獅子と天使のコンチェルト   作:レオ2

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慟哭の炎

 スマホの時計を見ると,既に時刻は6時を回る頃であり太陽の陽も良く見えるようになった。

 いつもなら,朝の修業を終えてあのぼろい部屋のシャワーを浴びている頃。だけど今はそういかなかった。

 肩にのしかかる重さと漏れ出ている吐息,何を思ったのかいつの間にか美夢は眠りに落ちていた。それも獅子の肩に頭を預けている状況で傍から見ればカップルのようだった。ただし

 

(なんで寝てんだよ)

 

 男の方は少し青筋を立てているので台無しではあったが。

 

「すぅー……すぅー」

 

 4;30に飛び起き,その後に獅子を追いかけて走り回っていたりしたために,疲れがたかって寝てしまったのだろう。

 

「気持ちよさそうに寝てるな」

 

 彼女がから出ている寝息がそれを教えてくれる。チラリと顔を見ると,この世の物とは思えない美しい少女が眼を閉じていた。

 水泳を見てた時も思っていたが,きっと有栖川学院ではなく共学の学校に通っていればモテていたんだろうなと思う。自分とは住む世界が違う人間,なのに何故か自分に積極的に関わろうとしてくる。

 

「……思えばお前位なもんだな。こんなにぶつかって来たのは」

 

 ぶつかった,とは違うかもしれないが獅子に関わろうとしてくれた人間は美夢が初めてな気がした。

 転校した小学校でも,中学校でも,高校でも他を寄せ付けなかった。故に獅子に関わろうとする人物などいなかった。

 それに,田舎のコミュニティーなんて狭いもので獅子がある出来事の生き残りなんてあっという間に知られ……死神と言われて近寄られなかったことも多々ある。

 

「……」

 

 獅子は美夢の頭をそっと持ち上げ,彼女の頭を自分の膝に置いた。少し動いたのにもかかわらず彼女の眠りは深いのかピクリとも動かなかった。

 自分のジャケットを脱いでそっと彼女にかける。避暑地のこの場所の朝は思いのほか寒く,美夢の薄着では風邪をひいてしまうと思ったからだ。

 

「ん……」

 

 美夢はくすぐったそうに身じろいだ。でも,直ぐに気持ちよさそうに顔を綻ばせていた。

 

「お前は俺とは違う。全てを捨てた俺とは」

 

 過去の自分が欲しかった親の愛情,友達や色んなもの,それを目の前の美夢は手に入れているのだろう。だから神様も信じていられるし幸せに生きているのだろう。きっと彼女の人生は楽しいものになる。

 

 けれど獅子は親の愛情も,友達も何もかも捨てなければならなかった。

 つくづく思う。どうして自分は美夢に出会ってしまったのかと。

 

「きっとお前とは出会わない方が良かったんだろうな,お互いの為に」

 

 彼女の髪に触れながら,ふとあの時の事を思い出した

 


 

 13年前 星崎市

 

 東京の端に位置するこの街は、老若男女問わず元気な街でもあった。

 市唯一の公園では様々な年代の人達が散歩や余生を過ごしていたり、子供たちが元気に駆け回っているのを獅子は今でもよく覚えている。

 獅子も当時のクラスメイト達と、その近くにある子供たちの中ではロケット公園と呼ばれる場所で遊んでいた

 

「獅子早すぎだって!!」

 

 どうやら鬼ごっこをしていたらしい。

 しかし、獅子は一回も捕まらない。

 彼に対抗できるのは1人,血を分けた兄弟だけ。

 

 獅子はそんな10人くらいの集まりで、異常な身体能力で他の子どもたちを圧倒していた。

 

「まだまだ!!」

 

 少年獅子は、それでも手加減など知らず、縦横無尽に遊具の間をすり抜け逃げていた。

 

 ただ楽しかった。

 友達がいて、競い合える人がいて、楽しかった。

 

 だけど、そんな楽しい日々は唐突に終わりを告げた

 

「なんだこれ?」

 

 鬼ごっこを一緒にしていた男の子が四角い箱のようなものを拾い上げた。

 男の子がいたのは、宇宙ロケットを模した滑り台の最上階。その高さは30mはある。

 獅子はその声に気が付いた訳ではないが、下から男の子が不思議な箱を持っているのに気が付いて足を止めて下から声をかけた

 

「おーいどうしたの?」

「なあこれなんだ!」

 

 そう言って上からその箱をぶんぶん振る。

 箱の形は正方形で一辺30㎝程度。

 色は、真っ黒なものだった。

 

「こっからじゃ分からないよ!!」

 

 鬼ごっこに参加していた他の子供達も様子に気が付いたのか、皆して立ち止まる。

 その間にも、他の子どもたちが最上階の滑り台から滑っていく。

 獅子の周りには、そんな子供たちの親が写真を取ったり動画にする為にカメラを構えている。

 

「何だろうなこれ?」

 

 滑り台横の隙間から、その男の子が、黒い箱を大きく振ったのが分かった

 

 ──瞬間

 

 オレンジ色の閃光、瞬間的な熱量と吹き荒れた爆風が、滑り台の頂上から見えた。

 

 ドカーンッ!! 

 

 きっと漫画やアニメの世界なら、こんな効果音が聞こえて来たんだろうと漠然と当時は思った。

 それを認識した時、獅子の耳に圧倒的な爆音と衝撃が襲ってきた。

 先程まで友達がいた場所は、眩い爆発が起き木端微塵になっていた。

 

「……え?」

 

 しかし、それを認識している中でも時は進む

 滑り台の頂上を守るように建てられていた柱の数々が、何本も四方八方に飛び散っていたのだ。

 

「危ない!!」

 

 近くにいた男性が、咄嗟に獅子を弾け飛ばし、獅子がいた場所が一瞬にして柱が起きた衝撃音と、砂煙に包まれた

 

「ガッ……!」

 

 想像以上の力に押し出され、切り傷がいくつも出来るが、それを気にすることなく自分がいた場所を見て口を思わず抑えた。

 目の前には、自分を弾け飛ばし助けてくれた男性が、体の左半分が肉片と共に砕け散っていた。

 獅子の手前まで凄まじい量の鮮血が飛び散っていた。

 

「あ……あの」

 

 ゆっくりと手を伸ばすが、震えて上手く動けない。

 グロテスクな光景を前に、頭が真っ白になる。

 

 何があったの? 何が起きたの? どうしてこうなったの? 

 

 獅子の頭をぐるぐると戸惑いと、苦しさが回っていた。

 だけど、確信できていることがある。

 

「死んで……る」

 

 ふと周りを見てみると、他にも何個も柱が飛び散っていた。

 その中の1つに、先程まで友達だった人がいた

 ただし、先程の鬼ごっこを一緒にしていた子供が、片腕を潰され、下半身の中から潰れている状態で。

 

「ね……ねえ」

「たすけて……」

「生きてる……! 待って!」

 

 感覚が麻痺している体に鞭を打ち、その子供の元に向かい柱をどかそうとする。

 左右にどかそうとすれば、乗っかかっている場所が増え負荷がかかる。

 だから持ち上げてどかすのが良いのだが……

 

「痛い痛い! 痛いよッ!!」

 

 既に子供の身体は満身創痍、それに当時の獅子の力では柱を持ち上げることなど到底不可能。

 ただ獅子の行動は、子供の苦しみを増進させているだけだった。

 悲痛な叫びに、その助けようとする手を止めた

 止めるしかなかった

 

 だけど、この友達を助けるためにはどうするのか、獅子には全く分からない。

 他に周りを見てみると、幸い潰されていない人もいたが、潰されてしまった人達もいた

 

「うっ……う」

 

 獅子は反対方向を向いてうずくまり、胸の奥から沸き上がったものを吐き出した。

 

「はぁ……はぁ……はぁ」

 

 後ろを向くと、まだ「痛い!」と叫んでいた。

 獅子は、意識を感じさせない濁っている瞳で、再び柱をどかそうとした。

 だけども、どうしても動かせなかった。

 余りに無力で何も出来なかった。

 そんな時、頭上で嫌な音がした。

 見てみると、ロケット部分の先端が、柱の支えが無くなった事により落ちてきていた。

 正確に測ったことなどないが、あんなものが落ちてきたらひとたまりもない。

 

 否——死ぬ

 

 ふと目の前の友達を見る。

 友達は虚ろな眼で、「見捨てないで」と語り掛ける。

 時間にして数秒、だけど体内時計では無限の逡巡の果てに

 

「ごめん……ごめん……ごめん」

 

 残根の念を出して、獅子はその場を離れた

 

「待って……待って……待ってよぉ……まっ」

 

 ドォーン!! 

 

 言葉は聞こえなかった

 その前に、凄まじい轟音が響いたからだ。

 獅子の身体能力をもってすれば、落下範囲から出るのは簡単だ。

 

「……あ」

 

 轟音に思わず息を飲み、振り返ると、姿は見えないが、何人もの子供達が下敷きになったことによって出来た血だけが飛び散っていた。

 

「ごめん……ごめん……ごめん!! ウアアアアアアッ!!」

 

 無我夢中で飛び出して、公園を出る。

 何時の間にか人が集まっていた。その中を縦横無尽に飛び出した。

 瞬間、他の場所でも大爆発が起き,星崎市は炎の海へと変わった。

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