無職転生〜2周目だけど本気だす〜   作:そこらへんの競走馬

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第十七話「旅の始まり」

 

 

 

 

 グッドモーニング。おはよう世界。

 

 ゆっくりと体を起こす。

 すると朝特有の風が吹いてきた。

 視界には真っ赤な大地、澄んだ空。遠くのほうからはドタドタと足音が。

 うん! これぞ正しく魔大陸の朝。

 

 絶好の冒険日和だ。

 惜しむらくはベストコンディションでは無いことか。

 

 どうにも体が痛い。

 やはり人間、慣れというものは恐ろしいな。

 質のいいベットで寝ていると、こういった野宿の時体を痛めてしまう。

 特段戦闘に支障をきたすほどでは無いのだけれど。

 でも、これからの強敵との戦闘を考えると不安だ。

 まぁこれこそ慣れるしかないか。

 

 段々と意識がはっきりしてくると、

 ドタドタとした足音に加え、キンキンとした金属のぶつかる音も聞こえてきた。

 どうやらエリスとルイジェルドはもう起きている様子。

 相変わらずエリスは適応能力が高い。俺も見習わなければ。

 ……よし、俺も準備を始めますか。

 

 そう考えながら背筋を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょっと」

 

 顔を洗い身なりを整えたあと、俺は音のする方に向かった。

 デコボコとした岩山で非常に登りにくい。飛んで移動すれば楽だろうな。

 だがこれもまたトレーニングだ。

 大自然が与える試練にズルはしない。

 今はまだ序の口だが、本当にヤバい自然というのは気を抜くとすぐ死ぬからな。

 

 1番大きな岩山を登り終える。

 するとある程度開けた場所に出た。

 そしてそこには、エリスとルイジェルドがいた。

 

 ……いや、正確に言えば「いると思われる」だろうか。

 2人とも高速で走り回っていてチラチラとしか見えない。

 あ、あの赤はエリスの髪かな? みたいな感じだ。

 

「おはようございます。エリス!ルイジェルドさん!」

 

 少し大きめの声でそう呼びかけた。

 すると急に2人が現れる。どうやら止まってくれたみたいだ。

 

「起きたのね! ルーデウス!」

「今そっちに行く」

「分かりました」

 

 数秒後、2人ともが俺の元に来た。

 熟練した戦士、足早くないかぁ? 

 

「調子はどうだ?」

「まぁ、ぼちぼちですね。2人は?」

「大丈夫よ!」

「問題ない」

 

 2人ともバッチリな様子。

 それもそうか。ルイジェルドは平常運転だし、エリスは……エリスだしな。

 

「朝もいい運動ができたしね!」

「ふ、俺は気を抜けなかったぞ」

 

 運動というのはさっきの模擬戦のことだろう。

 俺が混ざったら一瞬で決着のつきそうな感じだったけどな。

 というかルイジェルドが気を抜けない。

 ……エリスの方が既に強いのか? 

 

「エリス強かったですか?」

「あぁ。この腕前で12歳。前世の記憶があるとはいえ、末恐ろしいぐらいだ」

「でも勝ちきれなかったわ」

「それは光の太刀を使っていないからだ」

 

 ふむふむなるほど。

 話を聞く限り、光の太刀抜きなら同等程度という感じかな? 

 ぶっちゃけ光の太刀はズルだし十分だろう。

 ていうかこのまま行ったらエリスはどのくらい強くなっちまうんだ。

 

 ……まぁ強いに越したことはないか。

 これから強敵との戦闘が待っているかもしれないんだ。

 それにエリスが強いのは似合ってるしな。

 でも、俺がどうやっても勝てないレベルになったら。

 …………ちょっと悲しいかな。

 

 少々センチな気分になっていると。

 

「お腹すいたわ!」

 

 エリスがそう言った。

 まだ朝食食べてなかったのか。

 それとも俺を待っていてくれていたのか。

 それなら感謝だな。

 

「じゃあ朝食にしましょう」

「あぁ、そうしよう」

「もうお腹ペコペコよ!」

 

 ま、別にいいか。エリスが強くても弱くても。

 俺がエリスを好きで、エリスも俺が好き。

 それで問題なしだ。

 

 俺たちはそのまま焚き火の元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 3人で朝食を済ませ、身支度をする。

 ちなみに朝食は俺の鞄に入っていた物で作った。予定通り1回分の量しか入れていない。

 よってここからは自給自足だ。

 

 全員が支度をすませ、ルイジェルドを先頭に並ぶ。

 

「行くぞ!」

「はい」

「いよいよね!」

 

 ついに旅の始まりである。

 

 これからの道中気をつけなければいけないのがやはり使徒だろう。

 今のところ来る兆しは無いし、ルイジェルドもそんな気配は無いと言っているが、用心しなければ。

 

 そんな緊張感を俺は背負って歩いているのだが、

 エリスはウキウキルンルンだ。

 不安を欠片も感じない。

 

「余裕そうだね。エリス」

「そう? 普通よ! ルーデウスこそ体に力が入りすぎなんじゃない?」

 

 そりゃ入るよ。

 昨日は大丈夫かも、とか思ったけどやっぱり不安だ。

 いきなり闘神鎧を纏った魔王が「ガハハハハ、お命頂戴する!」って現れるかもしれないんだぞ。

 それに俺もエリスもまだまだ全盛期じゃない。

 どこまで太刀打ちできるか分からないじゃないか。

 

「今は全然強そうな気配はしないわ」

 

 まぁ二人がそう言うのなら本当に今はいないのだろう。

 でも高速で近づいてくるってのもあるかもじゃん。

 そう思っているとルイジェルドが口を開いた。

 

「ルーデウス」

「はい」

「ヒトガミがお前を殺すならこんなとこじゃなく、もっと確実な場所のはずだ」

「……そうでしょうか? 力の無い今も十分狙い目ですけど」

「ならなぜ前世でお前は殺されなかった」

「…………あ」

 

 確かにそうだ。

 俺を殺すのが目的なら前世の方がよりやりやすかったはずだ。

 でも俺は殺されなかった。それは、

 俺の運命力が強いから。

 

「なるほ……」

 

 いや、ちょっと待て。

 でもそれはヒトガミが俺を知らなかったってのもあるんじゃないか? 

 存在すら認知出来なかったから殺す準備も出来なかった。

 逆に言えば俺の事を知っている今、俺を殺す準備をしてきた。……ということでは無いのか。

 もしやもうヤバい状況なんじゃ……

 

「ルーデウス!」

「……は!」

「お前の良くない癖だ。先を考えるのも大事だが、ひとまず今を見ろ」

 

 そう言われて隣を見るとエリスが少し悲しそうな顔をしていた。

 ……やっちまった。

 

「……ルーデウスは今の私だと不安?」

「っ! そんなことないよエリス!」

「でも」

 

 あぁしまった。俺のせいでエリスが。

 そうだよな。エリスが大丈夫って言ってくれてるのに俺が不安がったら信じてないみたいじゃないか。バカか俺は。

 ど、どうしよう。

 

 と、そこで再びルイジェルドが口を開く。

 

「エリス!」

「…………」

「お前はルーデウスの嫁だ。なら、ルーデウスのこういう所も分かるだろう」

「……そうね」

「夫を支えることこそ嫁の仕事だ」

「そうね」

 

 ルイジェルドのお陰で元気を取り戻すエリス。

 ありがとうルイジェルド! 

 頼りになりすぎるよ。

 俺もエリスに謝らなければ。

 

 そう思いエリスの方を向くと俺は真っ直ぐ直角に頭を下げた。

 

「エリス……ごめん!」

「大丈夫よ! ルーデウスの事は全て分かっているわ! 任せなさい」

「うん、ありがとうエリス」

 

 良かった。普段の明るいエリスだ。

 そうだよ、俺が不安がってどうする。

 こういう時こそ明るさが大事なんだろうが。

 危うく俺のせいで最悪の空気になるところだった。

 まさにルイジェルドさまさまだ。

 

「ルイジェルドさんも、ありがとうございます」

「気にするな。ただ……」

「ただ?」

「らしくなかったな。本当の子供のような部分を感じたぞ」

「そう、ですか」

 

 まぁ確かに大人にしては少し思考が子供っぽいなと感じた。

 それにこういう事がこれまでに何回かあった気もするな。

 いつも勘違いで済ませていたが、もしかしたら何か原因があるのかも。

 ……ひとまず置いておくか。

 

 

 とりあえずルイジェルドのお陰でこの場の空気と俺の気持ちが切り替わった。

 よし! 気合い入れよう。

 

 パンパン! と自分の顔を叩く。

 何となくだが引き締まった感覚がした。

 もう俺はビビったりしないぞ! ヒトガミ! 

 声に出した訳でもないが強くそう思う。

 

 と、そこで、

 

「止まれ2人とも」

 

 ルイジェルドが静止を呼びかける。

 うぉ、いきなりか。なんだ、敵襲か? 

 さっきの今だがかかってこいよ! 

 列強だろうと魔王だろうと相手をしてやる! 

 

「敵襲ですか?」

「いや違う。魔物だ」

「あ、そうですか」

 

 魔物だった。

 なんかちょっと恥ずかしい。気合い入れすぎた。

 ま、まぁ。敵襲じゃないならそれでいいか。

 

「何が何匹?」

「アーモンドアナコンダが一匹だ」

「そう。じゃあ私が行くわ!」

「分かった」

 

 そう言って突っ込んでいくエリス。

 数十秒後、何一つ変わらず帰ってきた。

 返り血もない。瞬殺だ。

 

「楽勝ね!」

 

 アーモンドアナコンダは一応Bランクの魔物なのだが。

 流石にエリスの敵では無いようだ。

 俺のエリスたん強い! 

 

 その後もルイジェルドが見つけてエリスが倒すの繰り返し。

 俺の出番? そんなの無いよね。

 全然構わないけどさ。

 

 退屈なので色々と考えていると1つ思い出した。

 そういえばルイジェルドの話をしっかり聞いていない。

 ということで聞いてみる。

 

「聞き忘れてましたが、ルイジェルドさんっていつ思い出したんですか?」

「大体10年ほど前だな」

 

 10年前……、ロキシーは3年前。

 でも今から考えると10年前になる。同じだ。

 そして今から10年前に何があったか。

 そう、俺が産まれた。

 まだ確証は無いが、もしや俺が産まれた瞬間に思い出した? 

 うーん。データが少なくてなんとも言えないな。

 記憶持ちを探さなければ……

 

 あ! ルイジェルドの知り合いにはいないだろうか? 

 これも聞いておこう。

 

「あとですね。僕達以外に覚えていた人はいましたか?」

「いや、いなかったな」

「……そうですか」

 

 そう簡単にはいかないか。

 まぁ俺たちと会った時の反応からして望みは薄かったかもな。

 こればかりは仕方ない。

 

 まだ色々と謎は多いが、焦る必要は無いさ。

 この旅のうちに解明していこう。

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしていると目的にたどり着いた。

 

 亀の甲羅のようなもので覆われた家屋。川がないのに作られた畑。奥の方では青い髪の子供たちが走り回っている。

 そう、ミグルド族の村だ。

 こここそ高天原。我が神の生まれ育った地。

 

「すぐだったわね!」

 

 エリスの言う通り、実際1時間と少々でついた。

 体力が以前よりあるのと魔物の処理がスムーズだったからだ。

 というか敵襲はなかったな。

 

 そのまま集落の入口に近づく。

 するとその時だ。

 

「ルイジェルド! そいつらは何だ!」

 

 1人の男が俺たちの前に立ち塞がった。

 青髪で見た目は中学生くらい。声も見た目通りと言った感じである。

 だが俺は知っているぞ。彼が俺と2回りどころではないほど歳上であることを。

 

「俺の待ち人だ」

「そいつらがぁ?」

 

 男は怪しそうな目で俺たちを見つめてくる。

 それに対して不満に思ったのかエリスの顔が険しくなった。

 もしかしてエリス、覚えてない? 

 

 すかさず俺はエリスに耳打ちする。

 

「睨んじゃだめだよ」

「べ、別に睨んでないわよ」

 

 嘘つけぇい。

 ぱっちりお目目が細まってたでしょうが。

 やはり覚えてないっぽいな。

 なにかしでかす前に伝えておくとしよう。

 

「エリス、彼の名はロイン。ロキシーのお父さんだよ」

「……え!」

 

 驚きで細めた目を大きく開けるエリス。

 ナイスリアクション! 

 

「おいお前ら。さっきから何してんだ」

 

 こそこそと話しているのを見て、男ことロインがつっこんできた。

 

「いえすいません。大したことでは」

「な、魔神語!」

 

 おっと。魔神語で話しかけられたから魔神語で返しちまった。

 ま、喋れることはバレても問題ないか。

 それよりもさっきのルイジェルドの言葉。

 待ち人というやつの方が俺は気になるが……

 

「ロイン、長を呼んでくれ」

「……分かった」

 

 ロインはそのまま10秒ほど目を瞑りだす。

 ミグルド族特有の能力、念話だ。

 うちのララもゼニスと喋る時に良く使っていたな。

 最初の頃は喋るのが遅くて焦ったのが懐かしい。

 

 などと考えている内に村長さんがやってきた。

 杖をついていて相変わらずとっちゃん坊やみたいな顔してる。

 両脇には少女が2人。いや、彼女らもそれなりの歳なのだろう。

 

「彼らがかね?」

「はい、長。あいつらがルイジェルドの待ち人らしいです。男の方は魔神語を話せます」

「ふむ……」

 

 ロインとはまた別の、品定めするかのような視線で見てくる村長。

 待ち人というのはよく分からないが、こちらから挨拶した方がいいかもな。

 

「はじめまして。ルーデウス・グレイラットといいます」

「これはこれは、ご丁寧にどうも。ロックスと申します」

 

 俺が普通に挨拶するとロックスも返してくれた。それなりの印象は与えられたっぽい。

 

「ほら、エリスも挨拶して」

「……」

「エリス?」

「……え! あ、あいさつね! はじめまして。エリス・ボレアス・グレイラットと言うわ!」

 

 どうしたんだ急に。ボーッとしてたぞ。

 それにさっきから随分静かだなとは思っていた。

 ……もしや、

 ロインがロキシーの親だと知って、ずっと驚いてたのか? 

 

「そちらのお嬢さんは挨拶をしてくださったのかな?」

「え、あ、はい。そうです。自分の名はエリスだと」

「そうかそうか。私はこの集落の長のロックスです」

 

 ロックスは軽く礼をしながらそう言った。

 

「ルーデウス、なんて言ったの?」

「集落の長のロックスですって」

「わかったわ! よろしく!」

 

 よし、ひとしきりの挨拶は終わったな。

 そろそろ話を進めようじゃないか。

 

「それで、村には入れて貰えるのでしょうか?」

「ええ、もちろんですとも。ただその前に、そのペンダントは誰に貰いましたか?」

「これは我が師匠、ロキシーに」

 

 チラッとロインの方を見ながらそういう。

 本当は嫁って言いたいがそれはまだお義父さん(ロイン)が許してくれないだろう。

 反応は……

 

「な、なんだって!」

 

 予想通りロインが食いついた。

 彼は凄い勢いで歩いてきて、俺の肩を掴んでくる。

 困るよパパ。

 

「ロ、ロキシーは今どこにいるんだ!」

 

 常に俺の心に。とか言ったら怒るかな?。

 まぁ素直に伝えますか。

 

「半年程前までシーローン王国にいましたよ」

「シーローン……遠いな。今はどこにいるか分かるか?」

「いえ、僕もそこまでは」

 

 ほんとは知っている。

 今頃シーローンを出てフィットア領に向かっているはずだ。

 そしてそのままパウロ達と合流するだろう。

 

 だがそんなことは言えない。

 あくまで知らないていでいるのだから。

 

「そうか、でも無事なんだな!」

「はい。それは確かです」

「良かった。家を出たきり帰って来ないから何処かで倒れてるんじゃないかと」

 

 子を思う親の気持ち。非常によく分かる。

 だが安心して欲しい。ロキシーのことは俺が命をかけても守るから。

 

「さて、立ち話が長くなりましたな。集落の中へどうぞ」

 

 話の区切りを感じ取ったロックスがそう言った。

 そして俺たちはそのまま、

 ロキシーの故郷『ミグルド族の里』に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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