騎当千、万夫不当の化け物をコンセプトとして作成された機体としてはあまりにもお粗末。しかしそれが現状のイツキ操るレラジェなのだ。

 

 レラジェが戦闘に参加した事で戦況が大きく変わる事は無い。エルクダート同士の戦闘は圧力が大きく緩和されたが、人間同士の戦いでは依然として劣勢だった。

 

「撤退だぁぁ!」

 

 しかし少なくとも結果は変わった。移動要塞アレスが護衛エルクダートを引き連れながらファーレン皇国避難民を収容して周った事で非戦闘員の死者は本来の死者数より大きく減った。そしてエルクダート戦における戦力としてレラジェが投入された事でファーレン皇国軍の戦力が磨り潰され続けるという結果は避けられた。

 

 朝から続いていた戦闘は日が沈む頃に終結した。トラル平野からファーレン皇国軍の撤退という形で。結果としてファーレン皇国は西部地域の一部を失った。

 

 ファーレン皇国兵の戦死者多数。エルクダート損失七機、中破三機、小破五機。トラル平野の戦闘においてファーレン皇国軍はかなりの痛手を被る事となった。しかし侵攻してくるダイン帝国にされるがままという訳ではない。

 

 ファーレン皇国はダイン帝国軍の侵攻に備えるべく、戦力を搔き集めている。そしてダイン帝国もファーレン皇国の侵攻を行う為に本隊が合流しようとしている。

 

 戦の狼煙はまだ上がったばかり。これからファーレン皇国は混迷を極める事となる。

 

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