作者は月姫ミリシラなので、枯渇なんとかは知らないから、領域が被ったのは偶然なんですよね……ってか、被ってんのかな?
焼け腫らした左手と、引きつる右手で印を組む。
呪術戦の頂点。これまでできたことは、なかった。
けれど今は何故か、漠然と、できるという予感があった。
「──領域展開……『
文言を紡いだ瞬間、残っていた呪力がごっそりと抜け落ち──黒が辺りに渦巻いて、俺と悟、黒い男を飲み込み、球を象る。
包まれる、暗闇。
──ポツリと。
足元に、花が咲く。
フクジュソウ。エリカ。アロエ。プリムラ。
タンポポ。スミレ。カキツバタ。ブライダルベール。クロッカス。ツルニチニチソウ。
赤、青、黄、緑、紺、紫、白桃、紅、山吹……花々は、暗闇の中を、埋め尽くすように、咲き誇っていく。
カスミソウ。ペチュニア。ブルースター。クチナシ。ペンタス。
百花繚乱。どんどん、どんどんと、広がる。
カランコエ。ブバルディア。マネッチア。アゲラタム。イヌサフラン。エーデルワイス。
千紫万紅。鮮やかに闇は染まり、創られるは──花園。
その咲き乱れる花々を踏みしめて。
こちらへ迫ろうとする悟、それを止めるべく、重い身体で黒い男が前に立つ。
「……足止め頼んだぞ、ゴリラマン」
「ハッ……誰に物言ってんだ、学ラン野郎」
風が吹く──衝突、呪術最強の男と、物理最強の男がぶつかる。
舞い散る、色とりどりの花弁。
15秒。
痛む頭、霞む視界、崩れそうになる身体で、俺は、領域にて底上げされた術式を発動する。
『有限呪園』内における『呪限無』、その変貌した効果は──領域内の、あらゆる呪いの掌握。
ここでは、俺は、
「いくぞッ……!!」
14秒。
手始めに、『無下限呪術』を15秒間使用不可にし──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、悟に絡み、馴染む──丸裸にする。代わりにその後15秒、『無下限呪術』の対象範囲を拡大できるようになる。
13秒。
至近距離、悟と黒い男は肉弾戦を繰り広げる。
左の横拳、捌いて肘を入れようとし、押さえられ、腹に膝。矢継ぎ早の殴打、全てを躱して足刀に廻脚、弾いて頭突き──。
12秒。
自らの脇腹から血が、命が零れる感覚を受け、膝を地に着きながらも──俺は、眼を瞋らせる。
11秒。
悟の身体を流れる膨大な呪力、それを10秒間制限──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、悟に絡み、馴染む──代わりに10秒経過後は暫く呪力量をその分増加できるようにする。
10秒。
「ぐッ……ゲホッ……」
咳き込み、口から血を吐く。
血は、下に咲いていた白桃のベゴニアを、赤く染めた。
9秒。
薄く笑って。
俺は、戦り合う2人を見上げる。
目にも止まらぬ速度で動く彼ら、その周りを花弁と黒い男の血が舞う。
8秒。
黒い男の呪い、天与呪縛を書き換え──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、黒い男に絡み、馴染む──5秒間のみ身体の硬度を引き上げる。代わりにその後5秒は、弱体化する。
7秒。
「……化物がッ……!!」
撃ち合う2人、黒い男が苦々しく漏らす。
ジリジリと。
黒い男は押され、こちらに悟が近付いていた。
多分、負った手酷い傷が響いているのもあるだろうが……それを加味しても、悟が──強すぎるのだ。基礎的な呪力操作と体術でこのレベル……末恐ろしいどころの話じゃない。
6秒。
感じるようになる、戦闘の風圧。
髪が浮き、ボロボロの長ランがはためく。
顔の横を、幾多もの花弁が流れていった。
5秒。
「……ッ……ハァッ……」
時間が、異様に長く思える。
自らの荒れた息遣いが、いやに耳に入った。
4秒。
ガンガンと頭が痛む。割れそうだ。
元々『呪限無』は脳への負担が大きい術式だ。
それを長時間行使したこと、そしてこれまでずっと、休みなく戦い続けていること……身体が、脳が、もう限界だった。
3秒。
「……ッ!!」
遂に、黒い男が吹き飛ばされた。
俺の頭上を舞って、黒い男は花畑を転がり、動かなくなる。
その頃には、もう悟は、俺の前に立っていて。
2秒。
感情のない蒼の眼が、こちらを貫く。
交わる視線。
ゆっくりと、その腕は、俺へと伸ばされ──。
1秒。
「──ここだッ……!!」
練っていた呪力の全てを以て、術式を発動──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、悟に絡み、馴染む──強制的に、悟の反転術式を終わらせる。
俺の眼前で、止まる手。
悟の身体を制御していた無意識は、抵抗しようとするも、制限された呪力では太刀打ちできず、されるがまま反転術式を解かれ──花に塗れた地から伸びた不可視の蔓が、悟に絡み、馴染む──そこで俺は、強制的に反転術式を再発動させる。
すべての原因は、瀕死の悟が行使していた反転術式を俺が妨げ、その後も辺りで暴れてしまったこと。そして、その行動を、悟の防衛本能──無意識が、敵対行為と捉えてしまった。
まさしくは、イレギュラーによる誤作動。
ならば、それをリセットし、イレギュラーのない状態で再発動させれば──瞬間、あたかも糸が切れたように、悟は眼を閉じ、崩れ落ちる。
0秒。
定刻、領域が──崩壊する。
黒々とした結界の破片が散る中、俺は余力を振り絞って、結界の座標をズラす。
穏やかな表情で倒れ込む悟だけは、直前まで居た寺院の舞台の上に戻して。
俺と黒い男は、そこから遠く離れた、築地が左右に並ぶ小路へと移動させ──。
▼▼▼
「──……うッ……!」
抉られるような痛みが、脳を刺激し。
膝立ちの状態で、俺は意識を取り戻す。
か細い呼吸、全身に浮かぶ脂汗、額や脇腹から溢れる血液、ひりつく左腕……かつてないほどの最悪なコンディションでの目覚めだった。というか、よく目覚められたなっていう感じですらあった。下手したら永眠コースの重傷だろコレ。
早いところ硝子ちゃんに治療してもらわないとなと思っていると──物音。
重い頭を向ければ、すぐ傍の石畳に転がる俺の刀、その向こうで、立て膝をついて築地にもたれる黒い男が居て。
「……なんだ。生きてたのか、学ラン野郎」
「……そっちこそな、ゴリラマン」
「相変わらず生意気言いやがる……なぁおい」
「何?」
「……五条悟には、勝てたのか?」
「……まぁ、向こうを戦闘不能に追いやったわけだし……俺らの勝ちじゃね?」
答えると、黒い男は、不服そうに口を曲げる。
「……イマイチ釈然としねぇ……コレ、本当に勝ちって言えんのか……?」
「俺からしたら、悟も誰も死んでねぇから勝ちだけど」
「ふざけんな、コッチは損しかしてねぇぞ。……ムカつくし、今からでもコイツを殺っとくか?」
「おい」
物騒なことを呟く黒い男。わりとマジで勘弁してほしい……今こうやって喋ってんのだって、限界ギりギりだし。
「……クソ……ぶちまけた蝿頭どもは、まだわんさか暴れてくれてんだろうが……星漿体は流石にもう、天元のとこに辿り着いちまってるだろうし……」
「……ドーンマイっ☆」
「死ね。……チッ、骨折り損のタダ働きかよ……」
溜め息と共に、黒い男は空を見上げる。
曇天、分厚い雲は依然広がっており、晴れ間は覗かない。どころか、夜の帳も近付いていた。
……コレ、多分星漿体の娘は同化しないよーとか言ったら絶対マズいよな。ってか、あれ?
「……ちょい待てゴリラマン、オマエ傑に手ェ出したりとかはしてねぇよな?」
「傑?誰だソイツ」
「あー……福耳で、前髪が変で、ピアス空けてて、前髪が変な高専のヤツ。悟とか星漿体の娘とかと一緒に居なかった?」
「あぁ、アイツ。星漿体のガキと逃げやがったよ」
あ、そーなの。良かった……じゃあコレ、ほんとハッピーエンドでは?俺は死にかけだけど。
「……よしっ、じゃあゴリラマン!お帰り願うわ、さっさと去ねっ!タクシー呼んでやるから!」
「舐めんな、こっからタクシーまでどんだけ歩くと思ってんだよ。俺に退いてほしいんだったら、大金と足代わりのヘリでも持ってこい」
「大金……いくら?」
「あー……5億。後、呪具の回収もしてこい」
「オマエこそ舐めんな」
なんでコイツ、死にかけなのにこんな傍若無人なんだよ。硝子ちゃんの親戚か???可愛くないヤツが横暴やっても、うざいだけだぞ???
──のんべんだらり。
熾烈な戦いを終えた余韻に浸りながら、そんな風に語らっていたときだった。
「──おめでとう。まさか五条悟に勝ってしまうとはね。君たちは……本当に予想外の存在だよ」
パチパチ、パチパチ。
横合いから讃えるように鳴らされる手の音に、粘りついてくるようなくぐもった声。
重い頭をまた振って、そちらを見れば、続く小路を歩いてくる人物が目に入った。
不気味な能の女面を顔につけており、表情は窺えない。ワインレッドのスカーフを首元に巻き、纏うは黒のハットに黒のトレンチコート。背はそこまで高くはないが……性別不詳だ。
訝しむ俺たちに、女面は語りかけ続ける。
「やはりだ。人間の可能性は底知れない。君たちは身を以てそれを証明してくれた。感謝しかないよ」
くつくつと笑って、女面は言う。隠れて俺は、黒い男とコソコソ言葉を交わす。
「何だアイツ、意味の分からんことをぺらぺらと……」
「こわー……不審者じゃん。通報しといた方が良くない?」
それを気にする素振りもなく、女面は。
「──そんな君たちに対して、非常に申し訳ないんだがね……私の思い描く未来には、どうにも邪魔みたいなんだ。だから──ここで死んでもらおうか」
トレンチコートの内から取り出される、黒く光るナニか。
極度の疲労、死闘の余韻、削れ切った身体、抜けていた気──あらゆる要因が絡み合って、反応は遅れ。
気付いた頃には、鳴り響く4発の発砲音。
身体に焼け付く痛みが奔り──時分は、春宵に至ろうとしていた。
感想高評価はありがとう!終わりが見えてきた!
そしてハイエナしに来たこのお面マン……いったい誰ジャクなんだ!?