獅子と天使のコンチェルト   作:レオ2

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記憶のカナタ

 軽井沢は避暑地とあるだけあって散歩に適した場所が沢山ある。その中でも湖と森は避暑地としての印象も強く,自然の中での散歩は獅子も気持ちを落ち着ける事が出来る唯一の場所だ。逆に嫌いなのは都心のような騒がしい場所だ。

 大きな湖を前に,獅子の心も落ち着く。そこで考えるのはMOAの事。

 

「MOA,あの日からまだ何も反応がないな。やっぱり,下っ端潰した程度じゃ動じないよな」

 

 獅子がボスでも下っ端がやられたくらいで何も思わない。諸悪の根源を潰さなければ意味がない。

 綺麗な湖を見ながら思考にふけっていた。その手には正輝から授けられたこれまでのMOAの資料。

 

「MOA,世界中で活動しているテロ組織。アメリカにイタリア……ロシアに中国と……あらかたの国に手は出してる……? いや,よく見たらアフガニスタンとかの紛争地帯にはまだ手は出していないのか」

 

(一体,あいつらのボスって言うのはどれだけのコネクションを持ってるんだ)

 

 少なくとも獅子があの場で戦った限りいたのは,英語圏内とスペイン語を話す人がいた。

 それに,これまでも様々な国でテロをしていてその度にテロリスト一味が捕まるのだが,全員が下っ端でトカゲの尻尾切り状態だ。おまけに大体がその国の人間。

 普通に考えればその国を標的にする為にその国の人を仲間にしていると考えられる。

 

「それに,このボスって奴の求心力も相当なものだ」

 

 あの考えていることが分からないペストマスク,資料によると彼もここのボスに絆され……というよりも半ば洗脳されMOAに入ったらしい。

 獅子が資料を捲るとまた違う資料が現れる。

 

「そのボスに辿らせまいと舌を自ら嚙み切ったり,自ら死を選んでいる奴らが大半ってのは一周回って怖えよ」

 

 MOAの犯人達に共通しているのは自殺をするか,そうじゃなくても舌を噛み切ったりしてMOAの情報を出さないようにしている事だった。

 これがあるから情報が集まらないし,今までもいいようにされている。

 これが戦時中や忍の世界ならとても優秀な人材なんだろうなと思う。

 今回ペストマスクがボス自らスカウトされたという情報は運が良かったのだ。

 あらかたの資料を見終えた獅子は顔をあげる

 

「……出来るなら,さっさとボス事潰して普通の生活に戻りたいんだがな」

 

 資料をナップザックに入れ,また歩き出した。きっとその予想通りにはならないんだろうなと思いながら

 


 

 思考に耽りながら,送られてきたマップを頼りに別荘に来た獅子が見たのは,感想言うのも億劫になるほどの豪邸

 

「……ここか」

 

 獅子の目の前には,あの日見た美夢の家と負けず劣らない豪邸が建っていた。

 門を直ぐ通った所には何故か噴水があるし,車のガレージなんて何台分入るんだよと心の中でツッコんだ。

 既に辺りは暗くなり始めていたが,あのご老人に宣言した通り夜には来たつもりだ。

 門の周りを見るが,インターホンらしき機械が無いのを見て訝し気に眉を顰める

 

「インターホンどこだ」

 

 そう言った時,門が重ぐるしい音共にゆっくりと開いて行った

 獅子が門の横にある塀を見て,その後塀沿いにある木を見ると一つのカメラが自分を取られていることに気が付いた。

 

「いいセキュリティーなこった」

 

 獅子が中に入るとドアが再び独りでに閉まり始めた。閉まったのを見届けたらそのまま歩いて3分程玄関まで向かった。

 獅子が到着する位になると玄関の扉がひとりでに開き始めた。

 開いた扉で待っていたのは軽井沢の駅で自分と美夢含めた4人を待っていたご老人だった。

 

「虎舞様,お待ちしておりました」

「お出迎えされるのは意外だった」

 

 別に自分はそんなに大層な客ではないだろという自己評価である。

 創業記念パーティーともなれば色んな有名人やらもくる筈。

 そんな人と比べても特に何も成し遂げていない自分はそれ程でもないと思っている。

 

「虎舞様は大事なお客様ですので」

「……ありがと」

 

 送迎という厚意を断った手前何だかこの人には強く出れないと獅子は思った。

 

「先ずは今晩と,明日の虎舞様のお部屋にご案内させていただきます」

 

 家に入るように促され,家の中に入ると玄関先にはいくつかの靴がある。そのどれもが高そうな女ものの靴となればやはりここに来ているのは美夢達らしい。

 

 外から見た豪邸の敷地面積は分からないので何とも言えないが,いくつの部屋があるんだよと心の中でツッコんでおいた。

 老人は迷いのない足取りで先を歩き,長い長い廊下の端に値する部屋でようやく止まった。

 家の構造なんて普段は把握しないが,この家ばかりは把握しなければ迷子になると考えたので歩いている中でもきちんと周りを把握しておく。

 

「……俺別に馬小屋でも良いんだが」

「そのような部屋はここにはございません」

 

 真面目に言うなよと思った獅子だが,それも目の前の部屋を見て言う気を無くした。客間だと聞いている筈なのに広々とした部屋で奥には大きな窓に加え,手前にはふかふかそうなベッド。

 それに勉強机やキッチンに冷蔵庫,何故か種類は少ないがダンベルなどのトレーニング器具も置いてある。もうこの部屋だけで生活が出来るくらいには揃っていた。

 

「虎舞様,こちらに手を翳してもらえますか?」

 

 言いながらドア横のパネルを指した。獅子が大人しく手を翳すとピピッと反応した。

 

「虎舞様の指紋がこちらの部屋の鍵となります」

「鍵を持ち歩かなくても良いのは便利だな」

 

(あのボロアパートとは大違いだ)

 

 内心呟いておくが,月3万程度のあの部屋とこの豪邸を比べる方がおこがましいというものだ。老人の方を見ると一枚の便箋を持っている

 

「それから,こちらを旦那さまより預かっております」

 

 言いながら便箋を差し出してきた。

 

「それでは,私はこちらで失礼いたします」

「……ありがとう」

 

 老人は一礼して去って行った後,便箋を見て部屋の中に入り鍵を閉めた。

 そしてベッドの横にナップザックを置いて勉強机に座り便箋を開封する。するとそこには「18:30 門前」というメッセージがあった

 

「どこのスパイ映画だよ」

 

 ツッコみを入れながらスマホの時計を見ると,既に18:20だった。あの老人はどうやらこの事は知っていたらしいから

 

「あんにゃろ」

 

 再びナップザックを手に取って部屋を出て行った。

 玄関ドアを抜け再び門の所にまで来ると1台の車と男性が立っていた。

 男性はしっかりとスーツを着こなしていて,彫の深い顔に切り揃えられている髪,顎の髭も綺麗に揃えられていて却って清潔感を漂わせている。

 獅子自身は髭がそもそも生えてこないので余り気にした事ないが,容姿を整えるだけでもどの位努力してるんだろうなと思った。

 気が付いた男性が手を挙げながら話しかけて来た

 

「こんばんわ。無事に着いたようで何よりだよ」

「まあ遠かったけどな」

 

 男性が苦笑いして車の鍵を開けた。

 

「取り合えず,一緒に飯でも行かないか?」

「……娘達と食べるんじゃないのか?」

「それはいつもしている事だし,今日は女性達だけで楽しんでもらって男は男で楽しもうじゃないか」

 

 彼がどれくらいの頻度で家に帰っているのかは知らないし興味もないが,今この屋敷にいる男なんて手伝いとかを除けば自分とこの人のみ。

 それにこの人物が誰か分かっているので敢えて話す

 

「いつもしているからこそだ。いつ死ぬか分からない世界なんだから」

 

 自分の両親の事を知っているのなら,獅子の身になにが起こったのかも知っている筈。

 彼は少し苦笑する

 

「実感がこもっているね。だけど,今日はそうすると私が決めたんだ」

「……そうか」

 

 それ以上何も言わず大人しく車の中に入り込んだ。男性も運転席に乗り込むと車は滑らかに走り出した。

 暗い車道に出ると車は真っすぐに進み始める。それを確認した男性は,前を見ながらおもむろに口を開いた。

 

「自己紹介がまだだったね,私は──」

「桜田連星(れんせい),代々日本のトップに立つ桜田財閥の現トップにして,空から事を見ているように運ぶその手腕は「星天の貴公子」と呼ばれている。ちょっと調べれば出て来た」

「……この歳で貴公子は恥ずかしいのだけれどね」

「この異名はあんたが若い時に付けられたんだから異名としては間違っていないだろ」

 

 彼が今の財閥を先代から継いだ時には,既にその二つ名があり有名な人だった。まあ,獅子は今回の事で調べるまで知らなかったのだが。

 

(それにこの声,なるほど。母親からの遺伝かと思っていたが案外この人からの遺伝でもあるかもな)

 

 美夢の声はどこか耳に残る声なのを思い出していた。この連星の声も耳に残りやすく,男と女の違いはあれど親子だなと思った。

 

 観察はそこまでにして,軽井沢の街を見ながら連星に聞いた

 

「それで,なんで俺を招待なんてしたんだ?」

 

 それが獅子にとって今回の最優先事項。この男がどうして自分の両親の事を知っていたのか,獅子にとって自分の両親の話は,こんな遠くの場所まで来て聞かなければならないほどの価値を持つ話だ。

 連星はハンドルから手を離すことなく前を見据え,口を開いた

 

「少し昔話しよう」

 

 言いながらハンドルを切る。一体何の店に向かっているのかは知らないが,滑らかに運転を進めている。これを運転に集中をしながらしているのだから大人だなと思う。

 

「昔,苦楽を共にした2人の男がいた。1人は財閥の後継者として勉学に励み,もう1人は誰も知らない高みへ到達する為に日々肉体を鍛えていた」

 

 1人は連星の事だろうと直ぐに辺りを付けた。だけど,もう1人の人は現段階で断定できない。

 にしても

 

(肉体鍛えていたって,どこの修行僧だよ)

 

 自分も似たような事には気が付いていないようだ。

 

「1人は『文』,もう1人は『武』でまさに一心同体だった」

「……そこまで言うか」

 

 一心同体,その言葉を使うのに値する関係性がどんなものなのか獅子には分からない。

 周りとの関係を断ち切っている自分には,きっと一生分からないものだ。

 連星は昔を懐かしむように微笑み続けた

 

「実際に男2人はそれぞれの分野で秀でた成績を収めていた。『武』の男は世界最強とも名高いほどになった」

 

 懐かしい事を語るように顔を綻ばさせていた。

 世界最強……その頂に立った男を獅子は知っている

 

「だけど,高校卒業後彼はもう1人の男に何も言わず目の前からいなくなった」

「失踪?」

「そういう事になるな。『文』の男はその後財閥を継ぎ大人になって行った」

(もう既に私って言った方が変換が楽なんだが)

 

 脳内変換を一々通すのでもはや自分だと言ってくれた方が楽ではある。

 そこで唐突に車が止まる。前を見るとどうやら蕎麦屋らしい。

 

「ここでご飯にしよう」

 

 昔話も一回止めて,連星が降りていったので獅子も車を降りて店に入るとカウンター席に案内された。周りを見ると,やはりご飯時だからか人も沢山いる。

 この時間帯でストレートに通されたのはラッキーと言わざるを得なかったかもしれない。

 

 内装は昔ながらの日本の言えと言った感じで,歴史を感じる木造建築は風情があった

 

「獅子君,希望はあるかい?」

「……特にない」

「じゃあ信州そばとお茶をずつ2つ頼むよ」

「はいよ!」

 

 店主が息の良い返事をして作り始める。どうやら注文を受けてから作り始めるスタイルらしく,他の客がいるのも考えれば少し遅いかもしれない。

 それが連星にも分かったのか,おしぼりで手を拭きながら語りを再開した

 

「しかし,14年位前だったかな。男が女性と共に私の目の前に現れたんだ。双子の男の子を連れて」

 

 この男性の言う『武』の男,ここまでお膳立てをされたら流石に分かる。

 自分の強さを求める気質は過去の事があれど父親の影響が強いだろうし,そしてそんな自分と常に高めあっていた双子の弟。もうこの世にはいない2人を思い出したからだ。

 

「ふぅ……はぁ。成程な」

「どうやら察したようだね。その双子の内の長男の方,それが君だ」

「親父の呼び方『武』の男以外になかったのかと思ったがな」

 

 それではとんでもないマッチョを思い浮かべるが,獅子の中の記憶にある父親はそれほどマッチョという訳では無かったはずだ。寧ろ中肉中背だったと思う。

 

「はいお茶お待たせ!!」

 

 一息ついた時に店員の1人がグラスに入っているキンキンのお茶を持って来た。連星がグラスを持ったのを見て獅子もグラスを持ち上げた

 

「それでは再会を祝して……は仰々しいから普通に乾杯!!」

 

 そう言って獅子のグラスと自分のグラスをぶつけて飲み始めた。

 獅子も素直にお茶を喉に流し込んだ。よく考えたら軽井沢に来て碌な水分補給をしていなかったのも合わさりちょっと美味しく感じた。

 

「ふぅ……良いね。美味しい」

 

 獅子はノーコメントである。グラスをテーブルに置いて連星の方を見ると何やら思考に耽っているようだった。

 

「君は当時5歳だった。最も,君のその様子じゃ覚えていないようだけどね」

「……その後の方にメモリーが大分喰らっているので」

 

 知っているだろ? 

 そう続く言葉は連星にも伝わっているようで深く頷いていた

 

「そうだろうね」

「信州そばお待ち!!」

 

 また店員さんが目の前に山盛りの蕎麦を置いた。

 内心もう出来たのかと思った。

 注文してまだ5分程度しか経っていない筈なのだが,これくらいのスピードで提供しないとお店が回らないのかもしれないなと考える。

 

「ありがとう」

 

 連星は箸を獅子に渡した。

 

「いただきます!」

「……いただきます」

 

 連星が少し早めに食べているのに対して獅子は少しゆっくり目である。

 

(美味しい)

 

 それほど食にこだわりがある方ではないが,これは素直に美味しいと思えた。

 静かに食すこと数分,山盛りだった蕎麦が2人とも半分ほど無くなった時に連星が言った

 

「君のお父さんは……アルスはとても強く優しい奴だった。当時は周り見下していた私を守ってくれるだけじゃなくその後も友であり続けてくれた。その優しさが彼の弱点でもあった訳だがね」

「……そうだろうな」

 

 虎舞アルス,日本国籍のハーフの人間で獅子よりも顔の彫が深く,普通にしている分には怖いのだが,その実微笑んだときのギャップが凄まじかったらしく連星と共にモテていたそうだ。

 昔母が自慢そうにしていたのを憶えている。

 

「その甘さはいつか身を滅ぼす」

 

 実際,獅子の家族はもう誰一人として生きていない。

 それがアルスの甘さのせいなのかは分からない,だけど父親が厳しさの中でも甘さがあった。

 

(だから,俺はそんな甘さを捨てた)

 

 そのせいで何かを無くしたのなら,それは捨てるべきでありいらないものだ。

 しかし連星は首を振って否定した

 

「でも,君にもその甘さは受け継がれているようだけどね」

「俺が? 馬鹿言わないでください。俺は優しさとかいう言葉とは無縁だろ」

「私はそうは思わない。今まで君を見て来たけど,君は誰かのヴィランになる事はしなかった。寧ろ,影でよく人を助けていたじゃないか」

 

 そう言って彼はスマホを見せて来た。映っていたのは獅子の12年前から今までにかけての経歴だった。それはあの災厄の後から,獅子の施設の様子や転校先の小学校,中学に高校での獅子の生活模様。

 見せられている画面のはとても簡略化されているが,大体合っている事であり中には獅子ですら忘れている出来事も記されていた。

 獅子は連星を一睨みした後,お茶を一口飲んだ。

 飲む間に何故連星がそれほど自分の事を知っているのかと考えた。正直気持ち悪いの領域だ。

 だけど答えは結局考えても見つからないので否定だけしておくことにした

 

「そんな事をした覚えはない。寧ろ俺は人質を取った男に人質を殺せと言った男だぞ」

「あれはその人質を守る為だったんだろう。その後の戦いにおいて君は他の学生を巻き込まないように立ち回っていた。犯人の男の骨を折ったのも戦闘不能にして,周りへ流れ弾を出させない為。そして何より犯人を守る為でもあった」

 

 全て分かってると言いたげにまたそばを口に放り込み噛む。獅子は今は食べる気が失せていた。人の過去を何故か知っているだけに留まらずずかずか入って来る。

 最近は特に多い。それにこの感じはどこか正輝にも似ている。

 最も頭は正輝よりも切れるみたいだが

 

「あの時犯人の骨を折ったのは,近くで待機していた警察のスナイパーに彼を撃たせない為……だったんだろ?」

(正輝でも気が付かなかった事に気が付いていたのか)

 

 あの時の男は区分としてはテロリストに入っているために,何より危険人物だった為に正輝とは別動隊で警察のスナイパーが待機していた。当時の警察……正輝が獅子の好きにやらせたのは獅子の実力を見たいと思ったのと,狙撃手が待機していたため慌てる必要はないと犯人の要求を呑んでいた。

 

 最初は人質が邪魔で撃てなかったのだが,獅子が人質を解放させたことによって射撃しかけた。だが獅子が迅速に男の骨をへし折り地に伏させた。そうする事で男がもう暴れないとスナイパーに分からせライフルを下ろさせたのだ。

 

「目の前で人が死なれるのは目覚めが悪いだけだ。例え俺の見えない所で誰かが死んだとしても俺は何も思わない」

「逆に言えば目に見える範囲にいる人々を助けると言う事だろう」

「ああ言えばこう言うだな」

 

 いい加減に獅子のストレスも溜まっていく。自分自身が否定している事を他人が否定してくる。

 

『……お優しいんですね』

 

 ふと美夢の事を思い出した

 

「親子そろって甘いな」

 

 吐き捨てるように呟いた

 

「美夢の事かい?」

「ああ。親子そろって同じことを言いやがる」

 

 それは連星と美夢の母親,そしてあの老人たち身の回りの人達が愛情を持って美夢を育てて来たからだろう。

 

(俺とは正反対だ)

 

 誰かに愛されて育ってきた美夢とは反対に,自分は永遠に1人で生きて来た。誰からも愛されることもなく,ただただ1人で道を究めて来た。

 別に美夢が羨ましいとかそんな話ではない。今更そんな事を思うほどガキではない。

 対極の位置にいる筈の自分達が,何故一瞬でも道が交錯したのか分からなかったからだ。

 

「とにかく俺はそんな優しい人間じゃない。誰が何と言おうとだ」

「……そうか」

 

 蕎麦を食べ終えた2人はそれ以上話すことなく蕎麦屋を出て行った。因みに会計は全て連星もちであった。

 車に乗り込んだ2人は帰路につく

 

「そう言えば,君の事は獅子君と呼んでもいいかな?」

「……どうぞ」

 

 何を今さらそんな事を気にするのかと思ったけども,言質が欲しかったのかもしれない。

 

「……新幹線で娘さん達の隣の席にしたのは何が目的だ? ついでに言うなら,俺をニルヴァーナに仕向けたのもだ」

「そこまで気が付いているとはね……」

「引っ越してきた当時の俺の住所を知っているのは俺だけの筈だった。引っ越して初日で推薦状なんてものが来るなんて普通に考えて可笑しいだろ。さっきの俺の行動の調べようを見たらあんたが俺の部屋の住所を知っているのも頷けるし,今回の招待状の時と状況が似ていたからな。ニルヴァーナの親会社の協賛企業か株の動き見た。そうしたらビンゴ,あんたの財閥が出て来た」

 

 既に見慣れた景色が通り過ぎていく中,自分の考えを話す獅子。

 ずっと謎だと思っていたニルヴァーナの推薦状の推薦者の正体。招待状が送られてきた時点で大体誰が送って来たのか察してはいたが,彼の反応を見る限り自分の考えは正しいらしい。

 

「君をニルヴァーナに仕向けたのは確かに私だ。君にも働き先はいるし,何より君に向いていると思ったからね」

「どうだかな。どの道今回の件で俺は大分ピンチらしいが」

 

 今の時代,人々の眼はとても多くそれはネットと言う形で現れる。

 MOAをたった1人で止めて見せた獅子の名は既に全国に広がり,あげく世界にも知れ渡っている。

 映像が撮られている中で,獅子の妨害電波のせいで映像はぶれていたりしていたが戦いの模様はばっちり映っていた。例え映像がぶれていたとしてもブラッシングすればより鮮明に見る事が出来る。

 

 そしてその戦いのレベルの高さから注目を浴びている。

 だからこそネットに獅子についての情報も出回り,ニルヴァーナで働いている事や2カ月前の星朋大学の事も広まってしまった。

 彼が担当している低学年クラスの親はそれを見てどう思うかなど到底分からない。

 正直他人をどうも思っていないと発言したことは大勢の人に聞かれただろうし,テロの時の映像でだって他人はどうでも良いと発言したばかり,客観的に見ると獅子に子供を預けたいとは思わないだろう。

 

「……」

「せっかく推薦してくれたところ悪いが,俺は近いうちに辞めさせられるだろうよ」

 

 そう言って窓の外を見る。連星の別荘は少し森に入った所にあるので,もう既に周りは暗く染まっていた。車が門の所に着くと,門がひとりでに空き始め連星の車はガレージに入り始める。

 ガレージに車を止めたら2人は車を降りて玄関にまで向かった。獅子が玄関の扉を開けようとすると連星がそれを止めた。

 

「少し待ってくれ」

「……?」

 

 連星は胸ポケットを少し探り,1つの古びた便箋を取り出した。

 

「……これは君のご両親が亡くなる前に私に託した,未来の君宛の手紙だ」

 

 そこには東京の連星の家の住所と古びた切手が貼られていて宛名にも連星の名,そして差出人には「虎舞アルス」と書かれていた。

 それを渡した連星は玄関の扉を開けた。獅子も便箋を胸ポケットに入れ続いた

 

「あ,お父さんお帰りなさ……」

 

 しかし,獅子を出迎えたのは美夢だった。美夢は連星を見た後に獅子を見て,もう一度獅子を見た。

 獅子はその視線を受けて敢えて連星よりも玄関に上がり横を通り抜けて部屋に戻った。

 

「……あ,お父さん。獅子さんと何をお話していたの?」

「それは美夢でもむやみに話すわけにはいかないんだ。彼の過去に関わる事だからね」

「そう……ですか」

「どうしても知りたいのなら彼に直接聞くと良いよ」

「でも私,獅子さんに避けられているみたいで」

 

 そう言って新幹線で起こった事を話した。事柄を聞いた連星は獅子が歩いて行った方向を見たが,直ぐに獅子の意図が分かったのか少し微笑んだ

 

「彼は恥ずかしがりやだからね。美夢が心の底から話しかけたら彼も無下にはしないよ」

 

 その父親の優しい笑みに美夢もどこか安心し始めた。

 

「はい,お父さん。私,ちゃんと獅子さんと話してみます」

 

 美夢がそう言った時後ろの方から寝間着に着替えていた胡桃とみいこが走って来た

 

「美夢ちゃん遅いよ~!!」

「美夢ちゃん探したの~!」

「あ,美夢ちゃんのお父さん,明日のパーティー招待してくれてありがとね!!」

「ありがとうなの!!」

「ハハハ! いつも美夢が世話になっているね。明日のリリリリのライブ,楽しみにしているよ」

「「はーい!!」」

 

 美夢は胡桃とみいこに連れられて部屋に戻って行った。

 

 

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