さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

23 / 27
第23話 宴もたけなわ

 

 

 

 

 「──……おかしいね。君たちが今日、高専に来る予定はなかったはずだ」 

 

 意識のない黒い男ともども、歌姫さんに応急処置を施してもらっている俺の前。

 

 並び立つ3人を越えた先、もうもうと立ちこめる白煙の向こう。

 

 「それに、こんな所に来てる理由も不可解だ。敷地内には蝿頭が溢れ、日付は星漿体の同化当日。未登録の呪力を察知したとしても、普通は天元を護りに薨星宮に向かうだろうに……ああそうか、夏油傑がいたか」

 

 トレンチコートを揺らして、ハットを被った女面が現れる。その手には、俺の刀が握られ、宵闇に鈍く光を放っていた。

 

 その女面へ、夜蛾先生が問いを発する。

 

 「……随分と内情に詳しいみたいだが……貴様、何者だ?」

 「何者だなんて聞かれて、正直に答えるヤツがいるわけないだろ。質問は、頭を使ってからしてくれ」

 「そうか。それなら──吐きたくなるまで痛めつけてやろう」

 

 夜蛾先生の台詞と共に、動き出す金棒を持ったぬいぐるみ。

 

 伴って、日下部さんと冥さんも、得物を手に駆け出す。

 

 女面に迫ったぬいぐるみは、恐るべき膂力を以て、金棒を叩き付け──割れる地面──軽やかに回避していた女面は、お返しとぬいぐるみを斬りつける。

 

 が、ぬいぐるみはそれよりも先に後退してそれを避け、入れ替わり、日下部さんが前に出てくる。

 

 鞘に戻した刀を腰だめに構え、昂る呪力。

 

 放たれるは──シン・陰流『抜刀』。

 

 神速の剣閃、女面は立てた刀でそれを受け──天より大斧が迫る。

 

 淡い水色の髪を逆立て、冥さんは大斧を振り下ろす。

 

 女面は、呪力で強化した腕を掲げてそれを防ぎ──沈む足、地面に亀裂が入った。

 

 暫しの拮抗。

 

 女面は、両方を大きく跳ね除けて、流れるような美しい所作で、刀を振るう。

 

 日下部さんは、刀を以てその剣撃を弾き、冥さんは烏を間に挟み込ませることで、その剣撃を防ぐ。

 

 刀と刀と斧と烏。

 

 火花と黒い羽が散り──その合間を縫って夜蛾先生は現れ、拳を打つ。

 

 右の曲打に、左の横拳、足刀に、肘鉄。

 

 息も吐かせぬ見事な格闘術、しかし女面は、その尽くを捌き、流し、躱す。

 

 挙げ句に夜蛾先生は、蹴り飛ばされ──入れ替わり、日下部さんが袈裟懸けを、冥さんが斬り上げを放つ。

 

 1本の刀で、女面はそのどちらもを受け止め、なるはギリギリと押し合い。

 

 はぁ、と。

 

 何かを諦めたかのように、女面は溜め息を吐いて──バッと日下部さんと冥さんが飛び退くと同時に、辺りの地面が陥没する。

 

 例の能力だ。

 

 「……流石に1級、この身体だと、少々手に余るね」

 

 腕を軽く振りながら、調子を確かめつつ、女面はそんなことを宣う。

 

 その背後から、ぬいぐるみは金棒を横薙ぎに振るい、夜蛾先生も正面から鉄拳を振りかざす。

 

 女面は宙返りで金棒を避け、ぬいぐるみの頭に着地してみせ、夜蛾先生の拳は空を切る。

 

 見下ろす女面に、日下部さんと冥さんは斬りかかるも、器用にそれらを回避。

 

 ぴょん、と女面は地面に降り立つと、例の能力をまた発動する。

 

 夜蛾先生と日下部さん、冥さんは瞬時に大きく後退するも、ぬいぐるみは捕まり、地面に沈んだ。

 

 「上手いこと避けたね」

 「……チッ……!」

 

 その間に女面は距離を取り、止む圧、ぬいぐるみが何事もなかったかのごとく起き上がる。

 

 円を描くように。

 

 3人と1体が、女面を取り囲む。

 

 その中央で、女面は、刀を持っていない方の手を顎にやり、考え込む仕草を見せた。

 

 「……さて、どうしようかな。シン・陰はともかく、傀儡操術はちょっと面倒だね。ダメージなし、か」

 「……それが強みだからな」

 「そうだね。……あぁ、シン・陰の、そんな微妙そうな顔をする必要はないよ。君にも相応の面倒さを感じてはいるから。もちろん、斧の君にもね。──だから……こうするとしよう」

 

 ポイっと。

 

 得物たる刀が無造作に投げ捨てられる。

 

 突然の暴挙。

 

 3人が、意図を疑ってそれに注視する中、死に体の俺だけは、女面本人を見ていた。

 

 スローモーションに映る動き。

 

 女面は、自由になった両の手を裏にして、組み──。

 

 

 

 「──領域展開(・・・・)──」

 

 

 

 ──紡がれんとする言の葉。

 

 蠢く膨大な呪力、咄嗟に3人は止めようと、或いは簡易領域を展開しようと動き出すも、間に合わない。

 

 だから──。

 

 

 

 「──『呪限無』ッッ……!!」

 

 

 

 ──歌姫さんに支えられながらでも俺が、無理矢理に術式を解き放つ。

 

 頭に奔る、抉られるような激痛。

 

 あれより万一を考えて0から練っていた呪力では、一瞬しか女面の呪力操作は乱せない。だが、絶技たる領域の展開を邪魔するには──それだけで、充分だ。

 

 

 

 「──墓之瀬聡人……!」

 「ハハッ……やらせねぇよ……!!」

 

 能面越し、忌々しげにこちらを見やってくる女面に、俺は笑顔を返し──ソイツに迫る、夜蛾先生の豪腕。

 

 女面はすぐさま掌印を解き、唸りを上げる腕に手を添え何とか受け流すも、続いて日下部さんの居合──『夕月』が襲う。

 

 半ばから女面のコートは斬り裂かれ、しかし後1歩、刃は届かない。

 

 けれども避けた先、ぬいぐるみの振るう金棒までは躱せず、片腕を盾にし──歪み捻れる腕、遂には冥さんに斬り落とされる。

 

 崩れるバランス、女面の身体の足取りは乱れ、そこに日下部さんの2度目の『夕月』、太ももに深い斬り傷が生まれる。

 

 更に駄目押しの追撃、踏み込んだ夜蛾先生の拳が背を打ち、疾く来たる烏が脇腹を穿つ。血肉が、宙に散りばめられた。

 

 「……チッ……!」

 

 舌打ちを披露して。

 

 飛ぶ腕を掴み、曲芸じみた動きで女面はその場を離脱、近くの小さな和建築の屋根に飛び乗る。

 

 「…………」

 

 沈黙。

 

 無言で女面は反転術式を行使、腕を繋いで、太ももと脇腹、背を癒やす。

 

 その軒下手前、跡を追って3人と1体が集う。

 

 「……はぁ……残念だけど、ここまでかな」

 

 張り詰める緊張感、ようやく女面が口を開いた。

 

 「……ここまで、だと……?」

 「ああ。そこそこ消耗してしまったからね。それに五条悟がいつ目覚めるかも分からないし……これ以上高専に長居するのは危険だと判断した。まったく、どちらか1人は確実に殺しておきたかったんだけどね……特に墓之瀬聡人の方は」

 「……聡人は殺らせんし……貴様も逃がしはしない」

 「良いのかい?私ばかりに構って、墓之瀬聡人を家入硝子に診せに行かなくて。保つかどうかは、五分といったところだと思うけど」

 「くっ……!!」

 

 女面との会話、顔を悔しげに歪める夜蛾先生。

 

 だが、次第に遠のいていっている俺の耳では、上手く聞き取れない。

 

 「それじゃあ悪いけど、お先にお暇させてもらうよ。……またいつか、墓之瀬聡人」

 

 最後に、俺を一瞥し。

 

 コートをはためかせて、女面はふわりと浮き上がり、夜空に消えていく。

 

 いつの間にか。

 

 かかる雲は薄くなり、金の満月が覗いていた。

 

 「──聡人っ、ちょっ、気をしっかり!目を瞑っちゃ──!」

 

 月明かり。

 

 必死に呼びかけてくる歌姫さんの、そして慌てて駆けてくる夜蛾先生の、日下部さんの、冥さんの顔を見ながら。

 

 やってくる眠気、心地好い温かさに身を任せて、俺は──目を閉じた。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 ──目を、覚ます。

 

 ぼやけていた視界、ピントが合うようになって初めて見えたのは、木目の天井だった。

 

 チカチカと光る蛍光灯が眩しい。

 

 何か……夢を見ていたような気がした。とても悲しくて……とても嬉しい夢を……。

 

 ……いや、違う。俺は……そうだ、女面と戦ってて……どうなったんだ……?みんなはッ……!!

 

 慌てて起き上がる。

 

 軋む身体、激痛が込み上げる。

 

 「いった……!!え、何この痛さ……!むしろこれ、逆に身体に痛くない所がないみたいなくらいなんだけど……!」

 

 布団の中、包帯の巻かれた身体を押さえて驚く。

 

 無茶しまくったからなぁ……そりゃこうなるか……。頭にも巻かれてるし……うわ、左腕ぐるぐる巻きだ……。……ってか、あ、ここ、高専寮の医務室か……。

 

 起こした上体、首を回して周囲を確認していると──かけられる声。

 

 「──おや、墓之瀬くん。起きたのかい?おはよう。随分とお寝坊さんだったね」

 「冥さん……!」

 

 見れば、入り口の扉の方で、黒ずくめの服に身を包んだ冥さんが立っていて。

 

 「何日寝てました?俺」

 「丸3日だね」

 「わーお……あ、女面。女面のアイツはどうなりました!?あと悟は何ともないですか!?黒い男は……!」

 「まぁまぁ、少し落ち着いた方が良いよ、墓之瀬くん。身体に障る。君にとって大事なことはきちんと伝えてあげるから、安静にしとくんだ」

 「……うぃっす」

 

 嗜められ。

 

 俺は大人しく身体を戻し、ベッドに再び寝そべる。

 

 傍にやって来た冥さんは、備えられていた丸椅子に腰かけ、ゆっくりと喋り出した。

 

 「──君が目覚めたことを、他の人たちにも伝えないといけないからね。簡潔にいこう。まず、今回の襲撃での死者はいないよ。怪我を負ったのも、君が1番重くて、あとはみんな、すぐ治ったよ。五条くんなんかは、ピンピンしてる」

 

 冥さんの口から出てきた言葉に俺は大きく安堵の息を漏らす。

 

 よかった……みんな無事だったのか……。

 

 「次に、あのお面を被った正体不明の襲撃者についてだが……取り逃がしてしまったよ。逃げ足があまりにも速すぎた」

 

 ……そうか……得体の知れないヤツだから、できれば捕らえておきたいところだったんだけど……まぁ、アイツ、強い……というか気持ち悪いからな……しゃーないしゃーない。

 

 「もう1人の襲撃者の方──君が言う黒い男だ──こっちもまた、意識を取り戻したあとすぐに逃げ出してしまってね。一応足取りは探ってはいるけど……如何せん、相手は天与呪縛のフィジカルギフテッド。期待はできないと思うよ」

 

 なんだ、黒い男も逃げたのか……まぁ共闘した仲だし……知らん間に死なれてるよりは、マシか。……ってか、俺がばらまいちゃった呪具はどうしたんだろ。アイツ、回収したんかな?

 

 「あとは……これが最も重要事項なんだけどね、墓之瀬聡人くん」

 

 と、冥さんが、そこで一旦区切り。

 

 俺の注意を充分に引き付けてから──彼女は、言った。

 

 

 

 「──君の秘匿死刑が、決定したよ」

 「…………マジ???」

 「うん、マジ。じゃ、私はそろそろみんなに君のお目覚めを伝えてくるから」

 「あ、はい、行ってら……」

 

 立ち上がり、扉に向かう冥さん。

 

 俺はそれを、ぼけーっと見守り──ガチャンと、丁寧に扉が閉まる音。

 

 耳鳴りのするほど静かになった医務室、俺は天井を見上げながら──思った。

 

 

 

 ………………………………え、死刑ってマジ…………???

 

 

 

 

 






 感想に高評価ありがとう!

 2期のキービジュやらPVやらが公開されて、無事わたしは脳を焼かれてます!ぐあぁぁっっ!!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。