「疲れた」
警察庁に言っていた獅子は寄り道などせずにまっすぐ帰って来た。だが,その抑うつな気持ちは隠せなかった。ほぼほぼ強制的に正輝の協力者に決められた挙句,これからもMOAと戦う羽目になってしまった。
それだけでも気が滅入るのに,決定的なのは目の前にあるこのアパートの大家さんからの手紙である。内容は,簡単に言えば出て行ってくれというものだった。
「はぁ,んだよ。他の入居者が怖がるからって。」
獅子の噂は同じアパートの中でもかなり広がっていて,2カ月前の大学での骨折りや今回の事で限界が来たのかもしれない。如何せん,今回のテロは人々の精神的なエネルギーまで削っていたらしい。
「だからと言って,出て行けとは酷いもんだな」
称えてほしい訳でもない,もてはやされたい訳でもない。でも悪い事をした訳でもない。
「本当,現実はクソゲーだな」
ここで大家と争ったところで自分には何もメリットはない。それならさっさと出て行くだけだ。
退去日は今月末,それまでに新しい寝床を確保しなければならない。ただ重りや大学の教科書もあるのでやはりワンルームは必要だ。
それも自分の収入の範疇で。学費は訳あって心配いらないが,生活費の範疇からとなるとこの激安アパート位しかなかったのに
「えー,無理げーだろ」
よくよく考えたら条件が酷い事に気が付いた。そんな都合のいい物件など簡単に見つかる訳じゃない。ただやっぱりここに留まる必要性も感じなかった。
「はぁ…なんだこれ」
そこでポストに入っていたもう一通の手紙を見た。この大家さんの手紙と比べてどこか高級そうな紙が使われている手紙だ。自分宛だから送って来たのだろうが,自分の知り合いにこんな手紙を送る輩はいない。
訝し気に手紙の封を切り,中身を取り出すと2つのものが出て来た。1つは手紙でもう1つは長方形の紙で
「…招待状?」
紙には獅子でも聞いたことある高級ホテルで行われる1週間後のパーティーの招待状で,桜田財閥の創業記念パーティーというものだった。
「桜田財閥…か」
桜田財閥,日本屈指を誇る財閥で…恐らくだが美夢の父親が総帥だった筈だ。昨日の事と言い,どうしてか最近は桜田と言う名前をよく聞くことになっている。
それに,このパーティーも財閥の記念パーティーということなら間違いなく
(あの娘も来るだろうな)
思い浮かぶのはピンクの髪。昨日の事があったので正直会うかもしれない場所に行きたくはない。ならば返事するべきなのは行かないと言う選択肢だけだ。
そう考え,返事をする為に連絡先がもう1つの手紙に書かれていると思い見てみた。
『拝啓
前文は君にとっても面倒だから省くよ。いきなりこのような手紙を送ってすまない。もう見たかもしれないが,君を手紙に書いたパーティーに招待したい。』
「いや名乗れよ」
ツッコみしつつ続きを見て…獅子は結局行く事にした。
…朝,私達の1日は礼拝堂から始まる。
主に捧げるお祈り,神父様やシスターのお話。そして…聖歌。
「では皆さん,今日も有栖川学院の生徒として勉学に励んでください」
シスターの話が終わり,生徒達はそれぞれの教室へと戻っていく。美夢,そして美夢の友人の3人は揃って教会を出ると友人の1人で,ピーチ色のツーサイドアップの少女,白鳥
「もう,久しぶりの学校なのにシスターの話長いよ~」
その胡桃を,同じく美夢の友人である春日春奈が咎めた
「胡桃さん,久しぶりだからこそ大事なんですわよ」
「でもでも,毎日聞かされてたら飽きてくるよ!!」
「みいこもそう思うの」
と胡桃に同調したのはもう1人の友人,竹下みいこ。
美夢はこの3人と一緒にLyrical LilyというDJユニットを組んでいる。あの伝説と言われる復活したD4Fesにも出場を果たし,その後もそこで出会ったかけがえのない仲間と一緒にあるイベントを作っている途中である。
「そう言えば,あの日のあの人凄かったよね!!」
春奈が更なる糾弾をしようとしていたのが分かったのか胡桃は咄嗟に話題を変えた。それは今学院内外で恐らく持ち切りの話題。
3日前のMOAによる日本テロ事件。そしてその顛末。それが世間の話題の的だった。
「うんうん!!あの人本当に凄かったの!!みいこ,あの人がどんな事をしていたのかも分からなかったの」
あの日流れた獅子の戦闘シーンは,動きも早く,ずぶの素人には何が起こっているのすら分からないほどの高速戦闘だった。テレビではその道のプロが解説してようやくわかった程である。
「確かにあの方は凄まじい人でしたが…」
途中で言葉を止めてしまった春奈に美夢は首を傾げて聞いた
「春奈ちゃんどうしたの?」
美夢に心配された春奈は慌てた様子で首を振った
「い,いえ!ただ…」
「ただ?」
「とても…怖かったんです。あの虎舞さんと言う人から感じた気配が」
そう言って春奈は手を一つにして握りしめた。
美夢も感じた。さおりの話を聞いていたから余計にそう思った。自分とは住んでいた世界が違う人から放たれる殺気の嵐。
自分を送って行ってくれた彼とは別人のような気が。胡桃も「あー」と言った表情になり頷いた
「いいんちょの感じた事凄い分かるよ。私も少し怖かったもん」
「みんなそうなの?みいこはかっこいいと思ったの!」
「私は委員長じゃなくて風紀委員です!それにみいこさん,流石にそうは思わないのでは?あの虎舞さんは,他の人がどうなろうと構わないと言った方ですよ?」
それが世間によって引っ張られていることの1つでもある。他人をどうでも良いと言い,下っ端とは言え拳銃を持っている相手を完封した獅子を危険だという人間もいる。
勿論,獅子がどう思っていようが獅子のした行動はテロを阻止したものだし警視総監賞ものである。
だが,世間の人間は目に見えやすいものに集まる傾向がある。
しかし,この竹下みいこは違ったようで頭に指を当てて答えた
「うーん,みいこは違うと思うの」
それに反応したのは春奈ではなく美夢だった
「何が違うと思うのみいこちゃん!」
「わわっ!美夢ちゃんどうしたの?」
思わずみいこの肩を掴んだ美夢に,みいこが戸惑った
「あ,ごめんねみいこちゃん。痛くなかった?」
はっと気が付いた美夢はそっとみいこを離した
「うんうん,大丈夫なの。どちらかと言うとびっくりの方が大きいの」
春奈たちは美夢の様子がどこか可笑しい事に気が付いた。いや,気が付いていたのだがどうしてか話しかけにくかったのだ。
「それでみいこちゃん,違うってどういうことなの?」
「えーっとね,なんだかね,あの人は皆を守る為に戦ってた気がするの」
「守る…ため?」
胡桃が可愛らしくこてんと傾ける。
「そうなの。だって,あの人が来てから怪我した人もいなかったの」
「…あ」
美夢はさおりに聞いたことを思い出した。
『倒れている男の人に何かしていた気がする』
そして,獅子が今回の事に介入したことによって元々いたけが人・死者は除きいなかったと聞いている。
(獅子さんはきっと…)
美夢が1人,何かの結論に至っていると春奈が胡桃とみいこに話した
「それは置いておいて,胡桃さん,みいこさん,今週のパーティーの準備はしっかりとされてるんですか?」
「もっちろんだよ!!せっかく美夢ちゃんのお父さんが招待してくれたんだから,最高のステージにするよ」
「なのーっ!」
「…うん。そうだね。」
何かを考え終わった美夢はどこか嬉しそうだった。
お疲れ様です。
リリリリの面子と本格的に関わり始めます。
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