さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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 ごめ、書いてたデータ全部消えちゃったから遅れました……。まじで現実を受け入れられなかった……。

 あと今話と次話は、羂索の能力がちょいネタバレになるので注意です。一応ぼかしてはいるけど……。


第22話 サプライズパーティー

 

 

 

 右の脚で地面を踏み込み、左の脚で地面を蹴る。

 

 襤褸と化した長ランをはためかせて、俺は女面へと肉薄する。

 

 「──無理するなよ。疲れてるだろ」

 「まさか、元気いっぱいだよッ……!」

 

 腰だめに構えた刀を頭部に振るい──ハットを押さえながらそれを易々と躱す女面、その背後に回り込んだ黒い男が右廻脚を仕掛け──それもまた、いとも容易く捌かれる。

 

 「片や残りカスの呪力で動く術式の焼き切れた術師に、片や百孔千瘡のフィジカルギフテッド……そんな相手に、私が後れを取るわけないだろう?」

 「ぐッ……!」

 「チッ……!」

 

 トレンチコートを揺らし、踊るような滑らかさで、女面は抉れた脇腹を蹴りつけ、顎を掌底で打ってくる。

 

 よろめく身体を俺は意地で持ちこたえ、返す刀で袈裟懸け、黒い男も合わせて右の縦拳を放つ。続いて刺突に曲線を描く左の殴打、斬り上げに右の剛腕。

 

 阿吽の息の、連携攻撃。

 

 だが、速さも威力も、キレも呪力も……何もかが、女面に届かせるには足りていない。

 

 軽やかに全ての攻撃を掻い潜った女面は、刀を奪いながら合気で俺を投げ飛ばす。

 

 地面に叩き付けられ、奔る激痛。這いつくばって見上げた先、女面は奪った刀で黒い男の──鳩尾を突き刺す。

 

 喀血、黒い男の頭がガクンと下がり、動きが止まる。

 

 静まり返る場。

 

 黒い男は、震える左の手で刀を掴み──上げた顔、ギラギラと瞳を輝かせ、凄絶に嗤う。

 

 「……捕まえたぜ」

 「なッ──」

 

 至近距離。

 

 血に塗れた拳が、女面の腹に──炸裂する。

 

 初めて攻撃を受け、女面はふらつき。

 

 石畳をもがいて起き上がった俺も、血を撒き散らしながらその背面へ右の拳を振るう。

 

 須臾の時は、無限にも引き延ばされ、歪む空間。

 

 叩き込んだ拳、宿した呪力が──黒く爆ぜる。

 

 黒閃は、女面の背から脇腹を抉り飛ばした。

 

 「──ッ!!……なんてヤツら……」

 「ハハッ……!サプライズプレゼントだよッ……!コイツでお揃いだなッ……!!」

 

 苦悶と驚嘆の声を漏らす女面。

 

 響く苦痛も呪力に変えて。

 

 勢いそのままに、俺は、左の拳も打ち込もうとし──。

 

 

 

 ──ゾクリと、不穏な気配を感じる。

 

 次の瞬間、移り変わる視界、トレンチコートの女面は消え失せ、灰色の石畳が現れる。

 

 続いて身体を襲う強かな衝撃。

 

 「がッ……!!??」

 

 詰まる息、あばらの幾本かにヒビが入り、内から痛みが滲んでくる。元よりの負傷の痛みも相まって、意識が飛びかけた。

 

 何がッ……起きてるッ……!?動けないッ、地面に押し付けられてるッ……!?……呪力の圧……それとも術式かッ……!?

 

 「……まったく、手負いの獣が1番厄介とはよく言ったもんだね。満足に動かせない拳で打ち抜いてくる胆力に膂力、土壇場でなけなしの呪力で黒閃を出してくるセンス……たまげたよ。残穢が残ってしまうから、使うつもりはなかったのに、コレを使わされてしまった」

 

 頭上から、パンパンとコートの汚れを叩く音に、辟易としたような声。

 

 ギシギシと軋み地面にめり込まされていた身体がふっと軽くなる。

 

 先までの圧が止んだ。

 

 だが、起き上がる力は、残っていなかった。

 

 近くに伏す黒い男は、ピクリとも動かない。

 

 当然だ。

 

 俺もアイツも……既に限界を超えていた身体を、何とか騙して動いていたのだ。

 

 もうこれ以上は、意地や精神でどうにかなるものではなかった。

 

 「まぁそこら辺のリスクを考慮しても、君たちをここで排除できるなら、お釣りがくるわけだし……必要経費として割り切るとしよう。プレゼントには、お返しが必須だしね」

 

 頭すらも上げられない中、上目遣いに睨めば、女面の血濡れたコート、その内の脇腹が治っているのが確認できる。

 

 ……コイツ、反転術式も使えるのか……いよいよもって、絶望だな。呪力は本当にすっからかんだし、得物も奪られた。こっからの逆転の目は……まるで見えない。

 

 「……しかし、どうしたものかな。少し口惜しいね。もっと違うカタチで会えていたのなら、殺しまではしなかっただろうに」

 

 暗い宵空を背景に、色のない能面が、こちらを見下ろす。

 

 「ああでも、安心してもらって大丈夫だ。君たちの亡骸は、きちんと有効活用してあげるから。禪院甚爾の方は、そうだね、骨粉にでもして裏に流そう。よく売れるだろうね」

 

 段々とボヤける視界。ぐるぐる回って、混ざっていく。

 

 音も遠くなっていって、身体に心地好い温かさが広がって。

 

 自分が、どこに居るのか、何をしているのか、分からなく──。

 

 

 

 「墓之瀬聡人くんの方は、術式はもちろん、五条悟や夏油傑、その他数人の術師とも繋がりがあるからね。より一層役立ちそうだ。……困った、年甲斐もなく興奮してきそうだよ」

 

 

 

 ──その言葉は、いやに耳についた。

 

 コイツは今、何と言った……?俺だけじゃなく……他も、狙って、いるのか……?俺の身体が利用されて……悟が、傑が……硝子ちゃんが、歌姫さんが……夜蛾先生が、冥さんが、日下部さんが……雄が、建人が……俺の大切な人たちの誰かが、コイツに、何かされるのか……?

 

 「……ォ……ォオッ……!!」

 

 そんな、そんなのは……ダメだ……許容できない……大した人間じゃないんだ、俺はどうなっても良い……けど、みんなは、大好きなみんなだけは、絶対にッ……!!

 

 「──ォ……オオオオオオッッ……!!」

 

 血を絡ませた、呻きともつかない叫びを上げ。

 

 ガクガクと震える脚で、俺は立ち上がる。

 

 息をするだけでも、辛い。

 

 ましてや、立っているのなんて、拷問だった。

 

 でも、それでも、コイツを自由にさせるわけにはいかないから。

 

 俺は、血塗れの、ボロ雑巾の身体で、女面の前に立つ。

 

 「……いや、なんで立てるの?満身創痍どころじゃないでしょ。脳震盪で意識は朦朧、全身に打撲と裂傷があって、脇腹は抉れ、肩と腿も撃たれて、呪力も術式も無いのに……。人間として、そろそろ死んどきなよ」

 

 呆れの溜め息を吐いて。

 

 ハットの位置をずらし、調整する女面。

 

 「……譲れないもんがあるからな……そのためなら、どれだけ身体がボロボロになっていようと……いくらでも立てるんだよ……」

 「矜持か?けど、それだけじゃ私には勝てないよ。何も残ってない君に、はたして何ができるのか……見物だね」

 

 興味もなさげに言い捨てて、女面は、俺から奪った刀を無造作に構える。

 

 それに俺は、笑って返して。

 

 ご講釈を垂れてやる。

 

 「……残ってないなら……持ってくりゃあ良いんだよなぁ……」

 「……なるほど……!……命を懸けた縛りでも使う気かな?そうすれば、一時的にとは言え私に対抗できる」

 「50点の解答だな……縛りは、対価にするもので、得られる力も変わる……そして、俺が懸けるのは……命よりも大事な──」

 

 

 

 ゆっくりと。

 

 躊躇が、悲哀が、後悔が、拒絶が、未練が、溢れ落ちないように、暗い空を見上げて。

 

 戻す視線──告げる。

 

 

 

 「──思い出だよ」

 

 

 

 脳裏を。

 

 青春の光景が過る。

 

 夜の街に怪しく微笑む冥さん。

 

 車の前で、見送ってくれる補助監督さん。

 

 校門の前で出迎える夜蛾先生。

 

 刀を交えた先の日下部さん。

 

 黒板の前、緊張気味に笑いかけてくる歌姫さん。

 

 彼女と出かけた渋谷、初めて触った携帯電話。

 

 並ぶ机の向こう、生意気に笑う悟に、穏やかに微笑む傑、ぽけーっとした硝子ちゃん。

 

 夏の海、線香花火、スイカ割り、ビーチバレー。

 

 新宿、悟と傑、冥さんと日下部さんと囲んだテーブルパーティー。

 

 冬の高専、雪合戦。

 

 桜吹雪、無邪気に笑む雄、真面目な顔の建人。

 

 それら全てが、愛しい思い出が消えてしまうなんて、嫌だ。死んでも忘れたくない。ようやく手に入れられた、幸せに、楽しみに彩られた記憶。

 

 けど、みんなを害そうと、傷付けようと、弄ぼうとするコイツを阻むためには──。

 

 「……思い出が命よりも大切だなんて……随分とロマンチストなんだね」

 「嫌いか……?ロマンは……」

 「どうでもいいというのが、正直な感想かな?」

 「風情の分からないヤツだな……」

 

 交わす軽口。

 

 応酬の中で、俺は、覚悟を決めて。

 

 思い出を消そうと、縛りを結ぼうと、額に手をやり──。

 

 

 

 

 

 ──飛来してきたナニかが、目の前の女面を吹き飛ばした。

 

 それは──金棒を持った、人並みの大きさをした、ウサギのぬいぐるみだった。筋肉質なそのぬいぐるみは、こちらを見て、ぐっとガッツポーズを取る。

 

 宙を舞いながらも、刀で攻撃を防いでいたらしき女面は、軽やかに築地に着地し──その壁を斬り崩して、裏から現れたタバコをくわえた男が、女面に無数の剣撃を浴びせる。

 

 その閃く刀を凌ぎ切った女面、そこに群がるは数十もの黒い烏たち。

 

 全部、見たことがあった。慣れ親しんだものだった。

 

 傀儡操術。

 

 シン・陰流。

 

 黒鳥操術。

 

 あまりにも都合の良すぎる展開に、気が緩み、抜ける力、仰向けに俺は後ろに倒れ──。

 

 

 

 ──ぽすんと。その身体が、優しく受け止められる。

 

 既視観。

 

 いつかのように、優しく声がかけられた。

 

 「──遅れて悪いわね、聡人。もう大丈夫、あとは私に……私たちに任せてちょうだい」

 

 冷たくなる身体に感じる温もり、慈しみを感じる声音。

 

 起きた奇跡に、つい安堵の笑みを浮かべてしまう。

 

 本当に、この先輩は……いつも来てほしいときに、来てくれて。

 

 欲しいときに、欲しい言葉をくれる。

 

 「……良いん、スか……?」

 「ええ、もちろん。そうですよね?」

 「──ああ。聡人に……俺の生徒に、これ以上は手を出させたりはしない。安心して、休んでろ」

 

 問いかけると、芯に響くも柔らかな声で、答えが返される。

 

 それに俺は、どうしようもなく安心してしまって。

 

 もう大丈夫なんだと、思ってしまって。

 

 「……じゃあ、頼みますわ。……近付くと……地面に押し付けられるのと……反転術式も使うんで……気を、付けて……」

 「ああ──任せろ。歌姫は、聡人を頼む」

 「はい、絶対に守ります」

 「……ったく、とんだパーティーになったもんだ……」

 「まぁまぁ日下部。賞与が期待できて、多方面に借りを作れると考えたら、むしろ胸が躍ってこないかい?」

 「そりゃオマエだけだよ、冥冥」

 

 歌姫さんに抱えられる俺の前。

 

 庇うように、夜蛾先生が、日下部さんが、冥さんが──並び立った。

 

 

 

 

 






 感想高評価あざ!3月中に終わらせます!応援よろ!
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