さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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第11話 強ぉい新入生たち

 

  一目散に高専の長い廊下を走り、外を目指す。夜蛾先生に見つかったら、廊下は走るなと頭に拳を貰っちゃいそうだが、今は緊急時なので大目に見てほしい。

 

 「待ちなさい聡人!説明しなさいっ!!」

 「無理です緊急任務ですっ!!」

 「嘘吐くんじゃねぇ!」

 

 叫びつつ首を僅かに後ろに向ければ、追いかけてくる4つの人影。

 

 先頭にいるのは、ぷんぷんと怒る歌姫先輩だ。綺麗な黒の髪を振り乱しながら走ってる姿はちょっと怖い。

 

 その隣を、ポケットに手を突っ込みながら軽やかに駆けてくるのは悟だ。口元には弧を描いており、楽しんでる様子が伝わってくる。

 

 更に後ろから続くのは、穏やかに微笑む傑に、アクビを噛み殺している硝子ちゃんだ。エイのような式神……いや、呪霊だろうか?異形の化物に腰かけながら、優雅に追いかけてきている。ズルい。何なんそれ?どっちかの術式のヤツだよな?

 

 うーむ……そこら辺の話、任務三昧で高専に来れてなかったから、俺知らないんだよな……夜蛾先生とも多忙で会えてないから、全然情報を得られてないし……唯一電話で情報をくれる歌姫先輩からは、悟と傑の態度性格への愚痴か、硝子ちゃんの良い子具合しか教えてもらえなかったし。

 

 ……しかし本当にどうしたものか……このまま逃げてても、どうせいつかは必ず捕まっちまうし……いっそ正直に術式のことを話すか?や、けど、万が一があったら夜蛾先生に迷惑かけることになっちゃうしなぁ……。

 

 と、思索に耽っていたときだった。

 

 「鬼ごっこの最中に考え事なんて、随分余裕じゃん──術式順転『蒼』」

 「おわっ」

 

 ──声と共に。

 

 ズズズ……!!と、後ろに強く身体を引っ張られる感覚。これは……術式か?

 

 振り返り、咄嗟に『呪限無』を発動、おそらくこの現象を引き起こしたと見られる悟を阻害する。

 

 「ッ!?んだ今の、操作が乱された……?」

 

 眉をひそめて、微かに驚愕の色を見せる悟。想定通りに、引っ張る力も止む。

 

 その隙に俺は、再び逃走を図ろうとし──ポコっ、ポコポコっと、辺りに湧いた通路いっぱいの大きさの呪霊たちに取り囲まれる。

 

 「わーお……これって、硝子ちゃん……いや、傑の術式?」

 「ええ。呪霊操術……降伏した呪霊を取り込み、自在に操ることができるんです」

 「めっちゃ便利じゃん……」

 

 教えられた傑の術式の有能さに感心しつつ、さてどうしようかと少し悩み込む。

 

 この呪霊たちって、式神とかと違って、多分倒しらそこでおしまいなヤツだよな?祓除ってことになっちゃう感じの。だとしたら、呪霊たちと戦うのはやめといた方が良さげか……?もしこの呪霊たちが、傑が頑張って集めた精鋭さんとかだったら、祓っちゃうのは問題っぽいし……。

 

 ……というか、ほんとにもうコレ、どうやって収拾したものだろうか?ハロー○ティのご当地キーホルダーあげたら、俺の術式のこと忘れてくんないかな?

 

 「ふ、ふふふ……よくやったわ夏油。それじゃあ聡人、観念なさい……?」

 「えぇ……?ハロー○ティのご当地キーホルダーあげるんで、許してくれません?」

 「いらねぇよ」

 

 いらない、だと……?今歌姫先輩、サ○リオに喧嘩売ったか……? (敏感肌兼過激派)

 

 呪霊たちの向こうでのたまう歌姫先輩の正気を疑っていると、その隣に並び立つ悟が口を開く。

 

 「何、鬼ごっこは終わりなわけ?」

 「うん、まぁ……よく考えたら鬼ごっこは、逃げる側って勝ちとかないし、単調だからな。別のゲームに変えてほしいところではあるよ。シンプルに呪い合いとか」

 「……んん?それってさ……呪い合いなら俺に勝てるって言ってる?」

 「そーだけど?」

 「へぇ……?」

 

 口端を曲げて答えてやると、悟もまた口端を曲げ。

 

 彼は真っ黒なサングラスを取り──露わになる、宝石がごとく綺麗な蒼の瞳、それが爛々と輝く。

 

 「良いね、上等じゃん。叩き潰してやるよ。俺が勝ったら術式、教えろよ?」

 「お、生意気ぃー……でも後輩感がスゴくするから嫌いじゃない。良いよ、俺が負けたら術式、教えてあげる。逆に俺が勝ったら、皆に今日のことは忘れてもらうよ?」

 「良いぜ?……傑、呪霊引っ込めろ」

 

 悟が視線を傑に向けて言う。傑は少し逡巡してから、嘆息して呪霊を消す。

 

 「ちょっと五条!アンタ何勝手に約束をしてんのよ!」

 「別に勝つのは俺なんだから良いじゃん。俺、歌姫と違って強いんだし」

 「ぬぐぐぐぐっ……!!ちょっと聡人!!コイツのこと、ぶっ飛ばしなさい!!ムカつく!!」

 「そしたら俺の勝ちになっちゃうけど、良いんスか?」

 「うっ、そうだったわ……じゃあもうどっちもぶっ飛ばされろ!!」

 「歌姫先輩、すんごいこと言うな……憧れちゃう……」

 

 吠える歌姫先輩に、ある種の感動すら覚えつつ、学帽を一旦外し。

 

 被り直して、気合いを入れる。

 

 呪力を身体に満たしていきながら、指や首の骨を鳴らし、闘いに備える。

 

 「──準備できた?聡人」

 「ばっちぐー。いつでも良いよ」

 「そ。じゃあ先手は譲ってやるから……来いよ」

 「……生意気ぃー……」

 

 脚を前に開き、脇を締め、顎の近くで拳を構える。ボクシングのファイティングポーズのような体勢。

 

 対する悟は、何か策でもあるのか、両手を広げて身をさらけ出している。

 

 段々と、張り詰めた空気が長い廊下を埋め尽くしていく。

 

 離れた位置で、歌姫先輩たちが固唾を飲んで見守る中──俺は動く。

 

 はためく長ラン、手始めに放つのは、頬を狙った右の殴打。

 

 俺の拳は、余裕綽々の笑みを浮かべている悟の頬へと迫っていき──直前で『呪限無』を発動、呪術系の防御を取っ払ってから振り抜く。

 

 「は──?」

 

 呆然と。

 

 間抜けな声を漏らした悟は、そのまま思い切りにぶっ飛び、廊下の上を滑るようにして転がり──途中で跳ね起き、ようやく彼も戦闘体勢をとる。

 

 「……テメェ、何を……まさか今のが、オマエの術式か?」

 「……さぁ?何の話?」

 「ハッ、おもしれー……意地でも口割らせてやるから、覚悟しろよ。──術式順転『蒼』」

 

 軽く上げられた手、次の瞬間、廊下の両壁が押し寄せてくる。

 

 床を踏み砕く勢いで蹴り、俺は後退、壁が押し寄せる一帯を離脱する。

 

 目の前に広がることとなったのは、途中から床や壁、天井が歪み、外が見えるようになってしまった廊下の光景。

 

 中々見ることのできない光景に暫し見惚れていると、高速でその廊下を越えて、悟が迫ってくる。

 

 放たれる右の拳、頭を傾けることでそれを避け、『呪限無』を発動しながら胸部へと右の廻脚を放つ。

 

 だが悟は、流れるように左の手で蹴りをいなし、右腕を戻す動作で肘鉄を叩き込もうとしてくる。

 

 「危ねっ」

 

 咄嗟に身体を横に回転させることで俺は、その肘鉄から逃れ──間髪入れず見舞われる蹴り、なんとか交差した腕で受けるも、吹き飛ばされて床を転がる。コレ、さっきと入れ替わりだな……。

 

 「……威力つっよ……ほんとに1年生か?」

 「ハッ……年齢で物事を測ろうとすんのは良くねーってことだな。──『蒼』」

 「なるほどおっしゃる通りだな……!」

 

 再び押し寄せる両壁、避けるのも面倒なので、左右の裏拳を同時に叩き込みそれらを破壊する。

 

 辺りを木片や塗料がパラパラと舞い、煙が立ち込める。

 

 ……いや、1年生が相手だからってちょっと舐めてたな。しくったしくった。額面で人を判断するなんて、しちゃぁいけないことでしょうに……反省だな。

 

 ともあれ、どうしたものか。

 

 「──少し、楽しくなってきちゃったな……!」

 「同感だよ……!」

 

 賛同と共に。

 

 揺らめく白いモヤの向こう、蒼の眼光がこちらを射竦める。

 

 お互いに、口元に半月を描き。

 

 今まさに駆け出さんと、呪力を昂らせて──。

 

 

 

 「──おい、オマエら……いったい、何をしている……?」

 

 

 

 ──冷や水を掛けられたかのように。

 

 呪力が萎んでいく。

 

 背後より響く、重く低い声。

 

 ギギっ、ギギギっと、錆び付いた人形じみた動きで、俺はゆっくりと振り向き。

 

 「…………や、夜蛾先生……ひ、久しぶりですね……」

 「…………ああ、そうだな、聡人。……全員、来い」

 

 そこに立っていた夜蛾先生に、白目を剥きかけながら、竦然と挨拶をする。

 

 俺の後ろから。

 

 やべって顔をしながら悟が、どうしようと焦った表情の歌姫先輩が、あーあと呆れ顔の傑と硝子ちゃんも現れ。

 

 「……まず、正座しろ」

 

 剣呑な目付きで吐き出された言葉に、無言で応じ、皆でその場に正座する。

 

 ヒリヒリと、先とは違う緊張感が漂う中、夜蛾先生が口を開く。

 

 「この中に、校舎の廊下を、ここまでめちゃくちゃにしたヤツがいるな。……名乗り出ろ」

 

 その言葉に。

 

 俺は一瞬、隣に座す悟と目を合わせ──2人揃って手を挙げ、返答した。

 

 「「先生!!犯人探しはやめませんか!?」」

 「聡人に悟だな」

 

 

 

 指導の拳を頭に食らった。

 

 とても痛かった、とだけ言っておこう。

  

 とにもかくにも──今日、新たに。

 

 俺に、3人の後輩ができたのだった。

 

 






 毎日投稿明日はキツいかもしれない……。

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