デンジ視点
「「「カンパーイ!!」」」
あれから数日立った。
悪魔の合体は予想外だったが、姫野先輩のおかけで割と余裕で勝てた。
一人だけだったら危なかったかもしれない。
しかし、あの戦い以降は使用が禁止された。
姫野先輩曰く、岸辺隊長は悪魔隔離施設から出禁を食らったらしい。
岸辺隊長の事だから、出禁なんて無視してもう一度同じことをするかもと思っていたが、
あの戦いで、必要な物は揃ったと言っていた。
必要な物って何だろう?
確か、姫野先輩にも指導を監視室でしていたらしいし、それ関連なのかもしれない。
まあ、今の俺にはどうでも良いや。
そんなことよりも…
ゲロチュー回避だ!!!!
もうあんな思いは絶対にしねぇ。
今のところ順調だ。
合体悪魔と戦った後、岸辺隊長は酒を飲むから帰ると言い出し、俺と姫野先輩が一緒に帰宅してた時、「デンジ君のお陰で成長できたから、ほっぺにチューしてあげようか?」
と言われた。
勿論論外だ。
マキマさんが見ているかもしれないし、
ゲロチューをされたら敵わない。
俺はきっぱりと、マキマさんとしたいから良いと言った。
今回はベロにも惑わされなかった。
我ながら中々の忍耐力だ。
結果的に、この宴会でもキスの優先度は低くなっているはずだ。
優先度と言うのは、どうやら姫野先輩は4課の新人以外とキスを既にしているらしい。
俺からしたら由々しき問題だ。
丁度最近、この展開に似た夢も見たし、
映画とかで良くある、運命の強制力的なのが働いて、キスする可能性もあるのだ。
本当は休みたかったが、マキマさんが来るのが分かっているから、断らなかった。
何よりも、前回、ヤクザ達が動いたのが、この宴会の次の日だったのだ。
マキマさんから何か話があるかもしれないし、
何よりも皆を守りたい。
マキマさんLOVEな俺だが、他の皆を見殺しにするのは目覚めが悪い。
俺にとっての優先順位は、マキマさんがNo.1だが、だからと言って助けられる命を無駄にするつもりはねぇ!!
……もしかしたら俺は、意思が弱いのかもしれない。
「ウマい、飲むの半年ぶりです」
「私も家で少し飲むくらいですね」
「あの…道迷っちゃって……」
「コベちゃんコベちゃんこっちおいで」
「餃子うまそ~!!」
「チェンソー様!最強!最高!」
取りあえず今日は、マキマさんと喋って、ゲロチュー回避して、餃子を食えれば大成功だ。
「マキマさん遅れて来るって!」
「こんなおいしいご飯、はじめて食べました…!」
「コベちゃんお金ほとんど家入れてるもんね…たくさん食べな?」
マキマさんは遅れてくるのか。
前回よりも忙しいだろうにスゲーな。
「伏さんトコの魔人は連れてこなかったんですか?」
「ここには恐くて連れてこられないですね。
姫野さん所の魔人くんは理性が高くて良いですね」
「…ビームでも理性高い方なんですね」
「ええ、敵味方を区別できてる時点でかなり賢いですよ。
そういえば、早川さん所の魔人は来ていないんですか?」
「ああ、ウチの魔人は理性高いですけど断られました」
アキの所も魔人いるのか。
まあいいや、それよりも
「俺、ホルモン焼き!!」
「そうだ、若い内はガンガン頼め!食え!肉食え肉!」
ネギトロユッケにぃ~…枝豆!!
俺は大人になったからなぁ、高校生にもなると、居酒屋では肉だけじゃなくて枝豆も頼むんだぜぇ~!
「新人歓迎会何だから、新人は立って自己紹介!名前と年齢と契約してる悪魔を言え!」
「デンジ、言う必要はないぞ」
「相変わらず固いヤツだな~!」
アキの言うことも、今では良く分かるな。
悪魔には幾つか弱点がある。
その中でも、"見た目"と言うのはかなり重要だ。
この前戦った合体する悪魔も、大体の造形でどんな悪魔か予想し、攻撃パターンを考えていた。
現にそれは正解だったし、殺して良いと言うルールなら、負けることは少ないだろう。
…だが、それに縛られ過ぎてはダメだと言うのは、藤宮と戦った事で明らかになったが。
それでも、藤宮にしても何にしても、予想されるのはやっぱり弱点となる。
悪魔は本体の造形を変えることは基本的に出来ない。
逆に言えば、見られなければ予想が出来ない。
デビルハンターの強みは、悪魔の本体を見せずに、悪魔の力を使える所だ。
だから、自分の契約悪魔を他人に言うのは愚の骨頂だ。
「まあ大丈夫!大丈夫でしょ!すいませ~ん!生一つ~!枝豆は…デンジ君が頼んでるから、生もう一本!!」
「私も生もう一つ。私は趣味聞きたいなあ、趣味で人間分かるでしょ」
少し空気が軽くなった。
姫野先輩は空気を読むのがうまいな
それよりも、餃子うめぇ!!
「俺デンジ~歳は16!趣味は…食うのと寝るのと映画」
「16歳?ヤバっ!若っ!」「えっ…!」
「あんた酒飲んでないよね?」
「お茶」
ここの居酒屋にはオレンジジュースが無いんだ
よな。
やっぱり、イサゼリアの飲み放題が最高だぜ。
「私は荒井ヒロカズです!22歳!契約してる悪魔は狐!趣味は俳句です!!」
「おう、よろしくなぁ!」「俳句かぁ、渋いね!」
荒井は新人らしく緊張し、上ずった声で自己紹介した。
それが受けたのか、かなり盛り上がった。
「東山コベニです、20歳です……契約している悪魔は…秘密で、趣味はおいしい物を食べることです」
「服かわいいよね」「うん」
「服はお姉ちゃんのおさがりです」
「コベニちゃんは9人姉妹なんだよ、凄いよね」
コベニもまた、荒井とは別ベクトルで気に入られている。
「ありゃあ~?伏さんトコの新人は?」
「残念ですが、昨日亡くなりました」
「南無阿弥陀仏!ほうれん…ほうげん…げきょー?」
「先輩もう酔ってるな」
荒井とコベニの表情が一気に曇った。
「そんな簡単に死ぬんですか…?」
「民間で無理だった悪魔が公安に任されるからな」
民間と言えば、あのうるさい民間デビルハンターのおっさんは元気かなぁ?
「まあ、バンバン死んでくよね。私の同期も、もう公安にいないし」
「デンジ君は私とキスするから死なせないよぉ~?」
何を言ってんだ姫野先輩は
俺はマキマさんとすると言ったはず…もしや、運命の強制力か?!
そうは行かねぇぜ、絶体にゲロチューは回避する!!
「しません!」
「えぇ…?」
上目遣いをされても今の俺は負けねぇ
マキマさん以外見ないんだ!
「姫野は酔えばキス魔になるんだ、ここにいる新人以外、皆姫野にキスされてるよ。逃げられねぇからな」
…そういえば、そんなこと言ってた!!
正夢、運命の強制力に加わって、姫野先輩の強制力も働くってことかよ?!
前回はあんなに嬉しかったのに、今では全く嬉しくない。
どうすれば回避できるかなぁ?
「俺は絶対にしないからな!!」
「キス?」
「え?!」
「すいません生一つお願いします」
マキマさん!?
勘違いされてないよな?と言うよりも、何だか俺を疑ってるような気がするぜ。
これがバイ何とかってヤツか!?
怖えぇ!
「マキマさん、ここにどうぞ」
「本物のマキマさん初めてみた…」
「マキマさ~ん!」
バイ何とかのせいで全て終わりは絶対に嫌だ!!
マキマさんには分かって貰わないとまずい!
「デンジ君、誰かとキスするの?」
「しません!」
「え~?デンジ君キスしないのおお?!」
「しませェん!」
姫野先輩は酔うと形振り構わないタイプなんだろうな。
前断った事は綺麗さっぱり忘れているようだ。
「すいません、生もう一つ…それでキスって?」
マキマさんが、とりあえずの生を飲み終え、
俺の地獄よりも酷い心境に干渉してきた。
誤解はしていないと思うが、もし聞き間違えをしていた時の為にも、
絶対にキスをしてたまるかァ!!
「チウしないの…?」
しつこっ!
俺と同じマキマさんLOVEのアキも、このしつこさに最後は諦めたんじゃないか?
それとも、支配の適応外だったのか?
今はそんなことはどうでも良い。
常に物理的に警戒し、急にゲロチューって"ルート"は避けなくてはいけない。
『ヤッホー、デンジ君。ベロチュー"また"する?』
これはあの時見た夢だ。
正夢ってのは半分冗談だったが、姫野先輩の強制力は侮れないかもしれない。
姫野先輩には悪いが、前回同様に話を反らしては、マキマさんとの信頼が築けない。
「姫野先輩、何度も言ってますが、俺がしたいのは別の人で、姫野先輩じゃない」
「ぐへえぇぇぇん!!!」
姫野先輩は泣き落としを始めた。
さっきからチラチラこっちを見てるから分かる。
気付かれないとでも思っているのだろうか?
とにかく、勘違いされていたとしても問題はないだろう。
泣き落としをし始めた姫野先輩を尻目に、俺はマキマさんに褒めて貰いたくて、岸辺隊長の指導が上手く行ってる事を伝えた。
「うん、聞いたよ。デンジ君は凄いね」
「本当にスゲーな新人、アキも落とされた姫野の泣き落としに完全シカトとはな!こりゃあ、大物だね」
俺に肉を食えと進めてた先輩が俺を褒めた。
やっぱりアキは泣き落としで負けてたか。
「それにしても、どうしていきなり編成の変更をしたんですか?岸辺隊長からの指導なら、新人三人をやって貰って、俺と姫野先輩でパトロールをすれば良いのではないですか?
デンジの正体も気になりますし…」
ああそうか、アキは6課の存在は知らされてないのか。
確かに疑問だよな。
俺はどうするのかと、マキマさんに視線を送る。
マキマさんは意味深な顔をして、ビールを一口飲んだ。
「私より飲んだら教えてあげる」
「…すいません生ふたつ」
「アハハ、私もソレやるぅ~!生もう一つ~!」
この後、ベロベロに酔った姫野先輩から、
ゲロチューが来る。
…身構えよう。
オエエエエエ
ゲロチューが炸裂した。