獅子と天使のコンチェルト   作:レオ2

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警察庁

 あのテロの翌日,東京は一時的な平穏を迎えていた

 

 東京スカイツリーで行われたあの戦いは,ペストマスクの犯人がネットを通じて動画を流していた。

 だから瞬く間に日本,そして世界中に広がって獅子は一時的に有名になってしまった。

 最も,獅子にはそんな事はどうでもよくいつもの様に大学に行こうとした。

 だけども,メールが来て大学の教授が何人か亡くなってしまったらしく今日は休校になってしまった。

 

「はぁ……」

 

 獅子の意に反して暇になってしまったが,1つのメールが届いていて結局動く羽目になった。

 

 日本警察の起源は、明治時代までさかのぼる。日本警察の父、川路利良(かわじとしよし)が西郷隆盛の推薦により当時の政府の名を受け、1872年にフランスをはじめとするヨーロッパ各国で視察・調査を行い、その手腕が認められて警視庁の初代大警視、今でいう警視総監に就任した。

 警察自体は、1874年に警視庁が設立されたと言われている。

 

「警察庁より警視庁の方が出来たの早かったのは驚いた」

 

 警察庁によって配られているパンフレットの説明を見た率直な感想だった。勝手なイメージで警察庁が出来てから警視庁だと思っていたからだ。

 

「にしても、何で俺がこんな所に」

 

 パンフレットを棚に戻し、周りを見渡す。

 周りにはいかつい男たちが多く、女性がいたとしても張り詰めた空気を漂わせている。その視線は所々獅子の方に向いている。

 獅子は今警察庁にやって来ていた。

 昨日のテロの件について事情聴取をされるためにだ。

 

「君はそれほどの功績をあげたということだよ、獅子君」

 

 落ち着きのある、威厳に満ち溢れた声が背後から聞こえ振り返った。

 そこにはあのテロの日に,少し話した正輝が歩いて来ていた。

 今朝寄こされたメールは,どうやって調べたのか正輝から送られてきたもので簡単に言うと警察庁に来い,というものだった。

 

 2人は場所を移し、応接室へと通された。

 もう1人の男性にお茶を出され喉が渇いてた事もあり素直に口を付けた。お茶を出した男性は会釈した後、音もたてずに部屋を出て行き2人きりになった。正輝は胸ポケットから名刺を出し,獅子の目の前に置く。また名詞か……そう思った獅子だがその名刺にはある情報が追加されていて,目を細めた。

 

 お茶を飲み終えたのを見て、正輝は話を切りだした

 

「さて、じゃあ最初から話してもらおうか」

「最初?」

「どうしてテロを止めようと動いたのか、どうして1人であの場所に行ったのか」

 

 警察としては至極当然の質問である。

 テロ阻止は本来警察の役割であり一般市民の獅子の出番ではない。

 結果として獅子の活躍によって最悪な事態は免れたが、一歩間違えれば大惨事だ。

 勿論、獅子のしたことは警視総監ものではあるが、警察としてはその理由を聞かなければならないのだ。

 

「あそこに行ったのは東京の状況を見ていれば誰でも分かる。正義感が働いたから、って理由じゃダメなんですか?」

「それは君自身が昨日否定したじゃないか」

「それもそうだ。じゃあ大学が無くなるのは困るから」

 

 冗談なのか分からない言い分である。元より獅子に全部正直に答えないといけない義理もない。別に獅子がやったこと自体は手段が正しいかは置いといて間違いではないからだ。

 それに,今では彼の所属についても分かっているために警戒もしている。

 

 日本におけるテロは基本的に警察の領分。今回,規模が規模だけに違う組織も動いていたと考えるのが普通だ。

 それが目の前の警察庁警視正、そして所属は警察庁警備企画課。国家の安全を守る為に奔走する日本の守護神ともいえる組織。

 

「君に聞きたいんだが……MOAはあれで壊滅したと思うかい?」

 

 獅子の反応を無視し問いかけた。

 

「下っ端やられた程度で止まるのなら20年前に終わってるだろ。それに,あのペストマスクがあれだけ心酔するボス,そいつを潰さない限りは消したことにならねえだろ」

「私も同感だ。昨日のあれを止めただけではこれまでと同じだ」

 

 正輝が何故こんな話題を振るのか分からない獅子はコップの少ないお茶を飲みほし続けた。

 

「だがそんなのはどうでもいい。あんたも2カ月前,星朋大学の事件で俺を見たのなら知ってるだろ。他人が死のうが生きようが俺にはどうでもいい話だ」

 

 2カ月前の星朋大学で,テロをした男と獅子の現場に居合わせたのはこの星城正輝だった。当時は確の警部だった筈だが,何故か昨日あった時には警察庁所属になった。

どんな人事異動だよと獅子は内心ツッコんでいた

 

「ああ,知っているよ。最初の質問に戻るが,なら他人の生死をどうでも良いと言う割に2カ月前,そして今回の事には手を出したんだ?」

 

 他人がどうでも良いのなら今回も前回も,獅子は手を出す必要は無かったはずである。なのに実際は手を出しまくっている。その矛盾を問うた。

 

「別に? ただの暇つぶしだ」

「それだけじゃない。2カ月前,君は結果的に誰も死者を出さなかった。我々が現場に来た時に撃たれていた男の子も,人質になった女の子もだ。男の子の方は君の応急処置が生死を分け,女の子も君がいなければ死んでいたかもしれない」

「目の前で肉の塊が転がるのが嫌だっただけだ。それにあんた見てたんじゃないのか。俺はあの男には人質を殺しても構わないと言ったんだぞ?」

 

 獅子は人質を殺せと言った。それは覚えている。当時の衝撃は相当なものだったのは覚えている。

 目の前の獅子を正輝は見据える

 

 

「違うな。君は敢えて殺せと言う事であの子を守ったんだ」

「……」

 

 何も語らない獅子に正輝は続けた

 

 

「普通,人質をとる事である種の威嚇になるが,それは人質が交渉に使えるときのみ。警察は人質が取られたら対策しない限り動けないのがそれだ。」

 

国民を守る義務がある為,人質を取られた時に警察に出来る事は極端に無くなる。だから人質を本来取らせないのが筋だし取られたあの場面では

 

「だけど君は違う。君があの子を守る義理もないのも事実。それを逆手にとって「殺せ」という事で人質が自分にとって意味のない存在だと知らせ,かつ恐慌状態になっている女の子を人質にとっても邪魔になることを教えて自発的に人質を解放させたんだ」

 

「……勝手な妄想で語るんじゃねえよ」

「もう一つある」

 

 獅子の言葉を無視し,正輝は自分の推理を話していく

 

「2カ月前と昨日の君では戦い方が違った。相手を再起不能にするための戦い方ではなく,倒すための戦い方だった。2カ月前出来た骨を折る事が今の君に出来ない訳がない。なのに,今回はその技を使わなかった。近接戦を仕掛けられた時には出来た筈なのにだ」

 

 2カ月前,獅子は敵の関節所か,骨諸共へし折り再起不能にした。だが今回に関しては倒す事はあれど骨を折ると言う芸当をしなかった。その違いに正輝は着目した。

 

「君は……周りに守るべき人達がいる時に骨を折るようにしてるんじゃないのか? 倒した敵が起きた時に周りへ攻撃されるのを防ぐために」

 

 前回と今回で状況の違いは敵がいる事と,敵の周りに何も関係のない一般人がいるかいないかだった。そして今回は後者,獅子しか戦う人間がいなかったから骨を折る必要もなかった。

例え起き上がって来ても,制圧する力があったから。寧ろ前回のような獅子以外の人物いる方が獅子には何かあったのかもしれない。

 

「どうでも良いだろそんな事」

 

 少し語尾を強め,正輝を止めた後少し考えたそぶりを見せる。

 だが,獅子にはそれを待つ義理はない。そして確信していることがあった

正輝の推理ショーを強引に切る

 

「というよりも、あんたら俺を泳がせたな」

 

 確信を突いた質問に正輝が少し固まり、ふっと微笑んだ

 

「……いつから気が付いてた?」

「ペストマスクを倒したあとだ。よく考えたら可笑しいからな。俺如きでも気が付いたことに公安警察、それも国家の安全を守るためにいるあんたらの情報網であいつらがあそこにいる事を突き止められない訳がない」

「それは自分を過小評価し過ぎではないかな」

 

 例え居場所が分かったとしても,あの場所に行くことは相当な勇気がいる事でありそれは誰にでも出来る事じゃない。

 

「それに」

 

 そう言って獅子は小型のボタンのようなものを机の上に置いた。それはさながら某探偵漫画に出てくるような小型の発信機

 

「どうせ,俺の腕を掴んだあの時にこいつを仕込んだんだろ。GPSがあれば俺の位置なんて分かるに決まっているからな。ついでに言うなら,俺の住んでる場所も,住んでる住所から携帯番号も調べる事なんて簡単だ」

「……バレてたか」

「当たり前だ。俺の携帯番号をあんたが知っている時点で何かあると思うのは当然だし,昨日の事に関してもあんたらは来るのが異常に早かった」

 

 発信機の事を隠そうともしていないが,見つかる事も正輝には計算の内だったのかもしれない。実際,ばれたら違法な事を糾弾されていると言うのに正輝の反応は薄いものだった。

 

「そうか……。その通りだ。私達は君を泳がせた。いや、泳がせるしかなかったと言うべきかな」

「どういうことだ?」

「君は当たり前のようにジャミングを使ったが、こちらとしてはそんな手段を持っていなかったからね」

 

 ドローン映像のジャミング……ドローン及び他に仕掛けられていた爆弾の電波を遮断する為に獅子が用いたアイテム。

 

「だから俺を泳がせたのか。俺が大学の研究室にいっていた事は分かっていたから」

「君ならやつらの爆弾に対する対抗策を持っていくと踏んでいたからね。」

 

 そうは言っても、結局獅子が一網打尽にしてしまったし、鳥仮面以外の覆面共に発見される可能性の方が高かったからある意味正解ではある。

 

「にしても意外だな」

「何がだい?」

「公安は普通国家の運営の為にある組織だ。極論だが、国を守る為ならある程度民間人を犠牲にするのかと思ってた」

 

 失礼極まりない事を言っているが、獅子としては自分の余り思い出したくない過去をほじくり返された挙句、言いように利用されたのだからこれくらいは許してほしいものだ。

 

「なるほど。私は基本的に誰も被害を出したくない考えだ」

 

 そう言った意味じゃ冷たい印象があった公安のイメージとは違うと感じた。最も考え自体は甘いと言わざるを得ないが、そこら辺は周りがどうにかしているのだろう。

 

「勿論、あの時君がピンチになれば突入するつもりではあったよ。その必要はなかったがね」

「爆弾持ってるやつに無策で行くほど俺は馬鹿じゃないし、あんな奴らに打ちのめされるほど弱くはない。勝算はあったからな」

「ただし、もう危険な事はしないでくれ」

 

 一瞬でその場の雰囲気が変わり、シリアスなものになる。

 警察としては一般人に危険な事をさせる訳にはいかない。危険な事をするなと言う命令は至極当然だ。

 

「さあな」

「その答え方は不安が残るんだが」

「さっきも言ったはずだ。他人が死のうが生きようがどうでもいい。同時に,あいつらが俺の目の前に立ちはだかるのなら叩き潰すだけだ」

 

 全く言う事を聞かなさそうな獅子に1つため息をつく。

 

「そもそもであいつらがボスって事もありえるだろ」

 

 今回捕まえた鳥仮面が実は本当にボスでしたというオチもありえなくはない。

 

「そうだとよかったんだけどね」

「というとやっぱりあいつらは下っ端か」

「その通りだ」

 

 獅子は何かを考え、正輝を観察してみる。

 正輝の真意が分からなかったからだ。

 普通こういった情報は一般人には話さないし、もはや事情聴取の範疇を越えている。なぜそれだけの情報を教えてくるのか、分からなかった。

 だが正輝は獅子がお茶を飲み終えるのを顔色一つ変えなかった。何を考えているのか結局分からず諦めた。

 

「……今日は事情聴取だった筈だが?」

「ジャミング装置の事は聞きたいが、それよりも提案がある」

「何だ?」

「私の協力者になってもらえないか?」

 

 さもなんでもない事のようにさらりと言ってのけた。ただその内容はそんなさらりと言って良いものではなかった。

 

「……は?」

 

 獅子ですらそのワードに、考えるよりも先にそんな呆けた言葉を出してしまう位には。

 

「ちょっと待て、警視正ともあろう人がそんな冗談を言って良いのか?」

「私は決して冗談を言った覚えはないが? }

「えー……」

 

 至極当然と言ったように自分を見据えてくる正輝に呆れたように見るが、当の本人は気にしたそぶりもなく続ける

 

「勿論、これには理由もある」

「……一応聞いておく」

「1つは君も予想しているだろうけど今後もMOAはテロ行為を行うと予想されるからだ」

「だろうな。数年ぶりに日本をターゲットにして,あれだけとは考えづらい」

 

 下っ端にあれ程の事をやらせて終わりとは考えづらい。

 あの下っ端が勝手にやった可能性も否定はできないが、その可能性が完全に否定できない以上は常に最悪を考えるべきだ。

 

「だけど、あんた自身がさっき俺に言ったはずだ。『危険な事をしないでくれ』って」

 

 先程言った言葉と完全な矛盾を指摘した。

 正輝が言っている協力とは、ブラックアウトのこれからの捜査或いは戦いに獅子を駆り出す事。

 真反対の言い分に眉を顰める。

 

「もしMOA関連の事がまた起きた時、君はどうせ首を突っ込むつもりなんだろ」

「さあ、俺の生活圏内じゃなかったらかな」

「君も神経が図太いね。普通命を落とす可能性が高い所に行かないよ」

「生憎俺はそんなに弱くない」

 

 少しの睨みあいの末、正輝が降参の形で一旦は終わる。

 

「第二に、君は良い意味でも悪い意味でも目立ったからだ」

「……なるほどな。俺を隠れ蓑にしたい訳か」

 

 目の前の警察庁警備企画課は、表立って行動する事もあるが裏の活動も多いと聞く。

 その理由はそもそもでこの部署自体がテロや国家の安全を揺るがす事態を未然に防ぐ目的の部署で、秘密主義。

 だから、今回のように電波ジャックされてテレビで公開されてメンバーの顔が割れるのは本来よろしくないもの。

 

「もう顔が割れている俺は却っていい駒か」

 

 あまりないかもしれないが、電波ジャックなんて手段を向こうが持っていると分かった以上、公安警察が現場に突入と言う訳にもいかなくなる。

 普通の警察官たちが来るまでと言う事もなくはないが、確実性が薄い。

 それに今回の事で獅子とMOAには因縁のようなものが出来た。

 

「因みに拒否したらどうする」

「君が偶々現場にいるたびに公務執行妨害になるだろうね」

「あんた意外に腹黒いな」

 

 心底思ったようでこれ見よがしにため息をつく。

 選択肢は2つ、MOAの事は忘れて普通の大学生活に戻るか。そもそもでMOAに関わらないと言う選択肢もあるからだ。

 でもそもそもでMOAが今回の事で獅子の事をターゲットにしていたら否が応でも戦いに巻き込まれる。その時に情報があるのとないのでは大違いだ。

 だから獅子が選んだ選択は……

 

「はぁ……分かった」

 

 その答えを聞いた正輝が満足気に頷いた。

 これが1つ目の非日常




獅子正輝同盟

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