大木戦記   作:ウドノ

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 その異変に気付いたのは、表層部の誰もが、だった。

 銃撃、剣戟、破砕音に衝突音。果ては爆発etc.

 これらが“奥多摩”の方から徐々に近づくように聞こえてくるのだ。

 

「後悔通りを艦首側に行くぞーーーー!!!」

 

 本来は、艦外部からの襲撃などに臨機応変に対応するための物見から、そんな声が飛ぶ。

 住民たちにしてみれば、慣れたものだ。…………慣れたものだが、しかしその一方で被害が少ない方が誰だって嬉しい。

 具体的には、被害を受けない左舷側の住人たちは万歳三唱を被害を受ける事が確定した右舷側に見えるように行い。一方で右舷側は、中指を立てながら防衛準備に駆り立てられる。

 シャッターを下げたり、防御用の術式で店その物を包んだり、と。兎にも角にも慌ただしかった。

 しかし、そんな中で一軒。特別準備をする事も無い店がある。

 右舷二番艦“多摩”表層部に存在する軽食屋兼パン屋でもある“青雷亭(ブルーサンダー)”。

 表には、“店主配達中”と“営業中”の二枚の看板が掛けられ、店内には一人の自動人形が店番として、揺れる店内のせいで零れる埃を払いながら無表情に突っ立っていた。

 朝の童謡の歌い手であるP-01s。

 カウンター内に立つ彼女は、ふと顔を上げた。

 

「毎度の事とはいえ、派手だねぇあの子らも」

 

「大工は笑いが止まらないんじゃないの?」

 

「いやいや、稼ぎになっても使えなくちゃ意味ねぇだろ?」

 

「何より、俺らも派手に噛ましてきたからなァ」

 

 店の外より口々に聞こえてくるのは、店主たちの愚痴だ。

 半ば名物になっている事に加えて、自身たちの若い頃の事もあって強くは言い難い。と言う訳で、愚痴るのが精々。

 声が近づいてくる中、話題はこの一年で有名になった自動人形の少女の事。

 

「にしても、アンタの所は閉めないんだな」

 

「まあね。私は元侍ってのもあるし、何より飲食店が就業時間に店を閉めるなんて恥だろう?」

 

「ハハッ、手厳しいや。でも、そっちのバイトの……P-01sだっけか。気を利かせて、店を閉めたりしてくれないのかい?」

 

「さっきも言った通りだよ。あの子も、その辺は良く分かってる。ここ最近じゃ、私のチェックもほとんど要らない程度にはメニューも熟せるようになった。一年前に、セン坊が連れてきた時には何事か、とも思ったけど、今となっちゃ正解だったと胸を張れるしね」

 

「そういや、そうだったか。にしても、あの坊主も変わってるもんだ。見ず知らずの自動人形を拾ってきて、職探しの世話まで焼くなんてよ」

 

「まあ、セン坊だしね。常連だからか、よく見てる。近々、メニューにP-01sの料理が乗るかもね」

 

「カッハハ!そこまでか?ま、そん時は貰うさ」

 

 快活な笑い声と共に世間話も終わる。

 ぞろぞろと他の店主たちを見送って、青雷亭の店主も帰ってきた。

 

「やれやれ、どうにも偏見ってのは抜けないもんだ。その辺、あの子は分かってる方か。P-01s、大事は無いね?」

 

 店主の言葉に、彼女は頷く。

 

「それじゃあ、表の看板だけ店に入れておいてくれるかい?店こそ閉めないけど、看板割られるのは困るしね。それから、水を撒いといておくれ。そしたら、騒ぎが終わり次第上がっても大丈夫だからさ。ついでに、焼き損ねなんかを持って行っても良いよ。何なら、窯で焼き直したって良いさ」

 

 そう言われて、P-01sは再度頷いた。ついでに、チラリと厨房の方へも視線を送る。

 本当に一瞬ではあったが、店主は目ざとくその視線に気づいていた。

 

「まあ、一通りメニューも覚えたし、何事も練習。自動人形とはいえ、アンタみたいなタイプは食事も必要なんだ。練習ついでに、一食分作っておいき」

「Jud.。感謝します」

 

 こくりと頷く自動人形。そして、店主はそんな彼女の頭を一撫でする。

 そうこうしている間に、艦尾の方から焦りを多分に含んだ声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 梅組の体育の授業で行われる追いかけっこ。

 子供の遊びにもあるが、しかし彼らの行うソレは本来のモノとは一線を画す代物だったりする。

 

「そぉらお前たち!どんどん金を使えー!」

 

 幾つかの表示枠(サインフレーム)を出現させたシロジロは、嬉々として持ち掛けられる契約案件を捌いていく。

 その傍らでは、同じくハイディが契約その他を纏めている所。

 

「契約成立ぅー!ありがとうございましたー!」

 

「商品行くぞ!受け取れ!」

 

 合掌で一纏めにされた表示枠が空へと放たれ、契約申請した者達へと飛んでいく。

 受け取り側であるマルゴット、そしてナルゼの二人は光のラインを受け取ると共に、狙い定めるは前を行くリアルアマゾネス。

 

「いくよ、マルゴット」

 

「りょうかーい!」

 

 ナルゼのペンが走り、マルゴットの跨る箒の柄へと光のラインが駆け巡る。

 狙いを定め、撃ち砕く。

 

「いっけぇ!」

 

 マルゴットが箒の柄を叩く事が、引鉄。媒体を射出し、更にシロジロより購入した術式を通過する事によって効果を付与。

 宛ら光の壁のように宙を突き進む光弾。

 だが、そう易々と撃ち落とされるほどオリオトライは甘くはない。

 自身に当たる分だけを長剣で叩き落し、その他はパルクールの合間合間で躱していた。

 

「どう?マルゴット。行ける?」

 

「うーん、ちょっと厳しいかも。狙えるけど、押しきれないかなぁ」

 

 空襲を続けながらも、いまいち攻め切れない。

 オリオトライの速度が凄まじいというのもあるが、何より攻撃に対する迎撃が実に的確なのだ。

 もっとも、二人も自身の攻撃で仕留められるとは思っていない。いや、仕留められるならそれに越した事は無いのだが次へとつなげる事が大切であるというのも学んできた。

 現に、背に迫った攻撃を捌く際に、僅かにオリオトライの速度は落ちる。そこを狙う者達が居た。

 

「あーら、アデーレ。貴方が一番手?」

 

「自分、脚力自慢の従士ですんで!」

 

 梅組最初の接触は、無骨な具足を身に着け、その手に先端を潰した身の丈を超える突撃槍を携えた眼鏡をかけた小柄な少女。

 彼女は、宛ら突進する猛牛の様な勢いで前へ前へと突き進み、その足元に生成した加速術式を踏んで更に、加速。

 屋根が一直線となったこのエリアこそが、少女にとって仕掛ける絶好のポイントであった。

 

「従士、アデーレ・バルフェット!一番槍、お相手願います!」

 

 突っ込んでくる突撃槍。加速の乗ったその刺突に乗せられた破壊力というモノは、決して馬鹿に出来るものではない。

 戦場の兵器と称される、槍。その強みは、長大なリーチからの遠心力を乗せた振り回しなどが挙げられるだろう。

 だが、その一方で突撃槍は、突きに特化する分、通常の槍にあった弱点をカバーしてもいる。

 柄の脆弱性。取り回しや重量の関係上、どうしても槍という武器は柄が脆い場合がある。そこを狙われ穂先を切り落とされれば戦力は半減してしまう可能性があった。

 その点、突撃槍というモノは柄が短く、取り回しに難があれども穂先を切り落とされるようなことは早々起きない。

 突っ込んでくる槍。オリオトライは、背負った長剣を活用する。

 その金属製の柄を利用して、突っ込んでくる槍の先端を逸らし、その反動を利用しながら懐へと潜り込む。

 如何に小柄なアデーレと言えども、その彼女の懐へと潜り込めば当然ながら後方からの援護は難しい。

 突きを行う関係上伸びてしまったアデーレの右腕を掴み、オリオトライは笑みを浮かべた。

 

「そぉら、行くわよー!」

 

「ふぇえええええ!?」

 

「カレー、如何でゲフォッ!?」

 

 大皿の山盛りカレーを頭の上で掲げて飛び掛かるインド人少年へと向けてぶん回されたアデーレが、戦槌の如く叩きつけられる。

 当然、ぶつけられた少年、ハッサン・フルブシは吹っ飛ばされ、しかしカレーだけは死守。一方で武器扱いされたアデーレは、目を回してフラフラとしていた。

 そこを狙うのは、オリオトライ。長剣を振り被って、その目を怪しく光らせる。

 

「ホームラン、ゲェ~~~ットーーーー!!!」

 

「あいたぁ!?」

 

 振り抜かれるは、渾身のケツバット。

 人間ロケット宜しくかっ飛ばされたアデーレ。如何に小柄といえども、人一人をかっ飛ばすあたりオリオトライの力というモノが良く分かる光景だ。

 もっとも、事は結構ヤバい。

 

「ほらー!アデーレとハッサンがリタイアしたわよー!」

 

「ッ、イトケン君!ネンジ君と救護に回ってくれる?!というか、先生かっ飛ばし過ぎじゃないか!?」

 

「ちょ!?これはちょっと、ヤバいんじゃないですか~~~!?」

 

 街道を抜ける一団の中で、“書記 トゥーサン・ネシンバラ”という腕章を付けたメガネをかけた少年が声を上げる。

 すると、一何の中から飛び出すのは二つの影だ。

 一人は全裸。しかし性器は見受けられず、背に負った黒い翼は精霊系の夢魔族の証だ。

 

「皆さま、おはようございます!怪しい者ではございません!淫靡な精霊、インキュバスの伊藤・健児と申します!商店街の皆様、少々のご無礼を失礼いたします!」

 

 溌溂とした声は良く響く。ついでに、前を行く者たちから半目が一瞬向けられるが、ソレはソレだ。

 そして、彼と同じくして現れるのは、一メートル大の半球状の物体。

 不定形でプルプルとしながら、朱色の粘質体。上部に黒い感覚器官を備え、ソレが眉目としての役割を果たしている。

 名を、ネンジ。見ての通り、スライムだ。

 

「やあ、ネンジ君!今日も見事な粘着きと透明感で、ヌメヌメしいね!光を反射しているよ!」

 

「うむ、今回は人助けであるな。しかし――――アデーレ殿はどうすべきか」

 

「彼女の方は、大丈夫さ!」

 

 黒い眉を寄せるネンジに、イトケンは笑う。

 彼らの後方、既に黒髪の少年が追いつきつつあったのだから。

 

「千樹殿か。成程、彼ならば問題あるまい。では、早速救助に――――」

 

 ネンジが這った所で、影が後方から射す。

 

「「「あ」」」

 

 哀れ、ネンジ。彼は後方から現れた足に踏まれて木っ端みじんに弾けてしまうではないか。

 踏んでいったのはボリューミーな髪を揺らした少女。

 彼女含めて、術式主体の者達は戦闘近接職に比べれば身体能力に劣る。マルゴットやナルゼの様に、機動力を有する者達ならば話は別だが、基本的に一歩出遅れる。

 

「フフ、御免なさいねネンジ!悪いとは思ってるのよ!ええ、本当よ!」

 

 駆け抜けていく喜美。彼女含めて足を止める者はいない。が、だからといって咎めない者が居ないという訳でもなく、

 

「喜美!貴女、謝る時にはもっと誠心誠意心を込めて行いなさいな。淑女たるもの――――」

 

「あーらなによ、妖怪説教女め。というか、ミトツダイラ。アンタ何地べた走ってるのよ。いつもみたいに鎖でドカンといかないの?」

 

「この辺一帯は、私の治める領地なんですのよ!?…………それを、貴方達ときたら――――」

 

「あらあら、先生に勝てない女騎士が狼みたいに吠えてるわ。アンタ、重戦車系だものねぇ。それにしても、千樹のおバカはまだかしら?この賢姉の椅子になる事を許可してあげるってのに」

 

 キャンキャン吠えるミトツダイラを尻目に、喜美は後方へと僅かに視線を送る。

 丁度そこでは、屋根を足場に跳んだ白羽織の彼が吹っ飛んでいたアデーレを受け止めている所だった。

 最後尾スタートであろうとも、副長代理は伊達ではない。

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