獅子と天使のコンチェルト   作:レオ2

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共感覚的美少女ストーカー

 金曜日の夜はワクワクする……という人が多いと言う。理由は……まあ言うまでもない気がするが土日を前にしているからだそうだ。

 俺自身は別に土日だろうがやる事は変わらないので金曜日だろうが何も思わない。俺にとって曜日はただの記号だ。

 

「……夏って感じだな」

 

 窓を開け,桜田家の大きな庭を眺めながら考えていた。窓から吹き込む風はどこか蒸し暑く,エアコンが効いている屋敷の中にいたからか余計にそう感じる。

 けれど,偶にはこうやって外の空気を浴びたいとも思っている。

 

「MOA……次はいつ動く」

 

 最近,街を歩く人たちはようやく前のように戻った気がする。元よりテロなんて言う非日常の方が可笑しかった訳だが,あれだけ大掛かりな事をして退くわけない。

 何時になるか分からないが,必ずまた動くはずだ。

 それこそ人々の中からあの出来事が薄くなり始めた時期に。

 それに……

 

「あいつらのボスを潰さない限り……か」

 

 このままじゃどうやっても今までと同じでトカゲの尻尾切りにしかならない。

 癪だが、あいつらのボスに目的があってそれを完遂しそうな時にノコノコ出てきてくれた方が俺としては助かる。どんな目的だろうが潰せば同じだから。

 

 コンコン! 

 

 そんな事を思っていたら背後の扉からノックが聞こえる。屋敷の中で俺は基本的の自由にさせて貰っている。暇すぎて美夢がじいやと呼ぶ男に頼まれて錦鯉に餌やりとかはするが、それ以外は自由行動だ。

 だから美夢の様に使用人に呼ばれる事はない、だからこのノックをしたのは

 

『獅子さんいますか?』

 

 美夢しかいない。

 彼女はあの日からよく部屋に来る。年頃の女が男の部屋を訪ねるものじゃないが、美夢はそこら辺を自覚していない。

 世間を知らないが故にこういう所は俺でも心配になるレベルだ。

 

「なんだ?」

『お茶をしませんか? 新しいお紅茶が入ったんです!』

 

 ……俺が紅茶をよく飲んでるからか彼女はよく紅茶を持ってくる。

 まるで犬が飼い主に求められた事を覚えて尻尾をぶんぶん振り回すように。

 美夢みたいな人を犬に例えるのもあれだが、多分見た人は同じことを思うと思う。

 

「……分かった」

 

 言って俺は扉を開けた。扉の先には既に寝間着に着替え、先程までバスにでも入っていたのか肌が火照ってる美夢がいた。

 その隣には装飾が高級そうなティーワゴンと、それにはティーセットが乗っていた。

 

「失礼しますね」

 

 俺に充てられている部屋とは言え、自分の家なのだから普通に入ればいいものを。

 美夢はティーワゴンのキャスターを転がして部屋に入ってきた。彼女が入ってきたので扉を閉めようとすると,通り過ぎた美夢から良い香りがしてきた。

 イチゴのような甘い匂い,イメージカラーのピンクとよくマッチしている。

 

「美夢もよく飽きないな」

 

 ”お前”か”桜田”と呼ぶと彼女は少し落ち込み始める。

 別に俺からすれば呼ばれ方ひとつでそこまでにならなくても良いと思うが,ある意味繊細な彼女はそういかないらしい。

 あとお前って言うと俺の耳を噛み始める。この前言ったらされた……犬と言うよりもやっぱ猫か。

 美夢は振り返り,満面な笑みを浮かべていた

 

「もちろんです! 獅子さんが一緒にお茶してくれるだけで私嬉しいです!」

 

 酷い事をしていた,その自覚はある。

 しつこい彼女を突き放す為に,何度も汚い言葉を放った。過去の自分がそうされたように。けれど,諦めた俺とは違って彼女は声をかけ続けてきた。

 

 ──ああ,これが俺とお前の違いだ

 

「……そうか」

 

 美夢はティーワゴンからティーセットを取り出し,二つのカップに紅茶を入れる。

 育ちの良さか,はたまた彼女の気質なのかは知らないが良く様になっている。俺が雑に紅茶を入れるタイプだから余計にそう感じる。

 そして美夢が入れる紅茶は美味しかったりする。それを美夢は使っている茶葉のおかげと言うが,俺はそうは思わないな。

 どんな強力な”力”を持っていたとしても,それを使いこなす技量が無いと宝の持ち腐れだ。俺がそのタイプだから余計にそう思う。

 

「獅子さんどうぞ」

「……ありがと」

 

 彼女から紅茶を受け取り,香りを楽しんでみる。

 心なしかミントの匂いがしてる気がする。美夢が口を付けているのを見て俺も飲んでみる。

 砂糖とかは入れていないから甘いという訳では無い。どちらかと言うとスッと入って来るミントの味だ。

 

「どうですか?」

「……美味しいと思うよ」

「ふふっ,ありがとうございます♪」

 

 嬉しそうにはにかみ,自分の紅茶に口を付ける。

 優雅で華凛,お嬢様を体現した姿にはいつ見ても驚くな。

 ライブでパフォーマンスする時とはまるで別人だな。

 

「あ,獅子さん明日のご予定は何かありますか?」

 

 明日は珍しい俺の不定休,美夢の方に家を出る予定が現状ないのとこの3週間ほど毎日ガードしてるので連星が休みにしたんだ。

 だから普段から一緒にいる美夢が明日の予定を聞いてくること自体は不思議ではない。

 

「明日のさおりさんとのお勉強が終わったら一緒におでかけしませんか?」

 

 普段からも一緒に出掛けているようなものなのに,彼女はまだ一緒にいたいらしい。自意識過剰かもしれないけど何故そんなに俺に拘るのかが全く分からない。

 別に凄い家の出身でもない。美夢とは反対の生き様を刻んでる俺に。けれども明日に関しては真面目に予定が入っている。基本的には予定が入らない事の方が多い俺には珍しい事だが。

 

「悪いが,明日はもう予定が入ってる」

「え……。そう……ですか」

 

 あからさまに落胆する美夢だが,明日の約束ばかりは俺の平穏の大学生活の為にいかなければならない。行かなかったら多分物理的に爆発の実験に巻き込まれる。

 

「どのような予定なのですか?」

「……俺がMOAをぶっ潰した時に持ってたボール型のデバイス覚えてるか?」

 

 一瞬何の事だろうと首を傾げていたが,やがて思い出したのか頷いた。

 MOAのドローン及び爆弾の遠隔操作を風にる為に放ったあの場での最善手,電波に関するもの全てを風采するある意味究極の一手……栞が名付けたジャミングインタラプトフロー……略してJIF。

 

「あれ作った人に借りを返す約束があるから明日は外で食べてくるしここにはいない。だからもし外に行くならじいやさんとかに頼んでくれ」

 

 明日は招き猫作戦の会議があるらしいから俺も結局行かなければならない。

 7月の担当は確かphoton maidenというユニットだったと思うが,詳しい事は知らん。けれども,明日にはどの道美夢のガードをするのだから明日くらいは許してほしいものだ。

 ……仕方がないのは本人も分かっているだろうが,そんなに不服そうな顔をするんじゃない。

 

 ★

 

 翌日,いつもの様に朝の鍛錬を終わらせた後美夢の家を出た。

 電車を乗り継ぎ,彼女との待ち合わせ場所の公園まで来た。と言っても待ち合わせの時間まであと3時間ほどはある。

 ならなんでこんなに早く来たって話だが,別に栞と会うのが楽しみと言う訳でもない。単純に美夢の家にいると気が休まらない。

 折角の休日なのだから今日くらいは美夢の事を忘れさせてほしいものだ。

 

「じぃー……」

 

 それにしても,あのテロから時間が経ったからかようやく誰も俺を見てこそこそ話とかする奴らは少なくなった。今だって公園のベンチに座っているけど誰も俺の事なんて気にも留めていない。

 偶に視線を向けられても男がベンチにいる事に対して何かを思っているだけだろう。

 大学じゃまだこそこそする奴がいるが,それはもう勧誘期間中にあの男を叩き潰した時からいたから今に始まった事じゃない。

 ……というか,俺としてはあの男もMOAの1員……ではないな。何と言うのかよく分からんが,とにかくあの男はMOAに魂を売ってあのような出来事を起こしていた事に驚いた。

 

「じぃー……」

「そりゃあ正輝が出動する訳だ。あれだけ大掛かりな事になるとは本人も思っていなかっただろうが」

 

 俺が大学で嫌煙されるようになったあの出来事,MOAがやつに拳銃という力を与えて暴れさせていたとこの間正輝から聞いた。

 あの男はあの後正輝たちに詰められていたらしいが,あいつ自身には情報は何もなかったらしい。怪しい男が近づいて,拳銃を渡して星朋大学で暴れるように言ったらしい。

 

「まともな人間なら受ける訳ないだろうが,あいつは受け取ってしまった」

 

 何があったのか知らないが,拳銃をぶっ放したことに変わりはない。あの撃たれた上級生も,一命は取り留めたらしいからまだ良かったものを殺人になる所だったな。

 ま,動機まで教えてもらっていないし興味もない。

 

「じぃー……」

「引っかかるのは何で星朋大学だったのかだよな」

 

 騒ぎを大きくするだけなら大学である必要がない。それこそ渋谷のスクランブル交差点の方が騒ぎにはなるだろう。まああんな狙撃ポイントだらけの場所でやる馬鹿はいないだろうけど。

 スクランブル交差点じゃなくても,東京には人がうようよいる場所は沢山ある。どうしてその中でもうちの大学を選んだのか。

 パッと思いついたのが

 

「俺をおびき寄せる為……そんな訳ないか」

 

 MOAとあの男が繋がって尚且つMOAが星朋大学に仕向けたとしてその理由を考えた時,俺をおびき寄せる為という事が浮かんだ。

 だけど,MOAと接点を持つ前のあの時にそんな事は考えられない。

 なら他に目的があったと考えるべきなのだろうが

 

「なんでだ」

 

 まともな理由が思いつかない。何故あんな謎の事をしていたんだ。

 

「じぃー……」

 

 所で,今日はきちんと影に紛れていたはずなのだが俺の事をめちゃ見てきている人が後方にいる。

 スマホの自撮り機能を使って後ろを見てみると,木の陰からどこぞの探偵漫画の様にひょこっと顔を出してこちらを見ている白髪のロングヘアーの女がいた。

 雪のような白いワンピースを着ている。

 見覚えがある女だ

 確か名前は……

 

「出雲咲姫……だったか? 何の用だ?」

「み,見つかってた?!」

 

 言いながら振り返ると,彼女はびっくりしていたのか硬直していた。

 けれども,俺に見つかった事が分かると潔くこちらに来る。出雲が立っている関係上ベンチに座っている俺は見上げなければならない。

 

「すみません,獅子さんを観察していました」

 

 なんだろう,滅茶苦茶おっとりしている感じがしていが意外にそうでもないのか? 

 

「俺を観察したところで意味ないだろ,まだ公園で遊んでる子供を観察してる方がまだましだ」

 

 言いながら遊んでいる子供を見てみると,3週間前の事なんか忘れているようで平和に遊んでいる。

 

「いえ,そんな事ないです。MOAの事があってから是非獅子さんとお話したいなって思っていました」

 

 出雲咲姫,今月の招き猫作戦を担当するPhoton Maidenと言うユニットのDJ兼ボーカルだった筈。聞きかじった程度のの事しか知らないが,Photon maidenは芸能事務所が全国各所からオーディションで選ばれた4人のユニット。

 オーディションの倍率は相当なものだったらしく,その理由が彼女達をプロデュースする人が有名なDJユニットの1人だったからだそうだ。熾烈なオーディションを生き残ったのなら,出雲にも他とは違う何かがあったのだろう。

 

 にしても,2週間前の響子もそうだけど何故俺に興味を持つのかさっぱり分からない。まあ響子に関しては自分達に少し似ていたからかもしれないが。

 

「隣,座っても良いですか?」

「……別に俺のベンチでもないんだから勝手に座ればいいだろ」

 

 さて,また面倒な奴に絡まれてかもしれない。

 失礼しますと言いながら隣に座る出雲を見て思う。……というか隣にいるのに何故かまだジッと見つめてくる。

 

「何だ?」

「獅子さんの色はとても面白いなって思いまして」

「……色?」

 

 一体何を言っているのかさっぱり分からない。

 

「咲姫は人の音を色として見る事が出来る共感覚を持っているんです」

 

 俺が疑問の色に染まっていたら,こちらに近づいてくる女がそれに答えた。

 そちらの方を見てみると,鼠色のロングヘアーの女と青いショートヘアーの女,クリーム色のロングヘアーの3人が近づいて来ていた。

 さっき答えたのは鼠色の女……名前は確か新島衣舞紀,PhotonMaidenのリーダーだ。

 水色の女は花巻乙和,クリーム色の女は福島ノアだったか。

 

「共感覚……なるほど。それは珍しいな」

 

 共感覚,ある刺激に対して通常の感覚とは別に違う感覚を勝手に知覚する事が出来る能力の事だ。文字に色がついて見えたり,味とかにも色を見出す人もいるらしい。

 出雲は”声”に付随して色が見えるみたいだ。

 

「咲姫ちゃんなんで虎舞さんと一緒にいるの?!」

 

 あ,やべ。ナチュラルに会話に参加していたから後から来た3人の事を忘れていた。

 

「獅子さんの色がとても面白かったので,是非お話したいなって思って……皆さんまだ約束の時間ではないですよね……?」

 

 どうやら彼女達は彼女達で集まる予定だったそうで,出雲がここにいるのは偶々だったようだ

 

「そうなんだけどね,偶々皆そこで会っちゃって……咲姫の方こそ早いのね」

 

 新島がそういうと,出雲がこちらを見ながら答えた

 

「いえ,私は獅子さんを駅で見かけて追いかけていたらここに」

「咲姫ちゃん! いくら美夢ちゃんのガードでも,迂闊に男性に近づいたらダメだよ!」

 

 全く持ってその通りだ。駅出た辺りから誰かつけてきているなとは思っていたが,どう考えても正輝の公安やMOAの類じゃないから無視していた。仮にその二つのどちらかだったら尾行が下手過ぎる。だから無視していた。

 まさか出雲のような少女……多分世間的には美少女からストーカーを受けるとは思わなかったが。

 

「え……どうしてですか?」

 

 出雲は出雲で分かっていなさそうなのが問題な気がする。

 PhotonMaidenやハピアラにピキピキの通う陽葉学園は女子高なので男はいない。だから考える必要もなかったのかもしれないが,出雲は多分素で分かっていない。

 

「ど,どうしてってその……」

 

 福島ノア,お前はお前でカウンターを喰らってるんじゃねえ。単純に危ないからで良いだろうが。

 

「はぁ……出雲,福島の言う事の方が正しい。世間的に異常者の俺と一緒にいる所をメディアになんか見られたらお前だけじゃなくてメンバーにも迷惑がかかるぞ」

「あ,えっと……そこまでは思っていないと言いますか……?」

 

 何故か福島の眼が泳ぐ。……ああ,なるほど

 

「いや思えよ。そんな事になったら俺に回り回って風評被害が来るんだから」

「ああ,自分の為なのね」

 

 花巻がなんか言っているが,俺が出雲の方がストーカーまがいの事をしていたと言ったとしても誰も信じないだろ。

 ならそもそもの原因を断ち切るしかあるまい。

 

「出雲,メンバーが来たのならさっさと行け」

「え,でもまだお話が……」

「咲姫,獅子さんの言う事も一理あるわ。お話をしたいのなら今度の招き猫作戦の会議の合間にすれば良いと思うわ」

 

 リーダーさん,言っている事は間違っていない。多分正解だろう。美夢のガードなら必然一度は会議に顔を出す事になるから間違っていない。寧ろ最適解だ。

 けれども俺の意志はガン無視ですか

 

「それも獅子さんが良かったらのお話になるけどね」

 

 あ,ちゃんと考えてはいたのか。それは疑ってすまなかった。

 なら遠慮なく咲姫のインタビューは断らせてもらう。

 

「咲姫ちゃん行くよー」

「……分かりました。獅子さん,今度是非お話してくださいね」

 

 花巻も援護に加わり,出雲はようやく腰を上げた。新島が去る前に振り返り頭を下げる。

 俺はさっさと行けというジェスチャーをして空を見上げた。

 雲一つもない晴天,運動するには素晴らしい日であることは間違いない。多分栞との約束が無かったら普通に修業していただろうな

 

「……そろそろ行くか」

 

 待ち合わせの時間が迫っていたので,俺も移動する事にした

 

 ★

 

 獅子と別れたフォトンの面々はショッピングをする為に近くのショッピングモールまで移動していた。

 乙和とノアが何やら可愛いものについて語っているのを横目に衣舞紀が咲姫に聞いていた

 

「咲姫,獅子さんの色が面白かったって……もしかしてMOAの日の事?」

「はい,獅子さん自身は『他人はどうでも良い』と言っていました」

「確かに言ってたわね……美夢はそんな事ないって言ってたけど」

 

 この前の招き猫作戦の会議にて,美夢自身はそれほど獅子に悪感情を抱いている様には見えない。寧ろ結構懐いている気がする。

 

「私も美夢さんの言う通りだと思います。あの時の獅子さんの色はとても怒りに燃えていて……とても他人をどうでもいいと思っているように見えませんでした」

「……怒り?」

 

 テレビやネットだけの獅子を見るのなら,戦う事はあれどそれが他人の為という印象は無かった。

 ただ自分の為に戦っていると言うイメージの方が強い。

 

「はい,とっても真っ赤な……炎の色でした。でもとても暖かく,安心する色」

「そうだったんだ」

 

 咲姫はどうやら獅子をそれほど怖がっている様子はない。

 寧ろ少し好意的に見ているようだ。

 なら衣舞紀はリーダーとしても,咲姫の友人としてもきっと獅子の事を信じるべきなのかもしれない……と思ったのだった

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