殺戮機構   作:チキン

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初陣

 

 要塞アレスのメインゲートに響く低音。それはさながら獣の唸り声。レラジェに搭載されているタナトスエンジンの稼働率が1.0付近を維持、つまりは100%に近い性能を叩き出しているという証拠に他ならなかった。

 

(腕、足、体、全てが軽い!)

 

 レラジェは敵がいる箇所にたどり着く為に隔壁の展開を停止したメインゲートを走り抜ける。メインゲートとは言っても窪みや出っ張り、整備用のゴーレムなど障害物になり得るものだ。しかしレラジェはその有り余る性能を活かし、瞬時に障害物を捉えては進路を修正し、疾走していた。

 

(なんでエンジンのロックが外れてるんだ……?)

 

 ふと浮かんだ疑問。これはレラジェが自分のスペックを調べていた時に判明したこと。適合者が居なければタナトスエンジンはその真価を発揮しない、とレラジェが調べていた資料に記載されていた。しかし実際にはメインゲートを疾走する位にタナトスエンジンは好調だ。

 

(まあ、それは後で考えればいいことか。今は敵を……殺す)

 

 今、この瞬間もレラジェはセンサやカメラによって敵の位置を把握している。カメラに関して敵は気づき次第潰しているが、やはり魔法によって偽装されたカメラ全てを壊すまでにはいかなかった。

 

(右、左、左、上、右……)

 

 通常のエルクダートであればまず出来ない全力疾走、それをレラジェは完璧に実行していた。これは人間を超えた情報処理機能に加え、タナトスエンジンの出力、レラジェのフレーム構造という性能のゴリ押しに他ならない。

 

(煙幕展開)

 

 アラクネの残骸、そのいくつかに潜ませていた煙幕をかく乱のために展開を行った。帝国軍は一瞬動揺するが、すぐに対処を開始する。

 

(接敵まで三秒)

 

 接敵にかかるまで残り三秒。少し入り組んだ箇所を抜ければ姿が見える距離。今は人の体ではない筈のレラジェは額に汗がにじむような気がした。

 

(後、二秒)

 

 全力疾走するロボットはどうしたって鉄と鉄が高速でぶつかるような音が鳴る。敵の接近に気づいた帝国軍パイロットが異音の鳴る方に向けて盾を構えた。

 

(一秒)

 

 センサから情報を閲覧していたレラジェは足に今まで以上の力を込める。

 

ドゴンッ!

 

 要塞アレスにおいてエルクダートが走行することを目的として作られていた床が鈍い音とともに凹む。勢いをさらに加速させたレラジェの前には帝国産エルクダート、四機。

 

(こんにちは、死ね!)

 

 勢いと共に体を構造上許される限り引き絞るレラジェ。そして一瞬の溜めの後、放たれた。それはさながら獣の一撃。先程学習した戦闘データも何も関係しない、ただ性能にものを言わせた打撃だった。レラジェの拳は敵エルクダートの盾と轟音とともに激突する。

 

 一瞬の拮抗。しかし、ピキリと音を微かに鳴った。すると帝国機の盾はレラジェの拳を中心に罅が入り、遂に砕けた。そして勢いそのままに盾を構えていたエルクダートの装甲に拳は達し、コクピットを正確に貫いた。

 

 飛び散るは少量の赤い液体。レラジェは誰よりも早く殺したことを認識し、次に狙いを定める。腕を引き抜き、前衛が崩れた事により動揺した三機に攻撃を仕掛ける。

 

(次っ!)

 

 しかし相手は帝国精鋭のパイロット。数瞬の違いはあるが全員が反撃に移る。一番装甲が厚く近接装備を有した者が前へ、一機は前衛の補佐を、後衛の一機はエルクダート専用大型ライフルの照準を定めようとする。

 

(遅い!)

 

 だがレラジェにとってみれば数瞬の動揺は十分すぎる時間。相手の装備を把握し、立ち位置により誰よりも反応が遅く、装甲が薄い後衛のエルクダートに狙いを定めた。把握、判断に掛けた時間は一瞬。時間的にはお釣りがくる程だ。

 

 だから、後衛のエルクダートの上半身が吹き飛ばされるという結果は当然と言えよう。まるで自分の体のように前衛と中衛の一瞬の隙間をすり抜け、後衛を刈り取った。

 

(それじゃあ、さようなら)

 

 唐突だがレラジェの装甲はかつて魔獣殺しに使われた遺産の一部であり改修し、強化された物だ。そしてそんな装甲には鋭い棘が至る所に存在し、肘に取り付けられた棘は特に長い。そんな代物を出力に任せて振るったとすれば、どうなるか。

 

 答えは簡単。レラジェが二機に向けて振るった即席の斬鉄剣は、鉄が切れる甲高い音とともに二体の得物を屠った。

 

(残り……十機)

 

 次の得物を求め、機械の悪魔は疾走を始めた。

 

 

 

 

 帝国軍所属パイロットの中でも精鋭の集まりであるウルフ分隊。現在はとある人物のタレコミにより帝国軍特殊部隊として、秘密裏に建造されていた移動要塞アレスに突入していた。

 

『各機損害報告』

 

『ウルフ02、問題なし』

 

『ウルフ03、左腕駆動系に軽微の損傷。出力2%低下』

 

『ウルフ04、特に損害は見られない』

 

『了解だ。ウルフ03に関しては問題があれば直ぐに報告しろ』

 

『『『はっ!』』』

 

 しかし現時点であまり状況は芳しく無いと分隊全員が感じていた。通信は妨害され、短距離通信しか行うことが出来ない。しかも初めの段取りではもう既に制圧は完了しているはずだった。

 

 本来であれば作戦続行不可能として撤退をしてもおかしくない状況。しかし引くに引けない事情が今回はある。

 

 今回、帝国の目的はファーレン皇国が秘密裏に製造した兵器の奪取、もしくは破壊だ。上からの圧力は強く、半ば捨て駒のような指令を受ける者まで存在した。

 

 しかし、実行してみると意外にもすんなりと上手くいった。整備上に配備されていた動かせるエルグダートの破壊、要塞内の制圧、全てが順調のはずだった。

 

 だが気づけば通信は途絶し、手筈通りの要塞攻略は行われる事は無い。分隊長であるウルフ01は憂鬱そうに顔を歪めながら思考の海に沈んでいた。

 

 そんな時だった。

 

『所属不明機、一機接近! 帝国軍ではありません! 目視による装備、現状確認できず!』

 

 報告とともに分隊の空気は引き締まる。まだ敵エルクダートが残っていたのか、味方は失敗したのか、そんな疑問に蓋をして目前に迫る敵に対してフォーメーションを組む。

 

『なんだ、あいつ。軽装にも程があるだろ?』

 

 分隊員の言葉とともに敵機を見つめる。するとすぐに分かった。その機体は異質だった。現在の設計思想とは異なる思想で作られた機体。黒と赤で彩られたソレに分隊長はどこか鳥肌が立つような感覚を覚えた。

 

 戦闘の経験によって鍛えられてきた勘に従って隊員達に警戒を促そうとした。敵は一機と侮るな、どんな隠し球があるか分からないと。しかし一瞬、判断が遅かった。

 

『なっ!?』

 

 目を離していない筈なのに尋常ではない速度でいつの間にかこちらとの距離を詰めていた敵機。ウルフ03が訓練された通りに盾を構える。勢いとともに肘から伸びる棘のような剣を振るう敵機。帝国最硬である筈の盾は受け止める事無く切り裂かれてしまう。そして返す刀でウルフ03のエルクダートは上半身を、コクピットごと正確に断ち切られた。

 

『クソがっ! 各自、距離を取って……』

 

 いとも容易くエルクダートを切り刻む攻撃力に、こちらが目を離した一瞬で距離を詰める運動性能。それが分隊長は反射的に距離を取るという選択肢を取らせた。戦法としては間違っていない。相手の得意距離からは逃げ、数と火器によって制圧する。むしろお手本と言ってもいいだろう。

 

 ただ手遅れという事実を除けば。

 

 三閃。

 

 立て続けに起きる小規模爆発。それはまるで死にゆく者の灯火のよう。

 

(十四機目、敵の反応は感じられない、作戦終了っと!)

 

 移動要塞アレス内に敵の反応がない事をレラジェは改めて確認した。その声、もとい思念は人を殺したとは思えない程に弾んでいた。

 

 殲滅完了。

 

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