さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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第15話 良い子な新入生たち

 

 

 

 開け放たれた窓の外で、薄桃の桜の花弁が、青空を舞う。実に美麗な光景だ。

 

 春に色づく筵山、その麓に位置する高専校舎の一室。

 

 時の流れも早く、高専の3年生となった俺は、そこで、新たな1年生たちと対面していた。

 

 教卓の向こうの席に座るのは、形式ばったように学ランを着る金髪くんと、崩した短ランを着る黒髪くんの2人。

 

 金髪くんは、高校1年生だと言うのにすれた目をしているし、黒髪くんは、高校1年生だと言うのに子供のようにキラキラとした目をしている。

 

 だが、彼らは教壇に立つ俺と硝子ちゃんを見つめるだけで何も言わない。つまりは大人しくこちらが口を開くのを待っているということだ。それに俺は、大きな驚きを抱く。

 

 ……えっ、後輩なのに全然怖くなさそうだしっ、生意気でもなさそうっ!!煽ってもこないし、前髪も変じゃないし、タバコの箱を弄ってもないし!!良い子だ!!この2人、良い子だ!!

 

 ……い、いや、でも待てよ?まだ猫を被ってる可能性もあるな……うん、とりあえず自己紹介でもして、簡単に喋ってみるか。

 

 「──えー、どーも、初めまして!硝子ちゃんの先輩の、墓之瀬聡人です!趣味はご飯食べることとゲームすること!」

 「ゲーム、めちゃくちゃ弱いですけどね」

 「うるさいぞ硝子ちゃん。……あと、特技は三文芝居ね!よろしく新1年ズ!」

 「はいっ、よろしくお願いします墓之瀬さん!自分は灰原雄です!趣味は大食い、特技も大食いです!」

 「おおっ、良い趣味&特技だな!今度ご飯一緒に行こう!」

 「はいっ、是非っ!」

 

 喜び勇んで自己紹介を返してくれる黒髪くん──雄。さてはコイツ、裏表のない良い子だな?と思いつつ、俺は視線を金髪くんの方へと向ける。

 

 「そっちの君は、どなたー?」

 「……七海建人です。趣味は……特にありませんね。強いて言えば読書くらいでしょうか。よろしくお願いします」

 「読書!良いね、俺も好きだよ!今度おすすめの本貸して!」

 「…………ええ、まぁ、はい」

 「え、めちゃくちゃ嫌がってない?」

 「いえ別に、そういうわけではなく……ただその……思ってたよりまともだな、と」

 

 金髪くん──建人に頼み込むと、何か引っ掛かるような反応、ちょっと追及してみたところ、そんな言葉が紡がれて。

 

 「思ってたよりって……もしかしてあれか、悟とか傑の上位互換が来ると思ってたの?」

 「……あの2人の先輩とのことでしたので」

 「あはは、そしたら歌姫先輩……卒業しちゃったから歌姫さんか。うん、その歌姫さんとか化け物になっちゃうじゃん。大丈夫、俺はまともだよ」

 「まともって言っても、あのクズどもと比べて、ですけどね」

 「さっきから硝子ちゃん、うるさくない???」

 

 こりゃ多分、この子も常識的な良い子だなと思いながら建人とお喋りしていれば、硝子ちゃんが茶々を入れてきて。

 

 ジト目で見やれば、彼女はピューっと、素知らぬ顔で窓際へ逃げていく。

 

 まったく硝子ちゃんは……。

 

 「……まぁ、気を取り直すとして……じゃ、交流を深める続きといこう!2人はハローキ○ィって好きかな?俺の部屋にご当地版のヤツめちゃくちゃ棲息してるから、欲しいのあったら持ってって良いよ!」

 「本当ですか!?自分、妹が居るので、貰えたら多分アイツ喜ぶと思うんですけど……!」

 「よっしゃ雄、いくらでも持ってけぃっ!!……建人はどう!?要る!?」

 「要りません……というか、どうしてそんなに沢山あるんですか?」

 「いや、任務で各地を回るからさ……つい記念に買っちゃってたら、いつの間にかサ○リオピューロランドになってた (なってない) 」

 「普通はならないと思うんですが……はぁ、この人もやはりあの人たちの先輩か……」

 

 諸手を挙げてわーいと無邪気に喜ぶ雄に、額を押さえて呆れの溜め息を吐く建人。雄、ええ子やな……!それに比べて建人と来たら、感想、失礼すぎんか???別にご当地限定のハローキティに、数百万を使ってるだけだろうに……。あ、三角ペナントに使ってるのは50万くらいね。だから大丈夫、俺はまともだ。

 

 うんうん頷き自分の正常さ具合を再確認していると──ふと漂ってくるヤニの匂いが、鼻をつく。

 

 どこからか、白くくゆる煙が、風に乗って俺の元へと流れてきていた。

 

 顔をしかめながら風上、窓の方へと目を向ければ、ガラスに寄りかかりぽーっと外を眺めて、タバコを嗜む硝子ちゃんの姿があって。

 

 「……ちょっと硝子ちゃん、学校でタバコは駄目だって……!いや、外でも駄目だけどさぁ……!」

 「フー……まぁまぁ、最近吸えてなかったんですよ」

 

 未成年でしょ?と注意するも、彼女は気にも留めず、辞める素振りすら見せない。

 

 「まぁまぁじゃないよ、歌姫さんと夜蛾先生に言い付けるぞ?」

 「…………チッ……はーい」

 「おい、今舌打ちしただろ」

 「してないです」

 「いやしたでしょ、俺の聴覚舐めるなよ?落ちた小銭の種類を聞き分けられるんだからな?」

 「こ○亀の両さんかな???」

 

 違ぇよ。……いや、たしかに日下部さんに同じようなことを言われたことはあるけど。

 

 「はぁ……本当に舌打ちなんてしてませんよー……さっきのはあれです、そう……投げキッス」

 「んなわけあるかい。こちとらビビって、一瞬息、止まってんだぞ?」

 「投げキッスが魅力的だったからですか?」

 「後輩が急に舌打ちしてきたからだよ、バカ。ほら、タバコ寄越しなさい」

 

 無理のありすぎる誤魔化しを展開する硝子ちゃんを咎めると、彼女は口を尖らせて、吸いかけのタバコを差し出してくる。

 

 俺は自ら窓際まで赴き、火の点いたままになってるそれを受け取って。

 

 …………これ、茶色のフィルター部分、さっきまで硝子ちゃんがくわえてたんだよな……。

 

 「……どうしたんですか?タバコ、じっと見ちゃって」

 「えっ?い、いや別に、何も?」

 「そうですか?私はてっきり、投げキッスの代わりに間接キッスでも狙ってるのかと……」

 「は、はぁっ!?そんなわけあるかっ、変なこと言うなっ!」

 「ぷっ、顔赤くなってますよ?ウケる」

 「うっさいわっ!!」

 

 妙な言いがかりを付けてきた彼女から顔を背け、タバコの先端、火の点いた部分を握り潰す。

 

 ちくしょうっ、やっぱりこっちの方の後輩は生意気だなっ!でもちょっと落ち着く!後輩は生意気じゃないと!

 

 奇異な安心感を覚えつつ、俺はタバコだったものを硝子ちゃんへと返却。彼女は常備しているらしい空き箱にそれをしまう。

 

 その動きの最中、ちらりと新1年ズの雄と建人の様子を窺えば、2人は2人で何やら楽しく雑談を繰り広げているようで。

 

 これならちょっとの間は放っておいても大丈夫だなと考えた俺は、気になっていたことを硝子ちゃんに尋ねる。

 

 「ところで硝子ちゃん。悟と傑は今、どっか行ってんの?」

 「はい。たしか、山梨の方に任務で」

 「マジかー……折角2週間ぶりくらいに帰ってこれたから、会いたかったのに。タイミングわりー」

 「どんまいでーす。でも多分、あと2、3日くらいでアイツらも帰ってくると思いますよ?」

 「あーダメ、そのときには俺もう任務で東北行ってる」

 「えぇ……」

 

 ね、えぇ……だよな。俺もえぇ……だもん。近頃、出張任務、多すぎなんだよな……死にそう……。昨日まで俺、新潟に居たんだよ……?一昨日は和歌山。意味分からんわ、他の術師は何してんねん。青春させろ。いや、あらかたもう、したかった青春っぽいことはできてるんだけども。

 

 「……でも、東北かー……じゃあ聡人先輩、にんにくせんべい買ってきてください。あと牛タンとか、フカヒレの姿煮とか」

 「なんかちょっと前から硝子ちゃん、俺を宅配業者だと思ってない???いやまぁ、買ってきてはあげるけど」

 「お、やったー」

 

 しょうがないなぁと、我が儘な彼女のご注文を呑んで。

 

 どうせなら新1年ズの分も買ってきてあげようかと、彼らの話に交ざって注文を取り、ついでにメアドとかも交換しちゃって──いざいざ東北、秋田のある寂れた樹海。

 

 季節は春ではあるものの、長ランを突く肌寒さはまだ残っているその地にて、俺は、早速の任務に取りかかろうとしていた。

 

 帳の裡、さざめく木々の中。

 

 俺の周りを囲むように構えるのは、牛頭や馬頭の鬼、6本脚の狼、身体中に目のあるニワトリといった呪霊たちの群れ。

 

 くるくると指先で回していた学帽を、頭に被り直して。

 

 俺は、その群れに向けて、刀を片手に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 





 


 ごめ、明日は投稿キツいかも……。

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