パーティが終わった後、俺はギレーヌとエリスを自室に招いた。
別に変なことをするつもりなんてこれっぽっちも無い。ちょっとした晩酌をするだけである。
エリスもギレーヌもロクにご飯を食べられていないからな。
机にはメイドさんに運んで貰ったご馳走が並ぶ。
そして俺は戸棚から予め買っておいた結構いい酒を取り出した。
もちろんグラスは3つ。
この国では飲酒は15歳からだが、
まぁ精神年齢は超えてるってことでいいだろう。
2人は待ちきれないと言わんばかりに口からヨダレを出している。
待たせるのも悪いので早速始めるとしよう。
「では、乾杯!」
「「乾杯!」」
楽しい晩酌の始まりである。
さてさてまずは料理をパクリ。
うん、少し冷めているが十分美味しい。
でも俺はもうお腹いっぱいなので2人に沢山食べてもらおう。
代わりに酒を飲む。
おぉうめぇ。流石高いだけはある。鼻に抜けるこの風味。
前世もそれなりにいい酒飲んできたけど、この酒も悪くない。
いや、このぐらいの味でないと困りますわ。
なんてったって金貨2枚したんだから。
「美味しいわね」
「ああ、美味い」
2人にも好評な様子。
やっぱ酒はいい物に限る。これなら満足してもらえるだろう。
いい晩酌になりそうだ。
晩酌もある程度進み、
2人もたらふく料理を食べて今はちょっとまったりタイム。俺が豆知識を語ったりとたわいもない会話をしていた。
そろそろ頃合いかな。
「いいタイミングなので渡しておきます」
俺はそう切り出して、ベッド脇の棚の中から、二本のワンドを取り出す。
いいタイミングとか言ったが今日はこれを渡すつもりだった。
エリスはそれ知ってるって顔でワンドを見つめている。
ギレーヌはなんだそれはって顔だな。
「ギレーヌもエリスも魔術が使えるようになりましたからね。お祝いとして杖を送ります」
エリスとギレーヌはそれを聞くとやおら立ち上がり、恭しく片膝をついた。
もちろん知ってる。これは剣神流の門弟が師匠に敬意を払う時のポーズだ。
「ハッ、ルーデウス師匠。ありがたく頂戴いたします」
「うむ、苦しゅうない」
「ありがとうございます。ルーデウス師匠」
「うむ。よきにはからえ」
畏まられたので恭しく渡した。
あ、前渡したときもこんな感じだった気がする。懐かしい。
「これで私も魔術師を名乗れるのか」
「ええ、今日から剣王ギレーヌは魔術師ギレーヌです」
「そうか」
嬉しそうな顔でギレーヌがそう呟く。
絶対に剣王ギレーヌの方がいいと思うけどな。
まぁいい。本人が満足しているので特に何も言わないでおこう。
それにまだ渡すものがある。ギレーヌにではないんだけど。
俺はベッドの下から箱をひとつ取り出した。
「エリス。これをどうぞ」
「え……」
そう言いながら箱を渡す。プレゼント用の装飾がされたら箱だ。
「プレゼントはもう貰ったわよ」
「それは魔術が使えるようになった祝い。こっちは誕生日プレゼント」
「〜〜〜〜〜あ、ありがとう!」
エリスは呆気に撮られた顔をした後、目を輝かせて喜んだ。
なんかこう、見てると力を貰えそうな顔だ。
「開けていい?」
「もちろん」
俺がそう言うと猛スピードでラッピングを剥がす。
中から出てきたのは黒を基調とした重厚感のある箱だった。
エリスはそれをゆっくりとひらいた。
「ブレスレットね!」
箱の中身は赤と金の混ざったブレスレット。装飾はそんなにない。
エリスはよく動くので装飾が多い物は嫌うからな。その代わり質感はこだわってある。つるつるなめらかなはずだ。
「つけてみて」
「分かったわ」
腕にブレスレットを通す。
しかしブレスレットはエリスの腕よりも大きいのでかなりブカブカだ。
これは致命的なミス…………ではない。
次の瞬間ブレスレットが急激に縮小し、エリスの腕にぴったりのサイズとなった。
「す、すごい」「あぁ、これは驚いた」
ふ、ふ、ふ。そうだろそうだろ。
結構頑張ったからなそれ。上手いこと縮めるのに苦労したよ。最初は穴の大きさがトッポぐらいになって焦った。
元となったのは闘神鎧だ。闘神鎧も装着者にあわせてサイズを変化させることができる。
流石にあのサイズのものは出来ないがブレスレット程度ならなんとかできた。
それにそのブレスレットにはまだ機能がある。
「じゃあ今度はブレスレットに魔力を送る意識をしてみて」
「ど、どうやって」
「普通に魔術を使う時みたいでいいから」
「……やってみる」
エリスが集中してブレスレットを見つめる。
するとブレスレットが光り輝きだした。よし、上手いこと起動したな。
このブレスレット、魔力を通すと光るのだ。それもまぁまぁ強めに。凄いだろ!
「できた、魔力通せたわ!」
あ、そっち……
光ったことじゃなくて魔力を通せた方が嬉しいですか。
「よ、よかったねエリス」
「えぇ! ありがとうルーデウス」
「あぁ、うん。とりあえず誕生日おめでとう」
そんな満面の笑みで喜ばれたらなにも言えないですよ。
それ光らせるのも結構大変だったんだけどね。
機構を2つ、正確には3つも組み合わせてるんだから。
まぁ確かに光るってしょぼいもんな。
でもエリスの魔力量とか汎用性を考えるとこれが1番だと思うんだよ。いつか役に立つ日が来るはずだ。
エリスはそれから暫くブレスレットを眺めたあと尋ねてきた。
「で、これどうやって取るの?」
当然の疑問だな。
そのブレスレットは取れない。な訳ない。
もちろん取れる。それが3つ目の機構だ。
「ルーデウス好きって言ってみて」
「…………る、ルーデウス、すき」
小声でエリスがそう言う。場は静寂に包まれた。
「取れないじゃない!」
「俺が言って欲しかっただけだからね」
あははは、バカだなぁエリスは。
バン! ぐぇ!
結構強めで殴られた。バカは俺か、普通こうなるだろ。わかってただろうが。……酔ってんのか?
「ごめんなさい。3回ブレスレットをタップしてください」
「…………ふん!」
ブレスレットが3回タップされる。すると元のサイズに戻り、エリスの手から外された。
「最初から言えばいいのよ。……でも、嬉しかったわ」
あら可愛い。殴られた痛みも消えちまったよ。
いやー、プレゼントしたかいがあったな。
「それで、その……」
エリスは今度はギレーヌの方を見ながらそう呟く。
ギレーヌもその視線に気付いて、数秒固まった後、首を振った。
「すまんが、私の種族にそういった習慣はなくてな。何も用意していない」
なるほど。ギレーヌからのプレゼントが欲しいのか。確か前は指輪を貰っていたな。今回も多分それが欲しいのだろう。
「えっとね、あの、準備したものじゃなくても、えっと」
指輪は欲しいが直接本人には言えない。
何とかして指輪を貰いたいらしいが口下手なエリスはしどろもどろしていた。
すると突然俺の方を見てきた。助けてルーデウスって顔に書いてある。
仕方ない。助けてやるとしますか。
俺は嫁さんと自分の子には甘いんでね。
「ギレーヌ。こういうのは特別に用意していなくてもいいんですよ。普段身に着けているものとか、お守りになりそうなものとか。そういうのでいいんです」
「ふむ」
ギレーヌはふと考えると、自分の指から一つの指輪を外した。
木彫りの指輪で、かなりくたびれて傷が付いているが、光がやや緑色に反射して見える。
「一族に伝わる魔除けの指輪だ。
付けていると夜に悪い狼に襲われないと言われている」
「い、いいの?」
「ああ、ただの迷信だったからな」
よし、上手いこと話を持っていけたな。
エリスは怖々とそれを受け取ると右手の薬指に付け、ぎゅっと胸元で両手を握った。
「た、大切にします」
あれ、俺のブレスレットより喜んでない?
ま、まぁギレーヌからの貰い物だもんな。別にいいよ。そんな所で肩を張る気はない。
俺のもギレーヌのも喜んだ。それでいいじゃないか。
それと迷信のところは触れないでおこう。パウロの情事など興味は無い。それに今日はもっと明るい話題の方がお似合いだ。
「では晩酌を続けましょう。夜はまだこれからですよ」
「そうね!」
「あぁ」
それからは酒を飲みながら語らいあった。特に俺の桃から生まれる男の話がウケた。
こうしてエリスの記念すべき2回目の10歳の誕生日は、何事もなく上手くいったのである。
窓から朝日が差し込む。その光に照らされて俺は起きた。
「頭いてぇ」
目を瞑りながらそう呻く。どうやら二日酔いっぽい様子。
まぁ仕方ない。美味くて酒精の強い酒をそれなりの量飲んだのだ。対して強くない俺が酔うのは当たり前だろう。
とりあえず早くこの痛みから解き放されたいと思い解毒魔術を使用した。痛みがすぅと消えていく。
完全復活パーフェクトルーデウス様だぜ!
……さて、起きるとしますか。閉じていた目を開く。
すると目の前に丸くなりながら寝ているエリスがいた。
「お、おお」
これはまさか、やっちまったか。13までという自分の制約も守れずエリスと一夜の過ちを。
……んなわけない。
ちゃんと覚えている。
エリスは俺より酒が強かったはずだがそれは大人の時の話。今は10歳になりたての少女である。エリスも普通に酔って俺のベットに倒れ込んだのだ。
ギレーヌはそれを見るとそろそろ帰ると言って自室に戻ってしまった。……エリスをおいて。
さて、この部屋には俺とエリスの2人。
しかも前世での関係は夫婦。何も起きないはずもない。本来なら。
だが俺は決めたんだ。13歳まではヤらないと。禁欲のルーデウスである。
「おやすみエリス」
今寝た訳では無いのだがなんとなくそう呟いて静かに部屋を出た。
肌寒い廊下を静かに歩く。目指すはこの屋敷に1本だけある塔。
そう、サウロスに会いに行くのだ。
屋敷の最上階まで登った後、塔の入り口である螺旋階段を登る。
ある程度登った所でニャンニャンと艶めかしい声がしてきた。確定演出だ。
なので、できる限り音を立てないように登る。
予想通り最上階にサウロスがいた。
人一人が入れるかどうか、という小さな小部屋で、メイドとにゃんにゃんしている。えっちな爺さんめ。
よし、ひとまず鑑賞だ。
他人のそういうのは以外と見る機会が無い。この世界にAVなんて無いからだ。
お! ドルディアのメイドは俺に気づいた。あら、さらに興奮しちまってるよ。どうやら露出プレイが好きなご様子。
爺さんは爺さんで、若いな。歳の割に腰付きがいい。
うーん、目の毒だな。
禁欲中の俺には非常に良くない。うん。やめるか。
結局最後まで見た。後悔はしてない。
コトがおわるとメイドはすぐに俺の脇を抜けて階段を降りていった。
それを見てサウロスが俺に気づく。
「…………ルーデウスか」
普段と違う落ち着いた様子。賢者タイムかな。
「はい、サウロス様。おはようございます」
貴族流の挨拶をすると、サウロスは手で止めた。
「よい。何をしにきた?」
「階段があったので、登りに来ました」
「高い所が好きなのか?」
「はい」
本当はあんたに会いに来たんだけどさ。
ただまぁ、事実高い所は嫌いじゃない。
昔は苦手だったがそれよりもっと怖い経験をしてきて大したことないと感じるようになった。
それに今なら落ちても魔術でなんとでもなる。
「サウロス様はここで何を」
「儂は、あそこにある珠に祈っておった」
珠。
フィットア領上空に浮かぶ赤い珠。
膨大な魔力を持ち、転移事件を引き起こす珠。
今日はそれについて話に来た。
「僕も見ましたが、あの珠。サウロス様はどうお思いですか?」
「あれが何かはわからん。だが悪いものでは無い」
「なぜ、そう言い切れるんですか?」
「そう考えたほうがよいからだ」
確かにそういう考え方もあるだろう。
何かわからないものはむやみに触れず、悪いものでは無いと考えた方が楽である。
でもそれは何も起こらない時のみに通る話。
残念ながらあの珠は未曾有の大災害を引き起こす。
止めようと考えこともあったが全く考えが浮かばない。
オルステッドなら何とかできるのだろうか? 神刀で切るとか……
話がズレたな。
とにかくあれは悪いものだ。だから無策という訳にはいかない。
「……本当にそうでしょうか」
「なに?」
「あの珠は本当に悪いものでは無いのでしょうか」
「……何が言いたい」
「僕はそう思いません」
怒られるだろうか。サウロスの考えを真っ向から否定している。最悪家庭教師を辞めさせられるかもしれない。
いや、サウロスはなんだかんだ言って人の話を聞いてくれる奴だ。素直に話そう。
「いつかあの珠は何か起こします。それが何かは分かりませんがこのフィットア領に少なくない影響を与えるはずです」
「ではどうしろと」
「その時に何かできるのはサウロス様、貴方です。何が起きてもお金は必要でしょう。今からでも遅くない。資金を貯めましょう。そして計画的に割り振るんです」
「……所詮は妄想だ」
だ、だめか。
何かわからんけどきっと何か起こる。そのために金を貯めよう。そんなことを8歳のガキが言ってくる。怪しさプンプンだ。
やはり無理か。
「だが、貴様の予想が本当だとしたら。……考えてはおく」
ま、まじか爺さん。
あんた最高だよ。こんなガキの話を信じてくれるなんて。
もしかしたら俺の事それなりに評価してくれているのかもしれない。
「ルーデウスよ、儂はこれから遠乗りに出掛ける。ついてくるか?」
「お供します」
なんにせよサウロスがあの珠について考えてくれるようになった。
これはかなりデカい。どれ位の効果があるから分からないが無いより絶対良い。
少しずつ、でも確実に歴史を変えていくんだ。
救えなかった人達を救うために。
この先の展開どれがいい。(執筆スピードに影響はございません)
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イージールート
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ノーマルルート
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ハードルート