リリリリのライブが終わってもまだパーティー会場はライブの熱が冷めず,周囲の招待客はとても満足そうに先程のライブについての感想を言い合っていた
それはリリリリがステージから降りた後もそうだった。今日の彼女たちのセトリは既存の彼女たちの曲に加え,このパーティーの出席者たちの年代層に合わせた曲も持って来た。そうする事で場を盛り上げ自分達の曲への繋ぎも上手くやっていた。
「上手くやるもんだな」
最も,獅子自身は音楽にそれ程執着があるわけでもないのでカバー曲も彼女たちの曲もよく分からなかったと言うのが本音だったが,彼女たちが楽しそうにライブをする姿は確かに周りの人たちを惹きつけていたように思う。
……まあだからと言ってイタズラを許すわけでもないんだが
「うぇ! 何でバレてるの!?」
「後ろに目があるの!?」
背後を見ると胡桃とみいこが既に私服に戻っていて獅子の肩に蛇に似せたぬいぐるみを置こうとしていた。
「目はないがそんなもん気配で分かる。こんな所でなにやってんだ」
「うー春奈ちゃんなら簡単に引っかかってくれるのに」
「獅子さんには通じないの……」
獅子の質問よりも自分達のイタズラがバレたことの方がショックがデカいのか聞いてないようである。
「まあどうでもいいが,するんだったらもっと気配消すんだな。成功が楽しみなのか知らんが隠しきれてないぞ」
「なるほど~」
獅子のアドバイスに胡桃は深く頷く。確かにいたずらを成功させた時の獅子の反応が楽しみで気配を完全に消す事が出来ていなかった。これからの参考にしようと思ったのだった。
でも獅子にはそんなのはどうでもよく用件を聞いた
「それで,何の用だ?」
「え? イタズラしたかったらだけだよ?」
「正直な事だ」
パーティーはもう既に終わりに近い。場所が軽井沢なので東京を中心に活動している面子が多いので早めに終わるのだ。だからさっきまではリリリリの感想を言っていた人達も新幹線に間に合うように既に出て行っている面子が多い。獅子も一応連星から帰りの新幹線のチケットを持っているのでこの後は帰るだけの筈である。
そんな時,獅子の元へと美夢がじいやと呼ぶ老人が近づいてきた。
「虎舞様,旦那様がお呼びです」
「……分かりました」
連星の話を聞き,既に自分の事を昔から知っているであろう老人の言葉には何故か丁寧語になってしまうと思いながら場所を教えられた獅子はその部屋まで向かった。
それを見送ったくるみいこコンビは見送っていたが,じいやは2人にも連絡があったようで言った
「白鳥様,竹下様,もう直ぐお迎えの車を出しますのでもう少々お待ちください」
「はーい!」
「ねえねえ,獅子君はなんで呼ばれたの?」
「それは私も把握しておりませぬ」
失礼致します,と言ってじいやはどこかに去ってしまった。胡桃とみいこは互いに顔を見合わせた後,面白そうだと思い獅子の後をこっそりつけて行ったのだった。
その際,ちゃっかり美夢にも連絡を入れていたのだった
一体幾つの部屋があるんだよと内心思いながら獅子は指定された部屋まで向かっていた。じいや経由するよりも既に勝手に調べているであろうメールアドレスから直接呼べばいいのに何故連絡を経由したのか分からなかった。
ついでに言うなら,明日からは普通に大学なのでさっさと帰りたいのが本音なのだが。
「ここか」
じいやに教えられた部屋の前に立つと,ドアの目の前に立つとノックをする。そうするとドアが勝手に開いて獅子を迎えた。中で待っていたのは連星と美夢の母だった。
「いきなり呼んですまないね。どうぞ座ってくれ」
向かいのソファーを勧めて獅子は大人しくテーブルを挟んで2人の正面に座った。
「娘たちのライブは楽しめたかな」
「……面白かったと思いますよ」
「そうかそうか」
どこか嬉しそうに連星は微笑んだ。どこまで行っても親ばかだなと思った。
「昨日の話の続きなんだが,今君はニルヴァーナでも少し不味い立場なんだろ?」
話の続きと言うか,確認の様に聞いてくる連星に獅子は何だか嫌な予感がした。この詰将棋で追い詰められているような感覚は昨日と同じだ。ほぼ連星の掌の上で転がされた時と同じ感覚。
獅子はどんな話が来ても突っぱねてやると思い柄頷いた
「なら丁度いい。実は最近妻と話してることがあってね」
連星はそう言って美夢の母を見た
「その前にまだ名乗ってなかったわね。私は桜田朱音。よろしくね,獅子君」
「はぁ……」
「それでお話なんだけど……」
獅子は何の話だと思った。美夢についての話なのか,だけどもそれなら別に獅子である必要はない。美夢に色々言った事なのかと思ったがそれなら昨日の時点で連星が話していても可笑しくはない。考えたら考える程なんの事なのか分からなかった。
だけども,2人の話は予想の斜め上を行った
「実は獅子君には美夢のガードを頼みたいの」
「……はい?」
ガードとは何のことが一瞬分からなくなり獅子は反芻したが,やっぱりボディーガードとかそちらの意味だろと結論した結果,余計に意味が分からなくなった
「何で俺があいつのガードをしないとダメなんですか」
確かに美夢はお嬢様なのでガードが付くこと自体は別に不思議には思わない。だけども,その矢面に立つのが何故か自分と言う点において獅子は不思議だった。
「それに,制圧するのとガードするのとでは役割が違う。俺に誰かを守るための戦いなんて出来ないしするつもりもない」
「それは怖いからじゃないのか? 知っている人達がいなくなるのが」
瞬間,獅子を中心に風が渦巻くように拭いた。彼が放つプレッシャーが溢れ出したのだ
「笑わせないでもらえますか。誰が何を言おうと俺は他人なんてどうでも良いし守る義理もない」
ガードを断る,と言う事だ。それに感情論を抜きにしてもはいそうですかと言わない理由もあった。
「そもそも今までガードなんてつけてなかったんだろ。何であいつが高校生になっているこのタイミングで付けるんだ」
美夢自体はもう高校二年生だ,だけど彼女には今までガードが付いていなかった。だからこそ今のこのタイミングで付けるのか分からなかった。彼女が幼稚園児とか小学生くらいならまだ分からないでもないが,彼女の暗しをここで変える事が良い事だとは思えなかった。
むしろ男にずっと引っ付かれるなんてストレス以外の何物でもないだろう。
「本来はその通りなんだが,最近は君も知っていると思うがきな臭くなっている。前のようなことがまた起きないとも限らない」
獅子が朱音を見ると,彼女は当時の事を思い出していたのか少し顔が険しかった。獅子は守るものが何もないので分からないが,確かに母親の彼女からすれば知らない所でテロが起きて,知らない所で娘が死んでいたかもしれないと考えただけで気が気じゃなかったのかもしれない。
「なら余計にだな。俺は今回の事で奴らに目を付けられた可能性だってある。そんな俺をガードにしたら余計に彼女に危険が及ぶかもしれない」
勿論,MOAを止めたのは獅子が初めてと言う訳でもない。各国の警察に当たる人達だって何度も阻止している。
だけども個人で止めて見せたのは獅子が初めてだったりする。
だから獅子の言っていることも事実ではある。寧ろ的を射ている。
「それなら君がここに来た時点で今更だと思うが」
「……こんにゃろ。俺を呼んだのはそれも目的か」
なんの名家でもない,特に血筋が優れている訳でもない獅子がテロを止めて直ぐにこんな財閥のパーティーに呼ばれたのを見た人たちは何を思うのか。少なくとも関係ないとは思わない。寧ろ桜田財閥が獅子のバックにいるとも勘違いでもしたら美夢が狙われる可能性も勿論出てくる。
そもそも,獅子の両親の話をするのに軽井沢に呼ぶ必要だってない。
「まあ,確かにそれもあるんだが……娘たちのライブも見てほしかったのも本当ではある」
「……何でそこまで俺に拘る。俺はあんたらの親友の息子かもしれんが,俺からすれば赤の他人だ」
獅子からすれば昨日まで知らなかった人達,例えアルスの親友だとしても獅子自身には何も関係のない話でありアルスの息子だからという理由ならば言語道断だ
しかしそれは杞憂なのか連星は力強く首を横に振った
「勘違いしないでくれ。これは君がアルスの息子だから頼んでいるんじゃない。君の力を,僕と朱音が認めたから頼もうと思ったんだ」
暴力は本来傷つける力,その使い方次第で世間の評価は変わる。獅子の評価は微妙な所だ,制圧したという点において安心だと思う人間と星朋大学での事を踏まえて危険だと言う人間もいる。
まあ,獅子自身は自分が努力して得た力に他人がどうこう言うなんて「そんな才能持ってるなんてずるい!!」とかあほなことを言っている連中と何もかわりゃしないから気にしていないのだが。
そして桜田夫妻にとって獅子は前者,制圧力を見て獅子が安心だと思っている人種。だからこそ一人娘のガードなんて頼もうとしている。
「……だから,俺は自分の力を自分のためにしか使わねえし,そもそもあいつだっていきなりガードだなんて言ったって戸惑うに決まっているだろ」
今まで余り向けられたことが無い信頼の言葉に一瞬目線を逸らしながら答える。だけど,その答えすらも一刀両断する天使の声
「そんな事ないです!! 」
突然大きな声で部屋に入って来たのは件の美夢だった
後ろには面白そうと言う意味の笑みを浮かべている胡桃とみいこ,隣にはちょっと慌ててる春奈の姿があった。
「私,獅子さんにガードをお願いしたいです!」
獅子は美夢を尻目にもう一度部屋の構造を見た。一見すると他の部屋と似た作りだが,何故か扉の所だけ木製なのに気が付いた。少しでも隙間が空いていて尚且つ壁に耳を当てれば話が丸聞こえだ。
そしてこの部屋を指定したのは連星たち自身。
(この野郎,わざとだな)
じいやと言われるあの老人がわざわざ胡桃達の前で獅子が呼ばれる所を見せたのも作戦の内だったのだろう。さっきの事と言い掌の上で転がされている。
「獅子さんなら,私の事をきちんと護ってくれます。だって,あの日だって護ってくれたじゃないですか」
周りの状況を把握し尚且つそれに対する最適解で美夢を家にまで送り届けた獅子は,確かにボディーガードには向いているかもしれない。本人が認めようとしないだけで。
美夢は獅子を嬉しそうに見ていて,その純真無垢な瞳には獅子も何も言えなかった
「あーッ! もう分かった!! 分かったから!!」
獅子は結局美夢には甘いのだった
お疲れさまです。次回から獅子の新生活