メサイアマジック <あの時の君へ胸張れる転生を>   作:桜の宿

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第一章 始まりの地"邪縁の森" ~主人公編~
一章零話 「胸張れる転生を」


 

 

 「むぅ・・・。やっぱりわからない・・・。」

 

 

 深い森の中、一人の少年がその場でしゃがみ込み、地に咲く一輪の花をじっと見つめて呟く。安らぎを求めたり美しさに見とれたりとしたものではなく、その存在に疑問を抱いている。

 

 

 「普通、こんなとこに咲かないはずなんだけどな。しかもたった一輪だけ。」

 

 

 背中に背負っているリュックから本を一冊取り出し、目の前に咲く花が描かれているページを開いて見比べる。見間違いかもしれないと確認に移ったが、そうではないようだ。

 

 

 「・・・・。花言葉、"尊敬"。」

 

 

 ふと目に入った文字は脳裏にこびりついたため、我慢することなく口にした。物思いにふけた後に、その花へ向けて指を指す。

 

 

 指の先端へ力を込めると、地にのみ触れている花が独りでに動き出した。

 

 

 ボコッ!

 

 

 花の咲く地面だけが盛り上がる。盛り上がった土ごと持ち上げて、持参した入れ物に保管した。

 

 

 透明なケースに咲く黄色の花。その花をケース越しに見、不思議な力で土を盛り上げた張本人である者もまた、黄色の髪をしている。色白の肌で幼げが残った顔。特にこれといった特徴のない少年は採取した花をリュックへ仕舞うと、満足げに森の探索を続けた。

 

 

 

 

 

 

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 「"バスメル"ー!!どこにいるのー!?」

 

 

 エプロンを身に着けた女性は、誰かを呼んで探し回っている。木でできた温かみのある家を舞台に、一階へ二階へ大捜索。先ほど探し始めたのか、包丁の位置や火のついたキッチン等、料理中の形跡が見られる。

 

 

 誰の目から見てもわかるほど焦る女性は、ドアに手をかけ外に出ようとする。そこにただいまの言葉と共に一人の男が現れた。

 

 

 「パパ!外にバスメルが・・・!・・・・。え?」

 

 

 緊急事態を伝えると、違和感に気づく。帰宅した男の脇に、一人の子どもが抱えられていたのだ。

 

 

 「パパの帰り道で虫の観察をしててな。ちょうど帰ってくる途中で良かったよ。」

 

 

 大人しく抱えられている黄色い髪の少年、バスメルは、すでに申し訳なさそうな顔をしている。パパに注意された後なのだろう。

 

 

 「ママ。心配かけてごめんなさい。」

 

 

 怒られるのが嫌なのか、泣きそうな顔で謝っている。叱るかどうかは別として、一つ気になったことを聞いてみた。

 

 

 「バスメル。今日はなんで遠くに行っちゃったの?」

 

 

 反省した顔のまま、子どもは話す。

 

 

 「だって・・・。パパみたいな冒険者になりたくて・・・。」

 

 

 "冒険者"、懐かしい響きだ。考えてもみなかった答えに、パパが慌てるように言う。

 

 

 「なんで知ってるの!?パパはもう十年以上も前に冒険者じゃなくなったんだよ!?いいかいバスメル。冒険者っていうのは過酷なお仕事なんだ。おっかない怪物がいるようなところを探検したり、危なくて悪い人たちと戦ったり、怖いものに襲われたり。明日には誰かがいなくなっちゃったりするんだよ。だから憧れちゃダメ。わかった?」

 

 

 「探検したい!!」

 

 

 丁寧に説明しても、子どもの探検欲には打ち勝てなかった。かつては冒険者という職に就いたからこそ、その気持ちがわからないわけがなく、強く否定することができない。

 

 

 「とにかく!バスメルは体が弱いんだから、一人でどっか遠くに行かないようにね!!探検ならパパかママが連れてくから!」

 

 

 「はーい。」

 

 

 心配事が解決し、安心したところでご飯にする。未だ続く幸せの味を噛みしめるために。

 

 

 

 

 

 

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 でこぼこした道なき道を抜け、小川を飛び越え、人の気配がない小屋を素通りする。冒険気分で歩く少年の頭の片隅には、ある言葉が尾を引いていた。

 

 

 尊敬。

 

 

 身近な存在で言えば、父と母を思い浮かべる。仕事をこなし家事をこなし、その上で体の弱い自分を最優先に考えてくれていた自慢の両親。

 

 

 しかし、現実の外にもまた、尊敬する存在がいる。

 

 

 ズボンのポケットに入れている、折りたたまれた一枚の紙を取り出した。四つ折りの紙を広げると、そこには絵が描かれている。黒い騎士が天に剣を掲げ、その隣には悪党と思われる人たちが積み上げられている。子どもが描いたようなぐちゃぐちゃな絵だが、憧れを見るには十分であった。

 

 

 こうして歩き回れるとはいえ、自分には決して届かない存在。尊敬するに留め、自分には自分のできる歩み方をする。今はこんな自分が好きだが、昔は強い男になれるように試行錯誤したものだ。体が弱くても"魔法"がある。そう信じたけど実らない時期は、心底自分が嫌になった。

 

 

 

 もし今、力を手にできるのなら僕は・・・。

 

 

 

 そんなことを考えていると、開けた場所を見つけ

 

 

 

 ガサガサ・・・・。

 

 

 

 茂みの方から音がした。そちらへ目を向けると何もいない。ただの小動物かと安堵すると、その先に不思議な光景が見えた。

 

 

 

 光り輝く一振りの剣。そこだけ太陽光ではなく、別の光が差し込んでいるかのような異質さを感じ、何となく近づきたくなるような感情に襲われた。

 

 

 その剣にのみ焦点が当たっており、近くにいる男に気づいたのが、一拍子遅れてからだった。

 

 

 

 「魔王様!!!矮小なワタシに!!どうか"力"を!!!殺します殺します!!!人という人を殺しますゆえ、どうかぁ!!!」

 

 

 

 地に頭をこすりつけて懇願する男が一人。一目見てわかるほどの狂気で、一瞬にして心を恐怖に染められた。逃げなければ逃げなければ。かかわれば間違いなく殺される。変な儀式が終わる前に早く・・・。

 

 

 

 「どう・・・ぁ・・・。ありッ・・!!ありがとうございます!!!ありがとうございます!!!御心の通りにぃ!!!!」

 

 

 

 終わってしまった。最悪だ。まだ気づいてないとはいえ、なぜこんなタイミングで終わってしまったのか。まるで、

 

 

 

 「早速・・・・見つけたぁ・・・・!!!」

 

 

 

 狙っていたかのように。

 

 

 

 

 

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 無我夢中で駆ける。助けてくれる者はいないのか。万が一の奇跡にかけて走り続ける。

 

 

 「ぅハァ・・・!!はぁっ・・!!」

 

 

 体の弱い自分には、これ以上早く走るのは無理だ。長い間走り続けているだけでも奇跡に等しいというのに。限界が来るのももうすぐだ。

 

 

 森の中にポツンと家が建っている。扉を勢いよく開き、中を見渡した。

 

 

 「だれ・・!誰かいませんか!!?助けてください!!!」

 

 

 返事はない。足腰にはガタが来ており、その場に手をついてしまった。立ち上がるのには力がいるため、懸命に入れようとするも動かない。

 

 

 

 ボガアアアアアアアアアァァァァン!!!

 

 

 

 目の前が粉々に吹き飛ばされた。正確には、押しつぶされた。自分の目にはボロボロの室内が映っていたはずが、体の大きさを優に超えるほど大きな、トゲトゲした金棒にすり替わっていたのだ。

 

 

 

 「逃げても無駄だぁ!!まさか、まさかここまでとんでもない"力"をくれるとはなぁ!!!太っ腹で尊敬しちまうじゃねぇかぁ!!!魔王様よぉ!!!」

 

 

 金棒から声がする。よく見ると色が分かれており、先端は男の髪の毛の色と一致していた。つまりこれは、

 

 

 

 「魔王様から頂いた力!!"魔王の革命"!!!有象無象が使うちんけな"魔法"とは、比べ物になんねえええぇぇ!!!気持ちいいイイイィィ!!!」

 

 

 

 グルんと回転した金棒には、目、鼻、口がついており、明らかにその口から言葉を発している。やはりそうだ。顔が巨大化し、金棒になっている。

 

 

 異常だ。気持ちが悪い。あんなので潰された日には、ペラペラの一枚になってしまう。かするだけでも終わりだ。

 

 

 

 わざわざ小川を飛び越えるのに、相当な体力を使う。足場の悪い森の中は、つっかかったり転ぶ回数も増えるため、さらに思考を鈍らせる。

 

 

 

 逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろにげろにげろにげろにげろにげろニゲロニゲろにゲロニゲロにげろにげろにゲ

 

 

 

 「ふはーーーーッ!!!やっとネズミにヒットだアアアァァ!!!」

 

 

 

 いくつかの木を貫通し、叩きつけられた。

 

 

 

 感覚がない。今、僕に腕はついているのか?足はついているのか?そもそも体はある?頭だけかもしれない。視界が血で覆われて、自分が今どうなっているのかわからない。どうなっているのか確認する首がないかもしれない。

 

 

 なんで顔も見たことがない人に殺されなきゃいけないんだ。体が弱くても、不満を言わずに頑張ったのに。幸せ、だったのに。

 

 

 こうやって、理不尽に殺される。魔王がいる限り、理不尽に命がなくなる。僕に奴を倒せる力があれば。黒い騎士のような、悪人を倒せる力があれば・・・。

 

 

 あぁ、結局どう取り繕っても、ずっと未練があったんだ。悪を倒せるような力に。

 

 

 

 もう、どちらにしろ・・・。

 

 

 

 

 

 

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 「パパ。ボク、やっぱり悪を倒したい!!パパみたいにかっこよくなって、悪をドカン!!って!」

 

 

 「バスメル。」

 

 

 約束通り森への探検に連れてってくれた日、父が説明してくれた冒険者の説明で、探検以外に気になったところを話した。しかし当然、優しく否定される。

 

 

 

 「バスメルは、悪を倒すのに一番必要なのが力だと思うかい?」

 

 

 「・・・?うん。」

 

 

 質問の意味が理解できなかった。倒す方は強い。倒される方は弱い。それ以外に何かあるのか。

 

 

 「正解だ。じゃあその力っていうのは、本人だけの力?」

 

 

 「・・・?」

 

 

 何を聞かれているのかがわからない。

 

 

 「正解は、そうじゃないよね。身に着ける硬い装備がなければその力は弱くなるし、悪が何をしてくるかっていう情報を教えてくれる人がいれば、その力は強くなる。」

 

 

 「・・・?」

 

 

 「戦うのは違う人でも、自分の力で悪を倒せるんだ。だから本当に必要なのは、」

 

 

 「・・・。」

 

 

 「誰かを思う心だよ。」

 

 

 

 

 

 

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 血で何も見えないはずなのに、光が見える。

 

 

 

 情報が無理やり頭の中に流れ込んでくる。しかし不快な感覚はなく、自然とその情報が自分のものとなっていく。

 

 

 

 言葉で説明されていないのに、理解した。それを僕は、

 

 

 

 

 了承した。

 

 

 

 

 『ありがとう』

 

 

 

 

 ・・・・・・・

 

 

 

 

 

 ・・・・

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたら、そこは血の海だった。色々なものが辺りに散らばっており、見るだけでも気持ち悪さにより何かが込み上げてくる。

 

 

 それより、目が見えている。

 

 

 未だ体は満足に動かすことはできず、首だけ小さく上下できる程度だ。それでも、自分の体が五体満足なことは確認できた。

 

 

 

 

 「随分と、奇妙な体を持ったものだな。」

 

 

 

 目の前にいるのになぜか気が付かなかった。頭部の黒髪に角が生えて背の高い女性が、こちらに向けて話しかけている。

 

 

 「四肢は潰れ、脳にも相当な損傷を受けていただろう。特殊な何かがあるようだが・・・。」

 

 

 言葉として聞くと痛々しい。この女性が抱いているのは、心配なのか興味なのか。

 

 

 

 そんなことより、何か大事なことがあったような。

 

 

 ・・・そうだ。僕は了承したんだ。"この命を延命する代わりに、赤の他人にこの体を明け渡すこと"を。どうせここで死ぬ運命だった。ならば知らぬ"誰か"に明け渡すまで、

 

 

 

 少しでも強い人間になろう。例えその"誰か"が戦いを嫌っても、悪だとしても。

 

 

 

 「あの・・・。僕、強い人間になりたいです。だから・・・」

 

 

 

 

 光はこれを、転生と言っていたな。それなら"僕"にとっても、名前の知らない"君"にとっても、

 

 

 

 「戦いを・・・教えてくれませんか?」

 

 

 

 胸張れる転生を。

 

 

 

 

 ピンクの花が、そこに咲いている。

 

 

 

 

 

 

 

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