「──ぬおおおお貴様ッ、悟ッ、ミドリ甲羅やめろぉぉぉッ!!」
「あひゃひゃひゃひゃっ、吹っ飛べぇッ!!」
「ぐぁぁぁッ!!」
年の瀬の、冬の昼。
特に任務のなかった、俺は。
高専寮の、暖房の入った悟の部屋で、1年ズ3人と、楽しくマ○カーをしていた。
「ふふっ、悟。君は余所見してる場合なのかな?」
「あ?何言って……待て傑オマッ、アカ甲羅は待てッ、ほんと待てッ──ぐぁぁぁッ!!」
「うーん、良い悲鳴…………ちょっと待とうか硝子、そのトゲゾー甲羅はどういうつもりで──ぐぁぁぁッ!!」
「うーん、良い悲鳴。ほい、おつかれ。私が1位ね」
画面にて。
硝子ちゃんのピ○チが勝ちどきを上げ、俺のヨ○シーと悟のマ○オ、傑のルイ○ジが、敗北に咽び泣く。
「くそっ、さっきから1度も勝てないんだけどっ!ずっと1年ズが1位をぐるぐるしてる!何が楽しくだ、全然楽しくねぇっ!」
「いや、それは聡人が弱すぎるからでしょ」
「正直今回のレースだって、悟がミドリ甲羅を当てなくても、どうせ聡人先輩は最下位だったと思いますし」
「ぬぐぐぐっ……!そ、そんなことねぇし……!つ、強いし……!」
コントローラーを放り投げて、俺はわめく。
それに対して、厳しい言葉を投げかけてくる悟と傑。
若干涙眼になりながら、救いを求めるように硝子ちゃんを見ると、彼女はにこりと笑って。
「安心してください。聡人先輩は、マ○カー、めちゃめちゃ下手ですよ」
「くぉぉぉっ、硝子ちゃんまでっ……!!ちくしょうこんな所に居られるかっ、俺は出てくぞっ!」
「あらら」
信じていた硝子ちゃんにぶった切られた俺は、脱兎のごとく部屋から廊下へと飛び出す。
瞬間、感じる肌寒さ。
立ち止まり廊下の窓から外を見れば、朝とは違う光景が広がる。
しんしんと。
灰色の空から雪が降り注ぎ、高専の敷地を白く染め上げていた。
「わーお……」
「お、雪じゃん」
「道理で今日は寒いわけだ」
「そーいや天気予報でも、降るかもって言ってたっけ」
暫しその銀世界に目を奪われていると、ぞろぞろと続いてやって来た悟たちも、窓の外を見て感想を漏らす。
しかし雪、雪か……何気に俺、雪を見たの初めてかもしれん。元々俺の住んでた地域では、雪が降ることは全くなかったし、高専に来た去年も降らなかったからな……。
「……ヤバっ、なんかテンション上がってきた!俺ちょっと外行って雪遊びしてくるわ!オマエらも来いっ!」
「雪見てテンション上がるって、犬じゃん。いやまぁ行くけども」
「ちょっと待って、聡人先輩に悟。風邪をひくかもしれないし、防寒してから行きましょう」
「うわ夏油ママじゃんウケる」
「うるさいよ硝子」
「「分かったよ、ママ!!」」
「聡人先輩に悟も、うるさい」
硝子ちゃんの台詞に便乗して煽ってみたところ、頬を引きつらせる傑。
キレられても嫌なので、皆でそそくさと足早に自室へと退散、それぞれで防寒具を着込んでからグラウンドへと向かう。
なお、俺と悟は高専の制服に手袋を着けただけだが、傑はマフラーをしていたし、硝子ちゃんはネックウォーマーに耳当てまでしていた。モコモコで可愛い。傑はザコ、寒さにビビるとか恥ずかしくないのか?
さてもそんなわけで、外。
歩く度、ザクザクと音を立てる積もった雪。
吐く息は白く浮かぶ。
「雪、ええなぁ……!よっしゃ、雪だるま、雪だるま作ろう!」
「どーせなら、ドでかいやつ作ろうぜ!」
「良いねっ、どんくらいでかいやつにする!?」
「硝子の態度くらい!」
「そりゃでっけえ!」
「「あっはっはっはっは!!」」
「死ねー」
「「わぷっ」」
悟と笑い合っていると、ぽすぽすと飛んでくる雪玉。
癪に触ってしまったらしい硝子ちゃんが、こちらに投げつけて来ているのだ。
「バカだなぁ、聡人先輩に悟。たしかに硝子は器は小さいくせに態度はでかいけど、そういうことは思ってても口にしては駄目だろうに……」
「夏油も死ねー」
「わぷっ」
弾幕じみてくる雪玉。
男3人で大人しくそれを食らっていたところ──足音に、気配。
ぶつかってくる雪玉の破片と、空より降ってくる雪と、積もっている雪とで、最早9割方雪に支配されている視界、そこにダウンを着込んだ黒髪美人さんが映る。
あれは……。
「もしやぷっ、歌ぷっ姫先輩ではってそろそろ雪玉やめて硝子ちゃん!!ごめんなデリカシーなかったね!!大丈夫っ、尊大なとこも硝子ちゃんの魅力だから!!ちょっと子供っぽくて可愛いというか!!」
「…………」
「わぷっ、ちょっ、無言て!せめてなんか言おう!?」
「気にすんな、聡人、あれはそういうんじゃなくわぷっ」
「多分今の硝子は、どっちかと言うと照れわぷっ」
うっそでしょ、喋ってる2人の口に雪玉投げ込むって、どんな狙いの良さしてんの……???おかげで何言ってたのか、全然分からなかったんだけど……もう雪合戦界の那須与一じゃん。扇のわぷっ。
雪玉の牽制を受けて、意思疏通を阻まれまくっていると、いつの間にか先の人影との距離がぐんと縮まっていることに気付く。
こちらへと向かってくる彼女は、やはり俺の予想通りで。
「──もうほんとこれどういう状況???とりあえず私も五条と夏油に雪玉当てていいかしら」
現れるや否や、場を理解をするよりも先に私怨に走ろうとする歌姫先輩。落ち着け?
また、流石の硝子ちゃんも、彼女の登場には手を止めて。
「あれ、歌姫先輩。今日は任務じゃなかったですっけ?」
「早くに終わらせられたのよ。今はその報告に行くところ」
「へー」
談笑する2人、その隙に俺たちは、髪や顔にかかった雪を払う。
ヤバいヤバい、至る所に雪がくっついてるわ……塗りたくられてるレベル、もう顔面真っ白よ。これぞ本当の雪化粧、ってやかましいわ。
と、脳内で1人小ボケをかましていれば、雪を払い終えた悟が、早速歌姫先輩を煽り始める。
「歌姫が早くに終わらせられる任務って、どんだけチョロかったんだよ。もしかして、相手、全部蝿頭だったの?」
「そんなわけねぇでしょうがっ!!ちゃんと準2級とか居たわっ!!」
「いや準2級って……プッ、ザコじゃん」
「ふんぎぎぎっ……!!」
歯軋りと共に、歌姫先輩は悟を睨めつける。正直、女の子がして良い表情じゃないっスね。
そして歌姫先輩は、流れるような動作で硝子ちゃんから雪玉を受け取り、投げつけ──悟は、ひょいと、それを簡単に躱す。
「ちょっとっ、避けんじゃないわよっ!!」
「当てられない歌姫が悪いんじゃん」
「このっ……!!聡人っ、加勢しなさいっ!!」
いや俺かい。
マジかぁとは思いつつ、歌姫先輩の言うことには逆らえないので、地面の雪を固めて玉を作り、構える。
「恨みはないが、悟、大人しく当たってくれ……おらッ、マ○カーでミドリ甲羅を当てられまくった恨みッ!!」
「恨みありまくりじゃねぇかッ!!おい傑っ、加勢しろっ!!」
悟は投げた雪玉をすんでのところで躱し、傑に呼びかける。
傑は困ったような笑みで、「しょうがないな……」と呟き、雪玉を持って悟と並ぶ。
できる、悟&傑VS俺&歌姫先輩&硝子ちゃんの構図。
緊迫した空気の中、5人全員が同時に動き出す。
硝子ちゃんと歌姫先輩が雪玉を悟へ投げ、それを躱してお返しとばかりに振りかぶる彼の顔面に俺は雪玉をぶつけ、すぐさま悟と傑に雪玉をぶつけ返される。
やがて雪合戦は、ドンドンと白熱していき、悟は『無下限呪術』を使って辺りの雪を丸ごと浮かし、傑は『呪霊操術』を使って出した呪霊たちに雪玉を持たせる。
俺は硝子ちゃんと歌姫先輩が作ってくれていた巨大雪玉を、呪力で強化した身体で持ち上げ──想定以上の重さに、よろめき、巨大雪玉を後ろに放り投げてしまい。
「──歌姫の報告が遅いと思って来てみたら、オマエら、一体何をわぷっ」
「「「「「あ」」」」」
いつぞやのように、重く低い声が背後から聞こえたと思ったら、秒で消え。
嫌ーな予感を覚えながらも、ゆっくりと振り返れば、そこには。
巨大雪玉を頭から被った、推定夜蛾先生と思われる人物が居て。
「……俺は悪くねぇよな……?」
「……私も、今は何もしてなかったね……」
「わ、私だって、巨大雪玉を作っただけだもの……!」
「……雪玉を投げたのは、聡人先輩ですもんね」
「えっ、ちょっ、裏切る気かっ!!??嘘でしょっ!?悟!?傑!?歌姫先輩!?硝子ちゃん!?」
即座に術式を解いたり、身体をはたいたりして、自分たちが雪を弄ってた証拠を隠滅、挙げ句には自己弁護をし始める悟たち。
慌てて呼びかけるも、返ってくる反応は、目逸らしだけ。
そうこうしている内に、巨大雪玉を自分で吹き飛ばした夜蛾先生、剣呑な目つきでこちらを睥睨してきて──。
「──ああああああギブギブっ、ギブっ!!ギブですってっ、もうほんとすみませんでしたぁぁぁぁっ!!」
──結局、悟たちは、上手いこと難を逃れて。
俺だが、雪原というリングの上で。
拳骨にコブラツイスト、卍固めといった、プロフェッショナルレスリング式指導を食らうことなったのだった。
か、身体がっ、身体がとても痛いっっ!!!!