獅子と天使のコンチェルト   作:レオ2

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寄り道

 新幹線を降りた獅子がキョロキョロしていたら,1人の老人が近づいてきた。あのテロの日,美夢を迎えていた老人だ。

 

「虎舞獅子様」

 

 高級そうなスーツに身を包み,雰囲気もどこか気品に溢れている老人である。確か美夢を送り届けた時に迎えた老人だ。

 

「旦那様よりお迎えにあがるように仰せつかっております」

「……招待状よこした人か」

 

これを肯定すれば今回の招待状の差出人は……

 

「さようでございます」

 

 その答えを聞けて獅子は眉毛を顰める。彼は美夢の家の人,彼が旦那様と呼ぶ人間は1人しかいないだろうし旦那=招待状の差出人なら答えは分かった。

 その答えたが分かっただけでも収穫と捉え,肩を竦める。

 

「折角の誘いだが,」

 

 後ろを見るとこちらの様子を伺っていたリリリリの4人と眼があった

 

「あんたあの4人も迎えに来たんだろ」

「そうですが」

「なら断らせてもらう。住所は貰っているから夜までには行く」

「かしこまりました」

 

 老人は獅子ならそう言うのだろうと思っていたのか,特に驚いた様子を見せなかった。

 老人の隣を通り抜け獅子は歩き出した。それを見とどけたリリリリが老人に近づいた

 

「じいや,お迎えありがとうございます」

「美夢お嬢様,お待ちしておりました」

「あの……獅子さんと何をお話しされていたんですか?」

 

 春奈は,先程獅子と何を話していたのか聞いた。彼女たちの位置からは会話は聞こえなかったのだう。

 

「旦那様より虎舞様をお嬢様達と一緒にお迎えするように仰せつかっておりました」

「お父さんが? どうしてですか?」

「虎舞様を明日のパーティーに招待されたのは旦那様ですから」

「「えっ?!」」

 

 獅子が新幹線に乗っていた理由が,明日のパーティーの参加者,それも招待したのが美夢の父親と知って驚愕の声をあげる。

 

 美夢たちは道の往来で話すのは人の迷惑になるので5人はそれぞれリムジンに乗り込み,リムジンが美夢の別荘に発進した。美夢は後部座席から運転席にいるじいやに話しかける。

 

「それで,お父さんが獅子さんを招待したって……」

「旦那様からは虎舞様にお話しする事があるからとしかお教えられていません」

「……そう,ですか」

 

 ショボーンとする美夢に胡桃とみいこが話しかけた

 

「美夢ちゃん美夢ちゃん」

「そろそろ話してほしいの」

「え……? なにを?」

 

 主語が無いので美夢の疑問はもっともなものだが,美夢には心当たりがない。

 しかし,普段は胡桃やみいこたちを叱っている方の春奈ですら美夢に聞いた。

 

「なにを? じゃありませんわ。一体,虎舞さんと何があったのですか?」

 

 心配気の表情と,胡桃とみいこはどこかワクワクしたような顔である。美夢はこの仲間に隠し事は出来ないと思ったのか,3人に向いた。

 

「実はね……」

 

 そこで美夢は話した。

 水泳のレッスンで獅子に会った事。あの日,リリリリの新曲の作詞の為に図書館に行った事,そこで中村中也の本を見つけ懐かしくて手に取ろうとした時に獅子が取ってくれた事。その後起こったテロと少年の事。自分を家まで送り届けて危険から守ってくれた事。

 話を聞き終えた3人は心底驚いたようで眼を真ん丸にしてる。

 

「そんなことが……あの出来事の前に美夢さんに会っていたなんて」

「わぁー! なんか運命的だね!!」

「じゃあやっぱり悪い人じゃないの!!」

「し,しかし美夢さんにあのような言動したことは許せませんわ!」

 

 春奈は先程の獅子を許していないらしく,憤慨した様子である。

 

「春奈ちゃん,あれは私も悪いから良いの。だって……私怖いって思っちゃったから」

 

 前回会った時は良くも悪くも殺気を出していなかったし,彼も対応しようとしてくれていた。だけど,今日はただ座っているだけなのに発せられるプレッシャーが美夢に戸惑いを与えた。

 

「それが当然だと思いますよ? あれ程のお力を持っている人ですから」

 

 弾丸を避けるだけに飽き足らず,相手の弾丸を刀で斬ってみせた獅子は春奈からすれば同じ人間だとは思えなかった。まだ人造人間とかと捉えた方が納得できる。

 あの攻撃も,きっとテレビ越しでは分からないほどに重い攻撃だった筈だ。

 

「そうじゃないの春奈ちゃん」

 

 しかし,美夢が怖かった理由とは違ったようで春奈は戸惑った

 

「そうじゃない……とはどういうことですか?」

「前あった時と違い過ぎていたから……かな」

 

 美夢も自信は持っていないようで顔は下げたままだ。そんな時,前の運転席にいるじいやが4人に聞こえるように言った

 

「確かに,虎舞様があのような剣呑な雰囲気を纏うとは私も驚きました」

「じいや……?」

「時が経った,という事なのでしょうな」

 

 吐き出された言葉にどこか懐かしさを感じる。それを感じた美夢は思わず問いかけた

 

「じいや……もしかして獅子さんの事をご存じだったのですか?」

 

「「えっ?!」」

 

 リリリリの意外そうな表情を背中越しに受けてじいやは続けた

 

「さようでございます。虎舞様のお父様が旦那様とご親友でした」

「「えーっ?!」」

 

 その衝撃の事実に美夢たちは驚きを隠せなかった。

 何故ここで獅子の父親の話が出るのかと思ったが,美夢の両親が獅子の知り合いならばじいやが獅子の事を知っているのは分かる。

 それに,獅子の両親が父親と親友だったのなら獅子が招待される理由も分かる。

 

「14年程前,虎舞様はお嬢様を抱いた事もございますよ」

 

 14年前,ということは自分がまだ1歳か0歳の時。獅子がさおりの一つ下だと聞いているので4,5歳の時だ。

 美夢は自分の身体を見た。この身体が小さかった時に自分は獅子に抱っこされたことがあると言う。

 

(……そう言えば)

 

 自分にテロの映像と音を聞かせまいと抱きしめて塞いでくれた時,不思議と嫌じゃなかったのを思い出した。

 きっと他の男性なら怖かったかもしれないのに……

 

「ご本人は幼い頃と言うのも合わさってお忘れになっているようですが,もしかすると旦那様の用事というのはご両親絡みかもしれないですね」

 

 落ち込む美夢を見かねたじいやの言葉。美夢はどこか身体がポカポカしてきた。

 


 

 じいやの厚意を断った獅子は,そのまま歩いて美夢の別荘に向かっていた。ナップザック片手に歩いている様はどこかの風来坊のようである。

 

「ほんと,甘い連中ばかりだ」

 

 美夢もあの春奈という人も,そして恐らく残りの2人も。

 仲間が傷ついたから謝れと言ってきた。

 

「お前は良い仲間を持っている。だからこそ俺に関わるべきじゃない」

 

 震えながらも言ってきた春奈を獅子はある程度賞賛していた。コソコソ自分の悪口や不本意な事を嘆いている大学の同級生や自分の意志を言ってくる人間なんてこれまで手で数えられるほどしかいなかった。

 大学生活に入ってからは1人もいなかった。1年前の戦いを見たからだ。だけど,春奈は自分を見てきちんと自分の言葉で話した。

 

「本当,年齢で決まる訳じゃないよな」

 

 春奈よりも年上にもかかわらず自分の言葉で話せない同級生達を思い浮かべる。

 仮に美夢が傷ついていたとしても,あれだけ仲間思いの春奈や他の2人がいれば美夢のメンタルは大丈夫だろう。

 

「まあ,どうせ明日で会う事は無くなるんだから今日あったこともその内忘れるだろ」

 

 そう1人結論に至って獅子は歩き続けた。流石に車の迎えがあったからかマップ上ではあと1時間ほどとなっている。だから獅子はあちこち寄り道をしながら向かう事にした。

 

 

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