さしすの先輩聡人くん!   作:コトバノ

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第7話 目を覚ます

 

 

 ゴウッと、風切り音を伴って、右の巨腕が振り下ろされる。

 

 バックステップでそれを躱すと、呪霊の拳が床へと突き刺さり、タイルを砕く。

 

 割れたタイルが浮き上がる中、巨腕の上を駆けて俺は、呪霊の太い首元に迫り──横から来る左の巨腕、跳ぶことでそれをも下に躱す。

 

 しかし滞空する僅かの身動きの取れない時間、見計らったかのように返す巨腕が払われ、構えた刀と共に吹き飛ばされる。

 

 俺は足裏で地面を擦って、その衝撃をいなし、残った衝撃も、最後に宙返りすることで飛ばした。

 

 「──フーッ……力強えなー、おい……ドカベンか?だったら気は優しくあってほしいもんだよ、まったく」

 

 愚痴を吐きつつ、彼我の差を推し測る。

 

 この呪霊、呪力量は多いが、目を見張るほどじゃあない。厄介なのは、巨大な上半身から繰り出される攻撃だ。素早く、重い。防御せずに食らうのは、まず危険だろう。

 

 術式は……上半身を巨大化させるといったところだろうか?初めに会って、逃走してたときと比べて、肥大化してる気もするし……。もしくは、身体のカタチを弄くる、なんてのも考えられるが……詳しいことは分かんねぇな。もう1体の呪霊は、口から出ている腕の指鉄砲から呪力の光線を飛ばすっていう、分かりやすい術式だってのに……。

 

 とにもかくにも、俺がこの呪霊を祓うには、巨腕の攻撃を避けつつヤツの身体を斬り付け、ときたま遠くからも呪力の斬撃を放って、チマチマと削っていく……それしかないだろう。

 

 指針を立てた俺は、ノシノシと音を立てて近寄ってくる呪霊へと駆け出す。

 

 すると、焼き直しのようにまた風切り音を伴って振り下ろされる呪霊の右の巨腕。

 

 今度はそれに立ち向かう形で刀を斬り上げに振り──暫しの拮抗、押し返すのは厳しいと判断した俺は、無理はせずに攻撃を流す。

 

 いなされた呪霊の腕は地面を叩き、間髪入れず、俺は、その腕に斬りかかる。

 

 1級呪霊だけあっての硬さに最初は弾かれるも、呪力を割り増しで刀に籠めて振るい、やがて肉が裂け、血が舞い出す。

 

 血肉を浴びつつ腕への斬り付けを続けていると、その腕が脈動、猛烈な速さで払われる。

 

 股を開き、身を低く屈めることでそれを避けた俺は、がら空きとなった呪霊の懐に潜り込んだ。

 

 腿、脇腹、鳩尾、胸、肩、とにかくガムシャラに刀を振って、呪霊の身体に傷を付けていき、左の巨腕が襲いかかってくる直前で後ろに大きく跳んで離脱、距離を取る。

 

 生と死の綱渡りの攻防に、心臓をバクバクさせつつ息を整え、呪霊の身体を確認する。

 

 腕や胴に付けた傷は、呪霊の特性から治っていってしまっているものの、その速度は遅めだ。

 

 そして呪霊は、いくら身体を再生できると言っても、再生に用いる呪力は有限だ。いつか必ず限界は来る。

 

 「……なんとかなりそうだな」

 

 仄かに希望が見えてきた俺は、呪力の斬撃を、呪霊の顔目掛けて飛ばす。

 

 だがその斬撃は、大きな腕によって防がれ、青黒の呪力が霧散し──それを目眩ましに俺は呪霊へと接近、胴体へと斬りかかる。

 

 銀閃が幾つもの軌道を描き、呪霊の身体に次々と線が刻まれていく。

 

 堪えたのか、今までにはないほどの速度、威力で呪霊が放つ拳を、ギリギリで俺は股下を転がり抜けることで逃れ、起きざまに背後から呪力の斬撃をまたお見舞いする。青黒の斬撃は、諸に呪霊の背中に突き刺さった。

 

 「あっぶね……!けど結果オーライだ……!」

 

 冷や汗をかきながら、ひきつった笑いを浮かべる。

 

 視線の先の巨躯の呪霊は、身体の至る部位から血を垂らしつつ、よろめきながらこちらを振り向こうとしていた。

 

 格上とまともに戦ったことはなかったが……案外イケるもんだな。確実に呪霊も消耗しているように見える。長い時間はかかるだろうが、この調子でいけば、きっと──。

 

 

 

 「──祓える……!!」

 

 

 

 確信を抱く。

 

 希望を見出だす。

 

 来るだろう未来に、高揚感を覚える。

 

 イケる。勝てる。倒せる。祓える。

 

 明るい感情に笑みを濃くして、ゆっくりと歩み寄ってくる巨躯の呪霊に刀を向ける。

 

 そして、力強く1歩を踏み出そうとし──。

 

 

 

 「──……あ……?」

 

 

  

 ──脇腹を、熱いナニかが貫く。

 

 少しの間、呆然と焼け焦げた自らの脇腹を見やり、緩慢にその視線を後ろに送る。

 

 そこに居たのは、完全に意識から外れていた、もう1体──2つある頭のそれぞれの口から指鉄砲の腕を覗かせた、四つん這いの人間じみた姿の呪霊で。

 

 「ッ……ハッ……!仲間外れはイヤだってか……!?」

 

 嘲笑めいて漏らした俺の問いに答えるように、呪霊の指鉄砲から黄褐色の光線が放たれる。

 

 俺はそれに呪力の斬撃を飛ばして相殺し──全身を突き抜ける悪寒、咄嗟に刀を上に構え。

 

 「──んがッッ……!!!」

 

 次の瞬間、身体がバラバラになるような衝撃が俺を襲う。

 

 拳だ。

 

 巨躯の呪霊が、その大きな身体を思い切りに使った上からの拳を放ったのだ。

 

 衝撃が俺を通って地面へと伝わり、床のタイルが網目状にひび割れていく。

 

 あまりの重さに俺は、堪らず片膝をつき──微かに光る視界の端、呪力を全開に捻り出して纏うと同時に、黄褐色の熱線が貫かんと俺の身体を撃ってくる。

 

 「クッソッ、追い打ちやめろやッ……!!」

 

 ミシリミシリと身体が軋み、悲鳴を上げる。

 

 段々と増していく上からの圧力。

 

 横からもまた鋭い光線が放たれ俺の身体を打ち付ける。

 

 呪力の防御で何とかダメージを軽減してはいるものの、じわじわと痛みや熱、疲労が蓄積していき、焦燥が頭を埋め尽くす。

 

 マズいッ、マズいマズいマズいマズいッッ……!!チクショウ油断したッ、どうするッ……!?このままじゃじり貧だ、起死回生の一手を打たねぇとッ……!けどこの状態を維持するので精一杯、気ぃ抜いたらミンチだッ……!そんな状況でアイデアなんて浮かぶはずも──クソッ、コイツら攻勢が強くッ……!

 

 「んぎッ、んぎぎぎぎッッ……!!」

 

 悲鳴を通り越し、身体が慟哭を上げる。

 

 支えるように置いた腕に、刀の峰が食い込んでいく。

 

 より一層、ついた膝が地面へと沈んでいく。

 

 背が、脇腹が、側頭が、呪力の光線によって痛め付けられていく。

 

 学帽が吹き飛び、長ランが穴だらけに破れていく。

 

 押し出せる呪力が、減っていく。

 

 意識が……薄れていく。

 

 脳裏をよぎる、死の予感。

 

 ふと思い出したのは、夜蛾先生の言葉だった。

 

 呪術師という存在を語る際に、彼からその言葉聞いた。

 

 ──呪術師に、悔いのない死などない。

 

 ああ、まったくもってその通りだ。

 

 悔いしかない。悔いしか残っていない。

 

 人として生きるために、人並みの青春を送るために高専に入って呪術師となったのに、それらしいことはまだほとんど何もできていない。

 

 歳の近い友人と、ご飯を食べて、お出かけをして、夏は海でも行って、偶には喧嘩でもして。

 

 そんな夢のような青春を送れないままに、俺は死ぬのか?

 

 折角会えた歌姫先輩と、こんなにすぐに会えなくなってしまうのか?

 

 それで、いいのか?

 

 

 

 「──いいわけねぇだろうがッッ!!」

 

 

 

 強い激情。

 

 呪力が跳ね上がる。

 

 今際のとき、混濁した意識の中で、俺はソレの存在を知覚する。

 

 そして俺は、元から知っていたかのように、ソレを扱う言葉を紡いだ。

 

 「術式解放ッッ──『呪限無』ッッ!!」

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 「術式解放ッッ──『呪限無』ッッ!!」

 

 叫びに応じて、ゴッソリと呪力が持っていかれる感覚。

 

 それに伴って、俺の足元から黒の霞があたかも洪水のごとく渦巻いて噴出し──巨躯の呪霊と、指鉄砲の呪霊に纏わりついていく。

 

 

 

 ──そして、顕著な異変が起こる。

 

 

 

 表情はなく、されどどちらの呪霊もが戸惑いを見せる。

 

 俺を潰さんと拳を押し付けていた巨躯の呪霊、その力がいたく弱まり、その肥大した上半身が瞬く間に縮んでいく。

 

 俺を撃ち抜かんとしていた指鉄砲の呪霊、その指先から放たれる光線が止み、その身体もバランスを崩して地面へと前腕をつく。

 

 生じた隙、逃すことなく俺は刀に力を込め、一思いに拳を押し返す。巨躯の呪霊もまた、バランスを崩してよろめいた。

 

 その勢いに乗じて、満身創痍の身体を叱咤し、俺は立ち上がると。

 

 「ハハッ、ハハハッ……!形勢逆転、だなぁ……!」

 

 左右に鎮座する呪霊を見据え、嗤って言う。

 

 

 

 ──術式『呪限無』、その効果は、名前の通りだ。

 

 すなわち──対象のあらゆる呪いを制限ないし無効化するというもの。つまりは術式を、結界を、縛りを、呪力を、すべての呪いを妨げることのできる、最悪の過負荷。呪いを扱うモノは、皆一様に阻害を受ける。

 

 それが、生死の境で掴んだ、『呪限無』という術式だった。

 

 

 

 「オマエらよくも、散々いたぶってくれたなぁッ……!!親戚一同のお歴々を思い出しちまったよッ……!!」

 

 憤りに、恨みに、苦痛に、殺意に、それらを覆い尽くすほどの高揚に、五感が研ぎ澄まされていく。

 

 満ち溢れる呪力を身体に纏わせた俺は、一足飛びに巨躯の呪霊の懐に潜り込み──見える呪力の防御が薄い部位、膝を目掛けて刀を振るい。

 

 

 

 歪む空間、黒い火花が──散る。

 

 

 

 突如として訪れた万能感のままに、膝を破壊され体勢を崩した呪霊の脇腹目掛けて、再び返す刀で斬り付け──呪力がまた、赤黒く爆ぜる。

 

 抉られる脇腹、更に前へと倒れ込んでくる呪霊の首元を、最後に薙ぎ払い──赤黒の爆発、跡形もなく羊の角を擁していた頭部が消える。

 

 「お次は……」

 

 存在を朧気にして溶けていく巨躯の呪霊、それから目を離した俺は、背後に位置する呪霊へと意識を向ける。

 

 四つん這いの姿勢で、腕と足を機敏に動かし逃げようとする呪霊、その真上へ、ボロボロの長ランをはためかせて舞った俺は、身を翻しながら、2つある首にまとめて斬りかかり──一際大きな赤黒の呪力の奔流が走る。

 

 両足でしっかりと着地した俺は、呪霊が祓われたことを確認しようと、辺りを窺い。

 

 「──うッ……!」

 

 ボヤける視界に覚束ない身体の動作、フラりと体勢を崩して壁へと衝突する。

 

 刀が手を離れ、カランと音を立てて床に転がった。

 

 この身体中が酷く怠い感じ……呪力の枯渇か……!たしかに呪限無に呪力がゴッソリ持っていかれている気はしていたが、これほどまでとは……いや、その前の防御のときに全開にしてた所為もあるのか。何はともあれ気持ち悪い……しかも多分これ、疲労とかも一緒にきてるな。ヤバい、気絶しそうだ。

 

 危機感を覚えた俺は、せめて歌姫先輩を置いてきた空き店へと戻ろうと考え──捉える、嫌な気配。

 

 「……勘弁してや……こんなおかわり要らねぇっつーの……」

 

 ゆっくりと首を動かせば、まっさらに消えた1級の呪霊たちの向こうの闇から、こちらを見つめる新手の、小さな魚のような呪霊たちの姿が数十あって。

 

 普段なら、3級あるかないか程度の、気にも留めないザコだ。

 

 だが、最早いっぱいいっぱいの俺の身体では、まずロクに抵抗もできないだろう。

 

 「……クソが……!」

 

 身を包む諦念。

 

 限界を知らせる脳の悲痛な訴えに、壁に寄りかかっていた身体から力が抜け、仰向けに俺は後ろへと倒れ──。

 

 

 

 ──ぽすんと。その身体が、優しく受け止められる。

 

 何が起きたかを把握する間もなく、暗く染まっていく意識。

 

 最後に俺の耳が捉えたのは、優しくも後悔が滲み、また覚悟の籠った声だった。

 

 「──遅れてごめんなさい、先輩として不甲斐ないわ……!もう大丈夫、あとは私に任せてちょうだい」

 

 その声に、安堵の笑みを漏らして。

 

 俺は、意識を失った。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 目が覚める。

 

 視界に入るのは、白い天井に、白い照明。

 

 仰向けになっていた痛む身体を、ゆっくりと起こして、自分の状態を確かめる。

 

 ずり落ちる掛け布団に、纏うは淡い緑のペラペラとした服、内には包帯が巻かれている。

 

 周りはクリーム色のカーテンで仕切られ、外界と遮断されていた。

 

 「んー……病室か……?」

 

 未だはっきりしない頭で、部屋の正体に思い至った俺は、ボソリと呟く。

 

 そして、どうしてこんな所にいるのだろうかと記憶を探り始めて、閉鎖されたショッピングセンターでの任務を受けたことを思い出したあたりで──ジャーっとカーテンが開く。

 

 見るとそこには、黒い高専の制服に身を包んだ歌姫先輩の姿があり。

 

 「──あ、歌姫先輩じゃん」

 「墓之瀬くん……!?」

 

 呼びかけると彼女は、1度俺の姿に大きく目を見開いてから柔和に細め、へにゃりと眉尻を下げ。

 

 こちらへと駆け寄り、ぺたぺたと俺の身体を触ってくる。

 

 「良かった、起きたのね……!本当に良かった……!」

 「お、おお……おお……?」

 

 心底から安堵したような声音で、歌姫先輩は言葉を紡ぐ。

 

 でもちょっと、反応に困るな……面と向かって心配されたこと、相当に久しぶりだから……なんか、面映ゆい……顔も熱いし……。

 

 「あ、あの、歌姫先輩、ちょっと近いっス……」

 「え……ああ、ご、ごめんなさい……!」

 

 掠れた声で嗜めると、彼女は顔を朱に染め手を引っ込め、あたふた。

 

 「ち、違うのよっ、これは変なことしてるんじゃなくて……!」

 「い、いや、それは分かってますよ……」

 「そ、そう……なら、良いけど……と、とりあえずっ、看護師さん呼んでくるわね!」

 

 慌てて病室を出ていく歌姫先輩。

 

 それを見送った俺は、火照った頬を手で扇いで、冷ましにかかった。

 

 あー……顔、あっつ。というか、心配されて嬉しくなるって俺、なかなかにヤバいヤツだな……。

 

 

 

▼▼▼

 

 

 

 ──看護師さんに付き添われての種々の診察、その最中に色々と説明を貰う。

 

 まずここは、高専関係者御用達の総合病院らしい。院内の全員が全員、呪術に関わりがあるというわけではないが、俺のいた病室の区画には、大抵が呪術に関わりのある人が押し込められてるとか。

 

 次に、俺の身体について。

 

 なんでも俺は、例の緊急の任務に就いた日から丸2日ほど起きなかったそうだ。当時の診断によると、呪力の枯渇に、疲労、何より負わされた怪我、これらが悪いこと噛み合って、意識の回復を遅らせていたらしい。

 

 とはいえ今は、呪力はもう回復したし、疲労も少ない、怪我も……まぁ裂傷、火傷、軽度の骨折など、何でもござれ状態ではあるが、すぐ治ると言われたので、問題はないだろう。

 

 続いて、俺が意識を失った後の一連の処理について。

 

 意識を失った直後に駆け付けた歌姫先輩によって、俺は追加の負傷を受けることなくショッピングセンターを脱出、この総合病院へと搬送された。ちなみに歌姫先輩も一緒にだ。

 

 で、歌姫先輩の方は、やっぱり光線を食らう前に咄嗟に呪力で身体を大幅に強化してたらしく、軽い怪我で済んでいたのだとか。良かった良かった。

 

 また、報告を怠っていた窓の人は厳重に処罰をされたとも聞いたが、正直そっちにはあまり興味ない。

 

 もっとビッグなニュースがあったからだ。

 

 ……なんと俺、1級術師になれるらしい。うーん、びっくり。危険も報酬もめっちゃ増えるぜ!

 

 ただこれは、俺が1級術師認定されたというわけではなく、1級呪霊2体を単独で祓ったことを受けての適性アリ判定、今後与えられる任務をこなせば認定されるよっていう話なんだとか。

 

 つまり、1級呪霊2体討伐のご褒美に、1級への昇格チャンスを掴んだという感じだ。まぁどうせご褒美が貰えるならお金とかの方が良かったが……先々のことを考えたらお得だし、そもそもで今回の依頼において、その危険度などから破格の報酬を頂いてたりもするので、ありがたく1級昇格のチャンスを頂戴させてもらうことにした。

 

 後は入院期間や、この総合病院での注意事項を拝聴して、診察が終わり。

 

 戻ってきた2人用の病室──使ってるのは俺1人だが──にて。

 

 

 

 「──本っ当にごめんなさいっ!!」

 

 

 

 何故か俺は、歌姫先輩からガチの謝罪を受けていた。……うん、なんで???

 

 「……え、ちょっ、ホワイホワイ、どうして歌姫先輩謝ってんの?……あ、起き抜けの俺の身体をエッチな手つきでまさぐってきたことですか?それなら全然気にしてないスよ」

 「ち、違うわよ!第一あれはまさぐってたんじゃなくて、本当に生きてるかを確かめてただけで……って、今はそんなのどうでもよくて!」

 

 強引に切り換え、一息ついて彼女は続ける。

 

 「私が言ってるのは、この前の任務でのことよ」

 「任務での?」

 「ええ……あの任務で私は、先輩だっていうのにあなたの足を引っ張ってしまったわ。ロクに活躍もできず、早々に呪霊にやられてしまって……返す返すも迷惑しかかけていないわ。だから、ごめんなさいっ……!!」

 

 沈痛な面持ちで、彼女は殊勝に、深々と頭を下げる。

 

 ベッドに座ってそれを眺めていた俺は、謝罪の内容をゆっくりと頭で咀嚼し。

 

 理解したタイミングで、はぁぁぁ……と、盛大に溜め息を吐く。

 

 まったくこの人は……。

 

 「何意味分かんないこと言ってるんスか、歌姫先輩。たしかに歌姫先輩は速攻でやられたマンモスザコですけど……」

 「う……」

 「でも、迷惑しかかけていないなんてこと、ないですよ。歌姫先輩の判断のおかげで生存者確認は手早くできたし、歌姫先輩の指導のおかげでなんとか呪霊と渡り合えることもできた、最後に疲れ果てて倒れた俺を回収してくれたのも歌姫先輩じゃないですか。歌姫先輩の存在は、充分役に立ってますよ」

 

 戸惑い上がる顔、その揺らめく瞳を真摯に見つめて告げる。

 

 それを聞いた彼女は、1度目を伏せてから、おずおずと問いかけてくる。

 

 「……本当、かしら……?」

 「本当ですよ。だから謝罪はいらないです。むしろ俺としては、感謝の言葉の方がほしいっスね」

 

 そんな彼女に、あっけらかんと言ってやると。

 

 彼女はむぐむぐと、何か言いたげに口元を動かし、けれども諦め。結局、ふんわりと笑って。

 

 「……分かったわ。ええ、それじゃあ……墓之瀬くん、助けてくれて、ありがとう」

 

 送られる感謝の言葉。

 

 受け取った俺は、冗談交じりに言葉を返す。

 

 「……ふふっ、はい、もっと感謝してください。なんてたって命の恩人ですからね、俺は」

 「む。生意気な口を……」

 「後輩は生意気なくらいが可愛いんスよ。ってか、逆に歌姫先輩は気を遣いすぎ。もっとラフな感じでいきましょうや」

 「そうかしら……?なら改めて、よろしく……聡人」

 「お。じゃあ……こっちこそよろしくなっ、歌姫!」

 「ちょっ、先輩をつけなさいアンタ!調子に乗んなっ!」

 

 

 

 病室に、歌姫先輩の声が響く。

 

 軽やかな掛け合い。

 

 そこに彼女との仲が縮まったことを感じて──俺は、くすりと、密かに顔をほころばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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