さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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 作者は月姫ミリシラなので、枯渇なんとかは知らないから、領域が被ったのは偶然なんですよね……ってか、被ってんのかな?



第20話 倶に天を戴かん

 

 

 

 焼け腫らした左手と、引きつる右手で印を組む。

 

 呪術戦の頂点。これまでできたことは、なかった。

 

 けれど今は何故か、漠然と、できるという予感があった。

 

 

 

 「──領域展開……『有限呪園(ゆうげんじゅえん)』……!!!」

 

 文言を紡いだ瞬間、残っていた呪力がごっそりと抜け落ち──黒が辺りに渦巻いて、俺と悟、黒い男を飲み込み、球を象る。

 

 包まれる、暗闇。

 

 ──ポツリと。

 

 足元に、花が咲く。

 

 フクジュソウ。エリカ。アロエ。プリムラ。

 

 タンポポ。スミレ。カキツバタ。ブライダルベール。クロッカス。ツルニチニチソウ。

 

 赤、青、黄、緑、紺、紫、白桃、紅、山吹……花々は、暗闇の中を、埋め尽くすように、咲き誇っていく。

 

 カスミソウ。ペチュニア。ブルースター。クチナシ。ペンタス。

 

 百花繚乱。どんどん、どんどんと、広がる。

 

 カランコエ。ブバルディア。マネッチア。アゲラタム。イヌサフラン。エーデルワイス。

 

 千紫万紅。鮮やかに闇は染まり、創られるは──花園。

 

 その咲き乱れる花々を踏みしめて。

 

 こちらへ迫ろうとする悟、それを止めるべく、重い身体で黒い男が前に立つ。

 

 「……足止め頼んだぞ、ゴリラマン」

 「ハッ……誰に物言ってんだ、学ラン野郎」

 

 風が吹く──衝突、呪術最強の男と、物理最強の男がぶつかる。

 

 舞い散る、色とりどりの花弁。

 

 15秒。

 

 痛む頭、霞む視界、崩れそうになる身体で、俺は、領域にて底上げされた術式を発動する。

 

 『有限呪園』内における『呪限無』、その変貌した効果は──領域内の、あらゆる呪いの掌握。

 

 ここでは、俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「いくぞッ……!!」

 

 14秒。

 

 手始めに、『無下限呪術』を15秒間使用不可にし──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、悟に絡み、馴染む──丸裸にする。代わりにその後15秒、『無下限呪術』の対象範囲を拡大できるようになる。

 

 13秒。

 

 至近距離、悟と黒い男は肉弾戦を繰り広げる。

 

 左の横拳、捌いて肘を入れようとし、押さえられ、腹に膝。矢継ぎ早の殴打、全てを躱して足刀に廻脚、弾いて頭突き──。

 

 12秒。

 

 自らの脇腹から血が、命が零れる感覚を受け、膝を地に着きながらも──俺は、眼を瞋らせる。

 

 11秒。

 

 悟の身体を流れる膨大な呪力、それを10秒間制限──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、悟に絡み、馴染む──代わりに10秒経過後は暫く呪力量をその分増加できるようにする。

 

 10秒。

 

 「ぐッ……ゲホッ……」

 

 咳き込み、口から血を吐く。

 

 血は、下に咲いていた白桃のベゴニアを、赤く染めた。

 

 9秒。

 

 薄く笑って。

 

 俺は、戦り合う2人を見上げる。

 

 目にも止まらぬ速度で動く彼ら、その周りを花弁と黒い男の血が舞う。

 

 8秒。

 

 黒い男の呪い、天与呪縛を書き換え──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、黒い男に絡み、馴染む──5秒間のみ身体の硬度を引き上げる。代わりにその後5秒は、弱体化する。

 

 7秒。

 

 「……化物がッ……!!」

 

 撃ち合う2人、黒い男が苦々しく漏らす。

 

 ジリジリと。

 

 黒い男は押され、こちらに悟が近付いていた。

 

 多分、負った手酷い傷が響いているのもあるだろうが……それを加味しても、悟が──強すぎるのだ。基礎的な呪力操作と体術でこのレベル……末恐ろしいどころの話じゃない。

 

 6秒。 

 

 感じるようになる、戦闘の風圧。

 

 髪が浮き、ボロボロの長ランがはためく。

 

 顔の横を、幾多もの花弁が流れていった。

 

 5秒。

 

 「……ッ……ハァッ……」

 

 時間が、異様に長く思える。

 

 自らの荒れた息遣いが、いやに耳に入った。

 

 4秒。

 

 ガンガンと頭が痛む。割れそうだ。

 

 元々『呪限無』は脳への負担が大きい術式だ。

 

 それを長時間行使したこと、そしてこれまでずっと、休みなく戦い続けていること……身体が、脳が、もう限界だった。

 

 3秒。

 

 「……ッ!!」

 

 遂に、黒い男が吹き飛ばされた。

 

 俺の頭上を舞って、黒い男は花畑を転がり、動かなくなる。

 

 その頃には、もう悟は、俺の前に立っていて。

 

 2秒。

 

 感情のない蒼の眼が、こちらを貫く。

 

 交わる視線。

 

 ゆっくりと、その腕は、俺へと伸ばされ──。

 

 1秒。

 

 「──ここだッ……!!」

 

 練っていた呪力の全てを以て、術式を発動──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、悟に絡み、馴染む──強制的に、悟の反転術式を終わらせる。

 

 俺の眼前で、止まる手。

 

 悟の身体を制御していた無意識は、抵抗しようとするも、制限された呪力では太刀打ちできず、されるがまま反転術式を解かれ──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、悟に絡み、馴染む──そこで俺は、強制的に反転術式を再発動させる。

 

 すべての原因は、瀕死の悟が行使していた反転術式を俺が妨げ、その後も辺りで暴れてしまったこと。そして、その行動を、悟の防衛本能──無意識が、敵対行為と捉えてしまった。

 

 まさしくは、イレギュラーによる誤作動。

 

 ならば、それをリセットし、イレギュラーのない状態で再発動させれば──瞬間、あたかも糸が切れたように、悟は眼を閉じ、崩れ落ちる。

 

 0秒。

 

 定刻、領域が──崩壊する。

 

 黒々とした結界の破片が散る中、俺は余力を振り絞って、結界の座標をズラす。

 

 穏やかな表情で倒れ込む悟だけは、直前まで居た寺院の舞台の上に戻して。

 

 俺と黒い男は、そこから遠く離れた、築地が左右に並ぶ小路へと移動させ──。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 「──……うッ……!」

 

 抉られるような痛みが、脳を刺激し。

 

 膝立ちの状態で、俺は意識を取り戻す。

 

 か細い呼吸、全身に浮かぶ脂汗、額や脇腹から溢れる血液、ひりつく左腕……かつてないほどの最悪なコンディションでの目覚めだった。というか、よく目覚められたなっていう感じですらあった。下手したら永眠コースの重傷だろコレ。

 

 早いところ硝子ちゃんに治療してもらわないとなと思っていると──物音。

 

 重い頭を向ければ、すぐ傍の石畳に転がる俺の刀、その向こうで、立て膝をついて築地にもたれる黒い男が居て。

 

 「……なんだ。生きてたのか、学ラン野郎」

 「……そっちこそな、ゴリラマン」

 「相変わらず生意気言いやがる……なぁおい」

 「何?」

 「……五条悟には、勝てたのか?」

 「……まぁ、向こうを戦闘不能に追いやったわけだし……俺らの勝ちじゃね?」

 

 答えると、黒い男は、不服そうに口を曲げる。

 

 「……イマイチ釈然としねぇ……コレ、本当に勝ちって言えんのか……?」

 「俺からしたら、悟も誰も死んでねぇから勝ちだけど」

 「ふざけんな、コッチは損しかしてねぇぞ。……ムカつくし、今からでもコイツを殺っとくか?」

 「おい」

 

 物騒なことを呟く黒い男。わりとマジで勘弁してほしい……今こうやって喋ってんのだって、限界ギりギりだし。

 

 「……クソ……ぶちまけた蝿頭どもは、まだわんさか暴れてくれてんだろうが……星漿体は流石にもう、天元のとこに辿り着いちまってるだろうし……」

 「……ドーンマイっ☆」

 「死ね。……チッ、骨折り損のタダ働きかよ……」

 

 溜め息と共に、黒い男は空を見上げる。

 

 曇天、分厚い雲は依然広がっており、晴れ間は覗かない。どころか、夜の帳も近付いていた。

 

 ……コレ、多分星漿体の娘は同化しないよーとか言ったら絶対マズいよな。ってか、あれ?

 

 「……ちょい待てゴリラマン、オマエ傑に手ェ出したりとかはしてねぇよな?」

 「傑?誰だソイツ」

 「あー……福耳で、前髪が変で、ピアス空けてて、前髪が変な高専のヤツ。悟とか星漿体の娘とかと一緒に居なかった?」

 「あぁ、アイツ。星漿体のガキと逃げやがったよ」

 

 あ、そーなの。良かった……じゃあコレ、ほんとハッピーエンドでは?俺は死にかけだけど。

 

 「……よしっ、じゃあゴリラマン!お帰り願うわ、さっさと去ねっ!タクシー呼んでやるから!」

 「舐めんな、こっからタクシーまでどんだけ歩くと思ってんだよ。俺に退いてほしいんだったら、大金と足代わりのヘリでも持ってこい」

 「大金……いくら?」

 「あー……5億。後、呪具の回収もしてこい」

 「オマエこそ舐めんな」

 

 なんでコイツ、死にかけなのにこんな傍若無人なんだよ。硝子ちゃんの親戚か???可愛くないヤツが横暴やっても、うざいだけだぞ???

 

 ──のんべんだらり。

 

 熾烈な戦いを終えた余韻に浸りながら、そんな風に語らっていたときだった。

 

 

 

 「──おめでとう。まさか五条悟に勝ってしまうとはね。君たちは……本当に予想外の存在だよ」

 

 パチパチ、パチパチ。

 

 横合いから讃えるように鳴らされる手の音に、粘りついてくるようなくぐもった声。

 

 重い頭をまた振って、そちらを見れば、続く小路を歩いてくる人物が目に入った。

 

 不気味な能の女面を顔につけており、表情は窺えない。ワインレッドのスカーフを首元に巻き、纏うは黒のハットに黒のトレンチコート。背はそこまで高くはないが……性別不詳だ。

 

 訝しむ俺たちに、女面は語りかけ続ける。

 

 「やはりだ。人間の可能性は底知れない。君たちは身を以てそれを証明してくれた。感謝しかないよ」

 

 くつくつと笑って、女面は言う。隠れて俺は、黒い男とコソコソ言葉を交わす。

 

 「何だアイツ、意味の分からんことをぺらぺらと……」

 「こわー……不審者じゃん。通報しといた方が良くない?」

 

 それを気にする素振りもなく、女面は。

 

 「──そんな君たちに対して、非常に申し訳ないんだがね……私の思い描く未来には、どうにも邪魔みたいなんだ。だから──ここで死んでもらおうか」

 

 トレンチコートの内から取り出される、黒く光るナニか。

 

 極度の疲労、死闘の余韻、削れ切った身体、抜けていた気──あらゆる要因が絡み合って、反応は遅れ。

 

 気付いた頃には、鳴り響く4発の発砲音。

 

 身体に焼け付く痛みが奔り──時分は、春宵に至ろうとしていた。

 

 

 

 






 感想高評価はありがとう!終わりが見えてきた!

 そしてハイエナしに来たこのお面マン……いったい誰ジャクなんだ!?

 
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