さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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第25話 存在しなかった未来

 

 

 

 

 ──俺が目を覚ましてから、数日が経った。

 

 依然、身体は本調子ではないが、軽く運動する程度なら問題ないだろうという硝子ちゃんの診断を貰えるくらいには回復した。

 

 その間に、悟と傑は大立ち回りを繰り広げたようで、夜蛾先生は拘禁から解放され、星漿体ちゃんたちの身の安全は保障され、俺の死刑執行も無期限に延期された。

 

 はたして、彼らは何をしたのか……気になってはいるが、戻ってきた夜蛾先生がスゴい顔をしていたので、詳しくは聞いていない。だって聞くの怖いし……。

 

 まぁそんなわけで、晴れて俺は、輝かしい未来を手に入れられたのだけれど……結局は悟たちが無理を押し通した形、なのでまだ上には不満を持っているヤツらがごまんといる。

 

 故に下手に外に出ると、向こうが事故を装って暗殺してきたりする可能性があるため、全快してはいない俺や、星漿体ちゃんたちは、まだ高専を出ない方が良いということになって──今。

 

 身体に包帯を巻いたままの俺は、高専寮の悟の部屋を、勝手に使って。

 

 「──あぁぁぁぁぁぁ美里さんっ、ミドリ甲羅はやめっ、やめてくださいっ!!やっと初めて1位が取れそうなのっ!ミサっ……ミサトさんっ!」

 「え、えっと……その、すみません。……えいっ」

 「ぐあぁぁぁっっ!!死になさいされたぁぁぁぁぁぁっっ!!い、一気に最下位にっ……!!なんっ……なんなんだよもうっ……!!」

 「あはは。聡人先輩、おもろ」

 「やったっ、これで最下位じゃなくなった……!黒井っ、ありがとうっ!」

 「いえ、理子さま、お構いなくっ」

 

 硝子ちゃんと、星漿体の娘──天内理子ちゃん、そのお付きの黒井美里さんと、マ○カーをしていた。

 

 ちなみに悟と傑が居ないのは、禪院家がどうのとか言ってどっか行っており、歌姫さんと建人、雄が居ないのは普通に任務があるからだ。

 

 なお、理子ちゃんはヘアバンドに長い髪を三つ編みで一まとめにした中学生の美少女ちゃんで、美里さんはクラシカルな割烹着に身を包んだ美人さんね。

 

 そして、その美人さんたちに結託された俺は、マ○カーレースのトップ争いから蹴落とされ、画面で我が化身のヨ○シーがヘロヘロになりながらゴールする。

 

 結果は美里さんのマ○オが1位、硝子ちゃんのピ○チが2位、理子ちゃんのルイ○ジが3位、俺のヨ○シーが4位だった。

 

 その惨憺たる結果に、堪らず俺はコントローラーを放り投げて叫ぶ。

 

 「ちくしょう美里さん強すぎんだろっっ!!わざわざハンデで10秒後にスタートしてもらったのにっ……!!」

 「ふっふっふ、当然っ!わたしの黒井は、マ○カーの天才だもん!」

 「あ、あはは……」

 「聡人先輩も聡人先輩で、弱すぎるんですけどね。マリカーの無才」

 「うるさいぞ硝子ちゃんっ……!」

 

 俺の泣き言に、理子ちゃんはドヤ顔で嬉しそうに言って、美里さんは愛想笑い。硝子ちゃんは、なんでか言葉の刃でこっちを切りつけてくる。ほんとにそれはなんで???

 

 「まぁでも、これで聡人先輩は5回負けたことになるんで、罰ゲーム決定ですね。おら、コ○・コーラ買ってこい」

 「わたしカ○ピスが飲みたい!」

 「す、すみません……私はお~○お茶で……」

 「うぐっ……」

 

 次々となされる注文、俺は顔をしかめる。

 

 いや、別に飲み物を買うのは全然嫌じゃないんだが……罰ゲームでパシられるというのが、ね?ちょっと屈辱的なんだよ……。

 

 「……はぁ……分かったよ、いーよ、買ってくるよ……所詮敗者に権利はないんだ……それこそが、儚き世の定め……」

 「スゴい、この人、マ○カー負けた罰ゲームで、世の摂理を悟ってる……」

 

 不貞腐れながらも立ち上がった俺は、悟の部屋を出て。

 

 マ○カーを3人で再開したのか、背後でわーわーと楽しげな声が聞こえるのを感じながら、寮の外、割と離れた所にある自動販売機に向かう。

 

 ……まぁ、何はともあれ。

 

 悟と傑が無茶してまで護った女の子が、楽しく過ごせてるんなら……良しとするか。

 

 そうして、フッと口元を綻ばせて廊下を歩いている内に、到着するは自動販売機前。

 

 財布を取り出し、いざ注文された品々を買おうとしたときだった。

 

 コツコツと鳴る靴音。

 

 小銭を探す手を止め、その音の方を見れば、黒のジャケットを担ぎながら向かってくる女の姿が目に入る。

 

 煌めく金の髪に、整った顔。

 

 スタイルの良い肢体に、黒のノンスリーブニットと青のジーンズを身に纏っており、爽やかさと色気を同時に演出していた。

 

 美人さんだー……と思っていると、その彼女はこちらに金の瞳を向け。

 

 「君が墓之瀬くん?──どんな女が、好み(タイプ)かな?」

 

 そう、尋ねてきて。

 

 「……たしかに俺は、墓之瀬聡人くんですけど……どなたですか?それと好きな女のタイプは……顔はまぁ、美人さんだと嬉しいっスね。で、自分を持ってる強気な人で、俺を救けてくれる感じの女性が良いです」

 「ほう……良いね。あぁ、私は九十九由基、術師だよ。君に少し用があってね。わざわざ高専に来たんだ」

 

 流れるように。

 

 彼女はニコニコと自己紹介をしながら、自動販売機周りの備え付けベンチに長い脚を組んで座る。

 

 そして、ぽんぽんと隣を叩いて追従するよう促してくる。倣って、隣に俺も座った。

 

 「──さて、どこから話したものかな……んーと、墓之瀬くん。私は君に、ものすごく興味があるんだよね」

 「えっ、ぎゃっ、逆ナンですか……?やだ、照れちゃうなぁ……!」

 「あっはっは、まさか。流石に高専の子に粉をかけたりはしないよ」

 

 なんだ、違うのか……ちょっと残念。

 

 しょぼーんと気落ちする俺を、九十九さんはクスクス笑い飛ばして──ピンと立てた人差し指。

 

 彼女は表情を真面目なものに変えて、話し始める。

 

 「私が興味を抱いているのはね、君の術式にだよ」

 「あー……もしかして、あれですか?危険だー、的な?」

 「いやいや、上のクソジジイどもじゃあるまいし、私はそんなバカげたことは言わないよ。……私はね、墓之瀬くん。君の協力があれば、私の望む世界を創れるんじゃないかって、期待しているんだ」

 

 どこか、遠い顔。

 

 愁いを帯びて、彼女は心意を告げる。

 

 しかし世界を創る、か……。

 

 「……そりゃいったい、どういう意味ですか?」

 「……呪霊の生まれない世界が、創れるんじゃないかって……そういう話さ」

 「呪霊の生まれない……!?」

 

 溢された言葉に、思わず目を見開いて驚く。予想だにしない台詞だった。

 

 そんな俺から視線を外し、虚空を眺めながら、彼女は口を開く。

 

 「少し授業をしようか。そもそも呪霊とは何かな?」

 「金の成る木……」

 「バッド、違うね。それ、誰に教わったんだい?」

 「金銭面のしっかりした美人さんに」

 「その人からは、守銭奴の匂いがするねぇ……まぁ良いや。答えを言ってしまうと、呪霊は、人間から漏れ出た呪力が寄り集まり形を成したモノだ」

 「あ、そっちかー」

 「そっちも何も、これしかないんだけどね。で、そうすると、呪霊の生まれない世界の創り方は2つ」

 

 横顔、こちらを見ないままに、彼女は立てた2本の指を突きつけてくる。

 

 「1個目、全人類から呪力をなくす。2個目、全人類に呪力のコントロールを可能にさせる」

 「ほぉ」

 「1個目はね、結構イイ線いくと思ったんだ。モデルケースもいるから」

 「モデルケース?」

 「君が最近戦り合った人だよ。禪院甚爾。彼は非常に異質な存在でね。天与呪縛によって、世界で唯一呪力が0だったんだ」

 

 へー……あのゴリラマン、そんなスゴいんだ。

 

 「彼の面白い点は、それだけじゃない。禪院甚爾は、呪力0にも拘わらず、五感で呪霊を認識できている。呪力を完全に捨て去ることで、肉体は一線を画し、逆に呪いの耐性を得たんだ。正に超人、是非とも研究したかったんだけど……もうフラれちゃっててね」

 「どーんまいっ。お酒でも飲んで、愚痴は吐き出しちゃお?」

 「いや、これ、失恋話とかじゃないから……コホン。えーと、それでだね、墓之瀬くん。そんな折、君の術式のことを聞いたんだ。なんでも、呪いを……呪力を阻害できるとか」

 「ああ、なるほど。そう繋がるわけね。でも俺の術式じゃあ、人間の呪力を消し去るとかはできませんよ。あくまでも、一時的に呪力の巡りをなくしたりとかができるだけです」

 

 ようやく話が見えてきた俺は、先んじて結論を出してあげる。流石に個人の術式程度じゃね……そこまで大それたことはできないよ。

 

 結論を聞いた九十九さんは、やっぱりか……と、前のめり、開いた脚に上体を落として落胆する。

 

 「……ダメかー……君の異質な術式なら、或いは、とも思ったんだけどね……」

 「まぁ、所詮は術式っスからね。領域を展開するならまだしも、呪力を消し去るのはムリムリ」

 「だよねぇ……領域を展開するならともかく、術式じゃあ…………えっ、待って、領域を展開するんだったら、人の呪力を消し去ることができるの???」

 

 慰めるように言うと、ものすごい勢いでこちらに詰め寄ってくる九十九さん。か、顔が近い……!身体も……ちょっ、当たっ、当たってるって……!

 

 「あ、ああっ、すまないね、ちょっと冷静さを失ってた……」

 「気を付けてよ……こちとらピチピチの18歳なんだから。ドキドキしちゃうでしょ?」

 「フフッ、正直者だね。以後は気を付けるよ。──それで、話を戻すけど……領域を使えば、君は他人の呪力を完全に消し去ることができるのかい?」

 「体感ですけどね。それに領域を展開できたのも、数日前が初めてなので、確証はないけど……釣り合いが取れるなら、領域を解除後も呪力を0にしたままにできそう」

 「マーベラス……!!最高だぜ墓之瀬くん!!抱き締めても良いかいっ!?」

 「ちょっと、そういうのは気を付けてって言ったばかりでしょうが。……是非とも抱き締めてくださいっ!!」

 

 お願いした瞬間、首に回される腕、前に倒され──顔が柔らかいものに包まれる。こ、これはまさか、おっぱ……!!

 

 頭をショートさせていれば、至福の時間はすぐさま過ぎ去り、俺は解放されてしまう。

 

 ぼーっとしながら九十九さんを見やると、彼女は喜色満面、笑みを浮かべていた。

 

 「ははっ、あははっ!やっと、大きな1歩を踏み出せそうだっ……!」

 「よ、良かったですね……」

 「ああっ、まったくだよ!あの時諦めなくて良かった……禪院甚爾から来て、君に辿り着けたんだから。けど、全人類の呪力をなくさせるんだったら、墓之瀬くん1人の力じゃ足りないし……何かそういう呪具、もしくは術式の持ち主を探さないとだね。いや、その前に、まず君の協力を得ないと、か」

 

 キラーンと、目を光らせて。

 

 肉食獣がごとく、彼女は俺を見てくる。

 

 が、こちらとしては、そんなビッグスケールな話は、簡単には決められないので……愛想笑い、するしかないですね。えへへ。

 

 「むぅ……そうだ、墓之瀬くん。きっと君は、これからその術式の所為で、上層部の連中に色々と厄介な目に合わされると思う。色々と、ね。ただ、私に協力してくれるんだったら、そんなヤツら、力ずくで黙らせられるけど……どうかな?」

 「交渉ですか?でも、そこら辺は大丈夫ですよ。うちの後輩が、任せろって言ってたんで」

 「後輩……五条くんたちか」

 「そ。だから心配要らないんスよ。だって、アイツらは──」

 

 備え付けベンチから、立ち上がり。 

 

 九十九さんを見下ろして、俺は言う。

 

 「──最強だから」

 「……ははっ……随分、信頼してるんだね」

 「ええ、まぁ。他にも、夜蛾先生とか歌姫さんとか、支えてくれる人が居るんで……きっと、これから先も、俺は大丈夫です」

 「……そっか。なら、これ以上は野暮だね。──でも、墓之瀬くん。アプローチはやめないからね?ようやく見つけたんだ。逃すわけにはいかないよ」

 「え、困る……」

 

 同じく立ち上がった九十九さんは、不敵な笑みとともに、そう宣言してくる。

 

 眉をハの字にしていると──新たな足音。

 

 見れば、任務に出ていた建人と雄が、こっちに歩いてきていて。

 

 「──あ、墓之瀬さんっ!お疲れさまです!」

 「お疲れさまです。そちらの方は?」

 「俺を逆ナンしてきた人」

 「「えっ」」

 

 冗談交じりに告げると、驚き固まる2人。面白い子たちだなーと思っていたところに、九十九さんがニコニコ顔で彼らに問いかける。

 

 「やぁ君たち。墓之瀬くんの知り合いかな?どんな女が、好み(タイプ)だい?」

 「自分は沢山食べる娘が好きです!」

 「灰原……誰かも知らない人に……」

 「大丈夫だよ七海!この人は、良い人だから!人を見る目には、自信があるんだ!」

 「…………その目から見て、墓之瀬さんはどうです?」

 「良い人だよ!」

 「節穴じゃないですか」

 「どういう意味だ、建人おら」

 

 と、わちゃわちゃやっている内に、一向に帰って来ない俺を心配したのか、硝子ちゃんや理子ちゃん、美里さんも来て。

 

 追加で帰って来た悟や傑、歌姫さんも集まり、何故だかマ○カー最強王者を決めることに。

 

 そうして、楽しく、賑やかで、騒がしいままに、その日は過ぎていく。

 

 次の日も、その次の日も、楽しく、賑やかに、騒がしく、時は過ぎていって──12年が、経った。

 

 

 

 

 






 ちなみにマ○カー最強王者は黒井さん、最弱は主人公。

 感想に高評価ありがとう!次回で最終回、ご祝儀代わりに感想と高評価、いっぱい投げて?

 
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