第十五話「既知との遭遇」
よく分からない。それが今の感覚だった。
地に足がついておらずふわふわとしてる。だがそれは重力魔術のそれとは全然違う。ベットから落ちる落下感がずっと続いているようだ。
こんなにも意識がある気がするのに物事が良く考えられない。現在進行形でしか思考できない。
目の前の景色は目まぐるしい速度で変化していく。方向感覚すら失い、どこに体があるのか分からない状態だ。
いったい何がどうなっているのだろう。どれもこれも理解を超えた事だ。
だが確かに落下していることだけは分かる。そしてこのままではいけない事も。
俺も、何故か腕の中にいるエリスも、動かなければ死ぬ。そんな気がした。
俺は意識を集中させる。身体に魔力を流す。
すると速度が下がったような気がした。さっきより全然マシになった。
しかし、それと同時に地面が見える。
まずい、衝突する!
そう思った瞬間に足に魔力を集中させた。
体に大きな負荷がかかる。だがそれに伴って速度も急速に落ちていく。
そしてそのまま何処か見覚えのある赤茶けた大地に落ちた。
意識がそこで途絶える。
目が覚めると辺り一面真っ白な空間にいた。
周りには何も無い。なんだここは、夢か。それか天国か。
初見の感想はこんなもんだろう。
だが俺は初見ではない。この場所を知っていた。
何度も来たことがあった。なんなら死ぬ直前にきていた。
そんな俺の今の気持ちはこうだ。
はぁ〜、とうとう来ちまった。
いい思い出がないんだよここには。
だってここに来たってことは奴もいるはずだもんな。
あぁ、嫌だ嫌だ。あいつ基本的にウザイし。
そんな悪態をつく。
フラストレーション全開マンとは俺の事。
だがそんな事を言いながらも頭は何処か冷静だった。
寧ろいつもよりもスッキリとしている気さえしてくる。
だからなのかイライラが収まり思考も次の事に切り替えられていく。
……来ちまったもんは仕方ない。
それにいつか来るとは思っていたさ。避けられない道ってやつだろう。
本当は来たくなかったけど。
冷静になっているとか言いながらも結局愚痴をこぼしてしまった。
それほど嫌ってことだな。
まぁここに来た時の一応の対策も考えてはおいた。
ノープランな程マヌケじゃない。プランかと聞かれたら違うかもしれないが。
なんて言うか、ある程度の方針みたいなもんだ。マニュアルチャート的なざっくりとしたやつ。
これは完全に俺の考察なんだが、まず奴は覚えていないと思う。
だってこれまで接触してこなかったんだから。
あいつの性格的に覚えていたらすぐ関わってくるはずだ。
何も無いなら絶対と言える。俺の経験則から断言しよう。
だから奴に悟られないようにしないといけない。俺が覚えているというのは大きなアドバンテージだからな。
あくまで何も知らないフリ。自然体を装う。
ヒトガミに会うのは初見だよっておもわせるのだ。
まぁいつかはバレるかもしれないが、とりあえず今だけでも誤魔化せればいい。
さて、
そこで問題となることがある。
あいつ心読めるから無理なんじゃね? ということだ。
確かに俺も最初はそう思った。
でも振り返ってみると、あいつが読み取っていたのは俺が頭の中で考えた言葉だけ。要は表層意識だけだったと思うんだよ。
頭の中で俺が喋ったような事は読み取れるけど、口に出した感覚のないものは読み取れない感じ。
うん。多分そうだ。
能力的には心を読むってよりテレパシーに近いな。
まぁそれでも十分強いんだけど。
少し一人語りが長くなったな。
つまりどういうことかって言うと
俺は頭の中にそういった事を考えてはいけないのだ。
「なんだい? そういった事って」
びっくりしたぁ!
驚いて振り返るとそこには人の形をした何かがいた。
のっぺりとした白い顔で、男か女かもよく分からん。体にモザイクがかかっているような感じがある。
「驚かせて悪かったね。はじめまして、ルーデウス君」
なんの躊躇いもなく俺の名前をこいつは言ってきた。
声すら男か女かよく分からない。
嫌いな声ではないが特段好きでもないな。
あとなんと無く口調がウザイ。
「聞こえているよね?」
ああ、聞こえてるよ。
はいはい、えーっと、はじめまして。ちっ、結構ムズいな。
「何が難しいんだい?」
……こっちの話だ。気にしなくていい。
「ふーん、そうかい」
あぁ、マジで大したことじゃないから無視してくれ。
そんなことよりこんなデブに何か用かよ。
「うん? デブ? 別に太ってないと思うけど」
おいおい。よく見ろよこのたるんだ腹を。
ほら、こんなふうにタプ……タ…………プ。
あれ、すっとしてる。それどころか割れている。
中々のナイスパックだ。
あれ? なんで?
てか、この身体。見覚えがある。
この身体は、
「君、変な奴だなぁ。君は君の身体に決まってるだろう」
え、いやだって……。
あ、ああ。そうだな。俺の身体は俺の身体だな。
「うんうん。そりゃそうさ。ところで君、僕が誰か気にならないのかい?」
え、あ。お、おう。
もちろん気になる。誰なんだお前は?
「なんか歯切れ悪いなぁ。まぁいいよ、よく聞いてくれた。僕はヒトガミ。この世界の神様さ」
へー、ヒトガミ。神様ね。うんうん。なるほどなるほど。
うん、めちゃくちゃ胡散臭せぇな。
自分から神を名乗る奴とか、怪しさ満点だ。
「まぁ信じられないのはわかるよ」
だよな。普通神様とか信じないよなあ。
それがお前みたいなやつとか言われたら余計に。
もしかして本当は違うんじゃないか?
「別に信じて貰えなくてもいいさ」
うわ。そういう発言も余計怪しいわ。
やっぱお前神様じゃないだろ。
「うるさいなぁ。そんなこと言ってると殺しちゃうよ」
え、マジで? そんな力あんの?
ちょ、タンマタンマ。
悪かった。信じる。とりあえず信じるよ。
「ならいいさ」
それで、神様が俺に何の用なんだ。
もしかして、……お告げでもくれるってのか?
「君、察しがいいね。そう、お告げをあげるよ」
あ、マジなのね。
でもなんで?
わざわざ俺にお告げをする意味が分からん。
「僕が君を気に入ったからさ」
ふーん。気に入ったねぇ。随分と理由が曖昧だな。
実に嘘っぽい。やっぱりお前なんか企んでるんじゃないか?
「そう見える?」
あぁ、見えるね。お前みたいなやつが知り合いにいる。
そいつも嘘つきでやな奴だった。
「そうなんだ。じゃあ結論から言うと、企んでるよ」
…………随分素直じゃねぇか。
「まぁね。もう面倒くさくなったし」
面倒くさい? 何が?
「すぐ分かるよ」
なんなんだ一体。よく分からん。
…………なんか、思ってたのと違うな。いいけど別に。
それで、何企んでんだよ。素直に言ったって事は教えてくれるんだろ。
「ああ、教えるよ。ふふふ、僕はね、君を殺すんだ」
………………は?
どういうことだよ! 俺を殺すって。
気に入ったとか言ってたじゃねぇか。
「…………ねぇ。さっきからなんだいそのクサイ演技は」
なんの話だよ!
「だからクサイって言ってるのさ。ルーデウス」
おい。なんなんだ。
どうしたんだよ急に。
「はぁ、もう演技しなくていいって。気づいてるんだろ。流石の君もそこまでバカじゃないだろ」
──────っ
……ああ、さっきから変だとは思っていた。
でも目を逸らしていた。そんな訳ないと。
だって、そんなまさか……
「そのまさかさ。そう、僕も覚えているんだよ。前回のことは」
くそが。
完全に誤算だ。
まさかこいつが覚えているなんて。
「いやー、見てて滑稽だったよ。必死に隠そうとしててさ」
うるせぇなぁ。
おちょくんじゃねぇよ。
ああ、ムカつく。だから嫌なんだよここは!
「ふふふふ。いい顔するねぇ。その顔、見たかった顔だ」
ちっ。
相変わらずやな野郎だ。性根が腐ってやがる。
嫌いじゃないとか言ったが前言撤回。やっぱりお前嫌いだわ。
「そうかいそうかい」
ニコニコ笑顔でいやがって。
顔がわかんねぇのに伝わってきて腹が立つ。
……まぁいい。聞きたいことがある。
「なんだい? 機嫌がいいから答えてあげるよ」
どうして俺に接触してこなかった。
お前ならすぐに関わりを持ってくるだろう。
俺ならそうする。
「あぁ、それねぇ。いやー、世の中不思議なことがいっぱいあるもんだよ。僕は君の事が見えなかったんだ」
見えなかった?
どういう意味だ。
「そのまんまさ。転移事件が起きるまで君の存在も未来もさっぱりだった」
じゃあなんで今になって……
「だから言ったろ。転移事件が起きるまでって。今はもうバッチリみえる」
ふーん。それ、嘘だろ。
お前の話なんて基本嘘でしかない。
騙されないぞ、俺は。
「どう捉えようが勝手さ。僕は真実を言ったまでだからね」
……次の質問だ。
「信じないのに聞くのかい? 随分勝手だねぇ。まぁいいけど」
俺が死んだ後はどうなった。
やっぱりお前は倒されなかったのか?
「な・い・し・ょ」
イラ
おいてめぇ! 教えてくれねぇのかよ!
「信じないんなら聞かなくても問題ないだろう? それに僕が喋る義務なんてないしー」
まぁ確かにそうなんだけどよ。
言い方がウザすぎる。
「わざとだよ」
知ってるよ。
……なぁ。結局お前はなんのために俺を呼んだんだ。
「からかう為さ」
それだけじゃないだろ。
いや、お前なら有り得るのか?
「そんな訳ないだろ。勿論ちゃんと理由がある。
宣戦布告だよルーデウス。僕は全力で君を殺しにかかる。精々脅えて生きな」
あのさ。
それ、なしに出来ないか?
「できないね。ちゃんと殺すよ」
…………だよな。わかってたよ。
でも俺もタダでは殺されてやらない。
全力で足掻くさ。俺の運命を信じて。
「運命を曲げる存在にそれを言うかい」
俺の運命は強いらしいからな。
「そうだねぇ。あ、そろそろ時間かな」
あぁそうかよ。清々するぜ。
……てかそんなのあったか?
「ないよ。僕の気分」
お前いつもよりウザイわ。
もういい。早く返してくれ。
「そうかい。……じゃあ最後にお告げを言おう」
誰が聞くかよてめぇのお告げなんて。
「そんな事言うんだったら絶対従うなよ」
あぁいいぜ! 従わないね!
「では、ルーデウス! 目が覚めると目の前にスペルド族の男がいるでしょう。彼を頼るのです」
お、おい! それってまさかルイジェルドか?
どうなんだよ! おい!
卑怯だぞ、てめぇ!
「あはははは。じゃあねぇー」
薄れゆく意識の中、ヒトガミの声がエコーになって耳に残った。
突然すみません。
全然書けないので不定期更新に変えました。
激おそペースで書いていきます。