さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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第17話 異分子2人

 

 

 

 

 結界の破片が、降り注ぐ。

 

 入り交じるように、近くの辺り一帯に散らばっていた蝿頭たちも、姿を黒い塵に変え──また、黒い男の身体に巻き付いていた赤子の呪霊も、俺の術式に耐え切れずに姿を散らせる。

 

 それに応じて、突如宙空に幾つかの呪具が出現、地面へと落ちていく。

 

 「……マジか」

 

 僅かに目を見開く、黒い男。その足元に、甲高い音をあげて、鎖や刀、三節棍といった呪具たちが転がる。

 

 ……コイツの術式……いや違う、そもそもコイツからは呪力を感じない。あの赤子の呪霊の特殊能力……収納か?それが祓われたことで切れて、仕舞われてた呪具が出てきたってところか。

 

 突き抜けた怒りで冷えた頭。冷静に考えていると、黒い男が話しかけてくる。

 

 「やってくれたな……オマエ、術式持ちか。情報にはなかったはずだが……上にも嘘吐いてたのか?」

 「上のヤツらは色々と信用できねぇからな」

 「ハッ、そりゃもっともだ。……しかし妙だ、どうにも身体が動かし辛く感じる(・・・・・・・・・・・・・・・)……天与呪縛で呪力のない俺の、しかも特別性の肉体にも影響を与えるなんて、随分と面白ぇ術式を持ってるみたいだな」

 「『呪限無』だ。あらゆる呪い(・・)を弱体化させる。呪力を籠めれば下級の呪霊なんかは祓えるし、阻害については当然──天与呪縛も例外じゃない」

 「なるほどな……だが困った。オマエがさっき祓った呪霊……アイツは物を格納できる上に、サイズも変えられるヤツでな。ソイツを腹の中にしまうことで、今までは天与呪縛で呪力のない透明人間のまま、呪具を所持して結界を素通りできてた。それが、これじゃあ、全部パーだ。また新しいヤツを見つけて躾けないといけねぇ」

 「知るか、クソが。大道芸人よろしくテメェで呪具を飲み込んで死ねばいいだろ。……お喋りはもう終わりだ」

 

 刀袋と鞘を放り捨て、抜き身の刀は顔の横、刃は天に、峰は地面に並行にさせて、切っ先を黒い男へと向け構える。

 

 お互いに、情報の開示による能力の底上げは済んだ。

 

 向こうはこちらがデバフ能力を持っていることを認識しているし、こちらも向こうの能力を大まかながらに把握できている。

 

 おそらくは、天与呪縛のフィジカルギフテッド……一切の呪力を捨て去ることで、強靭な肉体と類稀なる身体能力を得たというところだろう。今は『呪限無』で阻害しているから、普段の7割程度しか能力は振るえないはずだが……それでも、厄介なもんは厄介だ。──全力で殺そう。

 

 心を定めた俺は、呪力の満ち満ちた身体で、地面を踏み砕いて、黒い男に肉薄する。

 

 左から右への薙ぎ払い、黒い男は右の手の、毛皮を鍔代わりにした刀でそれを防ぎ──散る火花を縫い、左で逆手に持った鉾で、こちらの脇腹を穿とうとしてくる。

 

 すかさず距離を取ると同時に呪力の斬撃を飛ばし、牽制。

 

 体勢を立て直してから、再び攻めかかる。

 

 心臓目掛けての刺突、独特な形状の鉾でそれを挟み取り、右の刀で袈裟上げを狙ってくる黒い男。

 

 俺は刀を手放し上体を大きく反らすことで躱し──できる僅かな隙、身体を廻して胸部を思い切り蹴飛ばす。

 

 勢いよく吹き飛ぶ黒い男、宙に舞った自分の刀を掴んで俺は、追撃をかけようと迫る。

 

 その時、視界に走る銀光。

 

 咄嗟に刀を眼前に構えて、次の瞬間には、微かな手の痺れと共に金属音が響く。

 

 黒い男が吹き飛ぶと同時に、数個の暗器を放っていたのだ。

 

 「チッ……」

 

 出鼻を挫かれた俺は、黒い男が体勢を正すのを大人しく見届ける。

 

 動きからして、そこまでダメージはない、か……頑丈だな……。

 

 「……あぁクソ、面倒臭ぇなぁ……とっとと星漿体を殺してトンズラこきてぇってのに、とんだ邪魔が入ったもんだ。……いや、俺がナマってんのか」

 

 顔をしかめて、黒い男はそんなことを宣う。

 

 どちらからともなく。

 

 引かれ合うように、俺と黒い男は駆け出し、3度目の激突。

 

 振り下ろされる刀を躱し、首を狙ってくる鉾を弾く。空いた黒い男の胸元に、流れのまま斬りかかろうとし、頭を襲う足刀。脊髄反射で腕を構えて──トラックでもぶつかって来たかのような重い衝撃、横合いに身体が吹き飛ぶ。

 

 「ぐッ……!!」

 

 やがて伝わる新たな衝撃、背で木板が割れる。高専にまばらに配置されている寺、その上階の壁に突っ込んだのだ。

 

 だが、痛みに呻いている猶予はない。

 

 すぐさま身体を起こし──風切り音、即座に後ろへ飛び退り、僅かに遅れて、飛び込んできた黒い男がそこに刀を突き刺す。割れ砕ける木の床板。

 

 黒い男が追撃をかけてくるより先に、背後の襖を開いて更に後退、襖を閉じ──突き破ってくる黒い男、合わせてその横っ面に蹴りを入れる。

 

 「ンッ……!」

 

 黒い男は宙を舞い、俺はそれを追いかけ、その身体に刀を振るう。刀は、交差して構えられた刀と鉾にぶつかり──けれども振り抜けば、黒い男を弾き飛ばすことに成功する。

 

 舞う木片、寺の壁をブチ破って、黒い男は空を浮かぶ。

 

 続いて空に舞い出た俺は、その首をはねようと刀を振り上げ──絡む視線、気付いた時には剣閃が刻まれていた。

 

 「うッ……!」

 

 頭を掠めて、黒い男の刀が空気を撫でる。学帽が剥ぎ飛ばされ、額に熱が走り、血が漏れる。

 

 その傷に気を取られていれば、落下中の宙空で身を旋回させた黒い男が、今度は後ろ廻脚を放ってくる。身体を襲う衝撃、ただでやられてなるものかと、こちらも黒い男の頬を斬り付け──墜落、石畳が窪れ、土煙が上がる。

 

 「痛ぇな、クッソ……!」

 

 恨み言を溢しつつ、跳ね起きる。

 

 腕を振って土煙を払い、対面。

 

 首を鳴らし、頬から血を流した黒い男は、不敵に笑んで佇む。

 

 「……力量差は分かっただろ?学ラン野郎。今諦めて大人しく去れば、追わないどいてやるぜ?」

 「は?まだ半分くらいしか本気出してねぇのに、力量差もクソもねぇだろうが」

 「あぁ?まだ俺は半分も本気出してねぇんだから、どう考えても俺のが上だろ」

 「はぁ?いや、さっきのは盛っただけで、俺はまだ3割しか本気出してねぇし」

 「あぁ?俺もテキトー言っただけで、まだ1割も本気出してねぇよ」

 「…………」

 「…………」

 「「……死ねッ、ガキがッ!!」」

 

 示し合わせたかのように。

 

 俺と黒い男は、動き始める。

 

 鋼と鋼がぶつかり合い、硬質な音を響かせる。刀と鉾の鈍い光が無数の線を描き、腕と脚の、黒と白の軌跡もまた刻まれる。

 

 至近距離での肉弾戦。

 

 振り下ろし、前蹴り、袈裟懸け、後ろ廻脚、横薙ぎ、縦拳、足刀、肘鉄、刺突、裏拳、飛び膝、斬り上げ──。

 

 皮を斬り斬られ、肉を打ち打たれ、骨を折り折られる。

 

 抉れていく地面に、ピシャリと血が飛び散る。

 

 どれほどやり合っただろうか、最後にお互いに首を薄皮一枚斬ってから、俺たちは距離を取る。

 

 「ッ……息、乱れてんぞ」

 「はぁッ……はぁッ……そっちこそ、絶え絶えだろ」

 「あぁ?ッ……言ってる意味が分かんねぇな、学ラン野郎」

 「ッ……ふぅッ……嘘吐け、やせ我慢ゴリラマン」

 「……リズミカルに言うんじゃねぇよ」

 「……うるせぇ」

 

 呼吸を整えながら、軽口を交わす。

 

 脂汗がこめかみに浮かぶのを感じつつ、俺は身体の状態を確かめる。

 

 頭は何回か殴られてるが、ふらついてはない。首も、掠り傷だけだ。上半身は随分とやられて、あばら骨も持ってかれてる気もするが……それは向こうも同じだな。むしろアッチのがちょい重傷か?……下半身は、傷ついているが、騒ぐほどじゃない。

 

 ……しかし、呪力の防御をこうも易々と破られるとはな……ここまで傷を負うのは、ショッピングセンター以来か?痛ぇなクソ……息もし辛ぇ。

 

 苦悶に顔を歪めつ、黒い男を見やれば、顔やら服やらを血に染めながらも、表情はやはり不敵な笑みだ。

 

 そんな彼に、俺は、疑問を投げかける。

 

 「……おい、オマエ、ゴリラマン」

 「……なんだ、学ラン野郎」

 「テメェ、なんでこんなことした?」

 「あぁ?……金のためだよ。星漿体を殺したら、大金がたんまり入ってくる。単純だろ?」

 「……その実力なら、裏のことなんざやんなくても、稼げるはずだ」

 「……ハッ……呪力のない異分子な俺が、呪術界に受け容れられるわけねぇだろうが」

 「……そうか……じゃあ、とりあえず死ね」

 「脈絡も何もあったもんじゃねぇな……オマエが死ね」

 

 返ってきた答え、異分子という部分に少し感じ入るものを覚えつつ、止まらない殺意のままに暴言を吐く。

 

 コイツにも色々とあったんだろうが……悟を殺している時点で、和解の道は、もう無い。絶対に、コイツは殺す。

 

 弛んでいた空気が再び張り詰めていく。

 

 傷だらけの身体で、得物を構え合い。

 

 1歩を踏み出そうとして──。

 

 

 

 「「──ッッ!!」」

 

 

 

 ──ぶわりと、全身の毛が逆立つ。

 

 押し潰されるような圧倒的な存在感。

 

 黒い男と揃って首を動かし、土煙の向こう。

 

 揺らめく影が見える。

 

 やがて土煙が晴れる頃、そこに居たのは──。

 

 

 

 「──……さと……る……?」

 

 

 

 蒼い眼光。白の髪。達観したような笑み。

 

 纏うは血みどろの服、だが、彼は、悟は、しかと両足で立っていて。

 

 「……どぅえッ、ぶぉッ、さとッ、悟ッ!!??生きてるッ!?生きてるッ!?えっ、生きッ、生きてるのッ!?生きててくれてたのッ!?」

 

 それを見た俺は、わたわたと慌て出す。感情が迷子だ。

 

 だって、あのときの悟は、額にも喉にも穴が空いていた。まず間違いなく致命傷だったはずだ。それが、どうやって……。

 

 「──……反転術式か」

 

 心中で浮かんだ疑問、それに丁度答えるかのように、対面の黒い男が言葉を漏らす。

 

 反転術式……!そうか、反転術式か!負のエネルギーである呪力をかけ合わせて正のエネルギーにし、傷を癒やす、高度な呪術……!唯一できる硝子ちゃんの教えがクソすぎて、今までは誰も習得できてなかったはずだけど……アイツは、ここで習得してみせたのか……!

 

 込み上げる感動。遅れて、安堵が、喜びが、込み上げる。

 

 満面の笑みを浮かべて、俺は黒い男に喋りかける。

 

 「ちょっ、あのぉッ、すみませぇーんッ!!ウチの後輩ッ、優秀なんでぇッ!?生きてましたぁッ!!ヨッユーで生きてましたぁッ!!あいむそぉーりぃー、ゴリラマァンッ!?なんでしたっけッ、五条悟は俺が殺した、でしたっけ!?殺せてねぇっつぅーのッ、ザコがぁッ!!一昨日来やがれッ!!」

 「ペラペラと……コイツ、後輩が生きてた安堵で、ハイになってる……うぜぇな……オマエも殺されたって思ってたクセに……ほんと、なんなんだ、コイツ……???」

 

 勝ち誇った顔で、黒い男を煽り倒す。

 

 ちょっ、生きてた……!悟、生きてたんだけど……!んだよもうッ、焦らせんなよッ……!

 

 ……だが、生存が分かった今、もう裡に黒い感情はない。

 

 口端を曲げて。

 

 俺は、少し離れた悟に向かって手を掲げ、呼びかけた。

 

 「──おっしゃッ、悟ッ、よく生きてたッ!!今夜はパーティーな!!じゃ、2人でこのゴリラマンやるぞッ!!」

 

 それに答えるみたく。

 

 悟もまた、手を掲げ──ゆっくりと、その位置が、下がっていく。

 

 顔の前、手の甲をこちらに向けて立てた人指し指に、集う赫い光。

 

 その赫は、視界を灼くほどに、明滅し──。

 

 

 

 次の瞬間、赫い衝撃が、黒い男の身と共に──俺の身をも包み込んだ。

 

 

 

 ……なッ、なんでぇッッ──!!!!????

 

 





 
 いつからパパ黒には術式が通用しないと錯覚していた……?

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