さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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第3話 刀と刀

 

 

  

 「──ふっ!」

 

 呪力を籠めた刀を、声と共に振り下ろす。

 

 キィン……!と鳴り響く甲高い音。

 

 今では低級の呪霊くらいななら問題なく祓えるようになった一撃、それを難なく受け止めたのは、対面にて同じく呪力で強化された刀を頭上に構えた男だ。

 

 今の俺と同じく、ワイシャツに黒のズボンといったラフな格好。黒の短い髪を逆立てており、口には煙がくゆるタバコをくわえている。

 

 日下部篤也さん。俺の刀の先生である。

 

 「おらよっ」

 

 暫しの鍔迫り合いの後、掛け声を上げて彼は、刀を振り、受け止めていた俺の刀を払う。体勢を少し崩した俺に彼は、一撃二撃と刀を打ち込んでくる。

 

 向かって左下からの斬り上げに、横薙ぎ、速く重いその攻撃になんとか食らい付き、刀を立てて防御していく。幾許か俺の防勢が続き──見つける日下部さんの攻撃の隙間、逃さずにこちらも斬り返す。

 

 巡り巡る形勢、その流れを10度ほど繰り返したところで、彼の斬り払いに耐えられずに俺の手から刀が吹き飛ぶ。刀はくるくると回って宙を舞い、やがて地に突き刺さった。

 

 「……ここまでだな」

 「ふー……ですね……ありがとうございました」

 「おう、ありがとうございました」

 

 言って、刀を鞘に収める日下部さんに、ジンジンと痺れる手を揉みながら感謝を告げる。

 

 呪術高専に通うようになってから2ヶ月。初夏の柔らかい日差しを浴びながら、俺は校庭にて、日下部さんに稽古をつけてもらっていた。

 

 「いやー、にしても、やっぱり日下部さん、強いっスね。勝てねぇ……」

 「ったりめぇだろ。こちとらオマエより長く呪術師やってんだ、流石に成り立てのガキに負けるわけにはいかねぇよ」

 「んなー……でも俺、この前3級になったんですよ?」

なったんですよ?」

 「3級なんざゴロゴロいるっちゅーの」

 「え、そうなんだ……」

 

 飛んでいった刀を回収しつつ、休憩がてら雑談に入る。

 

 しかし3級っていっぱいいんのか……ちょっとショックだ。等級の存在は知ってても、誰がその等級なのかとかは全然知らなかったからな……。

 

 「ま、オマエは飲み込みが早いからな。呪力操作に身体強化、刀の扱いもすぐ覚えやがったし……2級ぐらいにはすぐなれるだろうよ」

 「おお!お……おお?2級か……ちょっとショボくないですか?」

 「バカ言うんじゃねぇよ。大抵の術師は準1級か2級で終わり、1級になれるやつなんざそうそう居ねぇ。だってぇのに、オマエは術師になって2ヶ月で、2級に挑める実力を持ってる……俺からしちゃあ、最早気持ち悪いよ」

 「へへっ、いやぁそんな……気持ち悪いは違くないか???」

 

 後頭部を掻き照れようとして、全然褒められていなかったことに気付く。気持ち悪いは違くないか???

 

 「でも俺としちゃあ、オマエにそんな早急に昇格してほしくねぇんだけどな。何せガキに稽古つけてるだけで任務が免除されるんだ。こんな旨い仕事がすぐに終わっちまうなんて勿体ない」

 「あー……たしかに日下部さんからしたらそうっスね。命の危険もないし、気負う必要もない、更には俺みたいな可愛い弟子までついてくる……おいおい日下部さんったら幸せもんじゃん。羨ましいなぁ、このこのっ」

 「黙ってろバカヤロー」

 

 悪態を吐く日下部さん。この前一緒にお昼を食ってるときに教えてくれたのだが、なんでも彼は、前向きに呪術師をやってるわけではないらしく、できるなら任務はなるべく避けたいんだとか。

 

 まぁ普通はそうだよな。俺は呪霊と戦うの、強くなったのを実感できるし、お金も貰えるから嫌いじゃないけど。ああでも、俺がそう思えてるのも今だけなのかも……?昇格するにつれて、呪霊の危険度もドンドン上がってくわけだし……。

 

 自らの将来に一抹の不安を覚えていると──何かに気付いたかのように、日下部さんが首を動かす。つられて俺もその方向を見れば、そこには。

 

 「──やぁ、日下部。それに……久しぶりだね墓之瀬くん」

 

 いつぞやの美人なお姉さんが、小さく手を振りながらこちらに向かって歩いてきていて。

 

 「お久しぶりです!冥冥さん、ですよね!?今日もおキレイですね!よっ、美しさも1級術師!」

 「フフ……ありがとう、墓之瀬くん。それと私のことは、冥でいいよ」

 「いいんスか?それじゃあ……ンン、了解だ、冥。これからよろしくな」

 「フフ……相変わらず面白い子だね」

 

 名前呼びを許可されたので彼氏面してみるも、あえなく笑って流される。動じない……!大人のオンナだ……!

 

 慄いている内に、彼女は俺たちの立っているすぐ近くまでにやって来る。

 

 今日の彼女の風貌は、淡い水色の髪を後ろの高いところでまとめたポニーテールに、黒のワイシャツに裾の広がるパンタロンといった、カッコいいめの装い。クールビューティーだ。

 

 計らずも彼女の姿に見惚れていると、ちょちょんと日下部さんが俺の肩を叩き、忠告してくる。

 

 「なんだ?墓之瀬オマエ、冥冥を狙ってんのか?やめとけやめとけ、ソイツは金の亡者だぞ」

 「別に狙ってるとかじゃないですよ。知り合いと仲良くなりたいだけ。というか、金の亡者って……?」

 「知らねぇのか?ソイツは金のためならなんでもやるイカレ野郎なんだよ」

 「なるほど……つまり金銭面でしっかりしているいいオンナってことか」

 「捉え方がポジティブすぎねぇか???」

 

 いやぁ、マジかぁ……冥さん、キレイでスタイルよくて大人っぽくて、更にはお金に関してもしっかりしてる人なのかぁ……憧れちまうなぁ……。

 

 「うん、やっぱり墓之瀬くんは面白い子だね。それにしても……聞いたよ?もう3級に上がったそうじゃないか。凄いね」

 「あ、あざーす!……ほら、日下部さん!普通はこうやって褒めるんですよ!見習って!」

 「メンドくせぇ。つーかどうせ冥冥が興味あるのは、この先墓之瀬が活躍して金を落としてくれるかだろうに」

 「フフフ……」

 

 日下部さんが白い目で言えば、冥さんは意味深に笑う。おいマジか、俺は金の成る木として見られてたのか?

 

 「えぇー……ひどいっスよ冥さん。身体目当てで褒めたんですか?」

 「墓之瀬言い方。オマエの身体っつーか将来性ってことな???」

 「フフ……とても良いものだったよ。ぜひともこれからも楽しませてほしいね」

 「冥冥オマエも言い方。現時点で分かるコイツの将来性が良いものだったってことな???」

 

 喫茶店とかだと真面目な話しかしなかったから分かんなかったけど、冥さん面白いな……。冗談もいける口なのか。ヤバいなこの人、魅力が溢れて止まらねぇ。好きになっちゃいそう。

 

 ああでも歳の差が……いや冥さんって何歳だ?10代って言われても納得できるし、40代と言われても納得できる雰囲気持ってるんだが。不思議だ……!

 

 「……そうだ、墓之瀬くん。丁度いい機会だし……これから私が行こうとしている任務、一緒にやるかい?」

 「任務を一緒に……ですか?」

 「うん。どうやらある廃校に呪いが大量発生したようでね。下は3級から、上は1級までの呪霊が出るらしい。君、上級の呪霊と戦ったことはまだないだろう?ここらで上級の呪霊に慣れておくと、今後の生存率が上がると思うよ。今回なら、もしものときは私たちが助けてあげられるし」

 

 冥さんのミステリアスさについて考えていたところに突然もたらされる提案。

 

 聞いた限りは利点ばかりのように思える。経験も積めて、安全マージンも取れてる、冥さんの戦い方も見れるしアドバイスもしてもらえるかもしれない……うん、本当に好条件だ。怪しさすら感じる。

 

 「……肉壁要員とかじゃないスよね?」

 「私を何だと思っているんだい?そんな1銭の得にもならないことしないさ。私はただ、君の用益潜在力を考えて先行投資しようとしているだけだよ」

 「すげぇ、後半何言ってるか微塵も分かんねぇ……!日下部さん!翻訳してください!」

 「あー……簡単に言えば冥冥は、オマエの将来性を見込んで、今の内に恩を着せて唾をつけておこうとしてるって感じだな」

 「冥さんが唾くれるんですかっ!!??」

 「違ぇよアホ」

 

 なんだ違かったのか……残念だ……冥さんレベルの美人さんの唾なら、全然欲しいけどな……全然……ん?あれ俺、キショすぎでは???

 

 「──まぁ、唾はあげられないけれど……良い経験にはなると思うよ?それで、どうするのかな?墓之瀬くん」

 

 自らのキショさ具合にビビっていると、話を切り替え問いかけてくる冥さん。その顔には、張り付いたような微笑が浮かんでいるものの、瞳は真剣だ。

 

 しかしどうするか、か…………正直悩むまでもないな。

 

 だってこれは──夢に見た美人の先生にイロイロ教えてもらえるチャンスなのだから。シチュエーションはまぁ、ちょっとあれだけども。

 

 「当然任務、参加させてもらいますよ、冥さん。手取り足取り、イロイロ教えてくださいな」

 「フフ、任せてもらおうかな?……それじゃあ行こうか、墓之瀬くん、日下部」

 「おっす!!」

 「……え、何これ俺も行くの?メンドくせえんだけど……」

 「日下部。監督責任って言葉、知っているかな?」

 「チッ……分かったよ、行くよ行きます、行けば良いんだろう?」

 

 言葉巧みに、ごねる日下部さんを操る冥さん。折れた日下部さんは、抵抗を諦める。

 

 それから、簡単な準備をして。

 

 俺たちは、廃校へと向かった。

 

 

 

 

 

  

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