殺戮機構   作:チキン

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一方的試合

 

『タイガー01応答せよ、こちらハーピー01、Fブロック進行中。異常なし。少数の敵戦闘員との交戦、しかしこちらの損害は見られない。順次、隔壁を突破しながら進んでいる。オーバー』

 

『了解した。ハーピー01、作戦を続行せよ。オーバー』

 

 隔壁が破られ、壁の残骸や交戦した敵戦闘員の死体が転がる廊下で通信を行っているのは敵国――ダイン帝国の精鋭部隊の一つ。作戦指揮を行っているタイガー部隊の隊長に報告を行っていた。

 

「それにしても奴ら、思ったよりも臆病だな?」

 

「私語は慎め、ハーピー05。適地だからと言って油断は禁物だ」

 

「いいじゃねぇかよ、ハーピー03。そもそもこいつ等、隔壁閉じて閉じこもるだけなんだからな。戦闘員も雑魚だ、緊張する必要なんてねえよ」

 

「それでもだっ!」

 

「怒るなよ、ハーピー03。あーあ、今回は楽で良かったぜ」

 

 強いて言えば、このずっと流れている雑音がうるさい事ぐらいか、とぼやくハーピー05。声には出さぬがここにいる隊員のほとんどは同意していた。収音装置によって音は抑える処理がなされているが、それでもうるさく妙に甲高い不快な音は確実に集中力を削いでいた。

 

「二人ともそこまでだ。そろそろ目標地点だ、突入用意」

 

 ハーピー分隊である六人は各自フォーメーションを再確認し、廊下の突き当り右にある目標地点に向けて進んで行く。焦ることなく確実に。油断していようが彼らは帝国の中でも上位に位置する精鋭部隊。前衛の二人が身にしみついた動きで敵がいないかを確認する。

 

 瞬間。

 

 鉄の嵐が轟音とともに廊下を通り過ぎ、目の前を赤い霧が立ち込めた。

 

「なっ!?」

 

 一瞬の硬直の後、後続だった四人は壁越しに武器を構える。しかし敵はこちらに向けて銃撃を行う訳でもアクションを起こす訳でも無い。足音を確認しようとするが、廊下に響き渡る不快な甲高い音も続いており、聞き取りづらい。

 

『タイガー01 応答せよ、こちらハーピー01、聞こえるか? 応答せよ』

 

 いつまでも流れ続ける音で通信の声は聞こえないと踏んだ分隊長はタイガー隊と連絡を取ろうとする。

 

『…ち………ピ…………き………う…………た……』

 

 廊下に響く音とは別で耳障りな音が通信装置から聞こえてくる。分隊長は相手が何かを喋っている事だけは分かったが、ノイズが酷すぎて聞き取れるようなものでは無かった。鏡によって敵の姿を確認しようにも先の射撃によって甚大なダメージを受けてしまう可能性から断念した。

 

「くそっ! 通信妨害か。敵は?」

 

「はい、今の所、動きは感じられません」

 

 聴力に自信のあるハーピー02は不快な雑音の中から正確に微かな音を聞き分け、分隊長に報告する。しかしハーピー02は極度の緊張によって言語化出来ない違和感を吐露した。

 

「なんだ、これ?」

 

 しかし微かな声は分隊長には届かず。届いたとしても何か結果が変わったかと言われると微妙ではあるが。

 

「……仕方ない。ハーピー02、04、06、フォーメーションα3、攻勢に出る」

 

 分隊長の指揮によってハーピー04、06が足に力を込め、分隊長である自身を含めたハーピー01と02がフラッシュバンを構えた。α3はハーピー01、06がスタングレネードを投げ掃射、ハーピー04、06が一気に飛び出しスライディング後に制圧射撃を行う策だ。例え、ハーピー01、06が死のうとも確実に制圧するという目的のもと敢行される。しかし、死ぬ可能性が高いと分かっている策でも二人に不満の様子はない。それはダイン帝国に存在する部隊の中でも精鋭中の精鋭であるという自負、そして仲間に対する絆、自己犠牲によるものだった。

 分隊長はフラッシュバンの取り付けられたピンを引き抜く。内部に刻まれていた刻印が起動し、作られた役目を果たそうとする。

 

「3」

 

 分隊長のカウントとともに二人は今一度、死地に踏み入れる覚悟を固めた。アドレナリンが供給され、二人の時間が緩やかに流れる。二人の脳裏には先に死んだハーピー03と05の顔が思い浮かぶ。03と05、どちらも悪い奴では無かった。殺し殺されは日常茶飯事、しかしこんな所で死んでいい奴ではない。

 

「2」

 

 足に力が込められる。確実に敵を取る、二人は意識する。己の死と引き換えに相手の脳漿がぶちまけられる光景を。気分はさながら黒いコートを羽織る死神だ。さあ、相手に死を馳走してやろう。

 

「1」

 

 甲高い雑音をねじ伏せる轟音。舞うは血飛沫。しかしそれは今しがた殺そうとしていた敵の者ではない。今まさに飛び込もうとしていた味方のものだった。

 

「なっ!?」

 

 理解が出来ない現象に今度こそ、思考停止をしてしまう分隊長。

 

(まだ突入はしていない。射線も……上?)

 

 ぼんやりと思ったのは鉄の雨が上から降り注いでいるという事。しかしここは要塞の中、しかも中階層だ。

 

(なんでだろう?)

 

 考えれば子供で直ぐに分かることだ。それを現実に行う奴がほとんどいないという事実を除けば。

 

(あぁ、なんだ。イカれてるのか)

 

 向きを変え、自分に向かって降り注ぐ豪雨。最後に脳裏に浮かんだのは、じきに誕生日となる娘のことだった。

 

 

 

 

『アラクネ03、三階から下に向けて弾をばら撒き続けろ。アラクネ10、十秒後壁越しに撃ちまくれ。アラクネ01、05、そこから右に直進、三時方向からくる敵に向けて無反動砲を放て』

 

 レラジェは自身が作成した兵器の出来にとても満足していた。名をアラクネ。アマカヌスによって生み出されたソレは八本の足を持つ鋼鉄の蜘蛛だった。足は全てが鋭く尖り、それだけで人を刺し殺せる殺傷能力を保持している。そして最大の特徴は蜘蛛として胸部にあたる場所に取り付けられた火器だった。

 

 アラクネに取り付けられた火器は到底、人に向けられるような威力では無く、敵戦闘員を無慈悲にも血煙に変えている。

 

(別にこいつら相手に通用する武器が無い訳じゃなかったんだ。ただ使える奴が居なかったってだけで)

 

 レラジェが着目したのはエルクダートが使用する事を想定とした武器だった。それらは大きく、嵩張り使用する事など不可能だ。しかし一部の武器、特に人を殺す事に特化した武装の内部構造だけをアラクネに搭載する事は容易だった。

 

(それに相手に情報が渡らないようにしてるのもやっぱり大きいな)

 

 レラジェは相手に情報が少しでも漏れることを恐れ、通信妨害を行っていた。それが暫定味方の首すら絞めていたが、効果はあった。ずっと流している大音量の雑音と合わさり、相手はこちらの情報を得ること無く、交戦する状況へと追い込まれていく。

 

(アラクネ08、三秒後に接敵する敵に向けて掃射。アラクネ09はE38から引き付けられた敵を横からぶち抜け)

 

 そしてレラジェは常に相手の死角から致命の一撃を放つ事を意識している。勿論、最初は拙かった。学習していようとも実戦は違う。しかし間違いを認識、即時修正を加える事により、確実にレラジェは進化していた。

 

 死の悪魔が指揮する鋼鉄の蜘蛛によってジワジワと絡め取られていくように一人、また一人とダイン帝国所属の特殊部隊は数を減らしていく。そして歩兵として参加した最後の一人が今、散った。

 

 

(後はエルクダート十四機のみ。各種爆薬セット完了。……起爆、一斉掃射開始。火力を集中させろ、一機を確実に落とせ)

 

 要塞アレスをメインゲートからぶち破り、進んできたエルクダート四機。他にも別のゲートからエルクダートの侵攻されている状況だ。レラジェは進行方向に対して爆薬を仕掛け、アラクネの全火力を前方の一機にぶちまけた。

 

 しかし。

 

(……マジか)

 

 前方の一体は自分が狙われている事を悟ると盾を構え、的確に攻撃を捌き始めた。そしてその隙に随伴していたエルクダートが全ての配置されたアラクネを撃ち抜き、貫き、叩き潰した。他のエルクダートに対しても同じようなアクションを起こしたが、全てが同様の結果となった。普通なら作戦が通じ無かった事で、落ち込んでしまうような内容だ。

 

(けど、良かった)

 

 しかし、レラジェは喜んだ。レラジェにとってこれは想定外の出来事だ。だが決して最悪では無い。何故なら。

 

(これなら僕の性能でねじ伏せられる)

 

 レラジェにとっての最悪はレラジェ相当の敵がいるという状況。しかしその事態はもう発生する事は無いと約束された。

 

(タナトスエンジン、最大出力。……敵は全部、ぶっ殺す!)

 

 唸りを上げるタナトスエンジン。ガラス越しにその様を見ていた職員の手記にはまるで悪魔の咆哮のようだったと記されていた。

 

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