アニメ2期の早めの前祝い!
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くぁと欠伸を漏らしつつ、車の窓から外を眺める。
そこを流れていくのは、延々と続く木立だ。人の手などが一切入っておらず、そのためおもしろみも見られない。
かれこれ数十分変わらないその景色に暫くは耐えていたものの、いよいよ我慢できなくなった俺は、運転席にいるスーツのお兄さん──ホジョカントク?さんに、話しかけることにした。
「──ねぇ、お兄さーん。これ、どこまで行くの?もう山ん中なんだけど……」
「はい?……ああ、
「はぁー……そうなんスかー……」
返された答えに、生返事を溢す。
呪術高専……何度聞いても、やはり眉唾物に感じる。もしかしたら、盛大なドッキリなのでは?という考えすら浮かんでしまう始末だ。
そもそも俺が、こんなに長い時間を車で揺られる羽目になっているのは、今から2ヶ月ほど前──中学3年生という身分を誤魔化しながらしていたバイトの帰途で、怪しげな美女に声をかけられたことが発端だった。
いつもの様に働き尽くしてくたくたになった身を引きずって、補導時間ギリギリの夜道を歩いていたところ、後ろから呼び止められ。
ノロノロ振り返れば、そこにいたのは黒ずくめの服を纏った淡い水色の髪のキレイなお姉さん。
その姿に見惚れている間に、気付けば連絡先交換やら予定調整やらをされて、今日は遅いから翌日の昼にゆっくり話そうということになり。
よく分からないけどこれもしかして逆ナンってやつでは?と、期待を胸に、待ち合わせ場所に指定された喫茶店を訪れ──そこに昨夜の美女と一緒にめちゃくちゃ厳つい顔のオッサンがいることに気付いた俺は、悟った。
さてはこれ……美人局だな?恐喝される感じだな?(名推理)
話には聞いたことがあった。美人につられてノコノコついていくと、怖いお兄さんにイチャモンつけられて、お金を払うことになる。恐ろしい手法だ。
思い至った俺は、正直帰りたい気持ちでいっぱいだったが……お姉さんとはこれでもかというほどに目が合ってしまっていたし、にこりと微笑まれながら手招きもされてしまったので、帰るなんてことはできず。
大人しく席に着けば──なんか厳ついオッサンが、呪いだの霊だの言い始めて、俺は再び悟った。
さてはこれ……霊感商法だな?壺、売りつける気だな?(名推理)
話には聞いたことがあった。幽霊やらなんやらの存在を持ち出して、人を不安にさせ、そこら辺のゴミを高い値段で買わせる。恐ろしい手法だ。
けど、既に美人局やってるのに、更に霊感商法を積むなんて、意味あるのか?欲張るところ違くないか?なんて、思っていたのだが……ヤガとかいう厳ついオッサンの話を聞いていく内に、段々と俺は困り出した。
彼の言う呪霊という存在に、心当たりがあったからだ。
小さい頃から俺には、人には見えない異形の化物の姿が見えていた。そのためまぁ、結構苦労して生きてきていたんだけど……厳ついオッサンが語る呪霊の姿は、まさしく俺が見ている異形の化物の姿の特徴と合致していた。つまるところ、彼はマジもんの人なのかもしれなかったのだ。
そして俺は、驚きと、不安と、ちょっぴりの期待のもとに、本腰を入れて彼の話を聞き──やはり彼は、マジもんであるという結論に至り。
お姉さんと、厳ついオッサンとに勧められるままに、俺は呪術師とやらになること、呪術師になるために呪術高専なる所に通うこととなったのだった。
まぁある種の流された感は否めないが……呪術高専では学費についての心配をする必要はないらしいし、同類の人とも会えるらしいしと、利点はあるので今のところ後悔はない。価値観の共有できる同級生とワチャワチャしたり、美人の先生にイロイロ教えてもらえたりなんて青春は、とうの昔に諦めていたので、降って湧いた幸運ですらあった。
唯一後悔があるとしたら、呪術高専までのこの移動時間の長さだろう。長ぇよ……景色も変わらないし、ちょー飽きた。
退屈に息苦しさを覚えていると、ホジョカントクさんが、運転の最中、ちらとこちらを見て言う。
「……あ、墓之瀬さん。いい機会ですし、何か質問があれば答えますよ?」
「お、ほんとですか?」
渡りに船なその言葉に、俺は喜色を浮かべる。これで少しは、暇を潰せそうだ。
「んー、じゃあ、そうですね……ホジョカントクさん、彼女います?」
「できれば高専とか、呪術に関する質問でお願いします……」
「あ、そう?しょうがないなー……じゃあ、高専のカリキュラム的なのとかって、教えてもらえたりします?」
「はい、それなら。高専では、午前中に座学を、午後に実技実習を行うようにしています。座学は墓之瀬さんが学んできたような一般科目についても学びますし、呪術についても学びます。実技実習は、呪霊との戦い方についてなどを学びます」
「へぇー……」
午前と午後で、別れているのか……面白いな。けど座学はこれ、普通の高校より学ぶこと多い気が……え、定期テストとかあったらマズそう。理系苦手なんだよな……。
「他に何かありますか?」
「あー……じゃあ、どんなやつが同級生になるかとかって知ってます?」
「……すみません、その辺りはあまり……例年なら、男子が2人ほど、女子が1人ほどという感じなのですが……如何せん、昨今は不作と言いますか、呪術師を目指す人も少ないので……」
新たに尋ねると、少々口ごもるお兄さん。しかし、呪術師を目指す人は少ないのか……。
「……なんかちょっと意外だな。呪霊とやらを倒せばお金貰えるらしいし、同類の人とも会えるわけだしで、結構好環境なのに……」
「命の危険がありますから……本人も、また親御さんも、二つ返事で了承なんてしませんよ」
「俺、二つ返事で了承しましたけど……」
「え……親御さんの反対とかはなかったんですか?」
「死んでるんで、なかったですね。一応保護者やってる叔父も、むしろ喜んでたくらいでしたし」
「それは……」
──そう。俺の両親は、俺が小学生のときに、交通事故で死んだ。
その当時から既に俺は所謂見える人であることが親戚には伝わっていたので、気味悪がられていたが……両親が死んだことで、その対応はいよいよ苛烈なものとなった。両親の葬式では公然と罵られたし、殴られた、引き取り手も当然出てこなかった。最終的には、叔父が親戚一同から育児金だったりを徴収して引き取ってくれたが……この叔父も、まぁクズなやつで。
本人は徴収金を使って贅沢三昧、俺には衣食住全てに劣悪なものを押し付けてきた。中学には行かせてはもらったが、制服やら給食やらにかかる費用だってほとんど払ってくれなかったので、中学生ながらにバイトに明け暮れる日々。
そんな、将来に希望なんて見えない中で、お金の心配のいらない呪術高専にスカウトされたのは──まさしく、救いの手だったのだ。
「……すみません、嫌なことを聞いてしまって……」
「いいですいいです、別に気にしてないんで。あ、それよりアレ……なんかお寺っぽいの見えてきたんですけど、もしかしてもう着く感じですか?」
「はい、いえ。敷地内ではありますが……あそこから、更に進むことになります」
「遠すぎんだろ……」
重くなった空気を払い、和やかに言葉を交わしていく。呪術師の簡単なイロハだったり、呪術規定と呼ばれるきまりの存在など、呪術師の常識のようなものを教えてもらっている内に──車が停まる。
道の脇には縁石と石階段があり、その先には古びた校門。表札には文字が刻まれている。東京都立呪術高等専門学校──どうやら、目的地に着いたみたいだった。また、校門の傍には、喫茶店で会った厳ついオッサンも控えている。
「──それでは墓之瀬さん。ここからは校門の近く立っているあの人……夜蛾さんに案内してもらうことになります」
「お、了解でーす」
運転席から告げられた言葉を受けて、俺は、車のドアを開ける。
制服として支給された黒の学ラン──カスタムができるらしかったので、長ランにした──の、裾に気をつけながら、地面へと降り、同じく支給……というか、受注した学帽を被る。
様相を整えた俺は、運転席に座するホジョカントクさんに向けて。
「じゃ、ありがとうございました、お兄さん。行ってきます」
そう言うと、彼は一瞬面食らった顔をした後、笑みを浮かべて。
「はい。行ってらっしゃい……
その言葉に、俺は笑みを返して──厳ついオッサンの待つ校門へと、力強い歩みで進んでいったのだった。
……そして、5歩目くらいで学ランの裾を踏んづけて転びかけた。
長ラン……歩きにくっっ!!!
学ランの裾に苦戦しつつ、なんとか階段を昇り終える。
そこで腕組みをして待っていた黒服のヤクザっぽいオッサン──ヤガさんは、厳めしい顔を更に厳めしくしながら、口を開いた。
「──……色々君には教えなければならないこと、言わなければならないことがあるのだが……まず君、長ランを辞めた方がいいぞ」
「え、嫌っス。長ランカッコいいんで」
「…………ならば、きちんと歩けるようにしておいてくれ」
「あー……前向きに検討し、予定を調整していく方向で善処します」
「遠回しのやらない発言全部乗せだな……本当に頼むから、歩けるようにしておいてくれ」
「あはは、分かってますって」
手をヒラヒラさせながら答えると、彼は頭を押さえて溜め息を吐いて。
「……とにかく、高専を案内するとしよう。ついてきてくれ」
「はーい」
くるりと踵を返し、彼は校門をくぐる。追従して俺もくぐり──呪術高専見学ツアーが始まった。
▼▼▼
──特に意味はないらしい神社にお寺、楼閣に塔から、意味のある寮に食堂、校庭に倉庫ときて。
最後に連れてこられたのは、本校舎だった。
ここまで見て回った施設と同様に、内装は和風建築。床や壁、窓には木製が目立ち、昭和の名残を感じさせる。
廊下を抜けて、入った1つの教室は、広々としているが、あるのは黒板に教壇、教卓、机に椅子だけ。少し寂しげだ。
入ってきた足のまま教卓についたヤガさんに促され、俺は席に着く。
それを確認してから、彼は口を開いた。
「──さて、墓之瀬聡人くん。今日から君には、ここ、呪術高専にて呪いを学び、呪いを祓う術を身につけてもらうわけだが……」
そこで彼は、一旦言葉を区切ると、しかと俺の目を見つめ。
「本当に後悔はないんだな?」
そう問いかけてきて。
「……どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。君はこれまで一般人で、呪いの世界にはほぼ無縁だったのだから、呪術の恐ろしさを肌身に染みて分かっているわけではないだろう」
「まぁ、そうですけど……」
「勧めた手前で言うのも何だが……呪術師というのは、不快な職業だ。常に死とは隣り合わせ、呪いに殺された人を横目に、呪いの肉を裂かねばならんこともある」
淡々と紡がれるのは、呪術師の内情だ。俺は呪霊を見えてはいても、呪術については何も知らない。喫茶店で多少は教えてもらってはいたが、改めて聞くと、呪術師というのはなんとおぞましく苛辣な職なのだろうか。
「ある程度のイカれ具合とモチベーションが無ければ、すぐに呪いのエサとなりお陀仏だ。その未来に、道を指し示した俺たちでも責任を取ることはできん。その上で、もう1度問おう。……本当に後悔はないんだな?」
鋭い眼差しで質される。内容はひどく残酷なものだし、空気は張り詰めている、ヤガさんの表情だって真剣そのものだ。
けど、そこに秘められているものに気付いて俺は、つい相好を崩してしまう。
「……何を笑っているんだ」
「ああ、すいません。なにぶん……人に心配されたのは久しぶりのことだったので」
「…………」
「でも、心配しなくても大丈夫ですよ、ヤガさん。あのまま生きていても、俺は本当の意味で人としては生きられなかった。……けど、呪術師になれば、学校に通える、同類の人とも出会える。青春だって、送れるかもしれない。短くても人として生きられるんだ。それだけで、呪術師を目指すのには──充分です」
「……生きるために、か……」
目を見てはっきり宣言すると、彼はアゴのひげを擦り呟く。そして、小さく笑みを溢すと。
「理解した。改めて歓迎しよう。──ようこそ、呪術高等へ」
「……ははっ。3年間、よろしくお願いします、ヤガさん」
「夜蛾先生だ」
「はいはい……あ、ところで夜蛾先生」
一転して緩んだ空気、俺はキョロキョロと室内を見渡して言う。
「俺のクラスメイトって、いつ頃来ます?今日、明日?席、俺が今座ってるこの1つしかないですけど……新しく運んでくるの、手伝いましょうか?」
すると夜蛾先生は、目をスっと逸らし。
「…………君に同級生はいない」
そんなことを述べてきて。
「………………は???……いや、いやいや……え???は???」
「……元々数名は通う予定だったのだが……途中で断念したり、京都校へ通うこととなったりで、東京校の1年生は、君だけになっている」
………………終わってんな、高専辞めるか???だってオマエ、同級生いない学校って……それは最早、学校じゃないだろう。ほんとに終わってる。めちゃくちゃ辞めたくなってきた。
……いや、待て、落ち着け……たしかに同級生がいないのはクソみたいな環境、というかもう肥溜めだが……高専には、諸先輩方だっているはず。横ではなく、縦の関係でわちゃわちゃやる青春だって……あってもいいだろう。
なんとか落ち着きを取り戻した俺は、新たに夜蛾先生に問いかけた。
「ま、まぁ、クラスメイトがいないとしても、先輩方はいますよね?ならそっちと仲を深めれば問題ないでしょう……先輩たちとはいつ頃会えます?もしかして寮にもういたり?」
すると夜蛾先生は、またしても目をスっと逸らし。
「…………全員、数ヵ月は戻らないだろう」
そんなことを述べてきて。
「………………は???……いや、いやいや……え???は???」
「……昨今は、人手不足で、重なる形で呪いの発生も多発していてな……そのため、2、3年生は遠征として数ヵ月出払ってることも、ザラにあるんだ」
………………終わってんな、真面目に高専辞めるか???だってオマエ、先輩とも会えないって……俺の求めてるもの、全く満たせてないんだが???学校通えても、同類の人と出会えないし、青春も送れないんだが???呪術高専に入った意味が……かき消される。
……いや、待て、落ち着け……たしかに先輩すらいないのはクソみたいな環境、というかもう肥溜めだが……高専には、あの淡い水色の髪の美人お姉さんだっているはず。横だの縦だの越えた、教師との背徳的で爛れた青春だって……あってもいいだろう。
なんとか落ち着きを取り戻し、むしろ興奮すら覚え始めた俺は、更に新たに夜蛾先生に問いかけた。
「ま、まぁまぁまぁまぁ先輩すらいないのは下痢クソうんこですけど……俺にはあの魅惑のお姉さんがいますから。ええ、魅惑のお姉さんがいますから。あの人の名前ってなんですか?彼氏いませんよね?何の科目担当してるんですか?」
すると夜蛾先生は、またまたしても目をスっと逸らし。
「君の言う彼女は、おそらく冥冥のことだと思うが……彼女は、高専の教師ではない」
そんなことを述べてきて。
「………………は???……いや、いやいや……え???は???」
「……彼女は外部の人間でな……高専からの謝礼金目当てで君をスカウトしてきただけだから、当然彼女の授業を受けることなど……ない」
………………終わってんな、ガチで真面目に高専辞めるか???だってオマエ……もうこれ、何も青春ないじゃん。真っ黒だし、冬じゃん。肥溜めじゃん。……えぇ???
「…………やっぱり高専辞めるか……?」
「ん!!??お、おい、さっきまでの意気込みはどうした!!??おい──!?」
──かくして。
呪術高専での、俺の黒い青春が始まった。