押し寄せる赫の波動。
咄嗟に身体の前で腕を交差させ、呪力での防御を全開にするも──身体がバラバラになってしまいそうなほどの衝撃に見舞われる。
「──ッ!!!」
耐えることなどできずに、俺はその赫に大きく弾き飛ばされていく。
点在する幾多の寺社、その壁を背でブチ破りにブチ破り、やがて一際大きな和建築の建物の屋根に身体を打ち付けて、俺は止まる。
木片や瓦と共に、墜ちる身体。
ぐらつく意識の中、なんとか着地だけは成功させて、地面に片膝をつく。
「……痛ってぇなぁ……何、アレ?……無限の発散、か……?」
放たれた赫い波動の存在に当たりをつけつつ、涌き起こる煙を刀で払って、俺は立つ。
……あんな力は、俺は今まで見たことがない……とくれば、これまでの『無下限』の力に反転術式を応用した、と考えるのが普通だよな……。オリジナルの順転は、引き寄せる力だし、反転は弾く力ってのが妥当なところか?……いやっ、ってかそもそも俺、なんで吹っ飛ばされたの???
思案していると──右に気配。
刀を構えれば、そこには俺と同じく吹っ飛ばされたと見られる黒い男が居て。
「待てよ、学ラン野郎。そんなに焦んな」
「いや焦るだろ、今俺めちゃくちゃパニックだもん。なんで俺、オマエとまとめて攻撃食らわせられてんの?俺、悟に何かした?」
「知るかボケ、元々嫌われてたんじゃねぇか?」
「は?俺と悟、根っからのマブなんで、そんなわけないんだが?」
「あ?じゃあ嫌われるようなことを最近したんだろ。根っからのもんを崩壊させるような」
「はぁ?いやオマエ、そんなことするわけ……ない、よ……?」
「疑問形じゃねぇか、心当たりあんだろ」
い、いや、心当たりは……な、無きにしも非ずって程度だし……。……え、あの悪戯がバレたのか……?それともアッチ……?あるいは、まさかアレか……?
刀を下ろし、顎に手を当て心当たりを探ってみるも、ちょっと判別がつかない。とりあえず土下座しとけば何とかなるか……?と思っていたところに、殺気。
慌てて飛び退いだ場所の空を斬るのは、黒い男の刀で。
「──オマッ、ちょっ、何してんねんッ!危ないだろうがッ!」
「ハッ……殺し合いの最中に気を抜いてんのが悪いんだろ、マヌケ」
「よし、殺します。絶対に殺します。オマエ、マジ、あれだからな?これから悟がこっち来たら、俺はとりま土下座して謝るから、それで2対1、数の差でボッコボコやからな?」
「黙れアホが、土下座して後輩のガキに協力を請うとか恥ずかしくねぇのか?」
「いや、全然?」
「なんて純粋な目してんだ、コイツ……キモ……」
コイツ、なんで一々人を煽ってくんの?うっざぁ……何、人の神経を逆撫でしないと死ぬ星に生まれた感じなの?じゃあ死ねよ (止めどない殺意) 。
睨み合っていれば──再び感じる圧倒的な存在感。
曇天に、戴くように。
悟は宙に立ち、高みからこちらを睥睨する。
黒い男は舌打ちをし、俺は悦楽に顔を歪めて叫ぶ。
「はい悟来ましたぁーッ!!2対1、勝ち確定ッ!!謝るなら今の内だぞッ、ゴリラマン!!おらッ、頭を垂れて蹲えッ!!平伏しろッ!!」
「チッ……勝手に言ってろ、学ラン野郎」
「お、それがオマエのファイナルアンサーだな!?後悔すんなよ!?……おい悟ッ!!」
威勢よく黒い男に確認を取った俺は、空の悟に向き直り、その場に頭を垂れて蹲う。
「なんでキレてんのかよく分かんないけどごめんなさいッ!!この黒いゴリラマンむかつくから、一緒にボコろう!!??」
「コイツ、後輩のガキに平伏してやがる……」
後頭部に視線が突き刺さるのを感じながら、俺は土下座を続けて悟の返答を待つ。
静かに待つこと数瞬──身体を撫でる、圧。
バッと顔を上げれば、その答えは、2度目の赫の奔流を以て返されていて。
「なッ、ちょッ──!!」
混乱の境地で、獣さながらに。
地面につけていた四肢を全力で動かし、前へと飛び出して──背後で、轟音。
爆風に身体を押され。
パラパラと落ちてくる礫を浴びながら、地面を転がる。擦れる頬、血が滲む。
下手したら、即死級の攻撃だった。
頬を拭いながら跳ね起き、いったい何してくれてんだと悟に文句をつけようと空を見上げ──俺を射抜く、蒼い目。
そこに、いつもとは異なって。
何の感情が籠っていないことに気付いて、俺は、背筋が寒くなる感覚を覚える。
アイツは……本当に、悟か……?容姿は瓜二つだし、この圧倒的な存在感も、元々の無下限呪術と六眼に加え、死の淵で反転術式が使えるようになったことによる覚醒のようなものと考えられていたが……目が、そこにあるはずの意志が、今の悟には見えない。今の悟にあるのは、こちらを排除しようという無機質な使命感だけ……何が……いったい何が起きている……?
「──ククッ……どうした?ご自慢の後輩は、オマエを殺したいみたいだぜ」
嘲る声。
赫の攻撃に、あのままならば巻き込まれる位置に居た黒い男は、それを逃れ、音もなく俺の隣に立っており。
「……様子がおかしい……オマエ……まさかアイツに、悟に何かしてたりしねぇよなぁ……!?」
薄く血の流れている黒い男の首もとに、刀を突き付け質す。
その詰問に、黒い男はせせら笑って答えた。
「ハッ……さて、どうだろうな。強いて言やぁ、喉をブチ抜いて、頭をブッ刺して殺したくらいだが……」
「あぁ?……じゃあどうして、アイツは人形みたいになってんだよ……!」
「人形だぁ……?……ああ、なるほどな。たしかに今のアイツからは、殺す前にはあった、意志みてぇなもんは感じられねぇ……もっとも、殺意だけはふんだんにあるみたいだけどな」
黒い男が、視線を空に送って言う。
その先で浮遊する悟の指先には、またしても赫い光が集っていて。
「クッソ……!」
視界を紅に染めて、放たれる赫い波動。
俺は黒い男と揃って、地を蹴り場を離れる。
僅かに遅れて着弾、耳をつんざく音と共に、先程まで後ろに構えていた和建築を粉々に破砕した。
粉塵が立ち、木片瓦礫が崩れ落ちる中……俺は黒い男と言葉を交わす。
「……おい、ゴリラマン。オマエ、悟が人形みたくなってるのに、本当に心当たりは無いのか?」
「ああ、無ぇな」
「チッ……」
顔をしかめて睨めば、片眉を上げ愉快そうに目を細める黒い男。
俺は、空の悟と黒い男の動向に注視しながらも、高速で思案する。
──悟の身に起きてる可能性として……1番ありそうなのは、操られている、乗っ取られているというものだ。そうだったとすれば、悟自体の意志が無く、殺意だけがあるのにも理由はつく。だが、悟がそんな簡単に誰かに良いようにされるかと思うと、疑問も浮かぶ。余程の術師でもできない芸当だろう。100年、1000年でも生きて、呪術への造詣を深めたのなら、あるいはといった感じだが……天元様じゃあるまいし、そんな長寿な人間は居ないはずだ。
けれど、だとしたら、今のこの悟はいったい何だという話になってしまう。黒い男が言うには、少し前まではいつものアイツだったとのことだが……短時間で何があったんだ?反転術式の副作用か?そんなのは聞いたことがないが……いや待てよ?
反転術式は、頭で回すと言う。だが、細かく考えて行使しているわけではないはずだ。おそらくは無意識と意識の狭間に、反転術式はある。
そして悟は額を、脳を貫かれていた。深く物事を考える余裕などは、まず無かっただろう。故にアイツが行使した反転術式では、無意識が多くの割合を占めていたと考えられる。
その無意識が、悟の治癒、生存を何よりも最優先事項に置いていたとしたら。
反転術式の行使直後に、そのすぐ周りで暴れる危険人物。
それを悟の治癒、生存の脅威と捉えて、まだ意識は眠らせたままに、覚醒した身体で以て排除しようと動いている……?
……いやいや、流石にそれは飛躍しすぎか……それなら俺が襲われる理由が分からないし。黒い男は悟に致命傷を与えた人物、無意識が敵と断じて動くのは分かるけど、俺はむしろ、全力でソイツを殺そうとしてたわけで……ん?
「…………あ」
………………俺、序盤でさ。ぶちギレて、術式を暴走させてたけど……あのとき、もし近くで伏せていた悟の反転術式も阻害しちゃってたとしたら……さ……。俺も悟の治癒、生存の脅威じゃね……???
「……?おい、どうした?学ラン野郎。そんな、やっちまった、みたいな顔をして。面白ぇぞ」
「うるさい黙れ、ゴリラマン。……1つ、聞きたいことがある」
「……なんだ?」
「……反転術式による無意識下の暴走って現象……あると思うか?」
今までとは違う、別の意味で嫌な汗を垂らしながら、俺は黒い男に問う。
彼は、少しの間、考えるように顎を撫で。
「……普通はそんなもん、あるわけねぇだろって笑い飛ばすが……六眼持ちのヤツだからな。それに周りには、イレギュラーが集まってやがる。無いとは言えねぇ。ただ」
「ただ?」
黒い男は、一旦言葉を切り──見上げる悟の指の、小さな赫い輝きを眺め、言った。
「──だとしたら、今のアイツは……感情など無く、本能のままに邪魔者を排除しようと動く、殺戮人形と化してるってことになるな」
「なるほど…………え、ヤバくない???」
「ああ、ヤベぇな」
あっけらかんと黒い男が言ってのけた次の瞬間──またまたしても、赫が放たれた。
アカン (白目) 。
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ちなみに現状を簡単に言うと、
悟の自我「アカン、脳ブチかれた ^ ^ 反転術式どりゃ!」
無意識「後は任せとき!反転術式、継続……お、なんか邪魔されたぞ?危ないな、殺しとくか ^ ^ あ、さっき瀕死に追いやってきたヤツもおるやん。コイツもやっとこ ^ ^ どりゃ、赫いったれ ^ ^ 」
主人公、パパ黒「アカン(白目)」
って感じ。アカン(白目)。