殺戮機構   作:チキン

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眷属

 

 拘束が外れたレラジェだったが一歩も動く気配はなく、その場で佇んでいる。当たり前だ、オートパイロットとは言えども命令が無ければ動かない。管制室にいる司令はオートパイロットモジュールに命令を入力する為に指示を行う。

 

「よし、ならば……」

 

「えっ……これは」

 

「どうした、何か問題が起きたか?」

 

(オートパイロットモジュールによって無事に起動したなら、問題はもう無いはずだが……)

 

 オペレーターの驚いた声に司令は何か問題が起きたのかと問いかける。

 

「いや、でもこれ……うそ……」

 

 オペレーターは情報が次々に表示されるモニターを見て、何を呟きながら考え込んでいる。

 

「落ち着け、状況を説明しろ」

 

 司令は焦る気持ちを押さえつけ、敢えてゆっくりと尋ねる。オペレーターはジッとこちらを見つめる周りの視線に気づき、慌てて答える。

 

「は、はい、イレギュラーです! レラジェのニューラルネットワークに異常値確認! 学習領域の汚染が加速度的に行われています!」

 

「なんだと?」

 

(オートパイロットモジュールの稼働にはやはり問題があるか。まぁ、アレは製造方法からして問題が……)

 

 レラジェを含めた五機はオートパイロットモジュールとは別に、元々機能として敵に合わせて学習を行う。そして要塞アレスにて敵に合わせた武装、装甲、駆動へと改造するといった仕様だ。しかし現在、レラジェではオートパイロットモジュールという使わない筈だったイレギュラーが存在した。オペレーターが閲覧しているモニターではオートパイロットモジュールが学習領域を塗りつぶし、何かを形成していっていた。

 

「いや、それよりも……今すぐに学習を停止させられるか?」

 

「実行します……無理です! こちらの停止命令を受け付けません!」

 

 半ば悲鳴の報告を聞きながら司令は汗の滲んだ手を握りこむ。

 

「なら再起動はどうだ?」

 

 おかしくなった魔導具は再起動すれば大抵の問題は解消されている、という娘の声を思い出し、思わず提案する司令。司令の声を受け、キーボードを叩きモニターで何かを試算するオペレーター。

 

「……おそらく可能です。ですが、レラジェの学習領域に多大なダメージが発生すると思われます。予測では修復し稼働可能状態に持っていくまでには半月は掛かります」

 

「ぐっ……そうか。ならばこちらから行える入力は何かあるか?」

 

「停止命令を受け付けないだけで行動指針の設定は可能です……ただこちらからどれほどの影響を与えられるか未知数です」

 

「この際だ、かまわん。要塞内の敵を一掃するように命令を出せ」

 

「はっ! レラジェ、命令待機状態から実行状態への移行を確認」

 

(さて……ここからどうなるか、それが問題だ)

 

 数瞬の沈黙。管制室にいる幾人かの職員が息をのむ。自分たちの生死が明らかに現在進行形でバグを引き起こしている存在に託されているといっても過言では無い為、無理もないかもしれない。

 

「レラジェ、アレスへの上位接続権限を求めています」

 

「渡せ」

 

 もう迷いを振り切った端的な一言だった。

 

「上位権限をレラジェに付与します」

 

 瞬間。

 

『キィィィィィィン!』

 

 空気を切り裂くような音が要塞に鳴り響く。他にも警告音とともに鉄が引き振るような音が辺りに鳴り響いた。

 

「ぐっ……このうるさい音を停止させろ!」

 

 司令はその後も鳴り響く音にたまらず、音を停止させるように命令した。。

 

「はいっ! ……停止しました」

 

「一体何が起きている? 現状確認、急げ」

 

「「「はっ」」」

 

 管制室にいる職員は情報収集に務めるとともに、何人かは装備を整え管制室の外で目視による確認を行う。いや、正確には行おうとした。

 

「なっ、これは……司令!」

 

「今度は何だ!?」

 

 苛立ちで声が少し震えている。

 

「隔壁が……管制室付近の通路、全ての隔壁が閉じられています!」

 

「なっ!?」

 

「確かに、その通りのようです! 要塞内に存在する全ての隔壁が降ろされています!」

 

「……馬鹿な」

 

(全ての隔壁を降ろすという事、それは……今も遅滞戦闘を繰り広げている戦闘員、職員を全て見殺しにするという事なんだぞ!?)

 

 この管制室においても隔壁は順次展開していたが、それは交戦していた部隊が後退した場合や連絡がつかなくなった――つまりは死亡場合にのみ展開していた。しかしこれでは撤退することは無く、隔壁を降ろされた狭い室内で短距離の交戦を強いられることとなる。つまりは死亡するリスクが跳ね上がることと同義だ。

 

「他にも現在、この要塞内で最大音量の音が絶えず流れています」

 

「一体、オマエは何を……するつもりなんだ……」

 

 司令は未だこちらを仰ぎ見ながら佇むレラジェに問いかけた。

 

 

 

 

(よしっ! 敵の侵攻自体は食い止められてる。音で敵の集中力を削ぐ方も割といい効果を発揮してる)

 

 センサーや潰されていないカメラを通じて敵は全ての隔壁を降ろしたことで突破するのに手間取っている。代わりに使えなさそうな味方が死んでしまっているが誤差だろう。更にスピーカーで出せる音を最大まで増幅し、ぶつけ続けるといった方法も敵兵の集中を削いでいた。そして何人かの敵兵は意識を失い倒れている。

 

 これはレラジェも知らなかったことだが、敵兵の装備が関係していた。レラジェが敵として認識している兵士たちは帝国の特殊部隊だ。そして特殊部隊として存在するにふさわしい装備も保有している。ライフルひとつ取っても魔法による射程の増加、消音、軽量化、機密保持を行う為の自壊刻印など執念ともいえる高い技術。しかし高すぎる性能は諸刃の剣となりえることが存在する。

 

 それが収音装置。微かな音でも聞き逃さずに状況把握を行う為に存在する装置。勿論、大きい音は相応の処理がなされ出力される。しかしそれにも限度がある。そして処理を開始するまでに一瞬のラグが存在した。これは帝国の発展途中故の問題だといってもいいだろう。よって一瞬の大きすぎる音によって耐性がない者は昏倒し、現在進行形で大きすぎる音によって集中力を削り取られているわけだ。……これは交戦していた要塞アレスの職員も含まれてしまうが。

 

(まあ、ロボットの方にはあんまり効果ないみたいだけど……)

 

 エルクダートは相変わらず隔壁すらぶち抜き侵攻を続けている。

 

(味方のロボットは目の前の動かない四機以外、全部潰されてるし……僕がやるしかないかな)

 

 動く自分自身がロボットを殺すしかない。そう思考を固めたレラジェ。

 

(作業として並行して戦闘データでもダウンロードしておかないと!)

 

 そしてレラジェは要塞アレス内に保存されている戦闘を学習し始めた。その行為がもう人間だった頃の自分を逸脱しているとは気付かずに。

 

(さてと、今のうちに使ってみるか)

 

 レラジェは上位権限を用いてある意味でレラジェたちの根幹ともいえるような最重要設備にアクセスした。

 

 名をアマカヌス。本来はレラジェ達、改造エルクダートが収集、解析、学習を行った結果をアマカヌスに出力し、適した装備をリアルタイムで製造し適応させる設備として開発された。しかし。

 

(僕が用意した設計データをぶち込んで製造させれば学習データが無くても問題は無いよね?)

 

 レラジェは既に人間を逸脱した演算能力と学習能力を用いて、とある兵器の設計を行った。制作にかかる時間はおよそ20分。

 

 20分という戦闘において途方もない時間の中、並行で戦闘データを学習しながらレラジェはアレスの中に存在するデータを読み漁っていた。自分が置かれている状況を正しく認識する為に。

 

(はははっ! かなり愉快な状況に置かれているんだね、僕というかこのロボットは)

 

 ある程度の理解を示すレラジェ。これは人間の頃と違い、体感時間を何倍にも引き延ばすことが出来るといった能力を持つ恩恵だ。演算能力と20分という時間を引き延ばす能力があれば現在置かれている状況の理解はたやすい。

 

(……ふざけんな)

 

 理解と納得は別物であるが。ふつふつと怒りが湧いてくるレラジェ。敵にも味方にも同様の怒りが湧いてきてしまう。

 

(落ち着け、僕……味方を殺したところで何の得にもならないだろ?)

 

 自分自身に問いかけを投げ、精神の安定を図る。今、敵味方を問わず全員を殺したところで何の利益になるだろうか。むしろロボットの体であるレラジェにとって自分を整備する方法がない以上、デメリットしかない。

 

(まずは僕を死に追い込みそうな糞ヤロウ共の始末が先だ)

 

 センサーによって大勢の敵の反応を再確認するレラジェ。エルクダート以外は”コレ”で片が付くだろう。

 

 ふと浮かんできた前世の死のイメージをレラジェは振り払うように手を振るう。風を切る音とともにその高すぎる出力によって風圧が発生し、鋼鉄のドアが軋む。

 

(接続開始……アラクネ全機、起動)

 

 アマカヌスによって初めて作られたレラジェの手足であり、言わば眷属。

 

(見えた敵、全部……ぶち殺せ!)

 

 鉄の悪魔に率いられた眷属達による宴が今、始まった。

 

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