さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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最終話 廻る青春

 

 

 

 

 ──ドタドタと慌ただしく板張りの床を駆けて、見えてくる教室、その扉をガラリと開ける。

 

 室内に居た人たちの注目を一身に受けながら、俺は教壇へ。

 

 そこに元から立っていた、巫女服姿の黒髪美人さんの隣に立ち、ふー……と息を吐いて、言う。

 

 「あっぶねー……遅刻するとこだった。ギリギリセーフ」

 「いや、ゴリゴリのアウトよ。何度も言うけど、教師が遅刻すんな」

 「いてっ」

 

 すると、お怒りの黒髪美人──歌姫さんに、スパァンっと勢いよく頭を叩かれる。ひどい……。

 

 恨めしげに彼女を見ていると、はぁ……と呆れの溜め息が聞こえてくる。

 

 見れば、対面にある3つの席の1つに座る、黒髪を肩口程までに伸ばした女の子が、頬杖をつきながら、半眼でこちらを見ていて。

 

 「聡人せんせー……良い加減、きちんと時間を守ったらどうですか?もう大人なんですし」

 「え、真依ちゃんったら何その目……それ、ダメ人間を見るような目だよ……?違うよ、俺はただ、深夜までネット対戦でマ○カーをしてただけなんだって」

 「紛うことなきダメ人間じゃない。やっぱり、こんな目でも充分そう」

 

 辛辣だ……若干涙目になって、俺は彼女を見つめる。

 

 真依ちゃん──禪院真依。

 

 彼女は京都府立の呪術高専の2年生であり、紆余曲折あって先生をやってる俺の受け持ちの生徒であり、10年来の付き合いの娘でもある。

 

 というのも、俺がまだ呪術高専の生徒だった頃……悟と傑が、御三家や上層部とバチバチにやり合って、高専に色んな子どもを連れ帰ってきてたんだよね。曰く、人質だとか、戦力だとか。

 

 正直そこら辺はよく分からんかったけど、子どもは嫌いじゃない……というか、好きな方だったので、その子らの面倒は、俺と硝子ちゃんで見てた。あと、雄とか建人も。

 

 で、彼女もその連れ帰ってこられた子どもの1人だった。

 

 なんでも彼女は、禪院家の娘ではあるものの、双子であり、また呪術の才能が乏しく冷遇されてたとかで、まぁ色々大変だったらしい。

 

 それに昔の自分を重ね合わせたわけではないが、放ってはおけなかったので、双子の真希ちゃん共々、全力で面倒を見てあげてた──の、だけれど……。

 

 「……うぅ……真依ちゃん、昔はもっと優しかったのに……聡人さんのお嫁さんになるとか、言ってくれてたのに……先生、悲しい……」

 「ちょっ……!ち、小さいときの話を持ち出さないでもらえるかしら!?あれは、気の迷いみたいなものでっ……!ちょっと、幸吉!?何笑ってんのよ!」

 

 深い郷愁に駆られて嘆くと、真依ちゃんは顔を真っ赤にして慌て出す。そして、プッと吹き出した、髪を高い所で結い上げた男の子に突っかかる。

 

 「いや何……お嫁さんになる、なんて、随分と可愛いらしいことを言ってたんだなと思っただけだ」

 「こ、このちょんまげ男っ……!」

 

 ニヤニヤしている彼は、与幸吉。真依ちゃんと同じく、俺の受け持ちの生徒だ。

 

 彼との出会いは、俺がここ、京都の高専の教師になると決まったときのことだった。

 

 当時会った彼は、全身に包帯を巻いて、点滴の海に浸かり──まるで、この世を恨むかのような瞳をしていた。

 

 彼は天与呪縛で、強制的に自分の術式能力を上げさせられる代わりに、右腕と膝から下の肉体、更に腰から下の感覚が奪われ、肌も月明かりに焼かれるほど弱いものにされていた。

 

 望んで手に入れたわけじゃない力の所為で、日の下を自由に歩けなくされた。その辛苦は、如何ほどだろうか。

 

 憐憫だとか、同情だとか、種々の念はあったが、とにもかくにも、この子にも青春をさせてあげたい。そう思った俺は、独断で領域を使い──彼を、五体満足な身体にしてあげることに成功した。

 

 おかげで彼の術式の効果範囲は狭くなっちゃったし、呪力出力も落ちちゃって、普通に上層部からは怒られたけど……まぁ、幸吉が咽び泣きながらお礼を言ってくれたんだから、ノーダメですね。ってか、割と前から悟と傑と九十九さんがハチャメチャやったんで、上層部に権力はほとんど無かったから、事実としてノーダメでもあったり。

 

 しかしまぁ、2人とも大きくなったもんだ……。

 

 感慨深い気持ちになりながら、歌姫さんと揃って幸吉と真依ちゃんの争いを見ていると、最後の生徒がそれを仲裁に入る。

 

 「──ま、まぁまぁ、真依も幸吉くんも、落ち着いてください……」

 「霞……」

 「三輪……」

 

 水色の長い髪に、黒のスーツを着込んだ彼女は、三輪霞。当然彼女も、受け持ちの娘だ。

 

 彼女とは、高専で担当になるまでは関わりはなかったが、喋ってみると死ぬほど善い娘で驚いたのは、ちょっとした思い出だ。

 

 なんか彼女、お家が貧乏らしく、弟も2人いるとかでね……若い身空でのそんな苦労話聞いたら、あたしもうダメよ、即行で札束あげた。でも彼女、こんなの受け取れませんって遠慮しちゃうの。善い娘が過ぎる……。そりゃ真依ちゃんも幸吉も、彼女には強気に出れないわ。

 

 「でも霞、幸吉のヤツ……!」

 「わ、分かってますって……。──幸吉くん。あんまり真依ちゃんをいじめちゃダメですよ?」

 「……フン」

 「この男……」

 「あはは……」

 

 三輪ちゃんが困り顔で宥めると、そっぽを向く幸吉。真依ちゃんがそれを見て、イラァっとした顔をし出しちゃったけど……許してあげてほしい。幸吉くん、好きな人には素直になれないタイプだから。可愛いね。

 

 「──はい、じゃあアンタたち。聞いてちょうだい」

 

 パンパンと。

 

 生徒たちの話が一段落したところで、大きく手を鳴らして場の注目を集めた歌姫さんは、事項を告げる。

 

 「3年生にはもう言ってあるけど、もうすぐ東京の姉妹校と交流会があります。去年はうちらが負けちゃったから、今年は向こうで開催ね。それに合わせて、アンタたちも、しっかり準備をしといてちょうだい」

 「ハーイ」

 「……」

 「分かりました!」

 

 真依ちゃんは、気怠そうに。

 

 幸吉は、無言で。

 

 三輪ちゃんは、元気良く。

 

 歌姫さんの言葉に返事をする。

 

 彼女がそれに満足げに頷く中、続いて俺も、みんなに笑顔で告げる。

 

 「なお、今回の交流会でも俺は、東京校の教師の五条悟と伏黒甚爾と、どちらが勝つか、賭けをしています。当然俺は京都校の勝ちに賭けてるので、みんなは俺の賭けのためにも頑張るように!良いね?」

 「何も良くねーわよっ!!アイツらバカどもと付き合うのは辞めなさいって、何回言わすのよっ!!このバカっ!!」

 「ぐぁぁっ、とても痛いっ!!」

 

 気付いたときには怒りのチョップが頭を直撃、顔面が教卓にめり込まされる。

 

 割れた木片に埋もれつつ、痛みに呻いていれば、聞こえてくる教え子たちの声。

 

 「この人、生徒で賭け事するとか、ほんと……」

 「最低だな……」

 「で、でも、ほら、私たちが勝つ方に賭けてくれてるわけですし……私たちを信頼していると考えれば……」

 

 おっと、みんな呆れてますね……。でも、しょうがないじゃん。売り言葉に買い言葉って言うか、毎年恒例になっちゃってるわけだし……。

 

 っていうか今更だけど、甚爾が教師やってるってビックリだよな……。明らかに向いてねぇだろ。いや実際、毎日競馬とか競艇しにサボってるらしいが……。まぁでも1番ビックリしたのは、アイツに子どもが居たって知ったときだけど。

 

 たしか学生時代に真依ちゃんたちを預かり出した頃……悟が新しく、ツンツンした男の子と、おっとりした女の子を連れてやって来てさ。次はどこの子だよって聞いたら、甚爾の子だって言うじゃん?

 

 なんか俺の知らない間に何度か接触(殺し合い)して、最終的に協力関係になったらしいんだけど……にしても、アレに子どもって……と思いながら、その子たち──恵くんと津美紀ちゃんを、1年くらい預かった記憶。その後もちょくちょく会ったりしてて、今では東京に行ったら、一緒にご飯に行く仲になってたりもする。つまり仲良し。

 

 「──ちょっと聡人っ、聞いてんのっ!?アンタはっ、あんなのにっ、なっちゃっ、ダメって、口酸っぱくっ、言ってるでしょ!」

 「やめっ、ちょっ、太鼓の○人みたく頭をリズミカルに叩くのはやめてください歌姫さんっ!フルコンボ目指さないでっ!!」

 「……プッ。あらやだ、これ、端から見てるとめちゃくちゃ面白いわね」

 「動画で撮っておくか」

 「こ、幸吉くん、ダメですよっ……」

 

 どんどんかっか、どんかっか。

 

 受け持ちの子たちに笑われながら、教卓に叩き込まれビクンビクン跳ねてる内に、月日は過ぎ──秋。

 

 京都校の生徒を連れて、俺は、東京の呪術高専に来ていた。

 

 

 

 

 

 さしすの先輩聡人くん!

 

 

 

 最終話 青春は廻る

 

 

 

 

 

 「──いやー、バチバチだったねー!うちの子らとそっちの子!」

 「だねー。挨拶だけであんな険悪とか……まったく誰に似たんだか。あ、歌姫にか」

 「いや、歌姫さんが険悪なのは悟と傑にだけだよ」

 「またまたー」

 

 高専内、一室。

 

 いくつもの椅子が置かれ、壁にはモニターが5、6個掛けられた観覧所。

 

 隣の席にて脚を組んでくつろいでいる、銀髪に黒の目隠しの男──悟と、言葉を交わす。

 

 今、観覧所に居るのは、俺と悟の2人だけだ。

 

 一緒に東京校に来た楽巌寺学長──京都校の偉い人ね、耳と眉毛がファンキー──は、生徒たちのミーティングに赴いていて居らず、歌姫さんも、東京校の学長になった夜蛾先生と、どっかにお話しに行ってるからだ。

 

 「いや、割とガチで言ってるんだけど……まぁいいや。あ、そーだ悟。今夜のパーティーの準備はきちんとできてる?」

 「ちょっと、誰に聞いてんの?僕がそこら辺のことを怠るわけないでしょ」

 

 尋ねると、自信満々の返事。やるぅ!

 

 「さっすが、目隠しは伊達じゃない!ちなみに参加者はどうなってる?」

 「いや目隠しは関係ねぇだろ。……えーと、七海と九十九由基は、夜には来れるっぽいよ。天内と黒井さんも。で、日下部は妹の家族と遊園地に行ってるとかで来られないらしいね。灰原も、実家に帰省中だから来れないって」

 「あら残念……まぁ家族仲が良いのは良いことよ」

 「あと、伏黒甚爾は競馬場行ってて連絡取れないわ」

 「終わってんなアイツ……なんで雇ってんの???」

 「いやだって、アイツを自由にさせるわけにはいかないでしょ……まぁ首輪付けてても自由なんだけど」

 

 無敵かな???……ああでも、アイツはあれで、津美紀ちゃんには頭が上がんないっぽいけどね。やはり女の子は強い……。

 

 しみじみそう思っていると、パタンと開く戸。

 

 頭だけ動かして見れば、厳めしい顔にサングラスをつけた男と、歌姫さんが、白衣を纏った長髪の美人さんと共に入ってきていて。

 

 「あ、夜蛾先生、ちーっす!やー、いつ見ても若いっスね!」

 「逆にオマエは、いつ会っても挨拶がなってなさすぎるな……」

 

 立ち上がり、片手を挙げて呼びかければ、頭を押さえて溜め息を吐く男──夜蛾先生。

 

 俺はその彼から視線を外すと、今度は白衣の美人さんに視線を送る。

 

 「硝子ちゃんもよっす!相変わらず綺麗だね。……あぁ、でもクマがちょっと濃くなっちゃってる?大丈夫?ちゃんと寝てる?」

 「久しぶりです、聡人さん。そーですね、最近はあんまり寝れてないです」

 「え、マズいじゃん……」

 

 言って、白衣の美人さん──硝子ちゃんは、儚げに微笑む。

 

 それに哀憐を覚えたのか、歌姫さんは彼女にガバリと抱き付き。

 

 「じゃあ今日は私と一緒に寝ましょう、硝子!しっかり寝かしつけてあげるわ!」

 「ふふっ、いいですね。お願いします。……あ、聡人さんも一緒に寝ます?」

 「えっ!?い、いや、逆に寝れなくなるから良いよ……」

 「ありゃ、そうですか?」

 

 クスクス笑って、小悪魔チックな表情をつくる硝子ちゃん。クソぅ、手玉に取られてる……。

 

 そうこうしている内に、お次は楽巌寺学長が、黒ずくめの美人さんと共に入ってくる。

 

 「──あ、冥さん!」

 「やぁ、墓之瀬くん。元気にしてたかい?」

 「それはもう!」

 「なら良かったよ。フフッ、本当ならもう少し喋っていたいところだけど……先に映像の準備をしないとね」

 「はい、お願いします!」

 

 流麗な動作で彼女──冥さんは、俺に挨拶をしながら席に着き、モニターのケーブルを引っ張ったりし始める。

 

 交流会の様子は、冥さんの黒鳥操術に協力してもらって、ようやく確認できるようになるからだ。

 

 そしてそれを手伝うには、俺はちょっと知識が足りていない。悲しい……。

 

 が、しょんぼりしている間もなく新たな入室者。

 

 両手に黒髪と金髪の女子高生をそれぞれ侍らせた、袈裟服姿の男だ。

 

 「……うわ、絵面めちゃくちゃ犯罪者じゃん。悟、110番して」

 「おっけ、承った」

 「やめて、任せるな、承るな。……はぁ……まったく、聡人さんは何歳になっても変わらないですね……ほら、美々子、奈々子、そろそろ戻って。交流会始まるよ」

 「はーい、夏油サマ」

 「分かりました」

 

 手を軽く振って、袈裟服の男──高専の教師となっている傑は、女子高生2人を帰す。彼女らがペコリとこちらにお辞儀して、大人しく去っていくのを見送ってから、彼は口を開いた。

 

 「……先に言っておきますけど、私はくっつくのはやめるように言ってる側です」

 「初手弁明って、疚しいことあるって自分で言ってるようなもんだよ?」

 「聡人さん……」

 「じょーだん。……今のって、美々子ちゃんと奈々子ちゃん?大きくなったね」

 「ええ。早いものです」

 

 ──美々子ちゃんと奈々子ちゃん。彼女たちは、俺が高専で真依ちゃんたちの面倒を見て暫く経った頃、傑が連れ帰って来た子だった。呪術が扱えることが理由で村で迫害されていたらしい。で、傑はそれにぶちギレて、村人にフィジカルパンチをお見舞いしてから救って来たのだとか。そんな彼女たちは、当時から随分と傑になついていたけれど……そっか、会わない間にここまで……いや、何も言うまい。

 

 ──それから、席に着いていた楽巌寺学長を悟と傑と一緒に煽りに行ったり、その行為を夜蛾先生に咎められ怒られたり、遅れてやって来た後輩の伊地知くんと絡んだりしていると、セッティングが終わったらしく、冥さんが呼びかけてくる。

 

 時計を見れば、時刻も交流会開始もうすぐといったところ。

 

 みんなで席に着き、やがて、悟がアナウンスを始める。

 

 「──開始、1分前でーす。ではここで歌姫先生に、ありがたーいお言葉を頂きます」

 「はぁ!?え……えーっと……あーある程度の怪我は仕方ないですが……そのぉ……時々は助け合い的なあれが……」

 「時間でーす」

 「ちょっ、五条!!アンタねぇ──」

 「それでは姉妹交流会──スタァートォっ!!!」

 「先輩を敬えっ!!」

 

 音割れをさせながら悟が叫び、赤っ恥をかいた歌姫さんが飛びかかって、喧嘩が始まるのを横目に。

 

 モニター内では、両校の生徒が並び立っていた。

 

 派手な髪色の男の子に、恵くん、気の強そうな女の子、美々子ちゃん、奈々子ちゃん。

 

 おにぎりボーイ棘くんに、パンダくん、真希ちゃん。

 

 真依ちゃん、幸吉くん、三輪ちゃん。

 

 魔女っ娘桃ちゃんに、アイドルの高田ちゃん大好き葵、色々あってマザコンの憲紀くん。

 

 これからも彼らが、楽しく賑やかで、幸せな青春を送れることを願いながら──俺は。

 

 悟が馬鹿にし、歌姫さんがキレて、傑が煽り、硝子ちゃんが宥め。

 

 冥さんが微笑を浮かべ、夜蛾先生が溜め息を吐き、楽巌寺学長が呆れる中。

 

 静かに笑んで、交流会の行く末を見守った。

 

 

 

 






 これにて完結っ!

 気が向いたら番外編を書いたり、活動報告に裏話を上げたりするかもだけど、とりあえずは終わりです!

 ここまで読んでくださりありがとうございました!






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