現実とリアルの狭間で   作:あるとりあ

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1話

確かに俺は死んだはずだった。

組織を壊滅させ、自分の首を掻っ切って死んだはずだ。

なのに俺は今生きている、別の身体に乗り移って。

鏡を見ると、知らない男の顔が写った。

現実から目を背けるように、手を動かしてみたり頬を抓ったりしてみるが全て痛み、感覚は正常だ。

『なんで、、なんでだ?まだ終わりは来ないのか?お前は誰だ?』

足が竦む、自らの役目を成し遂げ終わりを迎えたと思ったらこの仕打ちだ。

もう自分ですらなくなってしまったじゃないか。もう俺を証明するものは何一つなくなってしまったじゃないか。

一体俺は俺なのか?もしかして僕や私じゃないんだろうか。

俺はそのまま鏡を叩き割り、痛む拳を無視して家を出た。

外は雨が降っている。ほとんど人通りはなく、頻繁に車が通るがどれも俺を気にも止めていない。

そりゃそうだ。こんな雨の中ただ1人道の真ん中で佇んでいるやつになんて話しかけたくないだろう。

ただ、誰も目を合わさず俺をいないものとして扱う姿は俺を酷く不安にさせた。

雨が降っている。ただ雨が降っている。

雨粒が顔に落ちるのを感じた。靴下に雨水が染み込み不快感が湧き上がってくるのを感じた。

後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。

振り向きざまに平手打ちを食らう。

「どこに行っていた!?早く行くぞ!」

誰だ?お前は俺のなんなんだ?

俺に平手打ちをした女は目を見開き歩みを止めた。

ただ止まったのは一瞬ですぐさま俺の手を強引に引き、車に乗せた。

「お前はあそこで何をしていた」

答える気はない。否答えられない。あの反応から察するに彼女はこの体の持ち主の関係者だ。それも身近の。

焦りようから判断してどれだけこいつのことを大事に思っているのかが身に染みて伝わってきた。

そんな人に終わりが来るのを待っていたなんて言えるわけがない。

「答えたくないのならそれでいい。それより入学式はもう始まっている。その服装で出す訳にはいかないしな、更衣室でシャワーでも浴びてこい。制服はこちらが用意しておいてある」

今日が入学式だったのか。だから部屋に真新しい教科書が乱雑に重ねられていたわけだな。

彼は入学式を楽しみにしていたのだろうか。どんな思いで人生を生きてきたのであろうか。

考えるのは辞めよう。いくら考えた所で俺にはどうしようもない。

覚めない夢なんてものは存在しないのだ。この物語もいつかは終わりを告げる。今度こそは静かな死を享受したいものだな。

俺は見たことも聞いたこともない巨大な建造物に入りそのまま更衣室に直行する。

しばらくシャワーから水を出して温水にすると俺は服を乱雑に脱ぎ捨てシャワーを浴びた。

冷えたからだを温めると、体を備え付けのタオルで拭いて腰にバスタオルを巻きシャワールームから出る。

着用していたものは洗濯機に回している最中なので何も着るものがないのだ。

ベンチに腰かけ、頭垂れた。

俺はこの世界に1人なのだ。俺を知っているものは誰一人としていない。外を知っているやつはいても中身を知ってくれているやつは誰一人としていないのだ。

そりゃそうだ、目に見えた変化なんてないのに気づけって言う方が酷だろう。

そんな事はわかってる。わかってるけど、な。

こうも孤独感が募ると世界に否定されてる気がしてならないんだ。

顔をあげると鏡の中の自分と目が合った。何も宿していないその空虚な瞳はどこか堕ちていると言ってもいいほど暗い。

コンコンっと扉を叩く音が聞こえた。

『どうぞ』

知らない女が服を持って部屋に入ってくる。

「着替え、ここに置いておきますね」

『ありがとうございます』

俺は目も合わさず感情の籠ってない礼をしてまた下を向く。

「私山田真耶っていいます。あなたのクラスの副担任をさせていただくことになっていますのでよろしくお願いしますね」

彼女はなんとか俺とコミュニケーションをはかりたいのだろうめげずに声をかけてくる。

『そろそろ着替えたいので出ていってもらっても?』

「そ、そうですね。すいませんでした」

彼女には申し訳ないが今はあまり人と会話する気になれなかった。

部屋を出ていったのを確認すると用意された制服に着替える。

スラックスをはいてベルトを巻いてシャツを着る。ブレザーは見るからにダサいので着たくない。

これはいくらなんでもダサすぎる。意味もなく立っている襟に、一部分だけ黒色で、赤いラインが入っている。

なんかのコスプレなんだろうか?

俺はブレザーを肩に背負い部屋を出た。

入口の横に控えていた山田さんに声をかける。

『すいません、山田さんおまたせしましたね』

あくまでも冷静に。自暴自棄になっても何も始まらないし、この世界で静かな死をまた目指せばいいのだ。

目的の無い生は死よりも苦痛だとあいつは言っていた。

「ではいきましょうか」

歩き出す彼女の後ろについて行きながら辺りを見回した。綺麗に清掃され、機械的な光からいつぞやの実験施設を彷彿させるような金属製の壁。まるでシェルターだな。

「ここがあなたのクラスである1-Aです。もう他の生徒は席に着席していますので自己紹介からお願いしますね」

先に山田さんが入っていった。ちらっと中が見えたがどこ見ても女女女、男女比率バグってんじゃないのか?

「織斑くん入ってきてください」

俺はドアを少し乱暴に開け中に入る。見た限り言えるのは女しかいないということだけ、あと国際色豊かだなと感じる。

「では自己紹介をお願いします」

何故か彼女たちがこちらを見る目は熱が籠っていて一言一句聞き逃さないという執念が伺える。

『織斑一夏です』

言い終わっても何も反応しない周りを見て困惑する。

「それだけですか、、?」

『ええ』

いっせいにずっこけた。

すると俺の後ろにずっといたやつから強烈な意を感じた。その直後に俺の脳天に突き刺さるほどの威力で放たれた出席簿があったのは言うまでもないがな。

避けれるかと言われれば間違いなく避けれる。だがこの速さの出席簿を不意打ちで食らって避けるのはさすがに不自然すぎやしないだろうか。

ついこないだまでただの中学生だったとはとても信じられなくなる。

でももろに直撃するのは気が引ける。

頭を少し前に傾け衝撃を殺す。これが最善だろう。

俺は出席簿が後頭部に触れた瞬間に頭を前に傾け衝撃を逃がすことに成功した。

ただ、痛みはだいぶ軽減されているので全く痛くないがここは痛そうにした方がいいだろう。

『いっつ!』

「もう少しまともな挨拶をしろ織斑」

『わかりましたよ。。』

俺はクラス全体に身体を向け直して全体を見渡した。

『改直して織斑一夏です。好きな物はありません。どうぞよろしく』

ふと、窓側の席の子と目が合う。長い髪を後ろに束ね、ポニーテールの髪型をした少し気が強そうな女の子である。

ただ彼女はこちらが目を合わせた途端に目を背けるので外側の関係者だろうか。

まあいい、気にする事はない。所詮他人だ、それに俺は一夏(以前の持ち主)じゃない一夏(今の持ち主)だ。なら俺は好きにさせてもらうし、家族や前の友達が死のうと知ったこっちゃない。

そのまま自己紹介は終わり、簡易的なこの施設に対しての説明をされて休憩となる。

この施設は少し特殊で入学式当日から授業が開始されるらしい。

周りから時々聞こえるISという単語だが、いまいち検討がつかない。

もう乗った?だとか今年のモンド・クロッゾ見た?とか明らかに前の世界では聞いたことがない単語が次から次へ出てくる。

ISとはなんなのだろうか?兵器?魔法?それとも乗り物?色々な仮説を立てるが終始分からないままだ。

ああ、本鈴がなってしまった。みな急いで席に座り授業が開始される。

黒板に映されるディスプレイから推測するにISはパワードスーツに似ているのだそうだ。

正直それしか分からないし、俺の目標にはあんな物騒なもの必要ない。聞かなくていいか。

黒板から窓へと視線を移した。空は変わらず前の世界とおなじで無限に拡がっており、先程の雨雲は移動したようで晴れてきている。

ああ、また後ろから強烈な意を感じた。こいつ叩くしか能がないのか?

まあ先程と対処は変わらない。タイミングを合わせて、、

いつまでたっても後頭部に衝撃が来ない。後ろをふりむくと何かを躊躇った顔で手を止めている先生がいた。

(この目、驚愕と恐怖?あと懺悔も混ざっている。なぜだ?)

「ちゃんと授業を受けろ」

ぽんと優しく出席簿で頭を叩かれた。彼女は何かを抱えているのだろうか。それとも前の持ち主に特別な感情を抱いていた?

いや色恋ではない、もっと罪悪感や謝罪のようなものだ。

そうしてここに来て初めての授業は終了し、そのあとの授業も何となくで終わった。

俺は帰り道、このIS学園の敷地内にある図書館による。近代の歴史書や、ISについての本。この世界の風刺書などとりあえず情報を集めれるものをひたすら手に取る。

5冊ほど手にとり、備え付けのベンチに座って黙々とページを進めた。

読み始めることおよそ3時間半、最後の本を閉じる。

とりあえず大体のことはわかった。

今日頻繁に聞いたISとやらは元々宇宙開発用に作られたマルチフォームスーツのことらしい。

ただ各国はこれに軍事利用できる可能性を見出し、宇宙開発用から国防を担う軍事兵器へと転換した。

ただこのISは女性しか乗ることは出来ないとされていたが、そこで男性である俺が現れたというわけだ。

この学園はISに関して学べる学園であり、ひと握りのエリートしか門を潜ることはできないそうである。

ただこのISはここ数十年で男女平等に向かっていた社会を一気に女尊男卑へと変貌させた。

ISに乗れない男性は劣っているという考えが女性に広く根付いているのが現状で男に生きにくい世の中となっしまっているらしい。

さらに今日俺の頭を殴りまくっていたあの先生は前の持ち主の実姉であり、初代モンド・クロッゾ優勝者である織斑千冬だそうだ。

(じゃあ俺はこのISとやらが無くなれば平和に暮らせるのか?)

前の持ち主は自分にIS適性があったことに酷く落ち込んでいた。千冬先生から受け取った前の持ち主の荷物に日記があり、その中身を覗くとISに対しての恨み事や世界に対しての憎悪など長々と書き連ねてある。

まあそりゃそうだ。平和な暮らしが壊され、自分たち男を迫害してきたISに乗らされる。

すべてISに壊されたのだ。自分の生活も、思い描いていた未来も。

だから彼の部屋はあそこまで荒んでいたのだろう。

机の上にあった大量の錠剤、血の着いたカッター、手首にあるリストカットを試みた跡。

そういうことだったのか。

『君は、自殺を試みるほどにISを恨んでいたのか』

世界で唯一の男性適正者。この肩書きは彼を孤独にし、モルモットにされるかもしれないという恐怖を植え付けたというわけか。

『ゆっくり休んでおいで。もう苦しむ必要はないのだから』

さあ、始めようか。ここからは俺が引き継ぐ。俺の俺による俺のための人生を。

 

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