──早朝の王都ギルド、人は疎らで受付も暇そうにしている。
その静かなギルドに騒がしいのが1名やって来た。
「北街道の件!俺にやらせろ!」
「カウンさん、うるさいですよ。」
「良いから良いから!姉ちゃん来ないうちにさあ」
「うるせえぞガキ、朝くらい静かにせんか」
「おやっさん!」
おやっさんと呼ばれた男はギルドマスターだ。
気さくな人柄と腕っぷしで王都の荒くれ……冒険者達の信頼も厚い。
その男の最近の悩みの種は早朝から元気一杯のこの少女だ。
何処かアウトローな感じのギルドが明るく華やいだのは良いが、とにかく騒がしい。
毎回部屋まで騒ぎが聞こえてきて作業の邪魔になっていた。
「で、朝っぱらから何の用だ?」
ギルドマスターは騒がしいカウンに問い掛けた。
「北街道だよ!北街道!モンスター出たんだろ!俺にやらせろ!」
「静かに喋れ!大きな声で喋らんでも分かるわ!北街道のやつか……昨日の夜にきたグループ依頼だな。10人以上集まるまで待て」
「俺が十人分の働きするからさあ!」
「駄目なものは駄目!あっちでジュースでも飲んでろ!」
「へーい」
渋々といった体(てい)でカウンは席に付きジュースを飲み始めた。
果汁100%の酸っぱいやつを。
飲む度にカウンの目が☓(バツ)になっており見ている分には面白い。
そんなカウンに話し掛ける者がいた。
「おうおう!口悪!いつも通り変な顔だな!」
「ああん?脳筋が人の言葉使うなよ!」
彼女の名前はスト・ライカ。
職業は拳闘士の腕っぷしの強い少女だ。
二人は幼馴染で幼少の頃から顔を会わせれば喧嘩をしている。
うるさい二人が揃ったのを見て、ギルドマスターが話し掛けた。
「お前ら、ギルド内で互いに半径2m以内に近づくの禁止な。」
「「分かった!」」
それを聞いて、きっちり2m離れた二人は、聞くに耐えない口喧嘩をし始めた。
殴り合いをされるよりもマシというギルドマスターの判断だ。
二人の頭は悪くないが語彙力が壊滅的なため、傍から聞いているとまるで幼子の喧嘩である。
しかし、声は綺麗なのでそれを音楽に朝から酒を飲む者がいるくらいだ。
二人が終わりのない低レベルな口喧嘩をしていると、大分時間が経ったのか、ぼちぼち冒険者が集まってきた。
依頼を確認する者、食事を摂る者、喧嘩を観戦する者……。
冒険者が集まってきた事を確認したギルドマスターは、ギルドに来ている者に
聞こえるように大きな声で、北街道の事を話し始めた。
「お前ら!緊急クエストだ!腕に覚えのある奴は集まれ!」
「待ってました!」
「口悪!喧嘩の途中だぞ!」
「うるせえ脳筋!」
「お前ら少し黙ってろ!」
「「はい!」」
ギルドマスターの言う事は絶対。
意外と二人は行儀が良かった。
二人を黙らせたギルドマスターは続きを話す。
「昨夜、北街道で商隊が壊滅。護衛の生き残りがほうほうのていで王都に到着した。生き残りが言うにはゴブリン共にやられたそうだ」
「質問、本当にゴブリンですか?」
「多分チャンピオンとかがいたんじゃねえかって話だ」
「チャンピオンか……なるほど」
「さっぱり分かんねえ!チャンピオンって何だ?」
「そんなことも分かんねえのか口悪!」
「何だあ?今ここでやるか?」
「お前ら!」
「「はい!」」
「また依頼だが、悪いが3パーティ、10人以上で受けて貰うことになる。報酬の分配は参加する奴らで相談してくれ」
「参加する!」
「俺も!」
「よし、参加するならお前らでパーティ組め!命令だ!」
「「それは嫌だ!」」
「じゃあ参加するな」
「「じゃあ組む!」」
「良し!まずは1パーティ、二人だな」
二人が参加するのを見たからかは分からないが、続々と参加者が名乗り出てきた。
数分ほどで4パーティ、15人(2人+4人+4人+5人)が揃い、ギルドマスターも満足気な表情だ。
揃ったパーティ達は軽い自己紹介と文句を言い始めた。
「こいつら二人いるか?邪魔だぜ」
「ああん?ここでぶち殺してやろうか?」
「待て脳筋。町中の殺人は犯罪だぞ。依頼中に殺そう」
「頭良いな口悪!お前覚えとけよ!」
「お前ら本当にやるなよ」
「「善処します!」」
無事にパーティ間の自己紹介が終わったところで、一行は北街道に向かった。
情報では王都から3,4時間ほど進んだところで襲われたという話だ。
1時間ほど歩いたところでカウンが口を開いた。
「俺たち以外の往来がねえな」
「ホントだ!口悪はよく見てるな!」
「そうだろ、そうだろ」
「ちっ、お気楽野郎どもが……」
「「あ?やんのか?」」
「はい!ストップ!無駄な体力使わないの!」
「「姐さん了解です!」」
三人(二人?)を止めたのは魔術師の女だ。
緊急クエスト参加者の中で一番ランクが高い。
意外や意外、二人は縦社会で生きてきたので目上の者には従順だ。
気に入らない者は別であるが……。
喧嘩が止められて暫くしてから、カウンが言った"往来が無い"事について各自が話し始める。
「カウンさんが言うように妙ですね。街道に巣でも出来たのでしょうか?」
「街道にか?そうなる前に誰か気づくだろ」
「くそー!人殴りてえ!特にあいつ!」
「はあ?俺が先に殴るからな!」
一行は各自で考えをまとめて街道を進む。
喧嘩をしたり、話をしながら一行はひたすら進んだ。
更に2時間ほど進んだところで血の匂いが漂ってきた。
「血の匂いだ!ゴブリンか?」
「早く殴らせろ!」
「あっ!二人とも待って!」
静止も何のその、二人は血の匂いが濃くなる方向に突撃する。
そこには人の物と思われる四肢や腸が散乱していた。
生き残りは……いないようだ。
二人は死体を気にせず獲物を探す。
そんな二人に近づく大きな影が一つ。
「後ろだ口悪!」
「分かってんだよ!脳筋!」
「グオオオオオオ!」
後ろを振り返った二人の前には、ゴブリンチャンピオンがいた。
二人の感想は"デカイゴブリンだな"程度である。
先に仕掛けたのはライカだ。
自身の拳をチャンピオンの腹に打ち込む。
「硬え!何だこいつ?!」
「どいてろ脳筋!おらあ!」
続いてカウンのメイスが腹に直撃する。
硬いものを叩いた時の衝撃がカウンの手に伝わった。
ファンタジーに於いてゴブリンは舐められガチであるがチャンピオンになると、
その戦闘力は侮れない。
強敵を前に二人は戦意を漲らせた。