目が覚めるとそこには満天の星があった。
星々がキラキラと綺麗に輝いている。
基本的にこの世界の星空というものは綺麗なのだが、
それでも今見えている星はとりわけ美しい。
それはひとえにこの場所の空気が澄んでいるからなんだろう。
あまりの美しさにオリオン座を見つけてもナニカする気にはならない。
オリオン座無いんだけどさ。
まぁしかし、そんな綺麗な夜の中、今1番光っているのは星じゃあない。
じゃあなんなのか。
それは俺の横でメラメラと燃えた焚き火の炎だ。
先程から暖色の暖かい光で俺を左から包み込んでくれている。
夜だが寒くないのはこれのおかげだろう。
寝たままの状態で体を左に傾け、焚き火の炎を見つめた。
パチパチと木が燃える音が心地よい。
ああ、凄くいいな。落ち着く。
ついさっきまであんなにイライラしていたはずなのに。
焚き火の安らぎ効果は素晴らしい。
ほんと。起きたばかりなのに今すぐにでも寝れそうな…………
「はっ!」
ダメだダメだ。
寝るわけにはいかない。色々あったから整理しないと。
そう思い、意識を覚醒させ、体を起こした。
う、腰が痛いな。
どうやら地面にそのまま寝転がっていたっぽい。そりゃ痛いわ。まま、いいでしょう。
ひとまず起き上がり、背を伸ばす。筋肉が伸びる感覚が全身に伝わっていく。
と、そこで気づいた。地面が赤茶色なことに。
周囲一帯どこまでも赤茶色。
草木はほとんどない。枯れた木が数本あるだけ。
緑なんてものが存在しない荒野だった。
ここで俺は気づく。
この赤茶の地面、美しい夜空。間違いない。
ここは、魔大陸だ!
思わずガッツポーズをする。
よしよし。どうやら予定通りに転移できたっぽいな。
変なところに出なくてよかった。
これならエリスとロアまでたどり着ける。
……ってそうだ! エリスは!
急いで辺りを見渡す。エリスはすぐに見つかった。
俺のすぐ横でくるまりながら寝ていたのだ。スースー寝息を立てている。
あら、可愛い。
でもダメじゃないか。俺の前でそんなにすやすや眠ってちゃ。
ほーら、イタズラしちゃおうかなーっと。
つい邪なことを考え、
ゆっくりと手をエリスの方に伸ばす。
その時だった。
「起きたか」
ビクッ!
背後からそんな声が聞こえてきた。
急に声をかけられ体がビクつく。
まずい! 現行犯だ。
ごめんなさい。堪忍してください。ほんの出来心なんです。
ほんとに、誰だか知らないけど許し……
ペラペラと謝罪と言い訳の文章を頭によぎらせていったが途中であることが引っかかった。
あれ? なんか、凄く聞き覚えのある声だったような。
それに、今、俺は魔大陸にいるんだよな。
そんでもって信じるわけじゃないけどそういえばヒトガミも言ってたよな。
そもそも魔大陸で起きたら目の前には焚き火。
めっちゃくちゃデジャブじゃないか。
ここまで来たなら誰なのかは振り返らずとも分かる。そう、
ルイジェルド!
俺は心の中でそう叫びながら振り返った。
それと同時に視界に人影が入る。
よし、感動の再会といこうじゃないか!
……え?
確かにそこには男が1人、焚き火の前で佇んでいた。
横には白色の槍、上半身は鍛えられた筋肉が顕になっていて、額には赤の宝石がある。
それに顔も想像していた通り。
ただ1つ違うとすれば、…………禿げていた。
いや、違うな。あれは禿げじゃない。正確に言うとスキンヘッドだ。
ある意味見覚えのある姿。
デッドエンドのルイジェルドさんだった。
予想と違う姿に頭が困惑する。
あれ、なんで?
緑がないって言ったけどルイジェルドの頭は緑だったね、とか1人で考えてたのに。
まさかのスキンヘッド。
「えっと、ルイジェルドさん?」
「なに!」
あ、しまった。あまりの動揺で初対面なのに名前出しちまった。
やべぇ。どうやって誤魔化す。
えっと、えっと、えっと。本で読んだとか?
ああだめだ。その本俺とノルンで作ったんだった。
うんっと、えーっと、
「覚えているのか!」
…………へ? 今なんって?
覚えているっていった? 言ったよな! 覚えているって。
ちょ、ちょっと待ってくれ。つまりどういうことだってばよ。
覚えてるって、覚えてるってことだよな。ん? 何言ってんだ俺。
えーっと、ていうことは要するに、
「ルイジェルドさんこそ、覚えて、るんですか?」
「あぁ、そうだ。ルーデウス」
ま、まじかよ!
初対面のはずなのに俺の名前言ったぞ。これは確定だ!
困り顔だった俺の顔が一気に晴れやかになる。
そしてそのままルイジェルドに飛びついた。
「ルイジェルドさん!」
「ふ、久しいな。ルーデウス」
「はい、ほんとにお久しぶりです。まさか覚えているなんて」
「それはこっちのセリフだ」
ルイジェルドが覚えていた。嬉しい誤算だ。
正直予想だにもしなかった。ザノバやギレーヌがダメだったから他の人もてっきりダメなのかと。
誰が覚えているのかに何か法則性があるのだろうか。
「んん、ルーデウス? どうしたの?」
おっと。どうやらエリスを起こしてしまったようだ。
少し声がでかかったかな。
まぁ丁度いい。エリスも交えて3人で話そうじゃないか。
「おはようエリス。ほら、こっちおいで」
「うぅん、わかったわ」
眠気まなこをこすりながらこちらを向くエリス。
段々と目が開かれていく。そしてピントが会った瞬間だった。
「ルイジェルド!」
目を大きく開いてこちらに走ってくる。
そんな大声で名前言っちゃって。もしルイジェルドが覚えてなかったらどうするんだ。
俺は自分のことを棚にあげた。
エリスは俺たちの元にたどり着くと俺の横に並ぶ。
それを見てルイジェルドが頷いた。
「エリス、お前も覚えているのか」
「そうよ! ルイジェルドもなのね!」
「ああ」
「なら良かったわ。でもなんで髪がないのよ」
当然の疑問をエリスが尋ねた。
最初に俺も思ったやつだな。
でもルイジェルドが覚えてると知って、俺は分かったぞ。
「呪い対策だ」
そう。スペルド族についた呪いは髪を剃ることで薄まるのだ。
ルイジェルドは前回俺が言ったことを覚えていたのだろう。
「ふーん。なるほどね!」
大きな声でエリスが返事をする。
本当に分かっているのだろうか。その真偽は定かではないが、まぁ良しとしよう。
今はもっと話さないといけないことがあるのだから。
「さて、エリスも起きたことですし本格的に話しましょう」
「そうだな」
そう言うと俺たちは3人で焚き火を囲んだ。
〜〜〜〜
焚き火を中心に3人で三角形を作っている。
懐かしい状況である。でも暫くこの形が続くことになるのだろうな。
これからこの3人で旅をしていくんだから。
まぁそういう訳でそろそろ始めるとするか。
「では、第1回デッドエンド報告会をはじめます」
高らかに俺が宣言。
すると2人が拍手してくれた。
うーん。なんだかむず痒いぜ。
「さて、ルイジェルドさん。まず1つ目の質問です。どこまで覚えてますか?」
「最後の記憶はお前の葬式だな」
……俺の葬式。なるほどな。
何となく予想はしてたけどやっぱり先のことは覚えてないか。
ここまでくると望みがあるのはオルステッドくらいかもしれない。
「そうですか。じゃあロキシー達とほぼ同じですね」
「なに! お前たちだけじゃないのか」
俺の発言にルイジェルドが驚きを見せる。
あ、そうか。
そういった事もルイジェルドは知らないのか。
持っている情報量は俺たちの方が圧倒的に多いのかもしれない。
なら、まず俺たちの持ってる情報を伝えることにしよう。
「えっとですね。現在記憶ありと確定しているのは、僕、エリス、シルフィ、ロキシー、ルイジェルドさんの5人です。可能性が高いのがペルギウス様ですね」
「なぜ、ペルギウスの可能性が高い?」
「それは転移直前に笛を……」
あれ? 笛どこだ?
受け取って、転移して、ここにいた。最後に持っていたのは手の中だよな。
でも手の中には無い。そうだポケットは!
がさごそと自分の服についている全てのポケットを探った。
…………ない。
「ちょ、ちょっと待っててください」
一言そう言うと俺は自分の鞄の元に走った。
鞄を開き中身を隅から隅まで調べるていく。
この中になければ無くしたことになる。それは、ヒッジョーにまずい。
最悪殺されるちまうぞ。アルマンフィ達に。
「あ、あった!」
数分後
結局鞄の中身を取り出しきってようやく笛を見つけだした。
いやー、あって良かった。
「ありました。これですルイジェルドさん」
そう言いながら2人の方に戻る。
「ん、そうか。良かったな」
「ええ、ほんとに……」
「ちょっとルイジェルド! 続きは!」
「ああ、そうだな。それでだな」
ん? 何の話だ?
どうやら俺が笛を探している間2人で何か話していたっぽい。
酷いよ2人とも。俺を除け者にして!
……なーんてことは全く思ってないさ。ただ俺も混ぜて欲しいなぁ。
「何の話ですか」
「ルーデウスの葬式の話よ!」
ほうほう。オイラの葬式、それは興味深い。
死後の話を聞けるなんて貴重だ。是非とも教えて欲しい。
「僕の葬式、どうでした?」
そう尋ねるとルイジェルドは微笑みながら答えた。
「お前の葬式は凄かったぞ。俺が生きてきた中で1番の規模だった」
「そんなにですか!」
「そんなにだ」
いやー、なんかちょっと嬉しいな。
自分の葬式が豪華だったと知ると人生頑張った気になる。
努力が認められたみたいだ。
「5000人ほどはいたな。それにアスラの国王、ミリス教の法王、ドルディア族の族長などなど、普段は絶対に集まらない顔ぶればかりだった。滅多に表に出ないあの龍神オルステッドすらもいた」
「ルーデウスなら当たり前よ!」
各地からいろんな奴が来てくれたのか。
宗教的な問題で別種族が集まることすら難しいこの世界。
ここまで沢山の人が来てくれたとなると自分でも流石は
それにオルステッドも来てくれたのか。呪いとか大丈夫だったかな?
もし無理して来てくれたなら感謝だ。
話を聞き、感傷にふけているとルイジェルドが口を開いた。
「それでルーデウス。話の続きを頼む」
「あ、はい。分かりました」
おっと失敬。嬉しい話につい話を持っていかれちまった。
今はこれからの事を話さなきゃだよな。
「えっと、とりあえず覚えているメンツで転移事件の被害を最小限に抑えるように動いてはきました」
「ほう」
「上手くいっていればフィットア領の復興も早まり、身内も無事な予定です」
「そうか」
頷きながら話を聞くルイジェルド。
エリスはもうちょっと葬式の話を聞きたかったといったふうな顔をしている。
「ノルンはどうだ?」
「え……」
「ノルンは覚えていなかったか?」
唐突にそんなことを聞かれた。
ノルン。そうかノルンか。
ルイジェルドとしては1番気になるところなんだろう。そりゃ嫁だもんな。
ただ、
「会話できる歳まで一緒にいてやれませんでしたが、残念ながら恐らく覚えていないかと」
「……そうか」
明らかに落ち込むルイジェルド。
気持ちは凄いわかる。俺もシルフィ達の中で誰か一人でも覚えていなかったら相当落ち込むはずだ。
ここは俺が励ましてやらないと。
「だ、大丈夫ですよ。ノルンは父様とシルフィが守ってくれてます。それに、ルイジェルドさんが覚えているならそのうち結ばれますよ」
「……そうだな」
まだ少し落ち込んでいる様子。
ノルンの愛され具合がわかって俺としては悪くない気分だが、少し気まずい。
「ノルンは絶対ルイジェルドを好きになるわ!」
「……なぜ分かる」
「絶対だからよ!」
「ふ、そうか」
いや、理由になってないよ。
ただエリスのお陰でルイジェルドも立ち直ったっぽい。良かった。
こういう時エリスは凄いよな。エリスに断言されただけでそんな気がしてくる。
やはりパワーを感じさせるからなんだろう。
「じゃあ話を続けますね」
「ああ、悪かったな」
「いえいえ、大丈夫です」
それから俺は、前回通りアスラ王国を目指すこと、その道中でも関わりのあった人が覚えているか確認すること、各地の情報を集めることを話した。
「という感じなんですが、ルイジェルドさん、その」
「ん? ああ、安心しろ。今回もちゃんと送り届ける。お前たちはまだ子供だからな」
「違うわよ!」
「体格の話だ」
ふぅ、良かった。ルイジェルド抜きだったらどうしようかと。
流石に来てくれるとは思っていたが万が一を考えるとな。
でもその上で伝えないといけないことがある。
「それでその、1番大事なことなんですが、道中で敵襲があるかもしれません」
「敵襲? なんでよ!」
「実は、さっきヒトガミに会ったんです」
「ヒトガミ、というとお前と龍神が戦っていた相手か」
「はい。それで奴も覚えていたんです」
「…………」
場が沈黙に包まれる。
そうだよな。後出しだもんな。ちょっと話す順番間違えちまった。
これも話した上でついて来てくれるか聞くべきだよな。
だってヒトガミの使徒って魔王とか七大列強の可能性もある。凄い危険だ。
どうしよう。最悪断られるかな?
ルイジェルドに限ってそんなことはないと思うけど。
「…………問題なかろう」
「そうね! 大丈夫よ!」
え?
帰ってきたのは予想外の返事だった。断られないにしても、
慎重に行く必要があるな、とかかと思っていたんだが。
「魔王の中で強いのはアトーフェとバーディガーディぐらいだ。七大列強も上位は来ない。それに」
「それに?」
「こっちにも七大列強と剣王がいる」
「ちょ、止めてくださいよ。そんな力ないです」
「そうか?俺はそうは思わんがな」
ま、まぁ、言ってる事の八割は事実だ。
こっちの七大列強はお飾りだけど、エリスにルイジェルドもいる。
それに最悪ペルギウスも呼べる。
ルイジェルドの言う通りかもしれない。
「確かに、そうかもしれませんね」
「ああ、自分に自信を持て」
「誰が来ても3人なら勝てるわ!」
なんかイける気がしてきた。
色々と不安だったけど、うん。大丈夫だ。
心が弱いと力も出ない。強気で行こう。
「では、これからよろしくお願いします」
「任せておけ」
いつの間にかイライラは完全に消え去り、さっぱりした気持ちのまま俺は眠りについた。
何が起きても何とかなる。どこかそんな気がした。