獅子と天使のコンチェルト   作:レオ2

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今回で一つの区切り


戦う理由

 MOAによるテロが起きて数時間が経過した。東京どころか日本の都市部では緊急事態宣言が発令され,不要不急の外出は禁止になった。だが,外に出ていた人達が一瞬で家に帰れるわけなく被害の数は増していく一方だ。

 外では忙しなくパトカーや救急車のサイレンが響いていて,街は不安に包まれていた。

 

 美夢はカーテンを開けて外の様子を見ていた。と言っても,既に辺りは暗くなり始めていてまるで世界が闇に飲まれているように見える。

 普段なら何も思わないこの暗闇も,今だけは不安をかきたてる。

 

 ふとスマホの画面を見ると,そこにはメッセージアプリが開かれている。

 

『招き猫作戦!』

 

 というグループが表示されていた。美夢からの安否確認のメッセージに全員が返事してくれてほっとした。

 大切なお友達がもし被害にあっていたらと思うと心配でいられなかった。

 

「皆……良かった。きっと主様が守ってくださったんですよね」

 

 有栖川学院はキリスト教の学校でもあるのに加え,美夢自身も神を信じている。きっと神様は自分達を見てくれていると。

 

 コンコン! 

 

「はい?」

 

 美夢の部屋のドアがノックされたので反射的に返事すると,さおりがドアから顔を覗かせた。その姿は既にメイド服ではなく私服だ。

 

「美夢ちゃん,晩御飯だって」

「分かりました。今行きますね」

 

 スマートフォンをポケットにしまってさおりと共にリビングに向かうと,既に美夢の母親が席についていた。美夢母は美夢達を見ると顔を綻ばせ,どこか安心した様子を見せた。

 

 因みにさおりも本来なら勤務が終わり家に帰っている時間なのだが,美夢の母親の提案で今日は泊まっていく事になったのだ。

 

 そのさおりは目の前のその豪華なご飯にしり込みしている

 

「こ……こんな豪華なご飯本当に頂いてもいいんですか……?」

 

 どこか声に覇気がないが,さおりの目の前には彼女が食べたことないような晩御飯があった。

 以前,美夢に誕生日プレゼントとして海外セレブ御用達のティーセットを頂いたことはあるが,それにも引けを取らない衝撃だった。

 

「勿論です。さおりさんにはいつも美夢がお世話になっているのだから,これくらいの事は当然です」

「そうですよさおりさん。いつもありがとうございます」

 

 改めて,自分が教えている女の子はとんでもない人物なんだなと再認識した。

 そしてテロが行われていると言う中だが,家庭教師と生徒と生徒の母親の晩餐は続いた。

 極力テロの話題には触れず,美夢の学校でのお話や家庭教師中のさおりの話,さおりは肩を固めず,リラックスした状態で話が出来た。

 それは美夢の母もさおりが緊張しないように柔らかい雰囲気を出してくれていたおかげでもある。

 

 晩餐も終わりが近づいてきた頃,20時を回った頃にリビングに1人の老人が入って来た。さおりも見たことがある人で,確か古くからこの桜田家に仕えていて美夢が「じいや」と呼んでいる人だ。

 

「皆様,お食事中失礼いたします」

「どうされたんですかじいや?」

 

 じいやは美夢の問には答えず,母親の元まで行き耳打ちをした。そしてそれを聞いた母親は大きく眼を見開いた。

 

「本当なのですか?」

「はい。本当の事でございます」

「そう……」

 

 ただならぬ雰囲気へと変わっている母親にさおりと美夢は顔を見合わせる。

 

「お母さん,どうしたの?」

「……見てもらった方が早いかもしれないわね」

 

 美夢母はじいやにテレビをつけるように言った。桜田家では今回のようにお客さんがいる時や,父がいる時には話をしながら食事をする事はあるが,テレビを見る事はそれほどない。

 美夢の部屋にもテレビはあるが,最近はDJに関してのニュースを見る事の方が多い。

 美夢母はそんな美夢よりもテレビを見ないと思っていたので美夢は少し驚いた。

 しかし,色がついたテレビを見た2人は呆けた声をあげた

 

「「……えっ?!」」

 

 そこに映っていたのは,虎舞獅子が背景にどこかの夜景と開けた場所に映っていた。獅子の背後に広がる景色は普段ならとても綺麗な夜景なのかもしれないが,今だけは炎が所々で舞っており地獄絵図と化していた。

 

「虎舞?! なんで!?」

 

 さおりがいの一番に反応した。

 

「さおりさん,あの子の事知っていたの?」

「知っていると言うか……」

「そっか,同じ大学だもね」

 

 何故美夢の母親が獅子の大学まで知っているのか,そもそも何故獅子の事を知っているのか,さおりの考えはそこまで回らなかった。

 美夢も獅子の状況に驚きの余り口元を抑えている。

 

『何故この場所が分かった』

 

 獅子じゃない,画面の中の誰かが獅子に聞いた。美夢はMOAの動画は見ていないので分かっていないがペストマスクの人間の声だ。男かも女かも分からない声が印象に残る。

 問いかけられた獅子は心底小馬鹿にしたように答えた

 

『馬鹿と自己顕示欲が強い奴は高い所が大好きってのは相場だろ』

『馬鹿は酷いね。我々は人類の救世主だというのに』

『救世主の割にこっから泣き喚く人間ども見たいってのは,あるまじき行為だと思うがな。ついでに言うなら,今回は別に俺じゃなくてもお前らの居場所を突き止めるくらい簡単だったと思うぞ』

 

 話がいきなりすぎてさおりと美夢には何が何だかさっぱり分からなかった。獅子がいきなりテレビに映っていることもそうだし,後ろの地獄絵図も,居場所云々の事も意味が分からない。

 それを美夢の母親が補足するように話した。

 

「20時に一斉にテレビが乗っ取られたみたいで……爆弾のボタンが押されかけた時に獅子君が来たの」

 

 つまり,テロの様子を映していた映像が急に終わりを告げて何故か獅子が映し出されていたと言う事だ。

 

『ほう,どこら辺が簡単だったのかな?』

『お前らのSNSでの映像はほぼほぼドローンが使われていた。ドローンの電波の最大伝送速度は国にもよるが日本だと4キロメートル,米国じゃ5キロらしいがな』

 

 獅子の謎のマメ知識が披露されているのをまともに聞いてる人間などいなかった。謎の人間がいきなり画面に現れペストマスクと対面しているのだからそれ所ではないのは分かる。

 だけども獅子の話は続いていた。

 

『だけど,それは何も障害物もない時に限られる。こんな街中じゃ一般回線を使っては届かない。なら一般じゃない……元々地上波放送の電波を送る為に作られたこの東京スカイツリーに来るのは少し電波に詳しい奴なら直ぐに分かる』

 

 確かに少しドローンに詳しい人ならば,きっと獅子と同じ結論に辿り着くことは出来たかもしれない。けども分かったからと言って単身で乗り込むのは馬鹿の所業と言うほかあるまい。

 これが獅子じゃなかったらだが

 

『それに,東京の象徴の1つとも言えるスカイツリーが綺麗に残ってる時点で怪しいだろ』

「ここスカイツリーなんだ……」

 

 緊急事態宣言が出ている中,街中に飛び出るのは警察かただの馬鹿だけである。

 獅子はどちらかというと後者になるかもしれない。というよりも警察じゃない時点で後者だ。

 獅子の言う通り街を生まれ変わらせると言う意味なら,首都東京の象徴の1つとも言えるスカイツリーは真っ先に潰されていても可笑しくはなかった。

 それが綺麗に残っていると言う事は犯人達がいるかもしれない,そして実際に正解はスカイツリーだったらしい。

 

『我々の各地のドローン映像が一瞬で壊れたのは君のせいかな?』

 

 彼への問いかけは,獅子が胸元から栞から授かったボール型アイテムを見せびらしながら答える。

 

『流石に各地にあるドローンを壊すのは無理だが,妨害電波で潰すのは簡単だ。ついでに遠隔操作で爆発させることが出来る貴様らの爆弾も,今じゃお釈迦だな』

 

 あの数々のテロの映像はドローンで撮ったものらしくその本体が使用不能であれば,映せなくなるのも道理。

 戸惑う美夢だが,不思議と獅子に目が引きつけられていった

 

『困るなぁ。せっかくいい映像が撮れてたのに』

『そいつは残念だったな』

『君,MOAに逆らうの?』

 

 恐らく,テロ組織の中でも最高の戦力と残虐さを持っているMOA。その標的に定められた時何が起こるのか想像できない。だけど,美夢にも感じた。獅子が放つ眼光とそれに付随する不敵な笑み。

 

『逆らう? 笑わせんな,元々貴様らなんざどうだっていい」

 

 どうでもいい……このワードを獅子がよく使う事に美夢は気が付いた。

 

(本当に……そうなのかな)

 

『なら何故邪魔をする。正義のヒーローにでもなったつもりかな?』

『馬鹿言え,ヒーローってのはどんな命も見捨てない奴がなるのであって,他人が死のうが生きまいがどうでもいい俺にとって無縁なもんだ』

 

(また……)

 

 美夢は悲しくなった。自分が傷つかないように一緒に帰ってくれた獅子は何だったのか,あの優しさは嘘だったのか。

 一触即発の状態の中獅子の視線が移動する。

 

『お前を入れて7人か』

『それがどうした』

 

 獅子の言葉の後,獅子の周りを隠れていた6人の覆面の男たちが囲んだ。各自がそれぞれ拳銃や刀を携えていた。そんな物騒な光景は今まではユニットのメンバーの一人に見せてもらったホラー映画でしか見たことがない。

 だけど,現実として目の前では獅子が年齢も国籍も性別の不詳の人達に囲まれている。普通ならきっと絶体絶命の状況……と言う奴なのだろう。

 

『君を殺すのに気配なんて消す必要はないね。我々に逆らった見せしめとして,君が無様に死ぬ様をこれを見ている人間どもに見せつけてやろう』

 

 傍から見れば絶体絶命の状況でも,不思議と美夢は怖くなかった。画面の向こうで不敵な笑みを浮かべている獅子がいたから

 

『ふっ……』

『何が可笑しい。気でも狂ったか』

『生憎だが俺は昔から狂ってる。そうじゃなくて,俺を殺すのにこの程度の人数で良いのか?』

『なに……?』

『だとしたら,ただの馬鹿だ!!』

 

 瞬間,映像の中にいる獅子が霞んで次には拳銃を持っている覆面に迫っていた。

 

『……ッ?!』

 

 覆面の男は咄嗟に拳銃を獅子にぶっ放し,殺そうと試みたが獅子はそれを首を数㎝捻るだけで躱した。すり抜けた銃弾はスカイツリーの床を抉っていった。銃弾を躱された覆面の眼は大きく開いていた

 

『What!?』

『遅えよ!!』

 

 二発目を放とうとした男の懐に踏み込み,強烈なボディブローが炸裂した。男の意識は一瞬で刈り取られ地面に倒れて拳銃が転がった。

 

『you!!』

 

 仲間がやられたのを見た2人目の覆面が銃口を向けたのが見えたら,獅子は右足を軸に身体を後ろに捻った。すると二発目の銃声が響き,獅子の心臓があった場所に銃弾が通り過ぎた。代わりに背後では窓が割れる音がした

 

『NO kitting!!』

『良いもんやるよ!!』

 

 その捻った状態のまま左足を上げインフロントキックで男が落とした拳銃を蹴った。拳銃は男の拳銃に吸い込まれて手首にダメージを与えて,持っていた拳銃を吹き飛ばす。

 

『貴様ァ!!』

『なんだ日本人もいるのか』

 

 のんきなことを言いながら獅子は向かってきた二人組の覆面を迎え撃った。

 1人はどこからか持って来た鉄パイプを振り下ろした。一発でも当たれば怪我するのは必須だが,当たらなければどうと言う事はない。

 振り下ろされた鉄パイプを前に1回転しながら躱すと,2人目の刀を持っていた男が前に迫っていた。それを避ける……かと思った獅子はその刀を素手で受け止めた

 

『なっ?!』

「あっ!」

 

 美夢も思わず悲鳴に似た声をあげる。刀を受け止めた獅子の手から血が噴き出したのだから当然である。

 だがその獅子本人は意も返さず,直ぐに行動に移した。

 目の前の刀男ではなく背後にいる鉄パイプ男の背中を回し蹴りで吹き飛ばし,刀を持った手を勢いよく捻る事で相手の手元から刀が離される。

 刀は地面に落ち,獅子は相手の肩を持って強烈な膝蹴りをお見舞いした

 

『ぐぁ?!』

 

 近接戦を仕掛けた2人はあっと言う間にダウンして獅子が冷たい眼で見送った後,地面に落とした刀をかかとで踏みつける事で浮かして手に取った。

 すると直ぐに銃声が聞こえて獅子は徐に刀を下から上に振り上げた。振り上げた瞬間,耳に残る金属音と衝撃波が獅子を揺らし背後にあった窓が割れた。

 

「う……うそー」

 

 さおりは思わず呟いた。今何が起きたのか鮮明に分かった訳では無いが,先程獅子に拳銃を蹴られた男が放った弾丸を斬った事だけは分かった。

 弾丸を斬った後,こちらの様子を伺っていた残りの2人に刀を投げつける。

 2人がそれに対処している間に獅子は拳銃を放った男に迫る。男が反応する前に懐に潜り込み,男の顎を下から蹴り上げた。

 

『早い……?!』

 

 今更のペストマスクのコメントも,獅子が刀を投げつけた男二人に迫っているのを見ている世間は気にしていられなかった。刀を避けたであろう2人は獅子に同時に打撃を繰り出す。

 

『morir!!』

 

 美夢には何語か分からないが,良くない単語なのは分かる。

 でもしっかりと打撃に対応し,隙を見つけた獅子は1人に鳩尾に正拳突きを噛ました。

 そして,連携が崩れたもう1人の男にも拳を鳩尾を放ち意識を刈り取った。

 

「……本当に強くなってる」

 

 美夢母がそう呟いたのを美夢もさおりも聞いてはいられなかった。それほどに今の攻防が次元を超えすぎていて,獅子の強さがひしひしと伝わった。確かにこれならたった1人の拳銃を持っている男など簡単に制圧できるだろう。

 あっと言う間にペストマスク以外の面子は全員地に伏した。獅子は最後の1人を倒し,ペストマスクを見据えた。

 

『こんなもんか。MOAも大したことないんだな』

『貴様は何者だ!! これ程の戦闘力を持っていて何故我々の邪魔をする!』

 

 先程までとは違い,声がどこか震えていた。それが分かるのは,彼が持っているであろうカメラの映像も震えているからだ。

 圧倒的な力の差,拳銃なんてものともしない戦闘力は彼にとっては異次元のものだ。

 

 

『貴様らに名乗る名ない。それに,俺には貴様らと戦う理由がある。ただそれだけの話だ』

『なんだと……?』

 

 

 獅子は自分の拳を握りしめながら持ち上げる。

 

『貴様らに何があって堕ちたのか知らねえが,俺の目の前に立ったのが運のツキだったな』

 

 自分の戦う理由については語らず,終幕宣言をする。

 ぶれぶれの映像からも,ペストマスクの動揺が伝わってくる。震える声が画面いっぱいに響いた

 

『お前は何とも思わないのか! この国の政治は腐敗し,強者はその権利を振りかざし弱者から搾取している今の現状が! どれほど愚かで無意味な世界になっているのか知らないのか!』

 

 いきなり語り始める。

 

 それは美夢からしたらまだよく分からない言い分であった。

 確かに,美夢に関しては環境は恵まれているとも言えるだろう。何一つ不自由な事はなかった。だけどきっと世界には恵まれない子供とかもいて,自分には想像もできない環境にいる人もいる。

 しかし,だからといってこんな事をしていい筈はないし手段がそもそも間違っている。

 心優しい美夢だって,それだけは分かる。

 

「そんな事で……あの子がどうして苦しまないといけないの」

 

 思い出すのは今日のあの少年の事。獅子に縋りついて泣く姿は見ていられず,その光景は強烈なインパクトとして未だに胸の中にある。一生忘れる事が出来ないであろうその光景は惨く,これからの少年の人生を思うと悲しみでいっぱいだった。

 

「獅子さん……」

 

 しかし,それを聞いた獅子の瞳が怒りに染まった……そんな気がした。

 だけども,それは勘違いではなかったようで一瞬で獅子の周りの雰囲気が変わった。姿かたちは何も変わっていない筈なのに,彼から確かな怒気を感じる。

 

『平等や公平なんて言葉は確かに理想的で,本来誰もが目指すべき世界なんだろう』

 

 それはペストマスクの発言を一部肯定する言葉

 

『けどな,そんなものは人間が人間である以上無理な話だ。人は生まれた時から持っているものが違う。才能が違う。生き方が違う。それを全く同じようにしようなんざロボットと何も変わらん』

『ならこの世の中が許されると言うのか!! 腐った政治家や権力者がいる今が許されるとでもいうのか!!』

 

 獅子の言葉を認めたくないのか畳みかけるように叫んだ

 

『俺の親父は日本の金の動きを調べる中で不正に気が付き告発するところまで来た! それに気が付いた今の日本の上層部があらぬ罪を着せた! 掴んでいた証拠も,無慈悲に消され……親父は死んだ』

 

 まだ父の会社を手伝ったりしたことがない美夢からすれば,きっと”働く”と言う事は色々ある大人の世界。その中にはきっと理不尽な事が嫌な事もある。だから彼が怒っている事の全てを糾弾する資格はない。

 

『親父のやった事は何も意味が無かったんだ!! ただ無様に……この国に殺されたんだ!!』

 

 彼の叫びは悲痛に満ちていて,到底作り話のようには思えない。きっとすべて本当の事で彼は壊れ,そしてMOAに行く事でそんな世の中を変えようとしたのかもしれない。

 彼に獅子はどう答えるのだろう,そう思った美夢はもう画面から眼を離すことが出来なくなっていた

 

『……はぁ』

 

 1つ,自分の中の何かを抑え込むようにため息をついた獅子は,この闇の中でもよく見える金茶色の瞳で見据えながら口を開いた。

 

『ならお前は,大事なものを失った奴の気持ちが分かるって事か……』

『なに……?』

 

 瞬間,獅子の怒気が風となって吹き荒れ,画面越しでも伝わるほどに溢れ出した

 

『その気持ちが分かるのに,何でこんなくだらない手段に出た』

 

 彼はゆっくりと歩き始めた。

 

『正義なんてものは人によって姿を変え,それがぶつかることなんてままある。貴様も貴様なりの正義で動いてたんだろう。けどな,小学生のガキでも知っている事だ』

 

 カメラ残り4,5mと言ったところで足を止めた獅子の瞳はとても綺麗で,美夢は少し魅入ってしまった。さっきまでとは違い確かな意志が宿った眼。

 

『”自分がやられて嫌なことは人にするな”,俺が言いたいのはそれだけだ』

 

 そう言って獅子は構えを取る。

 

『貴様らのせいで,大事な人を失った奴がいた。そいつがこれから先,どんな人生を歩むのか興味ないが……少なくとも貴様らのせいで道を踏み外すことなんて無いように,貴様らを潰す』

 

 それが誰の事なんて……今日一緒にいた美夢にはよく分かる。

 それに気が付いた美夢は,胸が嬉しさでポカポカし始めた。獅子も,少年の事を気にかけてはいるではないか。きっと興味がないなんて嘘だ。本当は心配している。

 少年がMOAの事なんて考えないようにする為に,わざとこんな映像の前でペストマスクを倒そうとしたんだろう。そうする事で,少年の心を少しでも救うために。

 

「……良かった」

 

 小さく美夢は呟いた

 

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