フィットア領消滅から、半年後。
ロキシー・ミグルディアは草原を見つめていた。
ただただまっすぐ広がる草原。
建物も、道も、木も無い。本来ならそれら全てがあったはずなのに。
寂しさ。
それだけが感じられた。
分かっていた、知っていた。だが、それでも大きな喪失感が胸を満たす。
動かなければならないのにこの光景から目を離せない。
「あんたも、家族を失ったクチかい?」
ここまで乗せてもらった馬車の御者がいつのまにか後ろに立っていた。
「いえ、恐らく誰も」
「そうかい。なら、そいつは幸運だな」
「……そうですね」
家族を失った人も多いのだろう。
その全員を救えなかったことに対し罪悪感を感じない事は無い。
もしかしたら救えたのではと思う気持ちは強くある。
だが自分達が下手に動くことによる歴史への影響。逆に人が亡くなってしまう可能性。予想できない自体が起こる。
そういった事を考え、救える範囲を確実に救うと皆で決めた。
これが正しいことなのかは一生分からないだろう。今はただ正しいと信じて進むしかない。
(この景色を見るのはもうやめだ)
そう思い足を進めた。
行かなくては。やらなければない事がまだまだ山積みなのだから。
向かうは難民キャンプである。
難民キャンプに辿り着きロキシーは思った。
(以前よりも出来がいい)
そう。難民キャンプは前回よりも質が上がっていたのだ。
建物や人の数は多く、地面もある程度整備されている。
それにあっちの方では炊き出しも行っている様子。
人々の顔も心做しか明るめだ。
もちろん家族を無くし悲しんでいる者もいるが、前より全然良くなっている。
どうやら助かった人が前回よりも多いようだ。
(頑張りましたねルディ)
心の中でそう呟きながら臨時冒険者ギルドに向かった。
臨時冒険者ギルドの空気は悪かった。
確かに救われた人は増えたのだろう。だがそれは救われなかった人がいなくなった訳では無い。
掲示板の前には沢山の人が集まっている。
その中には家族を、恋人を、師を無くし泣いている者。自分の不甲斐なさをずっと嘆いている者。自殺を試み、周りに止められている者がいた。
胸が苦しい。嫌な気分が強まる。
だが目を背ける訳にはいかない。それを見て受け止めることも私の為すべきことなのだから。
30分後
ある程度人だかりが減ってきて掲示板を見ることができた。
掲示板には「死亡者」「行方不明者」「冒険者への依頼」そして、領主の名で情報提供の願いが書いてある。
ここらへんは前回と同じだ。
まず確認するのは「死亡者」の欄。量は少ない。
落ち着いて、上からゆっくりと、確実に見ていく。
「……よかった。無い」
そこに知り合いの名前は1つもなかった。
ひとまずの安心をする。
が、再び気を引き締めた。まだ「行方不明者」の欄が残っているのだから。
ここで1度整理しよう。
今から「行方不明者」の欄を見る訳だが、書いてあるはずの人物とそうでない人物がいる。焦って間違えないようにしなくては。
まぁ書いてあるはずの人物は
ルーデウス・グレイラット。
シルフィエット。
の2名だけなのだけれど。
とにかくその2人以外が書いてあってはダメということだ。
そのことを頭に入れロキシーは掲示板を見た。
数は減っているものの行方不明者の数は多い。ゲシュタルト崩壊をしかける程だ。
ある程度眺めてルーデウス達の名を見つけた。
「あった…………え……」
喜んだのもつかの間。直ぐに困惑が訪れる。
確かにルーデウス達の名前はあった。だがそこにあったのはそれだけではなかった。
ルーデウス・グレイラット。
リーリャ・グレイラット。
アイシャ・グレイラット。
シルフィエット。
リーリャとアイシャ。2人の名前もそこにあった。
「……一体なぜ?」
額に手をおき考える。
ゼニスの名前がないところを見るにシルフィは確かに動いていた様子。
だがここにはあるはずのない2人の名前がある。
つまり、そこから考えられることは1つ。
何かあったのだ。転移のタイミングで。
(どうしましょう)
ロキシーは困った。
なぜなら2人がどこに転移したのか知らないからだ。
これではどう動けばいいか分からない。
当初の予定では問題がないことを確認し、パウロ達と合流する流れだったのに……
「そうだパウロさん達は!」
ふと思い出し、掲示板に目を配る。
それはすぐに見つかった。
名義がパウロ・グレイラットの伝言。
『ルーデウスへ
リーリャとアイシャが行方不明だ。
ゼニスとノルンは俺と一緒にいる。
お前が現在どこにいるかはわからん。
だが、お前なら一人でもここに辿り着けると考えている。
よって、お前の捜索は後回しにする。
俺は今、ボレアス家が作った『フィットア領民捜索兵団』の中隊長としてミリス大陸に行くこととなった。
ゼニスの実家ということも起因している。
お前は中央大陸の北部を探せ。
見つけたら下記まで連絡を。
リーリャも同様に連絡を。
また、オレや家族のことを知る人物、あるいは元『黒狼の牙』メンバーへ。
捜索を手伝って欲しい。
『黒狼の牙』の元メンバーは俺に思う所もあるだろう。
水に流せとは言わない。罵ってくれてもいい。
靴をなめろというなら舐めよう。
財産は全て消えたので報酬は出せないが、頼む。
オレの家族を探してくれ。
- 連絡先 -
ミリス大陸ミリス神聖国首都ミリシオン冒険者ギルド
パーティ名兼中隊名『ミリス大陸捜索隊』
クラン名兼大隊名『フィットア領民捜索兵団』
パウロ・グレイラットより』
フィットア領民捜索兵団なる良く知らないものがあるものの概ねは理解した。
(なるほど。パウロさんはミリスにいるのですか)
伝言を読みながら頭を整理させる。
ロキシーには今3つの選択肢があった。
1つ、ミリス神聖国に向かい予定通りパウロ達と合流する。
1つ、アスラ王国に向かいシルフィと合流する。
1つ、魔大陸に向かいルディと合流する。
2人がどこにいるか分からない現状、どれも悪くはない手ではある。
ゆえに悩む。悩みに悩む。
そして最終的に決断を下した。
「よし、魔大陸に行きましょう」
ロキシーが出した答えはルーデウスと合流するだった。
ルディなら魔大陸に転移しているだろう。そして冒険者として動いているはずだ。発見も比較的に簡単。
そして何より問題が発生している事をルディに伝えなくては。
冷静に考えて下した決断だった。
決して好きな人に会いたいという不純な気持ちだけでは無い。
まぁ、それもあるのは事実だが。
「となると向かうはイーストポートですかね」
魔大陸を共に旅してきた2人の仲間。
彼らとはイーストポートで出会った。
そっち方向に進むのであれば会わない手は無い。
よし、行こう。
ロキシーはそうと決め、南に向けて旅立った。
灯台もと暗しという言葉がある。
人は探し物をする時に自分の周りは見ないものなのだ。
今回の場合、ロキシーは再びシーローンに戻るという選択肢が浮かばなかった。
結果としてルーデウス達の方に向かうこととなる。
これが吉と出るか凶と出るかは分からない。
だが、歴史に少なくない影響を与えることは確定していた。
【フィットア領民捜索兵団】
フィットア領転移事件から3か月程たった頃に作られた。
資金的な面をボレアス家が援助しているが、ボランティアも多い。
規模は大きいものの非戦闘員の占める割合の方が高い。
名前の通り主な活動は転移事件により世界各地に飛ばされたフィットア領民を探し出すこと。そしてその保護。
本部は中央大陸西部に置かれていて、
「中央大陸西部捜索隊」「中央大陸北部捜索隊」「中央大陸南部捜索隊」「ベルガリット大陸捜索隊」「ミリス大陸捜索隊」
の5つの中隊に分けられる。
魔大陸、天大陸には戦闘員不足等の理由があり、捜索ができていない状況にある。
また国家間の問題もあり、大々的に活動できていない地域も存在する。
Twitter作りましたので、そっちの方で進捗等をお伝えします。
失意の魔術師編をどうするか (執筆スピードに大きく影響を与えます)
-
書け
-
書かなくていい